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獣王国

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 ミウガル獣王国の国境までの街道はバランシア王国との交易が盛んなので、商業用にも多く使われている。道幅は広く馬車5台分くらいはある。商人、冒険者と人通りも多い為、魔物や盗賊は滅多に出ない。

「いい天気ですね」
「ホント」

「のんびりした気持ちになりますね」
「仕事での移動じゃないからな」

周りにおかしな連中はいないし、確かにポカポカして気が抜ける。

ダンジョン街のグァバンまで村や街はない。ちょうど1日目の夕方くらいの所が草原になっていて、木々が所々に育っている。元の世界のサバンナのイメージが近い。ここで野営するのが一般的だそうだ。

商人や冒険者達は、思い思いの所で野営の準備をする。

俺の時の空間に入れば安全なのだが、他の者達の目があるので俺達も準備に取り掛かる。

「クロス様、これはどうやって作るのですか?」
「見てろ。こうするんだ」

作っておいた木棒とジョイント用の金具、ロープを使い組み立る。元の世界での知識をいかし、ビックブルの皮を鞣して作った大型テント。中に入ってしまえば時の空間に入ってもバレないのでとても良い。

「うわ~、広いです」
「宿の部屋の2つ分はありますね」

なかなか評判はいいようだ。

ミラがテキパキと火をおこし食事の準備を始める。ジーナが目をキラキラしながら手伝いを始めた。

ザラステン王国の王都から脱出の時は、こんな事をする余裕は無かったからキャンプ気分で楽しいのだろう。

暫くすると肉の焼けるいい匂いがしてきた。さっき渡したミノタウロスのぶ厚い切り身がこんがりと焼き上がったらしい。

ロック鳥の胸肉を野菜と一緒に煮込んだスープに、元の世界のサバイバル番組でやっていた小麦粉を、こねて小さく丸めたニセの米が入っている。ジーナが一生懸命作ってくれた物だ。有り難い。

「美味しいです」「たまりません」

その通り。いつ食べてもミノタウロスの肉は美味い。酒を飲みたい所だが我慢しておく。

夜の見張りはニセのお米を作ってくれたお礼に、俺が引き受ける事にした。皆は時の空間の中で風呂に入り、ベッドで就寝。何も無い静かな夜が過ぎて行く。

翌日は早めに残りのスープとパンで軽く朝を済まし出発。問題なく国境を越えダンジョン街グァバンの門が閉まる前に着く事が出来た。

俺は獣人とは接点が無い。猫族のジーナは見ていたが、さすが獣王国だ。色々な種族がいる。虎族の女性は均整の取れた健康美でワイルドでセクシーだ。しかし同じ猫科だけど猫好きの俺としては猫族のもふもふが良い。

「クロス様?」
「ん?」

いかん。猫族の女性に見惚れていたらしい。

「マリ、ジーナは何でザラステン王国にいたんだ?」

「今の獣王国は初代国王が各地に少数でまとまって生活していた獣人族が魔物や他の種族に襲われ迫害を受けていたのを悲しみ、この地に獣人だけで安全な国を創ると決め、小さいながらも成し遂げ歴代の王が苦労をしながら大きく発展させたのです」

「成る程」

「なので各方面から獣人達が続々と集まって来ますが、まだまだ小さい村がたくさん有って盗賊達などによって奴隷にされたりしています」

盗賊の俺は他の国の事など、考えた事も無かった。それにしてもマリは色んな事をよく知っている。

「ジーナは廃屋でうずくまっているのを私が見つけて連れて来たのです」

「そうか。ジーナ、あるいわ両親は逃げて来たとか誰かに連れて来られたということか。では獣人は人族を良く思ってないのだろう?」

「そうですね。積極的に付き合いたいとは思っていないでしょう。ですが今の国王は獣人の奴隷を開放するため交易をして金を稼ぐ事にしました」

「そうか、その金で身請けをするのか。どうりで奴隷商がたくさんいると思った。獣人の奴隷を売りに来たと言う訳か」

「ですので国王に対する信頼と人気は絶対です」

なかなかの人物のようだな。

「クロスさん、この宿が3部屋空いているそうです」

「解った決めよう」

夜の食事は宿の1階にある食堂ですることにした。注文を取りに来たキツネの尻尾がカワイイ女の子に聞いたオススメ料理を注文する。

「ちょっと失礼する」

後から声がかかった。振り返ると虎族の女性が立っている。これまた色っぽい。耳の後ろの細かい毛を触ったら、さぞ気持ちいい事だろう。

「何か?」
「その子は?」
「俺の仲間だが」
「奴隷ではないのだな?」
「違う。仲間と言ったろう」

虎族の女性はジーナをジロジロ見ている。奴隷紋を探しているのだろう。

「ジーナは奴隷と違う。クロス様は優しい」

「そ、そうか。すまなかった。無礼を許して欲しい」

「いいさ、気にしないでくれ」
「ありがとう」

「俺の顔、そんなに極悪に見えるのかな?」
「そんなことないです。クロス様は素敵です」
「そうですよ」
「そうか。まあいいか」


「お待たせしました。コジュ鳥のフルコースです」
「おっ、来た来た。さあ食べるぞ」

オススメだけあって美味い。特に美味いのは北京ダック風に仕上げてある物だ。皮のパリパリ感が良い。昨日我慢した酒を満喫し、俺1人用の部屋に戻る。

明日はどう皆にダンジョンを攻めさせるか?と考えていたら眠ってしまったらしい。

翌日、アンに起こされて目が醒めた。ダンジョンに行く前に打ち合わせをする。

「4人でパーティーになってもらう」

「解りました」

「基本的に俺は口出ししない。パーティーでどうすればいいか考えて行動しろ」

「はい」

「マリとジーナはダンジョンの経験が無いので、馴れるまで気をつけろ」

「解りました」 「解ったです」

「では出発」
「「「「「「おー!」」」」」」

ダンジョンと街を行き来する定期馬車に乗れば1時間弱でダンジョンに着く。さてさて、楽しみだ。
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