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終章 いつも楽しく面白く

第1話 ハンコを押すだけの、簡単なお仕事です

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 波乱の任命式から2日後。
 トゥマール城内にある執務室で、山の様に積まれた書類ひとつひとつに目を通し、ハンコを押して行くユーキ。

「まったく……何なんだ、この絵に描いたような書類の山は? こんなのはアニメの中だけの光景でしょ? リアルじゃありえないよ!」

 ブツブツ言いながら仕事をこなすユーキの側で、立ったままユーキの仕事ぶりをじっと見ていたアイバーンが口を開く。

「帝、口より手を動かしてください。こんなスピードでは、期間内に全て終わらせる事は出来ませんよ?」
「ぶう~っ! 大体何でこんな大量の書類に延々とハンコ押し続けなきゃいけないのさ!?」
「これも王の仕事だとお教えした筈ですが?」

「僕はそもそも王様になるなんて言ってな~い!」
「まだそんな事を……それは既に国民の総意で決まった筈ですよ?」
「あんなのイカサマじゃないか! ズルじゃないか! 詐欺じゃないか! トーナメントの結果がどう転んでも、結局僕が王様になるようにみんなで企んでたんじゃないか!」

「皆がそれを望んでいるのです! それに元々このトゥマール国はアイリス様が収めていたのです。ならば、そのアイリス様の魂を宿すあなたが王になるのは必然というものです!」
「ぐう~っ! そ、そもそもパラス軍との決戦が迫ってるっていうのに、こんな事してていいの!?」

「それも説明した筈です。パラス軍との決戦に決着が付くまでは、ロイ様が代理で統一王を務めますが、決戦が終わり、いざあなたが王の座についた時、すぐに仕事に馴染めるよう今の内に3日間の研修期間を設けて、その間に与えられたノルマをこなすと」
「説明的なセリフど~もっ!」

 皮肉っぽく言った後、再び仕事を再開するが、またすぐに愚痴り出すユーキ。

「せっかくゲーム機やソフトを大量にゲットしたのに! ほとんど遊ぶ時間無いじゃないか! こんなのがずっと続いたら地獄だよ!」
「研修期間はとりあえず、一通りの仕事を覚えていただく為に、かなり強引に仕事を詰め込んでいますが、実際に政務をする時はもっと時間に余裕がありますのでご心配なく」

「僕は今遊びたいんだ~!!」
「研修期間が終わるまではガマンしてください」
「ぶう~っ! アイ君がこんなに頭の固い人だなんて思わなかったよ!」
「今回の研修期間の間は、私が帝の管理を任されていますので」

「大体何さ!? そのみかどってのは!? あと、アイ君のその喋り方嫌い」
「あなたが女王と呼ばれる事を嫌った為、こういう呼び方をしているのですが、お気に召しませんか!?」
「ま、まあ、女王様って呼ばれるよりはいいけどさ」
「呼び方や喋り方についてはおいおい変えて行きましょう。今はご容赦を」
「むう~」

 不機嫌そうな顔でしばらく作業をしていたユーキだったが、再び手が止まる。

「暑い……汗かいた!」
「では私の冷気で室内を冷やしましょう」
「もういっぱい汗かいちゃったから、今冷やされたら風邪ひいちゃうよ!」
「ならばいかが致しましょうか?」

「着替える!」
「ではメイドを呼びますので少々お待ちを」
「いい! 服ぐらい自分1人で着替える!」
「ですが!?」
「もうっ! 早く着替えたいから出て行って!!」

 強引にアイバーンを部屋から追い出すユーキ。

「では、着替え終わりましたら、お声をかけてくださいね!!」
「うん!! 分かったから、絶対に覗いちゃダメだよ!?」
「そんな恐れ多い事はしませんよ!」

 アイバーンに念を押した後、扉を閉めたユーキがニヤリと笑う。

「フフフッ。さて、と……」

 入り口の扉の向かい側にある窓をそっと開けて外の様子を見た後、部屋の中にある物を物色するユーキ。

「フフッ。よし、この手で行こう」

 ユーキが何やら悪巧みをしている頃、部屋を追い出されたアイバーンがユーキに状況を確認する。

「帝! 着替えは終わりましたか!?」
「まだもうちょっと!」

 少し経って、再びユーキに声をかけるアイバーン。

「帝! 何か問題が起こったのなら仰ってくださいね!?」
「うん! 大丈夫だから、もうちょっと待って!」

 少し経っても一向に終わる気配が無い為、また声をかけるアイバーン。

「帝! 本当に大丈夫なんですか!?」

 しかし、今度はユーキからの返事は無かった。

「帝!?」

 またしても返事は無かったが、その直後何かが水に落ちたような大きな音が部屋の方から聞こえて来た。

「帝!? どうされましたか!? 帝!?」

 不審に思ったアイバーンがドアノブに手をかける。

「失礼!!」

 一応断ってから部屋の中に入るアイバーン。
 しかし、そこにユーキの姿は無かった。
 そしてすぐに、正面の窓が開いている事に気付く。

「帝!!」

 開いた窓から身を乗り出し下を見ると、窓から10メートル程下にある堀の水面に、波紋が広がっていた。

「ま、まさかユーキ君! この高さから飛び込んだというのか!?」

 一瞬思考を巡らせたアイバーンがすぐに部屋を出て、周りの者に大声で呼びかける。

「ユーキ君が逃亡した~!! 非常線を張るんだ!!」

 アイバーンの呼びかけに、近くで待機していたメルクとブレンがすぐに駆け付けて来る。

「アイバーン様! ユーキさん、逃げたんですか!?」
「ああ、すまない。油断した」
「お前らしくない失態だな!? アイバーン!」
「今は返す言葉が無い。うかつに魔法は使えないだろうから、おそらくは窓から下の堀に飛び込んだものと思われる。兵を集めて、至急堀の周りを捜索してくれ!」
「分かりました!」
「おう! 任せろ!」

 メルク、ブレンに続き、アイバーンも走り去って行った。

「非常線て……僕は犯罪者か。でも、フフフ。まんまと引っかかったね」

 誰も居なくなった部屋の片隅で、何も無い所からすうっと姿を現わすユーキ。

「残念でした~。魔装具が無くても、初歩的な魔法ぐらいなら使えるんだもんね~」

 部屋の出入り口に向かいながら、自ら種明かしをするユーキ。

「部屋に居るはずの人が居なくて、窓が開いてて水音がして下の水面が揺れてたら、そりゃ飛び込んだって思うよね? でも残念。飛び込んだのは部屋にあったオブジェでした~」

 部屋の入り口からそっと顔を出し、辺りに人が居ない事を確認したユーキが、部屋から出て来る。

「単純なトリックだけど、時には単純なトリックの方がアッサリ引っかかったりするんだよね」

 上手く部屋からの脱出に成功したユーキだったが、その肩を誰かの手が掴む。

「どこへ行こうというのかね? ユーキ君」
「キャアアアアアアアア!!!!」

 城に、ユーキの乙女な悲鳴が響き渡った。





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