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フェイク ビレッジ
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中原美奈の玄関に入ると、短い廊下の先にある部屋の扉は閉まっていた。
廊下にはユニットバスに続く扉も見えた。当たり前だが、僕の部屋の間取りと似たような感じだ。
「玄関でいい?」
「かまわない」
彼女は少し猫背で、異様な立ち姿に見えた。腕をだらんとぶら下げて、淀んだ目で僕の方をじっと見る。
何故か、こちらが追い詰められているみたいだ。さっさと要件を片付けて立ち去った方が良いと感じた。
「今、大学のSNSで僕と雫の画像が公開されている。しかも、フェイクポルノで女子大生を脅していることになっている」
「へえ」
中原美奈のリアクションに少しイラッとした。他人事だと思っているのだろう。
「単刀直入に言う。この写真を撮ったのは君か?」
そう言って、スマホの画像を見せた。
「……ん。私が撮影した写真」
歯を見せて、ニイッと笑った。彼女の歯に固定された歯科矯正器具が鈍く光った。
「SNSにアップロードしたのも君か?」
彼女は流し目をして、視線を真横に向けた。
「なるほど、そういうこと」
ブツブツと独り言をつぶやきながら、何かを考えているようだった。
「それは私じゃない」
何か引っかかるものを感じたが、論点がずれそうな気がしたので触れずに話を続ける。
「なら、どうしてSNSに僕らの画像がアップロードされているんだ?」
「さあね、知らない」
彼女はつまらなさそうにそう答えた。
「なら、その画像が流出したりしてないか? 」
「流出? 絶対にない」
「画像を保存しているスマホやパソコンがウイルスに感染したことは? 」
「……ない」
心なしか目つきが鋭くなった気がした。何が琴線に触れたのか分からないが、むきになっている。
「流出と言われると心外。でも大学の加藤という女にこの画像を渡した」
突然の重要な情報を口にし始めた。責任逃れをしたいのだろうか?
『何で渡したの?』
今まで黙っていた雫が会話に参戦してきた。すると、無表情だった中原美奈の表情がパアッと明るくなった。
「雫ちゃん……いたの?」
『質問に答えて』
「うん、いいよ。加藤さん、雫ちゃんのファンなんだって。私、嬉しくなっちゃって」
急にキャッキャッと弾んだ声を出し始めた。背筋がゾワゾワし始め、汗が滴り落ちた。
『嬉しいから、私の画像を無断で撮影して、他人に勝手に渡したってこと?』
雫の言葉には怒気が混じっていた。
「ごめん。怒った?」
「今、まさに俺たちの画像は犯罪に使われている。許せるはずがないだろ」
中原美奈はしゅんとして、俯いてしまった。
正直、画像の出どころが加藤であることが分かったので帰りたかった。
彼女から狂気を感じ始めていた。関わっていい人種じゃない。
その時、僕の手からスマホが奪われた。完全に油断していた。
中原美奈は両手でスマホを包み込み、天井に向かって掲げながらまくし立て始めた。
「でもね、でもね。雫ちゃんのかわいさは世界中に伝えるべきだと思うの。今回の炎上で雫ちゃんの知名度はうなぎ登り。凄いことだよ、これは。ノーベル賞もの、加藤さんは天才だったんだ」
『何を……』
「ああ、でも、雫ちゃんがみんなのものになるのは、ちょっと嫌かも」
目は見開いて焦点はあわず、饒舌に喋り始めたかと思ったら、はあ、はあ、と肩で息を始めた。
『スマホを亮に返して……』
「こんな男の何がいいの? 私と一緒に暮らそうよ」
僕はスマホを強引に奪い返した。
「これは犯罪だぞ。加藤に手を貸したのか? 」
「貸してない。画像を渡しただけ」
無気力な顔をこちらに向けた。
「なら、なぜ、加藤さんが拡散したと思ったんだ」
「少し調べれば分かる。拡散は天才的だったけど、ITリテラシーは低い。それが加藤さん」
『あなたは……何なの? 』
「雫ちゃんのファンの一人だよ」
中原美奈は熱っぽい表情と甘ったるい声ををこちらに投げかけてきた。
「ところで、外の監視カメラは雫ちゃんのしわざ?」
