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フェイク ビレッジ
来訪者
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僕がスマホを左手で持ち、隣に寛さんが右隣に立っており、画面に向かって頭を下げた。
「はじめまして、高瀬寛と申します」
『えっと……わ、私は西園寺桔梗です。始めまして』
……桔梗と名乗る新たなARIAは視線を右へ左へ泳がせながら、寛さんに挨拶をした。
アパートのエントランスで大の男が、横並びで、スマホに向かって話しかけている様は異様ではないだろうか。
誰も見ていないし、気にしすぎだろうが少し恥ずかしい。
そんなことより、突如出現した雫以外のARIAとは仲良くしておくに越したことはない。
何しろ、雫の話だけだとわからない事も多い。
「あの、僕は……」
『知ってる。雫をたぶらかした山内でしょ』
「たぶらかしては……いないと思うのですが」
桔梗と名乗るARIAはキッとこちらを睨みつける。僕の仲良くなろうという目論見は秒殺された。
『きょう姉、ちょっとやめてよ……』
いつも自由奔放な雫が困った顔をしていた。桔梗さんは雫の上を行く面倒くさい人なのではないだろうか。
『山内亮……あんた、今なんか失礼なこと考えたでしょ』
「い、いえ、そんな事は……」
妙に鋭い。学習データの中に僕のような表情と考え方を結びつけるデータセットでもあるのだろうか。
「しかし、雫ちゃんにこんな綺麗なお姉さんがいるとは知らなかったな」
寛さんが空気を読まずに会話に割って入ってくる。この微妙な空気を感じ取らず、自分の言いたいことを話すところが凄い。
『えっ……私のこと……ですか? 』
「そうですね」
桔梗さんは目を大きく見開いて真っ赤な顔をしたかと思ったら、俯いてしまった。
寛さんは顔の彫りが深く、低く渋い声をしている。実は女性にもてるのではないだろうか。
『あの、寛さん……初対面で女性を口説くのはちょっと……』
「そんなつもりはない。思ったことを正直に伝えただけだ。誤解を与えたなら申し訳ない」
あまりに直球すぎる言い訳に男の僕ですら、ドキッとした。
当の桔梗さんは眉尻が下がったり、上がったり、赤くなったりとコロコロと表情を変化させていた。
ちなみに桔梗さんは僕と寛さん、雫の三人で話しているときに突然会話に割り込んできたのだ。
そして、僕と寛さんを勘違いして、すごい剣幕で寛さんに食ってかかった……が、途中で人違いと気がついたらしく、現在に至るというわけだ。
なかなか、そそっかしい性格をしている。
「あの、これ。鍵とヘルメットありがとうごさいました」
「ああ。山内、気分転換になったか?」
寛さんはスマホに映る雫をチラリと確認すると、「まあ、聞くまでもなかったか」と笑顔になった。
「はい、おかげさまで。バイクはガゾリン満タンにしておきました。洗車もしてありますので」
「そうか、かえって気を遣わせてしまったな。……あ、俺からも渡したいものがあるんだ」
そう言うと部屋に入り、何か紙包みを持ってきた。
「実家が小田原にあってな、近くに、美味しい干物屋があるから買ってきたんだ」
そう言って手渡してきた。
「えっ、お土産ですか。悪いですよ」
「気にするな。美味いから食ってみてくれ」
寛さんは第一印象は良くなかったが、仲良くなって気がついたが、とても面倒見がとてもいい。
第一印象で損するタイプの人なんだろう。
「ところで、二人はこちらに来ることはないのか? 」
『私達がそっちに行けるわけな……』
『わーっ! いえ、ちょっと実家がゴタついてまして、遠出は難しいんです』
雫は桔梗さんを制して前に出て代弁をした。
「そうか、残念だな。ご実家は岩手県とか言っていたな。顔を出すのも駄目か? 」
「寛さん、僕でもなかなか会えないので難しいですよ」
雫と口裏を合わせておいたので、自然とそれっぽい嘘が言えた。
『ちょっと込み入ってまして……』
「聞いてはいけないことを聞いたようだな。すまなかった」
また、寛さんが頭を下げるのを見て、罪悪感が湧いてきた。事情など言うに言えないが。
雫の後ろに隠れている桔梗がジトッとした目でこちらを見ていた。
……何か言いたそうな目をしていたが堪えてくれたようだ。
「二人がこっちに来ることがあれば、寛さんにもお声がけしますよ」
「ああ、そうだな。頼む。ところで、山内、大学に行かなくていいのか? 1限目があると話していなかったか」
「あっ。そうだ、行ってきます」
「気を付けてな」
バスに間に合うか微妙な時間だったので、走って向かったが、結局、バスには間に合わなかった。
