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第2章1節 魔法学園対抗戦/武術戦
第182話 幕間:ジャネットと噂の話
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水平線から朝日が昇る。輝く太陽を受けながら、水面に糸を垂らす人間が二人。眼鏡が特徴的な教師と宮廷魔術師、ミーガンとティナである。
「どうですかティナ。宮廷魔術師になってから一年になりますけどぉ、仕事は順調ですかぁ?」
「まあ手応えはある……かな。内容もばっちり覚えたし、人間関係も上手くやってるよ」
「それは良かったですねぇ。まあ私もアドルフ様やルドミリア様と面識がありますからねぇ、何かあったら言ってくださいよぉ」
「はいはい、どうもどうも」
現在二人がいる場所はグレイスウィルの第一階層。比較的昔に拡張された岩場で、その用途は釣り場。
毎日そこそこな人数が二十四時間入れ替わりで入り、大物狙って竿を唸らせる。明け方ではあるが、二人以外にも人がちらほら見受けられた。
「兄さんこそ大丈夫なの。この間生徒っぽい子が、兄さんの授業の愚痴言ってるの聞いちゃったんだけど」
「教師歴十年舐めるんじゃないですよぉ。全人類から好かれる人間なんているわけないんですから、それぐらい平気ですぅ」
「は~強メンタル。まあ何時間も釣り糸垂らせるんだから、当然つっちゃ当然か」
「それを言うならばぁ、お前も大概だと思うぞ兄さんはぁ」
「誰のせいでそうなったと思ってるんだか。よっと」
「おお、先を越されるとはぁ」
「赤鯛だね。食べてる餌の影響で赤くなったって言われてるけど、一応属性検査もしておくか……」
「……ん?」
「どうしたの兄さん。竿に変なのでもかかった?」
「いや……竿ではなく、向こうからですねぇ」
「向こう?」
持っていた道具を手に置き、ティナも一緒になって水平線を見つめる。
「……ぉぉ……」
海原を疾走する馬が一匹。
「……ぅぉぉぉぉぉ……」
馬の上には奇抜な格好の男が一人、
「……おおおおおおおお……」
更にその隣には、紐か何かで括り付けられているのか、馬と共に海を渡っている男が。
「ぬおおおおおおおおお!!!」
「……兄さん、こっちに来てるんだけど」
「そうですねぇ。でもここからどう回避しましょうかぁ」
「それは――」
次の瞬間。
波が押し寄せ、頭上から降りかかる。
「ばーっ……あ゛ーっ……!! 着いた!! やぁぁぁぁぁっと着いたぁぁぁぁ……!!」
「ああ……シルヴァ!! おまえ、おれを紐代わりにするなんて、ごーいんにも程があるぞ!!」
「咄嗟に思い付いたのがそれだったんだよ~~~~ッ うぐっ」
「何はともあれお疲れだったのう諸君」
岩場にへたれ込む四人の中で、最初にシルヴァが身体を起こす。
「……ん?」
「……」
「どうしましたかティナ。知っている人ですかぁ?」
「えっと、知ってるも何も、私の上司……」
「……んん?」
「え、私の部下? こんな子いたっけ?」
「ああ、やっぱり覚えられてない……!!」
水に濡れていることもお構いなしに、ティナは両手で顔を隠してしまう。その隣にジャネットもやってきた。
「ダメじゃんダメじゃんダメダメじゃん。自分の部下の顔忘れるなんてさぁ!」
「いや、前帰ってきたの大体一年前だからなあ……その時に入った子でしょ、多分」
「んなもん後々! それより早く屋敷で休もうぜ!?」
「そーだなー。悪いんですけど、第四階層のルドミリア様に取り次いでもらえませんかね?」
「うーむ……そうですねぇ、我々でよければぁ。ほらティナ、貴女も手伝いなさいっ」
「ハイ……」
それから二時間程度過ぎ、第一階層の住民達も徐々に目覚め出す。
「おはよー姉貴ー。今朝も無駄な抵抗ご苦労様ー」
「無駄とか言わないでよ……」
鏡の前でスプレーと魔法具両手に、悪戦苦闘するカベルネの後ろを、マグカップを持ったマイケルが通り過ぎる。
