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第五章 五国統一

第13話 耳がいい人は歌も上手いはず

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「見た目だけで、安易に人を判断するなと言っている! 見た目など、幻術でいくらでも偽装出来るんだからな!」
「ああ、なるほど~」
「大体お前達は、相手との力量差も分からないのかっ!? まあ、マナちゃんと結婚したいという気持ちは、痛い程に分かるがな!!」

(ん!? あのマスクマン、今マナって言った? それにさっきのプロレス技……まさか、正体って……)

「ああっとぉ!? エル・マーナ選手、何やら他の選手に説教を始めたぞー!?」


「ふうっ、やっと辿り着けましたね~、マナちゃんの試合に間に合わないかと思いましたよ~」
「レナさん!?」

 パティ達の居る特別席にやって来たのは、ユーキの母親のレナであった。

「レナ様、お一人なんですか? マルス様は?」
「え!? メル君、それ本気で言ってるの!?」
「え!? どういう意味ですか? パティさん」
「ま、まあいいわ……見てれば分かるわよ」
「はあ……」


 依然、説教を続けているエル・マーナ。

「本来ならば、正々堂々1対1で戦うのが男というものだが、今回のような場合は……」
「ねえ!」

 しびれを切らしたユーキが口を挟む。

「む!? 何だね? 少女よ」
「いつまでも何やってるの? 父様!」
「んなっ!? な、ななななな!! 何を言っているのかね? 少女よ! 私は君の父などではない! 私は愛のマスクマン、エル・マーナだ!!」


「マナちゃ~ん!! 頑張って~!! あなた~!! あんまりマナちゃんをイジメたらダメですよ~!!」
「客席に居る僕の母様が、あんたの事あなたって呼んでるんだけど?」
「ち、違う!! あれは私にではない!! 彼等の中の誰かに言ったのだ!!」

「ああ!? あんなオバハン知らねーぞ!? 凄く綺麗な人だけど……」
「年増には興味ねーし! 凄く綺麗な人だけど……」
「人妻はちょっとなー! 凄く綺麗な人だけど……」

「む!? 君等! 僕の母様の事を悪く言ったらゆるさ……」
「貴様等ーっ!!」

 ユーキが文句を言い終わる前に、既にエル・マーナが暴言を吐いた男の1人にドロップキックを炸裂させていた。

「ぐはあっ!!」

 そのまま場外に弾き飛ばされる男。

「散々好き勝手言いおってー!!」
「ち、ちょっと待てよおっさ……がはあっ!!」
「貴様等にレナの何が分かるー!!」
「おい! 俺達は味方じゃなかっ……ぐあっ!!」
「少々天然な所もあるが、とても可愛くて優しくて常にポジティブで!!」
「お、落ち着けっておっさん!! 相手がち……があっう!!」
「私には勿体無い程の、素晴らしい女性だあああ!!」
「ごめんなさ~い!!」

 ようやく動きを止めたエル・マーナにユーキが声をかける。

「フフ、数を減らしてくれてありがとう父様! 助かったよ」
「何!? 何を言って……」

 エル・マーナが辺りを見回すと、自分とユーキ以外誰も舞台に残っていない事に気付く。

「ああっと凄まじい!! エル・マーナ選手、怒涛の攻撃で次々に他の選手を場外へ叩き落としたー!! これで今舞台に残っているのは、謎のマスクマン、エル・マーナ選手とー! 超絶美少女魔法使い、ユーキちゃんの2人だけとなったー!!」

「がああっ、しまったあああ! あいつ等を巧みに操ってマナちゃんを絡め取る作戦が、怒りに我を忘れたあああ!!」

 頭を抱えて激しく後悔するエル・マーナだったが、スッと真顔になり。

「フッ! やはり勝負というのは、正々堂々1対1じゃないとな!」
「いや、今思いっきり後悔してたよねー!?」
「私は後悔などしないっ!!」

 開き直り、ユーキに向かって走って行くエル・マーナ。

「あんな無防備で突っ込んで行ったらいい的よ」
「いいえ~、マナちゃんは魔法は撃てませんよ~」
「え!? どういうこと? レナさん」

 レナの指摘した通り、魔法を放つ事なくガッシリ両手で組み合うユーキ。

「本当に撃たなかった!? 何で?」
「それはあの人の魔装具にあるんです~」
「魔装具? でもマルスさんは魔装具は具現化してないんじゃ?」

「マルス……? ええ!? あのマスクマンってマルス様なんですかー!?」
「え!? メル君、今頃?」
「だって……え!? みなさん分かってたんですか?」
「当たり前でしょ!?」
「名前の時点で気付くだろう!」
「名前って……エル・マーナ……マーナ……マナ!?」

