上 下
30 / 39

救出

しおりを挟む
 ダンジョン内において思念の輪での感知精度がいくぶん下がるようでハッキリと映像化出来ないうえに、範囲はその階のみで下階まで調べる事が出来ないようだ。調べるが、さすがに地下1階にドワーフの気配は感じられない。

魔物も出てこないし地下2階からが本番なようだ。
地下2階に降りても暫くは襲われる事はなかったが気配は有る。近くに潜んでいるのは間違いない。少し前に有る大きな岩の陰あたりか?

通り過ぎようとした時、襲って来たのは岩自身だった。なるほど、これがバイターワームって奴だ。

むかし見た子供向けアニメに出てくるモンスターで、岩タイプみたいな奴。

念動力スキルを使いアダマンタイトの撒菱で頭部を砕いて行くと、直ぐに動かなくなった。時間にして1分ぐらいだろうか、黒い霧となって消えた。この辺は他のダンジョンと変わらない。

アイテムはドロップしなかった。俺の運も大した事はないらしい。

地下5階まで行くが、出て来る魔物の種類はあまり変わらない。地中から出てくるケイブワームが加わり頭数が増えるだけでアイテムは1つも無し。どうやらハズレの日の様だ。

地下6階、思念の輪を広げる。奥の方で4っの何かが動いている、魔物の動きではないように思えるので行ってみる事にした。

気配がするのはこの奥だが道は無い。目の前には岩壁があるだけなのだが……隠し部屋か?岩壁を触ると手がすり抜けてつんのめる。

ホログラムか?手を出し入れして確認するが本物の壁ではない。映像だけだ、魔道具を使っているのだろうな、どう考えても人為的だ。

中を進んで行く。岩肌を見ると最近新しく掘った感じだ。気配が濃くなり人影が見えて来た。

「そこで何をしている?」

俺の声にギョッとしてふり向いたのは4人のドワーフだ。

「あんた誰だ。なぜ判った?」

「鍛冶屋のオコライの弟、ドコライに頼まれて行方不明のドワーフを探しに来た者だ」

「オコライ……そうか心配してくれたのだな」

「というとあんた達だな。8人と聞いているが他の者は?」

「……」「人質になってる」
「どういう事だ?」

「俺達は騙されたんだ」

「カオリナイトのたくさん有る場所を知ってると言うので、ついて行ったらこのザマだ。べらぼうに強い奴で言う事を聞くしかなかった」

「4人ずつ交代で掘らされているのさ」
「なんの為に?」

「何やら隕石とか言う石を探しているらしい」

「隕石だと?……やっぱりか、話が読めた。そいつ吸血鬼だ」

「はっ?吸血鬼」
「そうだ。よし、仲間を助けに行くぞ」

「助けに行くったって、俺らじゃ歯が立たないし仲間が心配だ」

「大丈夫、任せろ。戻る時にこっそり一緒に行く」
「奴は勘が鋭いんだ、直ぐにバレるぜ」

「まあ、見てろ」

認識阻害ステルスを使い透明の指輪をはめる。

「き、消えた」「気配が全く無い」
『どうだ?』

「恐れ入ったぜ、ドコライの奴は凄い男をよこしたようだな」


ーーーー

いつもの時間にドワーフ達は作業を終え、男のいるアジトへ向かう。

ダンジョンを出て北側に回り込んだ洞穴がそうらしい。目的地に着くとドワーフ達は躊躇せずに何もない岩壁に入って行く。

これもホログラムか。便利だな、この魔導具は後でもらっていこう。

「戻って来ましたか。収穫はどうです?」
「駄目だ、本当にあの辺なのか?」

「間違い有りません。お館様が言うのですから、本当はダンジョンコアになった隕石が欲しい所ですが、さすがにそうは行きません。割れてしまった小さい方を探して回収せよとの仰せですもの」

