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第3章

決戦の予感

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メイリスはブレインに意識を奪われている間に自分の体に何をされているのか薄々勘付いていた。
全身の支配は夢を見せるよりも成功率が低く、少しでも警戒心を持っていれば回避できる。
それがわかっていたので寝ている間も気を付けていたのだが、知らず知らずのうちに疲労が溜まっていたのと余計なことを考えていたこともあって、すっかり油断してしまった。
ジェイデンが立ち尽くしていたのを見ると、自分で自分を慰めているところを見られてしまったのだろう。
それも結構な音量ではしたない声を上げてしまったような気がする。
自分の意思ではないとはいえ、どんな顔をすればいいのかわからない。
情けないやら恥ずかしいやらで何度目かの溜め息を吐いた彼女は、視線を落とした先にあったジェイデンの下腹部が棒状に膨らんでいることに気が付いた。
当たり前のように頭を撫でてくる彼にちらりと彼の顔色を伺う。

「それ…手伝ってあげましょうか?」
「?」
「私の…見ていたんでしょ?恥ずかしいから、お返しよ…」

この時のメイリスは、持て余した羞恥心から少しばかりおかしくなっていた。
自分と同じくらい恥ずかしい思いをさせてやろうと、ソファから身を乗り出してそれに手を伸ばす。
メイリスの意図に気付いた彼はひどく動揺しているようで、彼女がスラックスに手をかけるのを呆然とした様子で眺めていた。
留め具を外し、チャックを下ろして下着をずらすと、硬く伸び上がった凶悪な肉棒が勢いよく目の前に現れる。
久しぶりに目にした男性の一物にメイリスの鼓動が速くなった。
カチコチになったそれを指先でなぞると、生き物かのようにぴくんと動いた。
自分の痴態が彼をここまで大きくさせたのだと思うと、なぜか嬉しいと思ってしまう。
メイリスはそれをじっと観察した後、躊躇いなく先端を舐めた。
驚いて後退したジェイデンを追いかけて床に降り、彼の腰に抱きつくように腕を回して口いっぱいに押し込めた。
じゅぷじゅぷとわざとらしく音を立てて扱けば、閉じられていた唇から艶やかな吐息がこぼれ始めた。

ゲイルは抵抗しなければと思うものの、あっさりと快楽に負けてメイリスに身を任せた。
気持ちいいと伝えたくて彼女の後頭部を撫でると、何を思ったのか男根を頬張ったまま顔を見上げてくる。

「んむ…ぷぁ…、ん」
「……っ、…」
「ねえ…きもちよくない…?」

ボロが出ないように呼気を抑えていると、メイリスが唾液でぬらぬら光る竿を握りしめながら尋ねてきた。
その情欲を掻き立てられる光景に、思わず生唾を飲み込む。

(んなわけないだろ…おまえ本気で襲われたいのか?揶揄うにしてもやりすぎだ!)

ゲイルは心の中で叱りつけたが、その声は届かず、メイリスは行為を再開した。
その直後から彼の理性は抗えない快感の渦に呑み込まれた。
彼女の口の中は溶けてしまいそうなほど熱く、その舌も手の使い方も自分が教え込んだのだと思うとなおさら興奮した。
何日も禁欲していたこともあり、堪えきれずに勢い良く精を吐き出してしまう。

「ハッ…、ァ…!」
「ンンッ…!」

ゲイルは息を詰まらせるのと同時にメイリスの口内に熱い飛沫をぶちまけた。
濃いのが出た自覚はあり、おそるおそる様子を伺うと、彼女は苦渋な表情を浮かべながらも吐き出すことはしなかった。

悩まし気な吐息を繰り返すジェイデンを見つめながら、メイリスは意を決してどろりとした雄の味を飲み下した。
熱で蕩けた瞳でジェイデンを見やれば、彼も彼女の様子を伺っているようだった。

「これで…お相子ね」
「……」

メイリスが得意げな顔をして微笑むと、彼は言葉を綴らない代わりにぎゅうと胸に抱きしめてきた。
頭を撫で回してくる彼の手のひらを心地良いと感じているうちに、彼女の意識は微睡みに落ちていく。
この日、メイリスの中にあったジェイデンとの境界線は消失した。


それ以降二人は箍が外れたように体を触れ合わせるようになった。
メイリスが眠りにつく前から一緒にベッドに入り、抱き合ってキスをする。
触れるだけの時もあれば、お互いの体に腕や足を絡ませながら唇を重ねることもある。
その体温と重みが心地よくてつい夢中になり、気がついたら空が白んでいたこともあった。

「ふ、ン…はぁ…あなた私を眠らせる気あるの…?これじゃあいつまで経っても眠れないわ」

文句を言いながらも、メイリスは自ら誘うように彼の唇を舐めて舌を追いかける。
彼女はもうジェイデンに体を触られても、かつての恋人を思い出して苦しくなることはなくなっていた。
片手間に胸を揉み込んでいた彼の指が膨らんだ乳首をかりかりと引っ掻いて反論してくる。