「早く金貯めて縮毛矯正したい……毎日一時間これにかけるのはぶっちゃけ辛い……」
「諦めるって選択はないわけ?」
「見てくれ気にしねえおめーとは違うんだよぉ!」
スプレーと魔法具を力強く置いて、カベルネは食卓に着く。
「結局諦めるんじゃん」
「違う! これは一時休戦だ! まず飯食って英気を養……」
その時、玄関の呼び鈴が鳴る。
「……ん? こんな朝早くから誰?」
「あたし出るよー」
ひょいひょいと足を動かし、玄関まで向かうカベルネ。
数分後戻ってきた彼女は、げんなりとした表情をしていた。
「……何かあったの」
「……きんきゅーしょうしゅー……」
「は?」
「シルヴァ様がぁ……お戻りになられあそばされたぁ……」
「……はぁ???」
更に日は昇り、この日の歴史学の授業が全部自習になることが決定した後。
「よし、大体の治療は完了した。あとは茶でも飲んで身を休めてくれ」
「ありがとうございます。……むむっ、これはルイボスティー! 美味しいです!!」
「ふっ、口に合ったようで何よりだ」
渡された茶と菓子を貪り、ジャネットは半日振りの安寧を得ている。アルブリアというだけでも安心材料であるのに、四貴族ウィングレー家の屋敷となったら、より気は緩むだろう。
「最近バドゥ地方に行く機会があってな。ここぞと思ってしこたま買ってきたんだ」
「アンディネの南の最南端の所ですねェ~~~。ガラティア、エレナージュ、リネスをバーッと跨る海岸地帯。砂漠とか超えるの苦手だから行ったことはないんですけど。あの辺ってやっぱり遺跡とか多いんですか?」
「遺跡もそうなんだが、現地住民の話も貴重なんだ。自然を隔てて向こう側に住んでいるから、文化も思想も違っている。そう言った人々から話を聞くのはとても興味深いんだ」
「成程、実に考古学者らしいお考えだ。私だったらァ~~~町の住民は何を必要としているのか、需要は如何程なのか、そんなことばかり考えちゃいますねェ」
「成程、実に君らしい考えだな。ふふっ」
そこに客室の扉が開き、新たな訪問者がやってくる。
「ジャネットおじ様! お身体の方はもう平気なのですか?」
「この通りピンピンしておりますよ、リティカ様! マール様もご機嫌麗しゅうでございます!」
「うふふ……会えて嬉しいですわぁ……」
リティカとマールがお辞儀をすると、ジャネットは左手を腰の前に回してお辞儀を返す。
「まさかリティカ様がご帰省されていたとは。再び貴女様の御顔を拝見することができるとは、許されるのであれば貴女様の手の甲に口付けを残したい所でございます」
「もう、おじ様は相変わらずお口がよく回りますのね!」
「言っておくがリティカは渡さないぞ?」
「ははは、先がお早いようで」
リティカは嬉しそうに、ジャネットの両手をぎゅっと握る。
「ね、おじ様! お母様の次は私ですわ! また研究や発明のお話を聞かせてくださる?」
「ああ構いませ……っとその前に! もう少しだけルドミリア様とお話しないといけないので、待っていただけないでしょうか?」
「お話?」
リティカは首を傾げるが、ルドミリアは言葉の意図を理解しているようで、彼女に視線を送った。
「……わかりましたわ。そういうことでしたら私、お部屋でお茶の用意をして待っていますわね!」
「うふふ……とびっきりのお茶葉、使いましょうねぇ……」
リティカとマールが階段を駆け上がっていった所で、ジャネットはルドミリアに向き直る。
その表情は今までとは打って変わって、真剣なものであった。
「……あの欠片のことだな? 君が沼の者に追われる一因になった」
「そうです。ここまで命を懸けて持ってきたんです。解析と保管をしていただけたらなあと」
「ああ、勿論だ。私から見てもあの欠片には、何か強い力が宿っているように感じた。調べてみる価値はあるだろう」
「お願いしますよ、本当に」
最後に残ったルイボスティーを飲み干すジャネット。
