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第2章1節 魔法学園対抗戦/武術戦
第199話 リネスの町にて
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船笛の音が重低に響く。
その後に八隻の船が、ゆったりとした運びで海原に出る。
赤い薔薇の紋章が描かれた旗を張って、威風堂々と航海を進めていった。
こうしてグレイスウィルを出航してから数日後。
特に何が起こったわけでもなく、無事にリネスの町に到着。
ここから更に馬車に乗り換え、対抗戦を行う平原まで向かう手筈になっている。
そして今は、船笛の音に急かされて船を降りていく所――
「……」
港に降り立ったエリスは、美しい街並みに目もくれずむっすりとしている。
その後ろからカタリナとイザークも降りてきて、エリスに声をかけた。
「エリス……機嫌直そう? ね?」
「……無理」
「まあ気持ちはわかる。めっちゃわかる」
「……むぅ」
するとエリス達四人の後ろから、その原因が降りてくる。禿げた頭が眩苦しい教師バックスである。
「わっはっは! 諸君、リネスの町に到着しましたな!」
「……そっすね」
「時にエリス君! この町の構造についてはご存知かな?」
「……知りません」
「では吾輩がお教えいたしましょう! この街には運河が流れており、ゴンドラに乗ってそこを移動することが可能なのです!」
「へーそーなんですかー」
「ゴンドラは無料で乗ることができますぞ! これも何かの縁だと思って街を巡ってみるといいんですな! そぉうだ、何なら吾輩が名所を教えてやっても――」
「先生、失礼します」
本当に空気を読んだかのようなタイミングで、アーサーが鞄を二つ持って船から降りてくる。
「おお、アーサー君――」
「早く行かないと観光をする時間がなくなってしまうので。先を急がせてもらいます」
そう言って腕を用いて、エリス達をバックスから遠ざけていく。
「……エリス。お前の鞄だ。忘れていたぞ」
「あー……ごめん。あいつがいたせいで気分が悪くなって」
「そうか……」
「うん……あー」
脳裏に浮かぶのは大体五ヶ月前のこと――
「何? 離れではなく寮に住みたいですと?」
「ならん、それはならんぞエリス君! 何故君があの離れに住んでいるのか、その理由をご存知かね!?」
「君と騎士王を同じ所に住まわせておくことによって、不測の事態に対処するためでありますからな!」
「もし仮に寮に住んで、緊急を要する事態になったらどうなるか! 吾輩にせき――ごほん、魔法学園にも迷惑がかかるのですぞ! それを弁えて頂きたい!」
「いいですかな!? わかったら寮に移りたいなんて馬鹿な考えはやめて頂きましょうか! わっはっは!」
ハインリヒと寮の相談をしている途中で、このように割ってこられたのだ。
「……その、何というか、いつ聞いても酷いよね」
「自己中ってことがわかっちゃったからもう嫌い」
「わかる」
「思い返してみればあの性格が元から好きじゃなかった」
「めっちゃわかる」
「あと目つきがぎらぎらしててやだ」
「わかりすぎてシュセ神になるわ」
「……一旦それは置いておいて、これからの予定を立てないか、エリス」
町に到着したのが朝八時、馬車の準備が完了するのが正午。その間の四時間は自由行動で、好きに街を観光しても良いことになっている。
「むぅ、そうしようアーサー。エリスちゃんは気分を切り替えます。頬をパンパンッパンフパンフ~!」
「……そういえばイザーク」
「何?」
「お前確かリネスに知り合いがいると言ったな」
「……そうだねえ」
「ならその人に会いにいくのはどうだ」
「い゛っ!?」
わかりやすく反応するイザーク。話を逸らそうと口を開きかけたが、エリスとカタリナが混ざってきてしまう。
「へー、知り合いなんていたんだね」
「会えるなら会ってみたいな……」
「そういうことだ。構わないか?」
「うー……あー……」
「――用事思い出した!! じゃあね!!」
そう言って来た道を走っていくイザーク。その先には埠頭しかない。
引き返して船の前に戻ってきた所で、まだ付近にいたバックスに捕まってしまう。
「……どういうこと?」
「さあ……」
「……せんぱーい!」
その声を聞いた瞬間、イザークには構っていられなくなってしまった。
「エリスせんぱい! アーサーせんぱい! おはようございます!」
「おはようございます、先輩方」
「おはようっすアーサー先輩!!」
ファルネア、アーサー、アデルの一年生三人が息せき切ってやってきたのだ。
「ファルネアちゃんおーはよっ。アーサー君もおはよっ」
「は、はい……!」
「……後輩?」
「あっ、カタリナは初対面か。ちっちゃい子がファルネアちゃん、かっこいいのがアーサー君。あとはアデル君……だっけ? 武術部にいたよね」
「うひょーーーー!! エリス先輩に名前覚えてもらえたーーーーん!!」
デネボラが出てくる前に、カヴァスの力を込めたアーサーの蹴りが命中する。
