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第四章 某国の姫君

第1話 姫様だ~れ!?

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 フルトの街に到着したユーキ達。
 そして宿屋の前に来た馬車。

「荷物を降ろすのは私とメルクに任せて、皆は街を歩いて来るといい」
「2人で大丈夫? 手伝おうか?」

 アイバーン達を心配して声をかけるユーキ。

「大丈夫だ、問題無い! 力仕事は男に任せたまえ!」
「そう言われると、僕は微妙な立場にあるんだけども……」
「アイ君が任せろって言ってるんだから、任せてあたし達は買い出しに行きましょ!」
「そうですぅ! 私達は食料の買い出しに行くのですぅ!」
「あれだけ買い込んだのに、結構ギリギリだったもんね。誰かさんのせいで」

「ロロちゃん、言われてますよぉ」
「はうぁ!! そうでしたか!? ごめんなさいなのです!!」
「いや、明らかにセラのせいだけどねっ!!」
「セラ姉様、ずっと食べてた……」



 そんなたわいない会話をしながら街を歩いていると。

「姫様!!」

 ユーキ達の前に現れた白髪の老人が、ユーキ達に向かっていきなり声を荒げる。

「え? 姫、様?」
 パティがネムを見る。

「そんな名前の人、居た?」
 ロロを見るネム。

「ロロの記憶には無いのです」
 セラを見るロロ。

「誰の事ですかぁ?」
 全員がユーキを見る。


「へ? 僕? ……んんんんんん!!」
 ブンブンと激しく首を横に振るユーキ。



「セラ様!!」

 老人が正解を口に出す。


「セラああああ!?」
「え!? じゃあセラがお姫様ってこと?」
「セラ姉様、セラ姫様?」
「セラさんは王女様なのですか?」

「ええー! そうなんですかぁ!?」
「いや、自分の事だろ!?」


「探しましたぞ姫様! さあ、国に帰りましょう!」
「イヤですぅ! 帰りませんん!」
「お供も付けずにいきなり旅に出られて……国王様がどれ程心配なされたか!」
「ちゃんと手紙は置いて来ましたぁ!」
「子供ですかっ!?」
「子供ですぅ!」
「ワガママを仰らずに! レノ様も近くまでいらっしゃってるんですぞ!?」
「レノが!?」


 すっかり蚊帳の外のユーキ達。

「何かもめてるね?」
「まあ、元々胡散臭い娘ではあったけど……とは言え、あたし達を無視して話を進められるのは、腹が立つわね」

 蚊帳の外にされている事に腹を立てたパティが老人に文句を言う。

「ちょっとあんた!! セラがどこの誰だろうと別にいいけど、あたし達を無視するんじゃ無いわよ!!」
「ハッ! これは大変失礼いたしました。私はフレイル家に仕えさせていただいてます、執事のバートラーと申しま……!?」

 自己紹介をしていたバートラーが、ユーキを見て言葉を詰まらせる。

「ま、まさか……マナ王女様……?」
「バートラー!!」

 慌てた様にバートラーの口を塞ぎ、離れた場所に連れ出すセラ。

「今あの人、僕を見てマナ王女って言った!?」
「確かにマナ王女って言ったわね」
「ユーキ姉様もお姫様?」
「い、いや、僕自身自分が何者なのかよく分かってないから」

「さっきのセラの様子を見た感じだと、セラはユーキの事を知っている風だったけど……」
「あっ! そういえば前にセラが、一度僕をマナちゃんって呼んだ事があったんだ……その時はいつものセラのボケなんだと思って、特に気にはかけなかったけど」
「マナ……それがユーキの本当の名前って事? 何にしても、後でセラを締め上げれば分かる事だわ」


 離れた所で執事と話がついた感じのセラ。

「では、お待ち申し上げておりますぞ、姫様!」
「分かったわ……」
「決して逃げない様に!」
「逃げないわよ!」

 ユーキ達の方に向き直り、あいさつするバートラー。

「皆様、私は一旦失礼いたします! セラ様の事、よろしくお願い致します」

 そう言って深々と頭を下げてから去って行くバートラー。


「まったくぅ……」

 セラの背後に忍び寄るパティ達。

「ハッ!! 殺気!?」

 飛びかかるパティとユーキをサッとかわして逃げようとするセラ。
 セラにかわされて倒れ込んだパティがロロに叫ぶ。

「ロロ! 捕まえて!!」
「ハ、ハイなのです!」

「セラさん、失礼するのです!」

 逃げるセラに飛びつき、力ずくで押さえ込むロロ。

「ムギュウ!! 痛いですぅ! ズルイですぅ! ロロちゃんは相性悪いのですぅ!!」
「フフ、観念しなさいセラ! あなたは魔法攻撃には強いけど、ロロみたいに力任せの相手には弱いって事は分かってるのよ!」

「私が何したって言うんですかぁ!!」
「じゃあ何で逃げようとしたのよ!?」
「パティちゃん達の殺気を感じたから、反射的に逃げただけですぅ!!」
「ふーん、そう……ならそれは信じてあげるから、あなたの事、そしてマナって言う名前について、あなたの知ってる事を全部話してもらおうかしら?」

「……分かりました……全部話しますから……」
「今度逃げたら痛い目に合うからね! ロロ! 離してあげて!」
「ハイなのです」

 セラを解放するロロ。

「あぁ、でもこんな所では何なんでぇ、宿屋に帰ってからアイちゃん達も交えて、みんなに話しますぅ」
「うーん、まあそれもそうね……その方が後でまた説明する手間が省けるわ」




 宿屋に戻って来たユーキ達。
 アイバーンとメルクも交えて、セラが事情を説明する。

「実は私はぁ、ヘルート大陸の西方にあるヴェルン国の王女なんですぅ」
「ヘルート大陸……アビス神が収める大陸ね」
「アビスって?」

 聞きなれない名前に、パティに質問するユーキ。

「アビス神っていうのは、この世界を作ったとされる三大神の1人で、戦いと死を司る神の事よ」
「えと……三大神ってのは?」
「後の2人は、今あたし達が居るこのフィルス大陸を収める、魔法と生命を司る女神イース様と、あたしの産まれたノインツ大陸を収める、娯楽を司る女神テト様よ」

「アビスとイースとテト、か……」
「そうよ、で、あたしは一応テト教の信者よ」
「ああ! だからワイバーン戦の時に詠唱で女神テトの名においてって言ってたんだ!?」
「そういう事」

「でもテトって、娯楽を司る女神? 他の2人は戦いとか魔法なのに?」
「そ、そうよ……それがどうかしたの?」


「何かショボイ……」
「あ、あ、あたしだって少しは思ってたけど、そんなハッキリ言わないでよねっ!」


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