「……あれが小聖杯かもしれないって話はしましたよね」
「しかと聞いたぞ」
「……仮にそうだとしたら、何が判明するんでしょうかねえ」
「……ヘルヴォーダン家が何をしたか、だな」
「……」
クロンダインの王族の名を聞いて、ジャネットは唾を飲む。
「……私と貴女の仲だからこそ聞きますけど、タンザナイア制圧戦の時、王家の人間が何かしたって本当なんでしょうか?」
「……」
ルドミリアは視線を下にやって、一息置いてから。
「……象だ」
「え?」
「あの時現場にいた魔術師は……巨大な象の姿と、その咆哮を聞いたそうだ」
「……」
「当時私は海上基地で指揮官をしていたから、実際には見ていない。これは私の臣下から聞いた話だ。故に真偽の程は……わからない」
「……」
「……ガネーシャ?」
「……知っているのか」
「歴史とか土着の神とか、そういうのは知っておかないと商売できないので」
「……そうか」
「……要は小聖杯の魔力を使って、ガネーシャを降臨させたってことでしょう? で、あまりにも負荷が大きすぎて壊れちゃったと」
「そういうことになるな。だが一応、まだ解析をしていない現状では、可能性の一部にしか過ぎない」
「そうですねえ。とはいえあれが小聖杯ではないとすると……もっとやばい代物ってことになってしまうんですけど」
「……」
顔を顰めた後、ルドミリアはぱんっと手を叩く。
「……病み上がりなのにこんな話をするのも疲れるだろう。一旦この話は打ち止めだ。また時間が経って、結果が出てから話をしよう」
「お心遣い感謝いたしますよ。痛みはすっかり引いたんですけど、筋肉痛が酷くて……あとはまだ恐怖が薄れていないというか」
「それならば心を落ち着かせることが肝要だな。早くリティカの所に行ってくるといい」
「勿論そのおつもりですよ。しかしあんなに小さかったお嬢様も、見違えるように大きくなられて……時間というのは残酷ですねェ~」
「ああ、全く持ってその通りだ。今日も対抗戦で勝ち星を挙げると張り切っていてな……しかも将来は、私のような学者になるのが夢なんだそうだ」
「おおっ、それは素晴らしい。その時には是非とも私を贔屓にしてほしいものですなぁ!」
「どうですかティナ。宮廷魔術師になってから一年になりますけどぉ、仕事は順調ですかぁ?」
「まあ手応えはある……かな。内容もばっちり覚えたし、人間関係も上手くやってるよ」
「それは良かったですねぇ。まあ私もアドルフ様やルドミリア様と面識がありますからねぇ、何かあったら言ってくださいよぉ」
「はいはい、どうもどうも」
現在二人がいる場所はグレイスウィルの第一階層。比較的昔に拡張された岩場で、その用途は釣り場。
毎日そこそこな人数が二十四時間入れ替わりで入り、大物狙って竿を唸らせる。明け方ではあるが、二人以外にも人がちらほら見受けられた。
「兄さんこそ大丈夫なの。この間生徒っぽい子が、兄さんの授業の愚痴言ってるの聞いちゃったんだけど」
「教師歴十年舐めるんじゃないですよぉ。全人類から好かれる人間なんているわけないんですから、それぐらい平気ですぅ」
「は~強メンタル。まあ何時間も釣り糸垂らせるんだから、当然つっちゃ当然か」
「それを言うならばぁ、お前も大概だと思うぞ兄さんはぁ」
「誰のせいでそうなったと思ってるんだか。よっと」
「おお、先を越されるとはぁ」
「赤鯛だね。食べてる餌の影響で赤くなったって言われてるけど、一応属性検査もしておくか……」
「……ん?」
「どうしたの兄さん。竿に変なのでもかかった?」
「いや……竿ではなく、向こうからですねぇ」
「向こう?」
持っていた道具を手に置き、ティナも一緒になって水平線を見つめる。
「……ぉぉ……」
海原を疾走する馬が一匹。
「……ぅぉぉぉぉぉ……」
馬の上には奇抜な格好の男が一人、
「……おおおおおおおお……」
更にその隣には、紐か何かで括り付けられているのか、馬と共に海を渡っている男が。
