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終章 いつも楽しく面白く

第62話 地獄に咲く一輪の花のように

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 依然、巨大な氷の棺の中で戦っているアイバーンとヘクトル。

「アイスバレット‼︎」
「くっ! アイスウォール‼︎」

 ヘクトルが撃ち出した氷の弾丸を、氷の壁で防ぐアイバーン。

「なら、これはどう⁉︎」

 頭上に掲げた剣を中心に集まった氷が、薄い円盤状になり回転を始める。

「アイスサークル‼︎」

 剣を振り下ろすと、氷の円盤が高速回転しながらアイバーンに向かって行く。

「あれは……いかんっ!」

 危険を察知したアイバーンが素早く氷の壁から横に飛び退く。
 氷の円盤は何の抵抗も無しに、アイバーンが作った氷の壁を切断して行く。

「フフッ、いい判断ね。あのまま壁の後ろに居たら、今頃上半身と下半身がサヨナラしてたわ」
「くっ! やはり奴の魔力の方が上か……」
「そういう事。それが分かったなら潔く降参なさい。そしてあたしの物になりなさい」
「断る‼︎」
「もう、照れ屋さんなんだからあ。なら、もう少し痛い目にあってもらうわよお。アイスジャム‼︎」

 ヘクトルの足元から、氷の塊が津波のように押し寄せて来る。

「パンだのジャムだのと、腹でも減っているのか⁉︎」
「? ジャムは言ったけど、パンなんて言ってないわよ?」
「言ったではないか。ブレッドと」

「ブレッドじゃないわよ! バレットよ! 弾丸よ弾丸。氷の弾丸よ!」
「そうか……それは失礼した」

 ヘクトルが突っ込みを入れていると、いつの間にか目の前に現れるアイバーン。

「いやんっ‼︎」

 ヘクトルの意表を突いて剣を振り下ろすアイバーンだったが、ギリギリの所でかわされてしまう。
 
「ふう、危なかったわ。また幻術ね? 足の裏から氷の柱を伸ばし、あたしのアイスジャムをかわして一気に間合いを詰めた訳ね。だけど、どうして遠距離魔法を撃って来なかったの?」
「うっ」

「アイスジャムをかわす術があったのなら、わざわざ接近して来なくてもその場で魔法を放てば、もっと早く攻撃できたでしょうに?」

 ヘクトルのもっともな疑問に、思わず目をそらすアイバーン。

「あなたまさか……遠距離魔法使えないの?」
「な、何をバカな⁉︎ 当然使えるさ! 使えないフリをして貴様を油断させる作戦に決まっているだろう!」
「ああ、ホントに使えないのね……もし使えるのならわざわざ相手にバラす筈無いもんね」
「うぐっ!」

「ウフッ、可愛い! そんな可愛いあなたともっと遊んでたかったけど、そろそろ時間切れみたいね」
「何だと……ぐっ!」

 いきなりめまいに襲われるアイバーン。

(な、何だ⁉︎ 貧血か⁉︎ いや確かに傷は負っているが、まだ出血多量になるほどでは……まさか⁉︎)

「気付いたかしら? そう、酸素欠乏症よ。あなたをこの氷の棺に閉じ込めたのは、あなたを逃がさない為と周りに邪魔されない為、そしてあなたから酸素を奪う為よ」

 立っていられなくなり、遂に片膝をついてしまうアイバーン。

「あたしが平気だったから気付かなかったでしょ? これはあたしが作り出した氷だもの、無論あたしはちゃんと外の空気を取り込めてるわ。でもあなたにはこの棺の中の酸素しか無かった。だから早く酸素を消費させる為にたくさん動いてもらったのよ」

(そうか……私とした事が。奴のキャラに動揺して、冷静な判断が出来なかったようだ……)

 大剣を地面に刺し、かろうじて倒れるのを堪えているアイバーン。

「もう意識を保っているのがやっとでしょ? 早く降参なさい! もうあなたに勝ち目は無いわ!」
「こ、断ると……言っ、た……」

「そう……ならばこのまま氷漬けにして、本国へ持ち帰ってあげるわ! フリージング‼︎」

 アイバーンを包み込むように、足元からアイバーンを固め始める氷。

「くっ!」

 ゆっくり振り上げた大剣を、力無く地面に突き刺し氷を砕こうとするアイバーン。

「哀れね……あなたも王国騎士団団長という立場なら、無駄な足掻きはしないで潔く死を受け入れなさい」

 だがヘクトルの言葉に反応せず、何やらぶつぶつと呟きながら大剣を地面に突き刺して行くアイバーン。

『空と海と大地から成る世界を凍てつかせ……』

「そう、最後まで足掻くつもりなのね。まあそれもいいでしょう」

『体と心と魂から成る存在を凍てつかせ……』

 氷を砕く程の威力は無いが、何度も何度も大剣を地面に刺し続けるアイバーン。

『過去と未来を紡ぐ時を凍てつかせよ……』

 アイバーンの体から流れ出た血が水蒸気のようになり、辺りの空気を紅く染めて行く。

「な、何⁉︎ 周りの空気が紅く色付いて行く?」

『極寒の世界にてその身を引き裂かれ……』

 ようやく状況の異常さに気付くヘクトル。

「な、何この凄まじい魔力は⁉︎ ま、まさか、あなたなの⁉︎」

『極寒の息吹きにてその心を引き裂かれ……』

 アイバーンの魔力の高まりは、外で戦っていたブレンとメルクも感じていた。

「この魔力の高まりは⁉︎」
「アイバーン様⁉︎ あの剣を何度も地面に刺す動き……まさか奥義を⁉︎」

『極寒の運命にてその魂を引き裂かれ……』

「さっきからぶつぶつ言ってるのはまさか、詠唱⁉︎」

『終には根の国で、ただ一輪の真紅の花となれ……』

「やめなさい‼︎ この凄まじい魔力、おそらくは奥義クラス。でもそんなボロボロの体でこれ程の魔力を放ったらあなた、間違いなく死ぬわよ⁉︎」

「わ、私ひとりの命で、フェイスカードの一角を崩せるのなら……や、安いもの、だ……」

「や、やめなさい‼︎ コキュートス‼︎」

 アイバーンの奥義に対抗する為、咄嗟に極大氷結魔法を無詠唱で発動しようとするヘクトル。

「よせっ‼︎ アイバーン‼︎」
「ダメです‼︎ アイバーン様ああ‼︎」


(アイ君‼︎)

 アイバーンの閉じたまぶたの裏に、泣き顔のユーキの姿が浮かんでいた。

(済まないユーキ君……また、君に怒られてしまうな……)


 そして、8度目の剣が地面に刺された時、アイバーンの最終最強奥義が発動する。


「クリムゾンロータス‼︎‼︎」


「ぐわああああああっ‼︎」


 アイバーンより解き放たれた氷は、ヘクトルの極大氷結魔法をいとも簡単に弾き返し、氷の棺すら簡単に突き破り、周囲に居たパラス兵もろともヘクトルを氷の中に閉じ込めてしまう。

 サーティーンナンバーズ、ナンバージャック、フェイスカードのヘクトル撃破。
 残るナンバーズはあと2人。

 そして、戦場とは思えない程静まり返ったその場所には、真紅に染まった巨大な蓮の花が咲いていた。






 
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