「ン…、それ…だめ。本当に眠れなくなっちゃう…」
「……」
「ぁ、ゃ、ァン…!だめ、吸っちゃ…ぁ!」

寝間着ごと敏感な蕾に吸い付かれ、条件反射のように腰が浮いてしまう。
その拍子に服の裾からあたたかい手が侵入してきて、両方同時に摘まみ上げられてくぐもった嬌声が漏れた。
深くなるキスを受け止めながら、メイリスも負けじと彼の体に指を這わせる。
シャツの上から乳首を探ってつまみ上げると、その背中が大袈裟なほどびくりと跳ねた。

「……ッ、」
「私の気持ちがわかった…?わかったなら手をはなして。今日はもうお終い」
「……」

彼は基本的に従順で、メイリスが強い意志で待てをすれば素直に応じる。
最後の一線は越えないものの、二人は勝負をするようにお互いの性感帯をいじり合っては眠りにつく。
あれからブレインの干渉は鳴りを潜めていた。

「なんだかお二人って、主従というより夫婦みたいですよね。言葉がなくても伝わる関係というか。そういう主従関係って僕、憧れなんです…!」

ある日、瞳を輝かせたレイナートが無邪気な顔をしてそんなことを言ってきた。
メイリスが少し肌寒いと感じているとジェイデンが心を読んだようにひざ掛けを持ってきてくれて、ありがとうとお礼を伝えた。
そのやり取りに彼の中で何か感じるものがあったようだ。
二人が夜毎ベッドで何をしているか知らなくても、傍からは夫婦っぽく見えてしまうらしい。

「彼は人一倍気が利くから。彼をお手本にすればきっとどんな相手とも理想の関係を築けるわよ」
「……」

メイリスは夫婦と称されたことを聞き流し、先輩の良いところを後輩に伝えた。
彼女なりに気遣った結果だったのだが、それを聞いたゲイルの心境は複雑だった。
褒められるのは純粋に嬉しいが、気が利くのは相手がメイリスだからで、彼女に話したジェイデンの経歴は全くの嘘だからだ。

(俺が本当はゲイルだってわかったら、きっとお前は離れていくよな…)

自ら望んでしていることとはいえ、メイリスを騙している現実に少しだけ胸が痛む。
彼女がいま好意を向けて甘えているのはジェイデンで、ゲイルではない。
彼は当初のゼルキオンとの会話を思い出し、ゲイルであることを隠し通す必要性を再認識した。



戦況が一変したのは、レイナートに基礎形状のテストをしている最中だった。
室内に警告音が鳴り響き、メイリスは即座にモニタースペースに移動して魔法陣の修復を開始した。
彼女の修復作業は元々驚異的なスピードだったが、この5年間で格段にレベルが上がっていた。
エラー表示された魔法陣が瞬く間に次々と正常化していく様は圧巻で、レイナートはメイリスに抱いていた印象を美の女神から戦女神に変更した。
新人のレイナートがどこか浮ついた気持ちでいる中、メイリスとゲイルはこの事態の異様さを感じ取って表情を険しくした。
カッタルタの攻撃はこれまでと打って変わって脈絡がなく、いったい何がしたいのか全く意図が読めない。

(急にどうしたのかしら…ただ壊せるものを壊しているって感じね。まるで花火の打ち納めだわ)

今やパレシアの防衛魔法は九割方新しいものに置き換わっていて、破壊できるものも限られている。
メイリスが仕込んだ罠の魔法陣を避けることもせず、攻撃を乱発しているのは不可解だった。
勝利を放棄するような戦い方に、彼女は戦争の終わりを予見した。

「レイナートは本来の持ち場に戻ってゼルキ…上官の指示を受けなさい」
「了解しました!」
「あなたは侵入者に警戒して。あいつが来るわ」
「……」

ゲイルもメイリスと同じ予想をしていた。
きっとこれがブレインとの最終決戦になる。
彼は気配を完全に消し、部屋全体を見渡せる場所から全方位を警戒する。
頭上からパチンと魔力の弾ける音がした。
それとほとんど同時に放たれた魔法を見切ったゲイルは、作業中のメイリスを腕に抱き込んだ。
驚く彼女に構わず攻撃をいなし、自らも魔法陣を複数展開して反撃する。
ゲイルの魔法の威力はかなりのもので、突如現れたブレインの体を弾き飛ばした。
ブレインは防御する暇もなく勢いよく岩の壁に叩きつけられる。
この時初めて自分の専属警護員の実力を目の当たりにしたメイリスは驚嘆した。

「意外とやるのね…」

メイリスらしい称賛の言葉に、仮面の下の口元がほんの少し緩んだ。

〈大丈夫か、メイリス〉

タイミングよく通信用のスピーカーからゼルキオンの声が響いた。

「ブレインが来たわよ。今度こそ本気みたいね」

〈怪我はないか?〉

「ええ、平気よ。ジェイデンが守ってくれたから。このまま修復を続行するわね」

ゼルキオンに返事をして、メイリスは自分を抱きしめている彼に向き直った。

「私はこれから防壁の魔法陣を展開してここに籠るわ。後を任せられるかしら?」

仮面の向こうにあるであろう瞳と視線を合わせるように見つめ合う。
ゲイルは任せてくれと声に出さない代わりにしっかりと頷いてみせ、ブレインを吹き飛ばした方へと向かっていった。

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