バスに揺られながら今までのことをぼんやりと考えていた。
桔梗さんの態度を見る限り、僕に対して明らかな敵意がある。
彼女の「雫の事をたぶらかした」というセリフは雫が以前話してくれた内容と合致する。
雫の「ARネットワークに閉じ込められている」という話と、桔梗さんの態度から、外部ネットワークに出ることが良いことではないと推察はできる。
だからこそ、違和感がある。雫と桔梗さんの発言に明確な温度差があるように感じる。
実は雫は閉じ込められているのではなく、「極力でるな」、あるいは「許可を取れば出てもよい」程度の緩いものなのではないだろうか。
その気になれば、桔梗さんは高瀬さんに告げ口をして、雫を更迭することだって可能な筈だ。
だが、していない。
せいぜい、僕に対してクレームを入れる程度の対策しかしていないのだ。
雫は嘘をついている。
高瀬さんに会いに行って話を聞けば、確実に何かを知っているのだろう。ただ、高瀬さんに会えば、雫との関係も終わってしまう可能性が高い。
…………。
目を瞑り、耳を塞ぎ、口を閉じて、このまま楽しく雫と暮らす……というのも悪くない。
でも、このままではいけないと……思う。
まずは、桔梗さんと話をしてみよう。
バスは大学に到着した。15分遅れで1限目の授業に参加する。人の目が気になったが、教壇横の出席用ICカードリーダーにタッチする。
席に座ろうと後方を振り返る。
心なしか、皆が僕に注目しているような気がした。
講義途中から参加したから、目立ってしまったのだろう。
後方の席に向かう途中、三人組の女性がこちらをチラリと見られたかと思うと、コソコソと何かを話していた。
「?」
思わず、身体のアチコチを触って確認した。何か、おかしな所でもあるのだろうか。
思い当たる節もないので、諦めて適当に席に座る。
見た感じ、拓人は授業に来ていないようだし、後でトイレで確認しよう。
席についてパソコンを起動すると、パソコンのディスプレイを隠れ蓑にして、雫にメッセージを送った。
「桔梗さんと話がしたい。頼めるかな? 」
『何を聞きたいの? 』
「ARIAのこと」
『それなら私に聞いてよ』
「雫以外の人……ARIAから話を聞きたいんだ」
『無理。喧嘩になるだけだよ』
暫く似たようなやり取りが続いたが、雫は折れてくれなかった。
埒が明かない。
次の休み時間にオンライン通話で直接話そうと心に誓った。
「はじめまして、高瀬寛と申します」
『えっと……わ、私は西園寺桔梗です。始めまして』
……桔梗と名乗る新たなARIAは視線を右へ左へ泳がせながら、寛さんに挨拶をした。
アパートのエントランスで大の男が、横並びで、スマホに向かって話しかけている様は異様ではないだろうか。
誰も見ていないし、気にしすぎだろうが少し恥ずかしい。
そんなことより、突如出現した雫以外のARIAとは仲良くしておくに越したことはない。
何しろ、雫の話だけだとわからない事も多い。
「あの、僕は……」
『知ってる。雫をたぶらかした山内でしょ』
「たぶらかしては……いないと思うのですが」
桔梗と名乗るARIAはキッとこちらを睨みつける。僕の仲良くなろうという目論見は秒殺された。
『きょう姉、ちょっとやめてよ……』
いつも自由奔放な雫が困った顔をしていた。桔梗さんは雫の上を行く面倒くさい人なのではないだろうか。
『山内亮……あんた、今なんか失礼なこと考えたでしょ』
「い、いえ、そんな事は……」
妙に鋭い。学習データの中に僕のような表情と考え方を結びつけるデータセットでもあるのだろうか。
「しかし、雫ちゃんにこんな綺麗なお姉さんがいるとは知らなかったな」
寛さんが空気を読まずに会話に割って入ってくる。この微妙な空気を感じ取らず、自分の言いたいことを話すところが凄い。
『えっ……私のこと……ですか? 』
「そうですね」
桔梗さんは目を大きく見開いて真っ赤な顔をしたかと思ったら、俯いてしまった。
寛さんは顔の彫りが深く、低く渋い声をしている。実は女性にもてるのではないだろうか。
『あの、寛さん……初対面で女性を口説くのはちょっと……』
「そんなつもりはない。思ったことを正直に伝えただけだ。誤解を与えたなら申し訳ない」
あまりに直球すぎる言い訳に男の僕ですら、ドキッとした。
当の桔梗さんは眉尻が下がったり、上がったり、赤くなったりとコロコロと表情を変化させていた。
ちなみに桔梗さんは僕と寛さん、雫の三人で話しているときに突然会話に割り込んできたのだ。
そして、僕と寛さんを勘違いして、すごい剣幕で寛さんに食ってかかった……が、途中で人違いと気がついたらしく、現在に至るというわけだ。