「よく解らねえが、皆は無事だろうな?」
「約束は守りますよ、隣で食事してます」
「そうか」

ダンジョンコアになったのか?そういう事もあるのだな。面白い。

「ここの隕石を持って帰れば、お館様の覚えもよく出世できますものね。楽しみ」

『君はここで死ぬから、それは無理だな。済まん』
「だ、誰よ!」
『隕石は俺が貰って行く』
「何を言ってんの?げふっ……」

「凄えな、一突きかよ」
「助かった」「早くレッツラ達を出してやれ」

「「おうよ」」


ーー

「消えちまったあのオカマ野郎は吸血鬼なんだってな?」

「そういう話だ」
「そこら中で暗躍してるんだと」
「ほうほう」


「兄さん本当に助かったぜ、カオリナイトの事は任せてくんな」

「ありがとう。それと1つ頼みが有るんだが?」

「なんだい?言ってみな、出来る限りの事はするぜ」

「隕石を探して欲しい。吸血鬼の手に渡っては不味いんだ。もちろん手当は払う」

「どうだ皆は?」
「俺はやるぜ」「俺もやる吸血鬼は許せねぇ」
「その通りだ」「異議なし」

「だとよ」
「ありがとう、助かる」

ーー

ドワーフ達と宿に戻る。

「おや、あんたら生きてたのかい?」
「勝手に殺すんじゃねえよ」


翌日からドワーフ達はオカマの吸血鬼に指示された所を掘りに出かけてくれた。


俺はというとナンシーに魔法を教えている。男と女だ、肌を合わせて一緒に過ごせば情も移る。

「何でこんなによくしてくれるの?」
「ナンシーの才能がもったいないから」

「私に才能なんてあるの?」

「そうさ。ナンシーには諜報、幻視のスキルがあって、魔法属性は光属性だ。スキル教本と魔法書をやるから、人に利用され死にたくなかったら、死ぬ気で覚えて物にしろ」

「……分かった、ありがとう」


ーーーー

ドワーフ達を救出して4日が過ぎた時に、隕石は見つかった。

「あったぜクロス、これだろ?」

コンサバは3cm位の三角錐の石を出した。

「ああ、間違いない」

「吸血鬼の野郎が言うだけの事は有る。確かに何かを感じるぜ」

「本体はダンジョンコアになった位だからな」
「ふぅ~、次はカオリナイトだな」

「そうですね」


カオリナイトの鉱脈は西のダンジョンの地下9階に発見することが出来た。ミスリルなどのドロップアイテムは手に入らなかったが、比較的浅い階層で見つかったので、こっちの方はついていた。

カオリナイトの鉱石は翠色で微かに粘土の様な匂いがする。これをある方法で加工すると、ラゴナイラの嫌う匂いになるらしい。


「世話になったな」
「こちらこそ」
「またな」
「はい」


思わぬ展開になったが、今回の依頼も無事に終了した。魔法書を読み、疲れて眠ってしまったナンシーに別れを告げて俺は宿を後にする。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

実はスライムって最強なんだよ?初期ステータスが低すぎてレベルアップが出来ないだけ…

小桃
ファンタジー
 商業高校へ通う女子高校生一条 遥は通学時に仔犬が車に轢かれそうになった所を助けようとして車に轢かれ死亡する。この行動に獣の神は心を打たれ、彼女を転生させようとする。遥は獣の神より転生を打診され5つの希望を叶えると言われたので、希望を伝える。 1.最強になれる種族 2.無限収納 3.変幻自在 4.並列思考 5.スキルコピー  5つの希望を叶えられ遥は新たな世界へ転生する、その姿はスライムだった…最強になる種族で転生したはずなのにスライムに…遥はスライムとしてどう生きていくのか?スライムに転生した少女の物語が始まるのであった。

異世界で神様に農園を任されました! 野菜に果物を育てて動物飼って気ままにスローライフで世界を救います。

彩世幻夜
恋愛
 エルフの様な超絶美形の神様アグリが管理する異世界、その神界に迷い人として異世界転移してしまった、OLユリ。  壊れかけの世界で、何も無い神界で農園を作って欲しいとお願いされ、野菜に果物を育てて料理に励む。  もふもふ達を飼い、ノアの箱舟の様に神様に保護されたアグリの世界の住人たちと恋愛したり友情を育みながら、スローライフを楽しむ。  これはそんな平穏(……?)な日常の物語。  2021/02/27 完結

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

異世界でネットショッピングをして商いをしました。

ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。 それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。 これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ) よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m hotランキング23位(18日11時時点) 本当にありがとうございます 誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

ドラゴンなのに飛べません!〜しかし他のドラゴンの500倍の強さ♪規格外ですが、愛されてます♪〜

藤*鳳
ファンタジー
 人間としての寿命を終えて、生まれ変わった先が...。 なんと異世界で、しかもドラゴンの子供だった。 しかしドラゴンの中でも小柄で、翼も小さいため空を飛ぶことができない。 しかも断片的にだが、前世の記憶もあったのだ。 人としての人生を終えて、次はドラゴンの子供として生まれた主人公。 色んなハンデを持ちつつも、今度はどんな人生を送る事ができるのでしょうか?

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

処理中です...