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クローズドワールド
Blooming in the Night⑦
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「おかしいな、ゲームバランス間違えたかなぁ……やっぱり、フェアじゃないな──」
空から声が降ってきた。思わず上空を見上げるが、姿はなかった。
末木さんや武田さんの声とは違い、この空間全体に声が響いている感じだ。
『武田さん、今、オフラインじゃないの?』
「はい……インターネットには接続されていません」
『なら、今のは誰?』
「状況だけ見ると、このウィルスを操る第三者……ですが……」
混乱するこちらの状況を楽しんでいるかのように、笑い声が聞こえてきた。
「君たち、手際はよかった。ウィルス感染直後にインターネット回線のカット、ウィルスの封じ込め、駆除の開始……。でも、僕に言わせれば、侵入された時点で負け確定」
『何の目的でこんなことを』
高瀬さんの質問に愉しそうに答える。
「クライアントからの依頼と僕の趣味を兼ねて、遊び相手になって欲しいんだ」
「……雫を解放しろ。お前の趣味に無関係の人間を巻き込むな」
あまりの理不尽に、大声を出すことしかできなかった。
「ピントのずれた奴だな。やめるわけないだろ。もっとも、江ノ島大橋までくれば約束どおり、ウィルスは解除してやる」
「……」
「あっ、そのバイクもフェアじゃない」
その発言の直後、バイクが轟音とともに爆発した。頭が真っ白になる。
奥歯を噛みしめ、ヘッドマウントディスプレイを外して、投げたい衝動に駆られる。
どうする、どうしたらいい?
その時、咲夜が吐息を漏らした。
「……かわいそうな奴やな。日本語不自由で会話になっとらんわ」
「あっ?」
不穏なくらい天の声が低くなった。咲夜のアバターが相手を挑発するようなポーズをとっていた。
「聞こえへんかったん? 自分の日本語が不自由やって言うてんの」
「君、立場分かってる?」
「分かってへんのは自分の方やで。日本語だけじゃなくて、耳もアカンのん?」
「今すぐ、雫ちゃんをウィルスに感染させても構わない。態度に気をつけろ」
「自分、言うてることおかしいで。フェアって何? さっきから、自分が有利になるように調整してるやん。もしかして、ビビってる?」
「その気になれば、雫ちゃんを消去もできる……」
「あっそ、やってみたら?」
プライベートチャットで高瀬さんが話しかけてくる。
『山内さん、今すぐあの子を止めて!』
呼吸が浅く、手足が汗で湿り、口の中はカラカラになっていた。そうだ、止めなくちゃ。
「咲夜、これ以上あいつを刺激するな」
咲夜は一呼吸間を置いてから、ゆっくりと話し始めた。
「……亮のアカンところはそうやってすぐ熱くなるところや。あんなん、GoBの雑魚兵と一緒やで」
彼女は僕が冷静さを欠いた時に必ず間を空け、優しく語りかける。そして、突飛な事をするのだ。
口の中に大量の水が流し込まれた。思わず、ヘッドマウントディスプレイを外して後退してしまった。
そこにはペットボトルの水を僕の口に押し込む咲夜の姿があった。
「ゲホッ、ゲホッ、何するんだ」
周りが明るい……。まだ、昼だったのか。仮想空間内が夜だったので、時間感覚がおかしくなっていたようだ。
「咲夜……」
「まて、おしっこ漏るわ。トイレ、トイレ……」
トイレから咲夜が戻ると、自分も行くようにと促された。戻ってくると、咲夜が待っていた。
パッキーを頬張る姿はハムスターを連想させる。咲夜は僕の口にパッキーを突っ込んできた。
パキパキとした食感とチョコの甘さが体に染み込むようだ。咲夜は深呼吸すると、僕の瞳を見据えた。
「相手のペースに乗ったらアカン。あれは、ハッタリや。どうせ、あいつはゲームを続けるしかない」
「どういうこと?」
「かんたんな話や、あいつ回りくどいねん。亮も落ち着いたやろ、冷静に状況を見てみい」
そう言われても……と思ったが、気になることがあった。聞いたことのない声だったが、話し方に違和感を覚えた。
もしかして、僕は何か重要な事を見落としているのかもしれない。
「……落ち着いたようやな。さ、戻るで」
「あ、ああ」
すぐにヘッドマウントディスプレイを被り直すと、天の声は荒れに荒れていた。
その場で声を聞いている筈の高瀬さんや武田さんは説得を試みていた。
あれだけ熱くなっていると話もできない。
「よっ、今戻ったで。なんか騒いどるな」
「散々無視しといて、今戻っただと?」
「トイレ行って、水飲んで、お菓子食っとっただけやで」
「……もういい、制限時間を3時間に変更だ。精々、悪あがきすればいい」
「構わへんで、どちらにしてもこちらが勝つし」
「……っ。そうそう、そこに倒れているARIA二体は僕じゃ解除できないので悪しからず」
「オーケー、オーケー問題ないで」
咲夜のアバターはオッケーのジェスチャーをする。
天の声は聞こえなくなり、空には残り時間のカウントダウンが表示された。
空から声が降ってきた。思わず上空を見上げるが、姿はなかった。
末木さんや武田さんの声とは違い、この空間全体に声が響いている感じだ。
『武田さん、今、オフラインじゃないの?』
「はい……インターネットには接続されていません」
『なら、今のは誰?』
「状況だけ見ると、このウィルスを操る第三者……ですが……」
混乱するこちらの状況を楽しんでいるかのように、笑い声が聞こえてきた。
「君たち、手際はよかった。ウィルス感染直後にインターネット回線のカット、ウィルスの封じ込め、駆除の開始……。でも、僕に言わせれば、侵入された時点で負け確定」
『何の目的でこんなことを』
高瀬さんの質問に愉しそうに答える。
「クライアントからの依頼と僕の趣味を兼ねて、遊び相手になって欲しいんだ」
「……雫を解放しろ。お前の趣味に無関係の人間を巻き込むな」
あまりの理不尽に、大声を出すことしかできなかった。
「ピントのずれた奴だな。やめるわけないだろ。もっとも、江ノ島大橋までくれば約束どおり、ウィルスは解除してやる」
「……」
「あっ、そのバイクもフェアじゃない」
その発言の直後、バイクが轟音とともに爆発した。頭が真っ白になる。
奥歯を噛みしめ、ヘッドマウントディスプレイを外して、投げたい衝動に駆られる。
どうする、どうしたらいい?
