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第1章1節 学園生活/始まりの一学期
第48話 大聖堂
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「――いいいいいやっふううううう終わったぜえええええっっっっっ!!!!!」
終業式が終わり、ホームルームが終わり、ハインリヒが教室を後にするや否やイザークが叫ぶ。
「学園終わった夏休みー!! ヤキソバハルマキカキゴオリー!!」
「すごい、テンション高いね……」
「いや~もうね。楽しみだわ」
イザークは机を叩いたり、歩き回ったり、サイリと抱き合ったりと半狂乱状態になっている。
「そういやオマエら夏休みは実家帰んの?」
「うん。でも帰るのは八月になってから。あと一週間はここでのんびりしようかなって」
「同じだ」
「あたしも……そうしようかなあ……」
「じゃあ暫くは暇ってことだな! よし探検しようぜ!」
イザークは机をどんと叩いて提案してきた。
「……探検?」
「ボクらまだこの島の全部を見たってわけじゃないじゃん? 折角暇な日ばっかなんだから色んな所行ってみようぜ!」
「あっ、それ面白そう。わたし乗った」
「ならオレも行こう」
「それなら……あたしも行くよ」
「じゃあ決まり! 明日の朝八時に薔薇の塔ロビー集合だ! あと誘えそうな人いたら誘っていいぜ!」
そして翌日。
「おはよん。あれ、女子は二人だけ?」
「みんなもう帰っちゃってた」
「ほーん。まあボクらもそんなもんだったけどな。でも結局四人だけってのも何か寂しいなあ」
「多すぎて迷子になるよりはマシだろう」
「それもそうか! じゃあ行こうぜ! まずは地上階の探検だ!」
「建物に傷を付けないようにしないと……」
駆け出したイザークに続いてエリス、アーサー、カタリナがついていく。ナイトメアのサイリ、カヴァス、セバスンもその後ろをついていった。
四人が塔を出ると、城下町へと続く道の近くで、町を眺めている男女を見かけたので挨拶をすることに。
寮長のアレックスにビアンカである。
「アレックスさんにビアンカさん、おはようございます」
「寮長! おはようございます!」
「おお~おはよう。お前はイザークだな。アーサーと一緒なのか」
「あら四人共。えっと、カタリナちゃんにエリスちゃんね。元気そうで何よりだわ~」
ビアンカはウインクをする。アレックスも嬉しそうに腕を回す。
「ところでお前ら、さては城下町に行く所だろう」
「わかっちゃいますか~」
「雰囲気がそうだったからな。それで、何をするつもりだ?」
「探検ですよ探検。もう夏休みですもん!」
「おおっ、探検だなんて早速夏休みを満喫しているな。結構結構。ならまずはここから地上の町並みを眺めてみるといい」
「……」
言われるままに、四人は寮長夫妻の隣に立って城下町を眺める。
「グレイスウィルの顔、地上階の城下町。帝国じゃなくなって、領土や地位が王国にまで下がっても、町の様子は帝国のまま。何となく豪勢な感じするでしょ?」
「はい……」
城下町には煉瓦の建物が多く立ち並ぶ。石の建物もあるにはあるが、それには模様や塗料が施されており、建材が剥き出しの建物は何一つ存在しない。
商いを構える店も、そこで買い物をする人々も、全てが悠然としていて美しい。切れ目なく行き交う人々の波が、この国が栄えていることを象徴していた。
「わたし達城下町に行くことってほとんどないので、全然わからないんですけど。何か地上階でおすすめの場所ってあります?」
「ん~。知っているかもしれんが地上階の店って高いんだよな。貴族や商人のような金持ちを相手にしているから。王城は今の時期無理だし、南の人工森林は凄い混んでいるだろうし」
「じゃあ王立図書館? でも夏休みが始まったのにつまんないわよねえ。だったら大聖堂以外にないわね!」
ビアンカは真っ直ぐ顔を見上げた先にある、尖塔のついた建物をぴっと指差す。
「あそこは聖教会関連の建物なんだが、イングレンス聖教の信者でなくても歓迎してくれるぞ。何より静かで落ち着く」
「イングレンス聖教……?」
エリスとカタリナは首を傾げた。
「おっと、まだ授業では聖教会は出てないかな。簡単に言うと……簡単に言うと何だ?」