なかなか、そそっかしい性格をしている。
「あの、これ。鍵とヘルメットありがとうごさいました」
「ああ。山内、気分転換になったか?」
寛さんはスマホに映る雫をチラリと確認すると、「まあ、聞くまでもなかったか」と笑顔になった。
「はい、おかげさまで。バイクはガゾリン満タンにしておきました。洗車もしてありますので」
「そうか、かえって気を遣わせてしまったな。……あ、俺からも渡したいものがあるんだ」
そう言うと部屋に入り、何か紙包みを持ってきた。
「実家が小田原にあってな、近くに、美味しい干物屋があるから買ってきたんだ」
そう言って手渡してきた。
「えっ、お土産ですか。悪いですよ」
「気にするな。美味いから食ってみてくれ」
寛さんは第一印象は良くなかったが、仲良くなって気がついたが、とても面倒見がとてもいい。
第一印象で損するタイプの人なんだろう。
「ところで、二人はこちらに来ることはないのか? 」
『私達がそっちに行けるわけな……』
『わーっ! いえ、ちょっと実家がゴタついてまして、遠出は難しいんです』
雫は桔梗さんを制して前に出て代弁をした。
「そうか、残念だな。ご実家は岩手県とか言っていたな。顔を出すのも駄目か? 」
「寛さん、僕でもなかなか会えないので難しいですよ」
雫と口裏を合わせておいたので、自然とそれっぽい嘘が言えた。
『ちょっと込み入ってまして……』
「聞いてはいけないことを聞いたようだな。すまなかった」
また、寛さんが頭を下げるのを見て、罪悪感が湧いてきた。事情など言うに言えないが。
雫の後ろに隠れている桔梗がジトッとした目でこちらを見ていた。
……何か言いたそうな目をしていたが堪えてくれたようだ。
「二人がこっちに来ることがあれば、寛さんにもお声がけしますよ」
「ああ、そうだな。頼む。ところで、山内、大学に行かなくていいのか? 1限目があると話していなかったか」
「あっ。そうだ、行ってきます」
「気を付けてな」
バスに間に合うか微妙な時間だったので、走って向かったが、結局、バスには間に合わなかった。
バスに揺られながら今までのことをぼんやりと考えていた。
桔梗さんの態度を見る限り、僕に対して明らかな敵意がある。
彼女の「雫の事をたぶらかした」というセリフは雫が以前話してくれた内容と合致する。
雫の「ARネットワークに閉じ込められている」という話と、桔梗さんの態度から、外部ネットワークに出ることが良いことではないと推察はできる。
だからこそ、違和感がある。雫と桔梗さんの発言に明確な温度差があるように感じる。
実は雫は閉じ込められているのではなく、「極力でるな」、あるいは「許可を取れば出てもよい」程度の緩いものなのではないだろうか。
その気になれば、桔梗さんは高瀬さんに告げ口をして、雫を更迭することだって可能な筈だ。
だが、していない。
せいぜい、僕に対してクレームを入れる程度の対策しかしていないのだ。
雫は嘘をついている。
高瀬さんに会いに行って話を聞けば、確実に何かを知っているのだろう。ただ、高瀬さんに会えば、雫との関係も終わってしまう可能性が高い。
…………。
目を瞑り、耳を塞ぎ、口を閉じて、このまま楽しく雫と暮らす……というのも悪くない。
でも、このままではいけないと……思う。
まずは、桔梗さんと話をしてみよう。
バスは大学に到着した。15分遅れで1限目の授業に参加する。人の目が気になったが、教壇横の出席用ICカードリーダーにタッチする。
席に座ろうと後方を振り返る。
心なしか、皆が僕に注目しているような気がした。
講義途中から参加したから、目立ってしまったのだろう。
後方の席に向かう途中、三人組の女性がこちらをチラリと見られたかと思うと、コソコソと何かを話していた。
「?」
思わず、身体のアチコチを触って確認した。何か、おかしな所でもあるのだろうか。
思い当たる節もないので、諦めて適当に席に座る。
見た感じ、拓人は授業に来ていないようだし、後でトイレで確認しよう。
席についてパソコンを起動すると、パソコンのディスプレイを隠れ蓑にして、雫にメッセージを送った。
「桔梗さんと話がしたい。頼めるかな? 」
『何を聞きたいの? 』
「ARIAのこと」
『それなら私に聞いてよ』
「雫以外の人……ARIAから話を聞きたいんだ」
『無理。喧嘩になるだけだよ』
暫く似たようなやり取りが続いたが、雫は折れてくれなかった。
埒が明かない。
次の休み時間にオンライン通話で直接話そうと心に誓った。
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