「そういう事ですぅ、マーナはマナちゃん。エルはおそらく、LOVEの頭のエルから取ったんでしょぉ」
「そうか……つまりは、愛するマナって事だったんですね!? ネムちゃん達も気付いてたんですか?」

「も、勿論だよ」
「す、すぐ分かったのです! 直感ロロなのです!」
「そっかー、分かってなかったの僕だけだったんですね……」

 実はネム&ロロも気付いてなかったが、あえて口にしないのだった。

「ああもう! メル君のせいですっかり話が逸れちゃったけど、マルスさんの魔装具って?」
「あの人の魔装具はナックルタイプ。だからとっくに展開して両腕に装着しています~」
「だけど、だからって何でユーキが魔法を撃てない事に……まさか!?」

「気付きましたか~? そう、あの人の魔装具は特注品で、魔法を弾く特殊な術式が組み込まれているんです~。もっとも~、術式を展開している間は装着者自身も魔法が使えないから、必然的に格闘戦になるんですけどね~」
「そっか、魔装具の事は当然ユーキも知ってるから、それで魔法を撃たなかったのね……」

「あ、でも! ユーキさんには例のエターナルマジックがあるんですから、魔装具で覆われていない部分に直接触れれば、魔力を吸収してマルス様の力を弱らせる事が出来るんじゃ?」
「そうなんですよ~、それでいつも私達はマナちゃんに負けるんです~」
「だったらもう、勝負は見えてるじゃないですか!?」

「いや! 今大会でユーキ君がエターナルマジックで魔力吸収をする事は無い!」
「え!? どういうことよ? アイ君」
「私がユーキ君に使用を控えるように言ったからだ」
「んなっ!? 何であんたはそんな余計な事言うのよ~!!」

 アイバーンの両頬を、思いっきり左右に引っ張るパティ。

「ふぁ、ふぁあほぉひふひぃふぁふぁへ、はひぃふん(ま、まあ落ち着きたまえ、パティ君)」
「落ち着いてられないわよ!! それでもしユーキが大怪我でもしちゃったらどうすんのよ!?」

「ふぃ、ひんひはほひっへほ、はひへひほふへふふえへはほふほひゅーひゅーひゅふほほおひんひははへは(き、禁じたと言っても、相手に直接触れて魔力を吸収する事を禁じただけだ)」
「じゃあ、相手が撃った魔法を吸収する事は出来るって事?」

 ようやくアイバーンの頬から手を離すパティ。

「そういうことだ! いくらユーキ君の生まれ持った特殊能力とはいえ、魔力吸収は邪法として忌み嫌う者も多い。それをこんな公の場で、しかも王族であるユーキ君が使えば、いくらユーキ君が王になったとしても快く思わない者も出て来るだろう」
「フンッ! そもそもそれを嫌う連中なんて自分達の能力が低いから、単に妬みで言ってるだけじゃないのよ!」
「だとしてもだ!」


「いつも不思議なんですが……」
「どうしましたぁ? メルちゃん」
「パティさんって、よくアイバーン様の言ってる事が分かるなーって……僕にはふあふあ言ってるだけにしか聞こえないのに……」
「ああ~、仮にもパティちゃんは風の魔道士ですからねぇ、わずかな音の違いでも聞き分けられるんじゃないですかぁ?」
「ああそっか! だからベルクルの時もパティさんは、大歓声の中でもアイバーン様の悪口を聞き分けられたんですね!?」


 謎が解けてスッキリしたメルクであった。


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