「つべこべ言わず神様にお仕えしなさい、って所かしら」
「何だか無理矢理信仰させられそう……」
「おや、エリスの宗教に対するイメージってそんな感じか」
「はい。一度実家にもやってきたことがあって。聖教会ではない、小規模な団体だったみたいなんですけど……」
その時は勧誘があまりにもしつこかったのでユーリスが拳を振るって退散させ、何とか事なきを得たのだった。
「まあ世界にはそういうのもいるな。だがグレイスウィルのはそんなことは一切しないから安心してほしい」
「……はぁ」
「赤ん坊は産んでしまえばどうってことはないのよ。悩んでいるなら早く行っておいで!」
「……よーし。んじゃあ行ってみるか! あざっす寮長!」
「アレックスさん、ビアンカさん、ありがとうございますっ」
「ありがとうございます」
「……ああ」
「うん、行ってらっしゃい」
「行ってらっしゃーい!」
四人は城下町に続く坂道を、傾斜に任せて進んでいく。
その後ろ姿を、アレックスとビアンカはずっと見つめながら話す。
「……アーサー君、まだまだって感じねえ」
「だが一歩前進はしたみたいだぞ。さっき話をしている時、じっと俺の顔を見ていた」
「あら、そうだったの。何だか微笑ましいわね……うふふ」
それから歩いて四十分程度。四人は噂の大聖堂に到着した。
「こっから先が大聖堂っぽい?」
「かなあ……」
中央広場から王城に向かって歩いていき、左に曲がる。門の向こうにはこの島では珍しい、広い芝生が広がっていた。
「『今は昔の帝国時代。帝国は聖教会の活動を認め、当時領土としていたログレス平原に神々を崇める聖堂の建設を許可しました』……」
「いつの間にパンフレット持ってる……」
「さっき観光協会っぽいおっちゃんに手渡された。『この聖堂は歴史上最大と言われているもので、これの建設を機に聖教会は三騎士勢力としての力を蓄えていきました』……」
「三騎士勢力?」
授業でやったやつだね、とカタリナが口を挟む。
「円卓八国とはまた違う、国ではないけど力を持ってる組織。昔騎士王に仕えていた最も強い三人の騎士が始祖で、確かその中に聖教会もあった気がする……」
「残りは何だっけかなー、カムランとキャメロットだっけ? 忘れたわ」
「……」
「……」
三騎士勢力の話になった途端、エリスとアーサーが真顔になったので、残った二人はこの話を引っ込めた。
「んじゃま、とにかく入るべ!! 入れば色々とわかるっしょ!!」
「そうだね、行こうか……」
意気揚々と大聖堂に入ろうとした四人に話しかけてくる、黒い影が一つ。
「……おい」
「はいっ!?」
「入口でちょこまかと、なーにやってんだ餓鬼共……」
大きい角にごつごつした黒い肌。いかにも不健康そうな山羊が二本足で立ち、不釣り合いな白いローブを羽織って見下ろしている。
「ば、バフォメットぉ……!? 何でこんな所に……!?」
「おう、バフォメット見るの初めてか小僧共」
「聞こえてるぅ!?」
「さーて、どうすっかな……お前ら暇か?」
「ひ、暇って言ったらどうなりますか……?」
「そうだな、ちょっとばかし手伝いをしてもらおうか」
「ひっ……!?」
低めで響く声で、冷淡に話すバフォメットの後ろから、
「フォーさん駄目ですよ~、子ども達怖がらせちゃったら」
彼と同じ白いローブに身を包んだ女性が近付いてきた。
「いや、そんなつもりは毛頭ないんだが……」
「そんなつもりでなくとも、見た目からしてそう思えちゃいますの。だからフォーさんは数倍気を使わないといけないのに~」
女性はバフォメットを嗜めた後、優しい声で四人にも目を向ける。
「うふふ、ごめんなさいね。わたくしはレオナ。この大聖堂の管理を一任されておりますの。彼はわたくしのナイトメアで、フォーさんっていうのよ~」
「うむ。今紹介にあった通り、俺はナイトメアだ。よろしくな餓鬼共」
「もうフォーさんったら……一々選ぶ言葉が物騒よ~。ところで大聖堂に何かご用かしら?」
「そ、その、ちょっと興味があって。夏休みになったので、ちょっと行ってみようかなーって……」
「あらあら大層な子供達ねえ~。今は特に行事とかはないから、好きに見ていってちょうだい~」
「え、いいんですか?」
「もちろん。ついでにイングレンス聖教のお話にも耳を傾けていってくださいな~」