その時、咲夜が吐息を漏らした。
「……かわいそうな奴やな。日本語不自由で会話になっとらんわ」
「あっ?」
不穏なくらい天の声が低くなった。咲夜のアバターが相手を挑発するようなポーズをとっていた。
「聞こえへんかったん? 自分の日本語が不自由やって言うてんの」
「君、立場分かってる?」
「分かってへんのは自分の方やで。日本語だけじゃなくて、耳もアカンのん?」
「今すぐ、雫ちゃんをウィルスに感染させても構わない。態度に気をつけろ」
「自分、言うてることおかしいで。フェアって何? さっきから、自分が有利になるように調整してるやん。もしかして、ビビってる?」
「その気になれば、雫ちゃんを消去もできる……」
「あっそ、やってみたら?」
プライベートチャットで高瀬さんが話しかけてくる。
『山内さん、今すぐあの子を止めて!』
呼吸が浅く、手足が汗で湿り、口の中はカラカラになっていた。そうだ、止めなくちゃ。
「咲夜、これ以上あいつを刺激するな」
咲夜は一呼吸間を置いてから、ゆっくりと話し始めた。
「……亮のアカンところはそうやってすぐ熱くなるところや。あんなん、GoBの雑魚兵と一緒やで」
彼女は僕が冷静さを欠いた時に必ず間を空け、優しく語りかける。そして、突飛な事をするのだ。
口の中に大量の水が流し込まれた。思わず、ヘッドマウントディスプレイを外して後退してしまった。
そこにはペットボトルの水を僕の口に押し込む咲夜の姿があった。
「ゲホッ、ゲホッ、何するんだ」
周りが明るい……。まだ、昼だったのか。仮想空間内が夜だったので、時間感覚がおかしくなっていたようだ。
「咲夜……」
「まて、おしっこ漏るわ。トイレ、トイレ……」
トイレから咲夜が戻ると、自分も行くようにと促された。戻ってくると、咲夜が待っていた。
パッキーを頬張る姿はハムスターを連想させる。咲夜は僕の口にパッキーを突っ込んできた。
パキパキとした食感とチョコの甘さが体に染み込むようだ。咲夜は深呼吸すると、僕の瞳を見据えた。
「相手のペースに乗ったらアカン。あれは、ハッタリや。どうせ、あいつはゲームを続けるしかない」
「どういうこと?」
「かんたんな話や、あいつ回りくどいねん。亮も落ち着いたやろ、冷静に状況を見てみい」
そう言われても……と思ったが、気になることがあった。聞いたことのない声だったが、話し方に違和感を覚えた。
もしかして、僕は何か重要な事を見落としているのかもしれない。
「……落ち着いたようやな。さ、戻るで」
「あ、ああ」
すぐにヘッドマウントディスプレイを被り直すと、天の声は荒れに荒れていた。
その場で声を聞いている筈の高瀬さんや武田さんは説得を試みていた。
あれだけ熱くなっていると話もできない。
「よっ、今戻ったで。なんか騒いどるな」
「散々無視しといて、今戻っただと?」
「トイレ行って、水飲んで、お菓子食っとっただけやで」
「……もういい、制限時間を3時間に変更だ。精々、悪あがきすればいい」
「構わへんで、どちらにしてもこちらが勝つし」
「……っ。そうそう、そこに倒れているARIA二体は僕じゃ解除できないので悪しからず」
「オーケー、オーケー問題ないで」
咲夜のアバターはオッケーのジェスチャーをする。
天の声は聞こえなくなり、空には残り時間のカウントダウンが表示された。
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