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第1話(3)
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それから30分後―――星空の下をとぼとぼと歩く十和子の姿があった。
『そうか?じゃあ俺達先に行ってるな』
綾史は躊躇なく十和子と寿真を置いていき、美舞達と去っていった。
(家族より美舞さんを優先するんだね…)
自分から提案したこととはいえ、綾史の返事に全く迷いがなかったことにがっかりしてしまう。
(美舞さんを送るにしても、せめて後で迎えに来るから待っててって言ってほしかったな…)
十和子が綾史と出逢ったのは6年前。
新卒で入社した会社の同期だった。
研修や同じ部署内で一緒に仕事をするうちに、明るくて失敗しても前向きで、後輩の面倒見も良くて頼りがいもある、自分にはないものをたくさん持っている綾史に惹かれた。
飲み会の帰りに勢いで綾史に告白したら奇跡的にOKをもらえて、それから3年間付き合った。
そして一昨年に寿真を授かって入籍した。
妊娠したかも知れないと告げた時、綾史は一瞬困った顔をした。
病院に行ってはっきりと赤ちゃんがいることがわかった時には喜んでくれたし、綾史の方から結婚しようと言ってくれたが、十和子の中ではあの時の彼の表情が心のどこかでずっと引っかかっていた。
綾史と美舞との不倫の疑いが晴れない。
すごく気の合う友達なんだと思っていた。
そう信じていたかったが、もしかしたらその頃から浮気をされていたのかも知れないと思うと今日まで自分が生きてきた世界が崩れていくような心地がした。
疑念が膨らんで、綾史を信じられない自分も嫌で、気持ちがどんどん沈んでいく。
(もし本当に不倫していたら別れる?)
十和子は自分自身に問いかけた。
(1年前ならきっと別れようと思えた。だけど今は寿真もいるし結婚もしてしまったから…そう簡単に別れられない…)
寿退社した十和子は、正社員でバリバリ働いている美舞と違って無収入の専業主婦だ。
子どもの世話に関しては、仕事が忙しい綾史には頼れずほとんどワンオペの状態だから一人になってもできないことはないが、金銭面を考えると育てていける自信が持てない。
十和子の両親は既に他界していて、頼れる身内もいなかった。
(寿真のことを考えたら…貧しい思いはさせたくない。父親だっていたほうがいいに決まってる。私が見て見ぬふりさえすれば……)
寿真の為と思えば我慢できる。
できるけれど、このまま有耶無耶にすることが本当に最善の選択なのか確信が持てない。
不安に揺れるこころを落ち着かせようと、十和子は抱っこ紐の上から眠る息子をそっと抱きしめた。
その時、ポケットに入れていたスマホが震えた。
どうやら綾史からメッセージが届いたようで、自宅のマンションはすぐ目の前に迫っていたが、内容を見ようと立ち止まった。
だが彼女がそのメッセージを読んだのはしばらく後になってからだった。
《礼良が急に熱を出したからこれから病院に連れて行く。帰るの遅くなる》
足元に落下したスマホの画面に、そんな文字の羅列が表示されていた。
『そうか?じゃあ俺達先に行ってるな』
綾史は躊躇なく十和子と寿真を置いていき、美舞達と去っていった。
(家族より美舞さんを優先するんだね…)
自分から提案したこととはいえ、綾史の返事に全く迷いがなかったことにがっかりしてしまう。
(美舞さんを送るにしても、せめて後で迎えに来るから待っててって言ってほしかったな…)
十和子が綾史と出逢ったのは6年前。
新卒で入社した会社の同期だった。
研修や同じ部署内で一緒に仕事をするうちに、明るくて失敗しても前向きで、後輩の面倒見も良くて頼りがいもある、自分にはないものをたくさん持っている綾史に惹かれた。
飲み会の帰りに勢いで綾史に告白したら奇跡的にOKをもらえて、それから3年間付き合った。
そして一昨年に寿真を授かって入籍した。
妊娠したかも知れないと告げた時、綾史は一瞬困った顔をした。
病院に行ってはっきりと赤ちゃんがいることがわかった時には喜んでくれたし、綾史の方から結婚しようと言ってくれたが、十和子の中ではあの時の彼の表情が心のどこかでずっと引っかかっていた。
綾史と美舞との不倫の疑いが晴れない。
すごく気の合う友達なんだと思っていた。
そう信じていたかったが、もしかしたらその頃から浮気をされていたのかも知れないと思うと今日まで自分が生きてきた世界が崩れていくような心地がした。
疑念が膨らんで、綾史を信じられない自分も嫌で、気持ちがどんどん沈んでいく。
(もし本当に不倫していたら別れる?)
十和子は自分自身に問いかけた。
(1年前ならきっと別れようと思えた。だけど今は寿真もいるし結婚もしてしまったから…そう簡単に別れられない…)
寿退社した十和子は、正社員でバリバリ働いている美舞と違って無収入の専業主婦だ。
子どもの世話に関しては、仕事が忙しい綾史には頼れずほとんどワンオペの状態だから一人になってもできないことはないが、金銭面を考えると育てていける自信が持てない。
十和子の両親は既に他界していて、頼れる身内もいなかった。
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寿真の為と思えば我慢できる。
できるけれど、このまま有耶無耶にすることが本当に最善の選択なのか確信が持てない。
不安に揺れるこころを落ち着かせようと、十和子は抱っこ紐の上から眠る息子をそっと抱きしめた。
その時、ポケットに入れていたスマホが震えた。
どうやら綾史からメッセージが届いたようで、自宅のマンションはすぐ目の前に迫っていたが、内容を見ようと立ち止まった。
だが彼女がそのメッセージを読んだのはしばらく後になってからだった。
《礼良が急に熱を出したからこれから病院に連れて行く。帰るの遅くなる》
足元に落下したスマホの画面に、そんな文字の羅列が表示されていた。
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