「……草むしりの手伝いをさせようと思ったんだが、まあいいか」
レオナに案内され、四人は大聖堂の中へと進んでいく。
終業式が終わり、ホームルームが終わり、ハインリヒが教室を後にするや否やイザークが叫ぶ。
「学園終わった夏休みー!! ヤキソバハルマキカキゴオリー!!」
「すごい、テンション高いね……」
「いや~もうね。楽しみだわ」
イザークは机を叩いたり、歩き回ったり、サイリと抱き合ったりと半狂乱状態になっている。
「そういやオマエら夏休みは実家帰んの?」
「うん。でも帰るのは八月になってから。あと一週間はここでのんびりしようかなって」
「同じだ」
「あたしも……そうしようかなあ……」
「じゃあ暫くは暇ってことだな! よし探検しようぜ!」
イザークは机をどんと叩いて提案してきた。
「……探検?」
「ボクらまだこの島の全部を見たってわけじゃないじゃん? 折角暇な日ばっかなんだから色んな所行ってみようぜ!」
「あっ、それ面白そう。わたし乗った」
「ならオレも行こう」
「それなら……あたしも行くよ」
「じゃあ決まり! 明日の朝八時に薔薇の塔ロビー集合だ! あと誘えそうな人いたら誘っていいぜ!」
そして翌日。
「おはよん。あれ、女子は二人だけ?」
「みんなもう帰っちゃってた」
「ほーん。まあボクらもそんなもんだったけどな。でも結局四人だけってのも何か寂しいなあ」
「多すぎて迷子になるよりはマシだろう」
「それもそうか! じゃあ行こうぜ! まずは地上階の探検だ!」
「建物に傷を付けないようにしないと……」
駆け出したイザークに続いてエリス、アーサー、カタリナがついていく。ナイトメアのサイリ、カヴァス、セバスンもその後ろをついていった。
四人が塔を出ると、城下町へと続く道の近くで、町を眺めている男女を見かけたので挨拶をすることに。
寮長のアレックスにビアンカである。
「アレックスさんにビアンカさん、おはようございます」
「寮長! おはようございます!」
「おお~おはよう。お前はイザークだな。アーサーと一緒なのか」
「あら四人共。えっと、カタリナちゃんにエリスちゃんね。元気そうで何よりだわ~」
ビアンカはウインクをする。アレックスも嬉しそうに腕を回す。
「ところでお前ら、さては城下町に行く所だろう」
「わかっちゃいますか~」
「雰囲気がそうだったからな。それで、何をするつもりだ?」
「探検ですよ探検。もう夏休みですもん!」
「おおっ、探検だなんて早速夏休みを満喫しているな。結構結構。ならまずはここから地上の町並みを眺めてみるといい」
「……」
言われるままに、四人は寮長夫妻の隣に立って城下町を眺める。
「グレイスウィルの顔、地上階の城下町。帝国じゃなくなって、領土や地位が王国にまで下がっても、町の様子は帝国のまま。何となく豪勢な感じするでしょ?」
「はい……」
城下町には煉瓦の建物が多く立ち並ぶ。石の建物もあるにはあるが、それには模様や塗料が施されており、建材が剥き出しの建物は何一つ存在しない。
商いを構える店も、そこで買い物をする人々も、全てが悠然としていて美しい。切れ目なく行き交う人々の波が、この国が栄えていることを象徴していた。
「わたし達城下町に行くことってほとんどないので、全然わからないんですけど。何か地上階でおすすめの場所ってあります?」
「ん~。知っているかもしれんが地上階の店って高いんだよな。貴族や商人のような金持ちを相手にしているから。王城は今の時期無理だし、南の人工森林は凄い混んでいるだろうし」
「じゃあ王立図書館? でも夏休みが始まったのにつまんないわよねえ。だったら大聖堂以外にないわね!」
ビアンカは真っ直ぐ顔を見上げた先にある、尖塔のついた建物をぴっと指差す。
「あそこは聖教会関連の建物なんだが、イングレンス聖教の信者でなくても歓迎してくれるぞ。何より静かで落ち着く」
「イングレンス聖教……?」
エリスとカタリナは首を傾げた。
「おっと、まだ授業では聖教会は出てないかな。簡単に言うと……簡単に言うと何だ?」
「つべこべ言わず神様にお仕えしなさい、って所かしら」
「何だか無理矢理信仰させられそう……」
「おや、エリスの宗教に対するイメージってそんな感じか」