「あだっあ!!!!」
「……手加減しなよ」
「何とでも言え。ところで、お前達も観光をするのか?」
「え、えっと……」
急にもじもじするファルネア。それを見守るアーサー、痛みに腹を抱えて悶絶するアデル。
「……せんぱいと! 観光! したいです!」
「……へ?」
一瞬だけ、場がしーんと静まり返る。やけに高く打ち上がった波が、また引いて戻っていく。
「そそのっ、せんぱいと、街、見たいです……だから……」
「……そっかあ」
「……あの、迷惑、ですか?」
「ううん、全然っ!」
エリスからファルネアに対して突然のぎゅー攻撃。
「ひゃっ……?」
「わたしね、今とーっても気分が悪かったの! でもファルネアちゃん見たらそんなの吹っ飛んじゃった♪」
「せんぱい……」
ファルネアはふくよかな胸に押し潰されて行動ができない。三秒に一回アーサーの視線がそちらに向けられている気がしないでもない。
「ぷはーっ。アーサーとカタリナも、アーサー君とアデル君もそれでいいよね? いいよねっ?」
解放されたファルネアは上手く立てずにエリスに寄りかかる。それに気付いた瞬間行動不能が延長。
「構わん」
「あたしもいいよ」
「ボクらは元よりそのつもりですよ」
「オレもだぜー! って向こうにイザーク先輩もいるじゃないですか! 誘いましょうよ!」
「ああ、あいつは……用事を思い出したのだそうだ」
「マジかよざーんねん! じゃあこの六人で行きましょうかい!」
「何であんたが引っ張ってんだい!」
「あだーっ!! さっき出なかったから油断してたーっ!!」
「ファルネアちゃん、大丈夫? 歩ける?」
「だ、だいじょ「よかったらわたしと手繋ごうか?」――!!!」
これにてファルネア、戦闘不能。まあ頑張った方である。
「ああっ、ファルネアちゃんっ!?」
「ぷしゅう……」
「もーう!! 緊張しすぎ!! ほら、わたしが力を貸すから!! エリス先輩はアーサー先輩と手を繋いでいてください!!」
リップルの妨害射撃がアーサーに命中。特に含んでいないが口の中の液体を吹出。
「な、な、何でオレなんだよ……!」
「だってアーサー先輩、いつもエリス先輩と一緒にいるじゃないですか! そこからお似合いだなって思いました! まる!」
「~~~ッ」
「あーっ!!! 先輩顔真っ赤っ赤ー!!! かーわーいーいー!!!」
「カヴァス……!! やるぞ……!!」
「ちょ待って今のは冗談です怒らないで本気じゃないんですだから足に風を纏わせるのやめてええええええええ!!!!!!!」
「んぎゃほらっああああああああ!!!!」
ボチャーンと何かが飛び込む音がして、その隣でバサバサと小鳥が飛び立っていった。
その後に八隻の船が、ゆったりとした運びで海原に出る。
赤い薔薇の紋章が描かれた旗を張って、威風堂々と航海を進めていった。
こうしてグレイスウィルを出航してから数日後。
特に何が起こったわけでもなく、無事にリネスの町に到着。
ここから更に馬車に乗り換え、対抗戦を行う平原まで向かう手筈になっている。
そして今は、船笛の音に急かされて船を降りていく所――
「……」
港に降り立ったエリスは、美しい街並みに目もくれずむっすりとしている。
その後ろからカタリナとイザークも降りてきて、エリスに声をかけた。
「エリス……機嫌直そう? ね?」
「……無理」
「まあ気持ちはわかる。めっちゃわかる」
「……むぅ」
するとエリス達四人の後ろから、その原因が降りてくる。禿げた頭が眩苦しい教師バックスである。
「わっはっは! 諸君、リネスの町に到着しましたな!」
「……そっすね」
「時にエリス君! この町の構造についてはご存知かな?」
「……知りません」
「では吾輩がお教えいたしましょう! この街には運河が流れており、ゴンドラに乗ってそこを移動することが可能なのです!」
「へーそーなんですかー」
「ゴンドラは無料で乗ることができますぞ! これも何かの縁だと思って街を巡ってみるといいんですな! そぉうだ、何なら吾輩が名所を教えてやっても――」
「先生、失礼します」
本当に空気を読んだかのようなタイミングで、アーサーが鞄を二つ持って船から降りてくる。
「おお、アーサー君――」
「早く行かないと観光をする時間がなくなってしまうので。先を急がせてもらいます」
そう言って腕を用いて、エリス達をバックスから遠ざけていく。
「……エリス。お前の鞄だ。忘れていたぞ」
「あー……ごめん。あいつがいたせいで気分が悪くなって」
「そうか……」
「うん……あー」
脳裏に浮かぶのは大体五ヶ月前のこと――
「何? 離れではなく寮に住みたいですと?」
「ならん、それはならんぞエリス君! 何故君があの離れに住んでいるのか、その理由をご存知かね!?」
「君と騎士王を同じ所に住まわせておくことによって、不測の事態に対処するためでありますからな!」
「もし仮に寮に住んで、緊急を要する事態になったらどうなるか! 吾輩にせき――ごほん、魔法学園にも迷惑がかかるのですぞ! それを弁えて頂きたい!」