『……何の話?』
「きれいに痕跡が消されていた。まんまと騙された。見事な手腕。でもね……」
なんとなく、続きを聞くのが嫌で、今すぐこの部屋を飛び出したかった。
「あまり、調子に乗っていると消されちゃうよ」
『ご忠告、どうも……』
何の話だろうか。意味が分からないがそれよりも大事な事がある。
「中原さん、雫の画像をすべて削除してくれ」
「いいよ。その代わり、僕の……私の画像を削除するのが交換条件ね」
デジカメの機能で画像を削除しようとしたところ「ダメダメ。それじゃ、復元できちゃう。フォーマットを七回して」と指摘されて、フォーマットさせられた。
中原美奈は自分のスマホを初期化していた。
『クラウドサーバーにデータは上がってない?』
「ないよ。あっても、雫ちゃんが消すでしょ?」
『できるわけないでしょ……』
「そう? 」
ようやく、中原美奈との話が終わった。部屋を出ようとして、肝心なことを伝え忘れていた。
「木崎さんが心配してた」
「やよは私を嵌めた。もう、友達なんかじゃない」
「友達だからだよ」
「……はあ? 」
「友達だからやってはいけないことをちゃんと伝えたかったんだ。そのノートに手紙が挟まっている。ちゃんと読めよ」
「……」
僕が指さしたノートを中原美奈はぼんやりと眺めていた。
僕は中原美奈の部屋を出た。
外はむわっとした空気で満たされ、虫の声が聞こえてきた。部屋を出たことで気圧が変化したのか、周囲の音が急によく聞こえるようになった気がした。
魔窟から帰還できたことで、ホッとしたのかもしれない。
『あの子、私が監視カメラに細工したことを気づいてた』
「そんなことしてたの」
『だって、亮……監視されてたからさ』
「えっ? 」
『あの子、このアパートの監視カメラをハッキングして、亮がいなくなるのを待ってたんだよ』
「えっ」
『だから、誰もいない映像を作って、監視カメラの映像に割り込ませたんだ』
「つまり、その映像を確認した中原美奈がドアを開けた……ということか」
『そういうこと』
正直、彼女がこの炎上事件の犯人なのではないか?
そう疑いたくなるキャラクターとスキルの持ち主だった。できれば、もう関わりたくない。
「ところで、消されるって言ってたけど、あれはなんのこと?」
『さあ。適当に相槌を打っただけだから、分からない』
雫の視線がかすかに揺れていた。
廊下にはユニットバスに続く扉も見えた。当たり前だが、僕の部屋の間取りと似たような感じだ。
「玄関でいい?」
「かまわない」
彼女は少し猫背で、異様な立ち姿に見えた。腕をだらんとぶら下げて、淀んだ目で僕の方をじっと見る。
何故か、こちらが追い詰められているみたいだ。さっさと要件を片付けて立ち去った方が良いと感じた。
「今、大学のSNSで僕と雫の画像が公開されている。しかも、フェイクポルノで女子大生を脅していることになっている」
「へえ」
中原美奈のリアクションに少しイラッとした。他人事だと思っているのだろう。
「単刀直入に言う。この写真を撮ったのは君か?」
そう言って、スマホの画像を見せた。
「……ん。私が撮影した写真」
歯を見せて、ニイッと笑った。彼女の歯に固定された歯科矯正器具が鈍く光った。
「SNSにアップロードしたのも君か?」
彼女は流し目をして、視線を真横に向けた。
「なるほど、そういうこと」
ブツブツと独り言をつぶやきながら、何かを考えているようだった。
「それは私じゃない」
何か引っかかるものを感じたが、論点がずれそうな気がしたので触れずに話を続ける。
「なら、どうしてSNSに僕らの画像がアップロードされているんだ?」
「さあね、知らない」
彼女はつまらなさそうにそう答えた。
「なら、その画像が流出したりしてないか? 」
「流出? 絶対にない」
「画像を保存しているスマホやパソコンがウイルスに感染したことは? 」
「……ない」
心なしか目つきが鋭くなった気がした。何が琴線に触れたのか分からないが、むきになっている。
「流出と言われると心外。でも大学の加藤という女にこの画像を渡した」
突然の重要な情報を口にし始めた。責任逃れをしたいのだろうか?