「はい。一度実家にもやってきたことがあって。聖教会ではない、小規模な団体だったみたいなんですけど……」
その時は勧誘があまりにもしつこかったのでユーリスが拳を振るって退散させ、何とか事なきを得たのだった。
「まあ世界にはそういうのもいるな。だがグレイスウィルのはそんなことは一切しないから安心してほしい」
「……はぁ」
「赤ん坊は産んでしまえばどうってことはないのよ。悩んでいるなら早く行っておいで!」
「……よーし。んじゃあ行ってみるか! あざっす寮長!」
「アレックスさん、ビアンカさん、ありがとうございますっ」
「ありがとうございます」
「……ああ」
「うん、行ってらっしゃい」
「行ってらっしゃーい!」
四人は城下町に続く坂道を、傾斜に任せて進んでいく。
その後ろ姿を、アレックスとビアンカはずっと見つめながら話す。
「……アーサー君、まだまだって感じねえ」
「だが一歩前進はしたみたいだぞ。さっき話をしている時、じっと俺の顔を見ていた」
「あら、そうだったの。何だか微笑ましいわね……うふふ」
それから歩いて四十分程度。四人は噂の大聖堂に到着した。
「こっから先が大聖堂っぽい?」
「かなあ……」
中央広場から王城に向かって歩いていき、左に曲がる。門の向こうにはこの島では珍しい、広い芝生が広がっていた。
「『今は昔の帝国時代。帝国は聖教会の活動を認め、当時領土としていたログレス平原に神々を崇める聖堂の建設を許可しました』……」
「いつの間にパンフレット持ってる……」
「さっき観光協会っぽいおっちゃんに手渡された。『この聖堂は歴史上最大と言われているもので、これの建設を機に聖教会は三騎士勢力としての力を蓄えていきました』……」
「三騎士勢力?」
授業でやったやつだね、とカタリナが口を挟む。
「円卓八国とはまた違う、国ではないけど力を持ってる組織。昔騎士王に仕えていた最も強い三人の騎士が始祖で、確かその中に聖教会もあった気がする……」
「残りは何だっけかなー、カムランとキャメロットだっけ? 忘れたわ」
「……」
「……」
三騎士勢力の話になった途端、エリスとアーサーが真顔になったので、残った二人はこの話を引っ込めた。
「んじゃま、とにかく入るべ!! 入れば色々とわかるっしょ!!」
「そうだね、行こうか……」
意気揚々と大聖堂に入ろうとした四人に話しかけてくる、黒い影が一つ。
「……おい」
「はいっ!?」
「入口でちょこまかと、なーにやってんだ餓鬼共……」
大きい角にごつごつした黒い肌。いかにも不健康そうな山羊が二本足で立ち、不釣り合いな白いローブを羽織って見下ろしている。
「ば、バフォメットぉ……!? 何でこんな所に……!?」
「おう、バフォメット見るの初めてか小僧共」
「聞こえてるぅ!?」
「さーて、どうすっかな……お前ら暇か?」
「ひ、暇って言ったらどうなりますか……?」
「そうだな、ちょっとばかし手伝いをしてもらおうか」
「ひっ……!?」
低めで響く声で、冷淡に話すバフォメットの後ろから、
「フォーさん駄目ですよ~、子ども達怖がらせちゃったら」
彼と同じ白いローブに身を包んだ女性が近付いてきた。
「いや、そんなつもりは毛頭ないんだが……」
「そんなつもりでなくとも、見た目からしてそう思えちゃいますの。だからフォーさんは数倍気を使わないといけないのに~」
女性はバフォメットを嗜めた後、優しい声で四人にも目を向ける。
「うふふ、ごめんなさいね。わたくしはレオナ。この大聖堂の管理を一任されておりますの。彼はわたくしのナイトメアで、フォーさんっていうのよ~」
「うむ。今紹介にあった通り、俺はナイトメアだ。よろしくな餓鬼共」
「もうフォーさんったら……一々選ぶ言葉が物騒よ~。ところで大聖堂に何かご用かしら?」
「そ、その、ちょっと興味があって。夏休みになったので、ちょっと行ってみようかなーって……」
「あらあら大層な子供達ねえ~。今は特に行事とかはないから、好きに見ていってちょうだい~」
「え、いいんですか?」
「もちろん。ついでにイングレンス聖教のお話にも耳を傾けていってくださいな~」
「……草むしりの手伝いをさせようと思ったんだが、まあいいか」
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