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静かな侵略

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 ミルクの従魔登録が終わった翌日に宿を出る。
ボルテックスタイガーの子はミラ達全員で協議の上、色が白くふわふわなのでミルクと名付けたそうだ。

防壁の門を出る前に衛兵の詰所で馬車を止められた。

「何かな?」
「申し訳御座いません」
「すまない、私が頼んだのだ」

マリーナ女史か。

「貴方に一言、御礼が言いたくて待っていたのだ」

「依頼料はたっぷりと貰ったんだ。気にしないでくれ」

「そういう事ではなくてだな……いや、本当に感謝する」

「解った」

「父も貴方に会いたがっていたのだが、残念だ。また来る時があったら連絡して欲しい」

「う~ん、俺の本業は何でも屋だ。そういう堅苦しいのは遠慮したいが」

「そんな事を言わないでくれ、父は話の分かる男だ。嫌な思いはさせない」

「解った、またな」
「うん、絶対だぞ」



「さあ出発だ。何だかんだで3週間は経ったからな」

「仕事がおしよせて来そうで怖いです」
「ホント」

「クロス様、あの兵士達は何処に行くのでしょう?」

「グリフォンの爪の残党の捜索だそうだ。タックズは捕まえたが、女だが奴の片腕で切れ者のリーシアという奴はまだ見つかってないらしい」

「早く捕まるといいですね」
「そうだな」


帰りの2日間は何事もなく過ぎていった。ミルクを誰が抱っこするかで揉めたくらい、本当に何も無かった。

ーーーー

「帰って来ましたね」
「家に戻る前に伯爵の所に寄って行く」
「解りました」


ーー

「ようやく戻って来たか。なるほど、皆の顔つきが以前とは違うようだな」

「はい。皆、頑張りましたよ。連絡は無かったので、ゆっくり出来ました。何も問題は無いのですね?」

「うむ、気味の悪い位だ」
「そうですか。では何か有ったら店の方に」

「解った。これからも頼む」


「見る人が見れば私達が強いの判るのね」
「そうですよ、バッチリよ」
「皆、調子に乗らないでください」
「は~い」

「ちょっと用を思い出した。お前達は先に帰っていてくれ」

「遅くなるのですか?」
「いや、夕食までには戻る」
「解りました」


確かこの辺りだったはず。
有った〚夜の営みコンサルタント〛間違いない。入ってみるか。

「いらっしゃい」

この間、兄ちゃんが腕を組んで歩いていた女だ。

「変わった看板が気になってね。なんの店だい?」

「あ~、そういう事ね」
「お客さんかい?」
「いいや、なんの店か聞きに来たのさ」

おっ、兄ちゃんのお出ましだ。

「簡単に言うとだな、若いカップルの性のお悩み相談、熟年夫婦はマンネリ解消で、女は俺が男はこいつが技を伝授してるのさ」

凄い事を考えたね。

「2人は兄妹?」
「いいや夫婦だよ」

「あっ、そう」2度びっくり。ん、まてよ……この2人が付けてるペンダントって……隕石じゃないか?

「どうした?これが気になるか?」
「いいペンダントだね」

「まあな、先祖代々受け継がれる物だからな」
「そうか。ここが地元かい?」

「いいやレンブロイ王国の生まれだ」

なるほど。レンブロイね……このペンダントのお陰で2人は生命エネルギーが溢れているのか。

「ありがとう。謎が解けたよ」
「技が知りたくなったら来てくれよ」
「ああ、そうする」


しかし、おそれいった。……まてよ、隕石を持っているって事は2人も吸血鬼に狙われるって事だ。

まあ、あの2人なら大丈夫だろう。


ーーーー

街の連中やお得意様が俺達が戻って来たのを知って、翌日から大忙しだ。

国から強奪した怪しい金は腐るほど有るが、働かない訳にはいかない。ドブさらい、ペットの散歩、錬金術師に頼まれ体力回復のハイポーションに必要な薬草ウイルパの採取と、皆は出かけて行って店には俺が一人だ。

茶菓子を食べながらボケっとしていると店の扉が開いて泣きそうな顔の女の子が入って来た。

「どうした?」
「ガブちゃんが居なくなったの」
「ガブちゃんて何?」

「七色カメのガブちゃん」
カメか。
「君のお家はどこ?」
「パン屋さんの隣り」

あそこか。思念の輪を広げ、子の家を中心にして捜して行く。

あの兄ちゃん、今日も元気に励んでいる。本当に仕事なのか?羨ましいがある意味重労働で大変そうだ。

ん、……なにっ、一体俺達の居ないこの1ヶ月で何が起こった?……そうかなるほど、いい手だ。SF小説をお手本にした感じだ。おっと、感心している場合ではない。直ぐにガブちゃんを見つけねば。

ガブちゃんを見つけた。宿の植木鉢のところで甲羅干しをしている。

「見つけたよ。お家に連れて行ってあげるから帰って待ってなさい」

「うん」


まずはカメを拾って、伯爵の所に急いで行かなくては。

「約束はしていないが伯爵に至急お会いしたい」
「暫し待たれよ」

顔馴染になった門番は便宜をはかってくれる。後で獣王国の土産でもあげるとするか。



ーー

「何だと!街が吸血鬼だらけだと」

「重要な地位の人物だったら、入れ替われば良いし、他は吸血鬼にしてそのまま下僕として使って1人前に育てるのでしょう」

「くっ、どうしてくれよう」

「私達が狩りましょうか?大量失踪で大騒ぎになると思いますが」

「…………やむを得えん。頼めるか?」
「はい、引き受けました」


俺は見れば吸血鬼だと判断出来るが、ミラ達には無理だ。さてどうするかな。何かいい方法は……。


ーー

「「「ええ~っ!」」」

「「「街の人達が吸血鬼に入れ替わってるし、吸血鬼になちゃってるの?」」」

「それで吸血鬼狩りを行う」

「しかし、私達では見分けがつきません」

「ふっ、ふっ、ふっ。そこでこれだ、造っておいたぞ」

「これは?」
「吸血鬼識別ゴーグル」

吸血鬼の正体を見るのに1番簡単なのは鏡だ。しかし鏡を当てて映して見るなどとやってはいられない。

そこで子供の頃に流行った面白グッズを思い出した。寝ながらテレビを見れる眼鏡だ。

これがヒントになり、プリズムを使ったカメラの仕組みを再現して造った物だ。

1度鏡に映った物を見る事になるので、誰でも判別出来る。魔石により鏡を通さずに見る切替スイッチも付けて有るので簡単だ。補助魔法のシャドウビジョンを使えば暗闇でも問題ない。

「よく解らないけど凄いです」
「まあ、難しく考えるな。今夜から早速やるぞ」

「「「「「「はい」」」」」」


さあ、楽しいショータイムの始まりだ。首を洗って待っていろよ吸血鬼ども。
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