「ぬおおおおおおおおお!!!」
「……兄さん、こっちに来てるんだけど」
「そうですねぇ。でもここからどう回避しましょうかぁ」
「それは――」
次の瞬間。
波が押し寄せ、頭上から降りかかる。
「ばーっ……あ゛ーっ……!! 着いた!! やぁぁぁぁぁっと着いたぁぁぁぁ……!!」
「ああ……シルヴァ!! おまえ、おれを紐代わりにするなんて、ごーいんにも程があるぞ!!」
「咄嗟に思い付いたのがそれだったんだよ~~~~ッ うぐっ」
「何はともあれお疲れだったのう諸君」
岩場にへたれ込む四人の中で、最初にシルヴァが身体を起こす。
「……ん?」
「……」
「どうしましたかティナ。知っている人ですかぁ?」
「えっと、知ってるも何も、私の上司……」
「……んん?」
「え、私の部下? こんな子いたっけ?」
「ああ、やっぱり覚えられてない……!!」
水に濡れていることもお構いなしに、ティナは両手で顔を隠してしまう。その隣にジャネットもやってきた。
「ダメじゃんダメじゃんダメダメじゃん。自分の部下の顔忘れるなんてさぁ!」
「いや、前帰ってきたの大体一年前だからなあ……その時に入った子でしょ、多分」
「んなもん後々! それより早く屋敷で休もうぜ!?」
「そーだなー。悪いんですけど、第四階層のルドミリア様に取り次いでもらえませんかね?」
「うーむ……そうですねぇ、我々でよければぁ。ほらティナ、貴女も手伝いなさいっ」
「ハイ……」
それから二時間程度過ぎ、第一階層の住民達も徐々に目覚め出す。
「おはよー姉貴ー。今朝も無駄な抵抗ご苦労様ー」
「無駄とか言わないでよ……」
鏡の前でスプレーと魔法具両手に、悪戦苦闘するカベルネの後ろを、マグカップを持ったマイケルが通り過ぎる。
「早く金貯めて縮毛矯正したい……毎日一時間これにかけるのはぶっちゃけ辛い……」
「諦めるって選択はないわけ?」
「見てくれ気にしねえおめーとは違うんだよぉ!」
スプレーと魔法具を力強く置いて、カベルネは食卓に着く。
「結局諦めるんじゃん」
「違う! これは一時休戦だ! まず飯食って英気を養……」
その時、玄関の呼び鈴が鳴る。
「……ん? こんな朝早くから誰?」
「あたし出るよー」
ひょいひょいと足を動かし、玄関まで向かうカベルネ。
数分後戻ってきた彼女は、げんなりとした表情をしていた。
「……何かあったの」
「……きんきゅーしょうしゅー……」
「は?」
「シルヴァ様がぁ……お戻りになられあそばされたぁ……」
「……はぁ???」
更に日は昇り、この日の歴史学の授業が全部自習になることが決定した後。
「よし、大体の治療は完了した。あとは茶でも飲んで身を休めてくれ」
「ありがとうございます。……むむっ、これはルイボスティー! 美味しいです!!」
「ふっ、口に合ったようで何よりだ」
渡された茶と菓子を貪り、ジャネットは半日振りの安寧を得ている。アルブリアというだけでも安心材料であるのに、四貴族ウィングレー家の屋敷となったら、より気は緩むだろう。
「最近バドゥ地方に行く機会があってな。ここぞと思ってしこたま買ってきたんだ」
「アンディネの南の最南端の所ですねェ~~~。ガラティア、エレナージュ、リネスをバーッと跨る海岸地帯。砂漠とか超えるの苦手だから行ったことはないんですけど。あの辺ってやっぱり遺跡とか多いんですか?」
「遺跡もそうなんだが、現地住民の話も貴重なんだ。自然を隔てて向こう側に住んでいるから、文化も思想も違っている。そう言った人々から話を聞くのはとても興味深いんだ」
「成程、実に考古学者らしいお考えだ。私だったらァ~~~町の住民は何を必要としているのか、需要は如何程なのか、そんなことばかり考えちゃいますねェ」
「成程、実に君らしい考えだな。ふふっ」
そこに客室の扉が開き、新たな訪問者がやってくる。
「ジャネットおじ様! お身体の方はもう平気なのですか?」