『何で渡したの?』
今まで黙っていた雫が会話に参戦してきた。すると、無表情だった中原美奈の表情がパアッと明るくなった。
「雫ちゃん……いたの?」
『質問に答えて』
「うん、いいよ。加藤さん、雫ちゃんのファンなんだって。私、嬉しくなっちゃって」
急にキャッキャッと弾んだ声を出し始めた。背筋がゾワゾワし始め、汗が滴り落ちた。
『嬉しいから、私の画像を無断で撮影して、他人に勝手に渡したってこと?』
雫の言葉には怒気が混じっていた。
「ごめん。怒った?」
「今、まさに俺たちの画像は犯罪に使われている。許せるはずがないだろ」
中原美奈はしゅんとして、俯いてしまった。
正直、画像の出どころが加藤であることが分かったので帰りたかった。
彼女から狂気を感じ始めていた。関わっていい人種じゃない。
その時、僕の手からスマホが奪われた。完全に油断していた。
中原美奈は両手でスマホを包み込み、天井に向かって掲げながらまくし立て始めた。
「でもね、でもね。雫ちゃんのかわいさは世界中に伝えるべきだと思うの。今回の炎上で雫ちゃんの知名度はうなぎ登り。凄いことだよ、これは。ノーベル賞もの、加藤さんは天才だったんだ」
『何を……』
「ああ、でも、雫ちゃんがみんなのものになるのは、ちょっと嫌かも」
目は見開いて焦点はあわず、饒舌に喋り始めたかと思ったら、はあ、はあ、と肩で息を始めた。
『スマホを亮に返して……』
「こんな男の何がいいの? 私と一緒に暮らそうよ」
僕はスマホを強引に奪い返した。
「これは犯罪だぞ。加藤に手を貸したのか? 」
「貸してない。画像を渡しただけ」
無気力な顔をこちらに向けた。
「なら、なぜ、加藤さんが拡散したと思ったんだ」
「少し調べれば分かる。拡散は天才的だったけど、ITリテラシーは低い。それが加藤さん」
『あなたは……何なの? 』
「雫ちゃんのファンの一人だよ」
中原美奈は熱っぽい表情と甘ったるい声ををこちらに投げかけてきた。
「ところで、外の監視カメラは雫ちゃんのしわざ?」
『……何の話?』
「きれいに痕跡が消されていた。まんまと騙された。見事な手腕。でもね……」
なんとなく、続きを聞くのが嫌で、今すぐこの部屋を飛び出したかった。
「あまり、調子に乗っていると消されちゃうよ」
『ご忠告、どうも……』
何の話だろうか。意味が分からないがそれよりも大事な事がある。
「中原さん、雫の画像をすべて削除してくれ」
「いいよ。その代わり、僕の……私の画像を削除するのが交換条件ね」
デジカメの機能で画像を削除しようとしたところ「ダメダメ。それじゃ、復元できちゃう。フォーマットを七回して」と指摘されて、フォーマットさせられた。
中原美奈は自分のスマホを初期化していた。
『クラウドサーバーにデータは上がってない?』
「ないよ。あっても、雫ちゃんが消すでしょ?」
『できるわけないでしょ……』
「そう? 」
ようやく、中原美奈との話が終わった。部屋を出ようとして、肝心なことを伝え忘れていた。
「木崎さんが心配してた」
「やよは私を嵌めた。もう、友達なんかじゃない」
「友達だからだよ」
「……はあ? 」
「友達だからやってはいけないことをちゃんと伝えたかったんだ。そのノートに手紙が挟まっている。ちゃんと読めよ」
「……」
僕が指さしたノートを中原美奈はぼんやりと眺めていた。
僕は中原美奈の部屋を出た。
外はむわっとした空気で満たされ、虫の声が聞こえてきた。部屋を出たことで気圧が変化したのか、周囲の音が急によく聞こえるようになった気がした。
魔窟から帰還できたことで、ホッとしたのかもしれない。
『あの子、私が監視カメラに細工したことを気づいてた』
「そんなことしてたの」
『だって、亮……監視されてたからさ』
「えっ? 」
『あの子、このアパートの監視カメラをハッキングして、亮がいなくなるのを待ってたんだよ』
「えっ」
『だから、誰もいない映像を作って、監視カメラの映像に割り込ませたんだ』
「つまり、その映像を確認した中原美奈がドアを開けた……ということか」
『そういうこと』
正直、彼女がこの炎上事件の犯人なのではないか?
そう疑いたくなるキャラクターとスキルの持ち主だった。できれば、もう関わりたくない。
「ところで、消されるって言ってたけど、あれはなんのこと?」
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