「いいですかな!? わかったら寮に移りたいなんて馬鹿な考えはやめて頂きましょうか! わっはっは!」
ハインリヒと寮の相談をしている途中で、このように割ってこられたのだ。
「……その、何というか、いつ聞いても酷いよね」
「自己中ってことがわかっちゃったからもう嫌い」
「わかる」
「思い返してみればあの性格が元から好きじゃなかった」
「めっちゃわかる」
「あと目つきがぎらぎらしててやだ」
「わかりすぎてシュセ神になるわ」
「……一旦それは置いておいて、これからの予定を立てないか、エリス」
町に到着したのが朝八時、馬車の準備が完了するのが正午。その間の四時間は自由行動で、好きに街を観光しても良いことになっている。
「むぅ、そうしようアーサー。エリスちゃんは気分を切り替えます。頬をパンパンッパンフパンフ~!」
「……そういえばイザーク」
「何?」
「お前確かリネスに知り合いがいると言ったな」
「……そうだねえ」
「ならその人に会いにいくのはどうだ」
「い゛っ!?」
わかりやすく反応するイザーク。話を逸らそうと口を開きかけたが、エリスとカタリナが混ざってきてしまう。
「へー、知り合いなんていたんだね」
「会えるなら会ってみたいな……」
「そういうことだ。構わないか?」
「うー……あー……」
「――用事思い出した!! じゃあね!!」
そう言って来た道を走っていくイザーク。その先には埠頭しかない。
引き返して船の前に戻ってきた所で、まだ付近にいたバックスに捕まってしまう。
「……どういうこと?」
「さあ……」
「……せんぱーい!」
その声を聞いた瞬間、イザークには構っていられなくなってしまった。
「エリスせんぱい! アーサーせんぱい! おはようございます!」
「おはようございます、先輩方」
「おはようっすアーサー先輩!!」
ファルネア、アーサー、アデルの一年生三人が息せき切ってやってきたのだ。
「ファルネアちゃんおーはよっ。アーサー君もおはよっ」
「は、はい……!」
「……後輩?」
「あっ、カタリナは初対面か。ちっちゃい子がファルネアちゃん、かっこいいのがアーサー君。あとはアデル君……だっけ? 武術部にいたよね」
「うひょーーーー!! エリス先輩に名前覚えてもらえたーーーーん!!」
デネボラが出てくる前に、カヴァスの力を込めたアーサーの蹴りが命中する。
「あだっあ!!!!」
「……手加減しなよ」
「何とでも言え。ところで、お前達も観光をするのか?」
「え、えっと……」
急にもじもじするファルネア。それを見守るアーサー、痛みに腹を抱えて悶絶するアデル。
「……せんぱいと! 観光! したいです!」
「……へ?」
一瞬だけ、場がしーんと静まり返る。やけに高く打ち上がった波が、また引いて戻っていく。
「そそのっ、せんぱいと、街、見たいです……だから……」
「……そっかあ」
「……あの、迷惑、ですか?」
「ううん、全然っ!」
エリスからファルネアに対して突然のぎゅー攻撃。
「ひゃっ……?」
「わたしね、今とーっても気分が悪かったの! でもファルネアちゃん見たらそんなの吹っ飛んじゃった♪」
「せんぱい……」
ファルネアはふくよかな胸に押し潰されて行動ができない。三秒に一回アーサーの視線がそちらに向けられている気がしないでもない。
「ぷはーっ。アーサーとカタリナも、アーサー君とアデル君もそれでいいよね? いいよねっ?」
解放されたファルネアは上手く立てずにエリスに寄りかかる。それに気付いた瞬間行動不能が延長。
「構わん」
「あたしもいいよ」
「ボクらは元よりそのつもりですよ」
「オレもだぜー! って向こうにイザーク先輩もいるじゃないですか! 誘いましょうよ!」
「ああ、あいつは……用事を思い出したのだそうだ」
「マジかよざーんねん! じゃあこの六人で行きましょうかい!」
「何であんたが引っ張ってんだい!」
「あだーっ!! さっき出なかったから油断してたーっ!!」
「ファルネアちゃん、大丈夫? 歩ける?」
「だ、だいじょ「よかったらわたしと手繋ごうか?」――!!!」
これにてファルネア、戦闘不能。まあ頑張った方である。
「ああっ、ファルネアちゃんっ!?」
「ぷしゅう……」
「もーう!! 緊張しすぎ!! ほら、わたしが力を貸すから!! エリス先輩はアーサー先輩と手を繋いでいてください!!」
リップルの妨害射撃がアーサーに命中。特に含んでいないが口の中の液体を吹出。
「な、な、何でオレなんだよ……!」
「だってアーサー先輩、いつもエリス先輩と一緒にいるじゃないですか! そこからお似合いだなって思いました! まる!」
「~~~ッ」
「あーっ!!! 先輩顔真っ赤っ赤ー!!! かーわーいーいー!!!」
「カヴァス……!! やるぞ……!!」
「ちょ待って今のは冗談です怒らないで本気じゃないんですだから足に風を纏わせるのやめてええええええええ!!!!!!!」
「んぎゃほらっああああああああ!!!!」
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