「この通りピンピンしておりますよ、リティカ様! マール様もご機嫌麗しゅうでございます!」
「うふふ……会えて嬉しいですわぁ……」
リティカとマールがお辞儀をすると、ジャネットは左手を腰の前に回してお辞儀を返す。
「まさかリティカ様がご帰省されていたとは。再び貴女様の御顔を拝見することができるとは、許されるのであれば貴女様の手の甲に口付けを残したい所でございます」
「もう、おじ様は相変わらずお口がよく回りますのね!」
「言っておくがリティカは渡さないぞ?」
「ははは、先がお早いようで」
リティカは嬉しそうに、ジャネットの両手をぎゅっと握る。
「ね、おじ様! お母様の次は私ですわ! また研究や発明のお話を聞かせてくださる?」
「ああ構いませ……っとその前に! もう少しだけルドミリア様とお話しないといけないので、待っていただけないでしょうか?」
「お話?」
リティカは首を傾げるが、ルドミリアは言葉の意図を理解しているようで、彼女に視線を送った。
「……わかりましたわ。そういうことでしたら私、お部屋でお茶の用意をして待っていますわね!」
「うふふ……とびっきりのお茶葉、使いましょうねぇ……」
リティカとマールが階段を駆け上がっていった所で、ジャネットはルドミリアに向き直る。
その表情は今までとは打って変わって、真剣なものであった。
「……あの欠片のことだな? 君が沼の者に追われる一因になった」
「そうです。ここまで命を懸けて持ってきたんです。解析と保管をしていただけたらなあと」
「ああ、勿論だ。私から見てもあの欠片には、何か強い力が宿っているように感じた。調べてみる価値はあるだろう」
「お願いしますよ、本当に」
最後に残ったルイボスティーを飲み干すジャネット。
「……あれが小聖杯かもしれないって話はしましたよね」
「しかと聞いたぞ」
「……仮にそうだとしたら、何が判明するんでしょうかねえ」
「……ヘルヴォーダン家が何をしたか、だな」
「……」
クロンダインの王族の名を聞いて、ジャネットは唾を飲む。
「……私と貴女の仲だからこそ聞きますけど、タンザナイア制圧戦の時、王家の人間が何かしたって本当なんでしょうか?」
「……」
ルドミリアは視線を下にやって、一息置いてから。
「……象だ」
「え?」
「あの時現場にいた魔術師は……巨大な象の姿と、その咆哮を聞いたそうだ」
「……」
「当時私は海上基地で指揮官をしていたから、実際には見ていない。これは私の臣下から聞いた話だ。故に真偽の程は……わからない」
「……」
「……ガネーシャ?」
「……知っているのか」
「歴史とか土着の神とか、そういうのは知っておかないと商売できないので」
「……そうか」
「……要は小聖杯の魔力を使って、ガネーシャを降臨させたってことでしょう? で、あまりにも負荷が大きすぎて壊れちゃったと」
「そういうことになるな。だが一応、まだ解析をしていない現状では、可能性の一部にしか過ぎない」
「そうですねえ。とはいえあれが小聖杯ではないとすると……もっとやばい代物ってことになってしまうんですけど」
「……」
顔を顰めた後、ルドミリアはぱんっと手を叩く。
「……病み上がりなのにこんな話をするのも疲れるだろう。一旦この話は打ち止めだ。また時間が経って、結果が出てから話をしよう」
「お心遣い感謝いたしますよ。痛みはすっかり引いたんですけど、筋肉痛が酷くて……あとはまだ恐怖が薄れていないというか」
「それならば心を落ち着かせることが肝要だな。早くリティカの所に行ってくるといい」
「勿論そのおつもりですよ。しかしあんなに小さかったお嬢様も、見違えるように大きくなられて……時間というのは残酷ですねェ~」
「ああ、全く持ってその通りだ。今日も対抗戦で勝ち星を挙げると張り切っていてな……しかも将来は、私のような学者になるのが夢なんだそうだ」
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