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裏切りの代償
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不規則に乱射される悪魔の強力な攻撃魔法は、ベン達の魔力も体力も、心の余裕をも急速に奪い去っていく。
ベンはレイチェルが何らかの悪魔と契約をしている可能性があることを予想してはいたが、セレンとデオにとっては青天の霹靂で、何の心構えもなく悪魔討伐を任された状況だ。
中でもB級魔術クラスに所属するセレンは、演習が中心で実践の経験がほとんどない。
そんな彼女が悪魔と対峙して、ほとんど無傷で攻撃を避け続けているのは奇跡に近いことだったが、その集中力もいよいよ限界を迎えていた。
セレンが辛うじて槍状の魔力の塊を避けたその先に、続けざまに放たれた魔法の弾が迫る。
気が付いた時には成す術がなく、セレンは死を覚悟する。
だが目前に迫っていた魔法は突然爆発して消失した。
呆気に取られたのは一瞬で、セレンはすぐに次の攻撃に備えてシールドを展開する。
そのシールドも悪魔相手では一撃で破壊されてしまうような強度しかないが、何もしないよりはましだった。
「……っ!!」
極度の緊張と死の恐怖から、自然と息が上がる。
心臓の鼓動が指先まで伝わり、肌を伝う汗がやけに冷たく感じた。
「セレン!!!」
名前を呼ばれて、はっとする。
その直後、シールドが爆風を伴って弾け飛んだ。
魔法が打ち破られるのと同時に、セレンの体も吹き飛ばされて地面を転がる。
その間、ガツガツと鋭い魔法が地面を穿つ音がしたが、幸運にも彼女に直撃することはなかった。
全身を打ちつけた痛みですぐには立ち上がれず、どうにか瞼を押し開いて現状を確認する。
気が付けば、悪魔を囲うようにして動いていたベンとデオがセレンの声の届く距離まで近づいて来ていた。
彼らの視線の数十メートル先に、悪魔がいる。
そこでセレンはようやく理解した。
さっきの攻撃で死なずに済んだのは、幸運でもなんでもない。ベンとデオが守ってくれていたからだ。
「…悔しい」
やっとの思いで、上半身を起こした。
セレンの口から吐き出された言葉に、デオがちらりと視線だけを向けてくる。
ベンに至っては反応すらせず、悪魔の動向に意識を集中させている。
このままでは、いつか全員殺されてしまうだろう。
「…いいわ、ベン。その賭けに乗ってあげる…!」
先程ベンが提案した捨て身のような作戦。
聞いた時には渋るデオと同意見だったが、セレンの中にはもう賛成以外の選択肢はなかった。
セレンも自分と同じく反対すると思っていたのだろう、デオが動揺を露わに振り返った。
「セレンお前!あんな無謀な作戦を本気でやらせるつもりか?!」
「仕方ないじゃない…!この場で一番、シエルを助けられる可能性があるのはベンだけでしょ!このままじゃ逃げ続けるだけで何にも変えられないわ!その間に、シエルがあの悪魔に取り込まれたら……!」
絶望的な未来を想像して、セレンの心臓がぎゅうと締め付けられる。
セレンだって、ベンは大切にしたい存在だ。
いくらいけ好かない相手とはいっても、ベンは昔馴染みの友達で、親友にとってとても大切な人だ。
本当ならこんなことをさせたくないし、できることなら自分自身の手でシエルを助けたい。
けれども攻撃を避けるだけでも精一杯、挙句足手まといになっている今の自分にできることなんて、他にあるとは思えない。
ベンの提案に協力して、彼の体を攻撃の及ばない安全な場所に移動させることくらいなら、何とか、運が良ければ、致命傷を負うことなくできるかも知れない。
その程度の力量しか今の自分にはないのだ。
セレンは自分の無力さが口惜しく、やるせなさに奥歯を噛みしめた。
「ベン!できるだけサポートはするけど、上手くはないからそのつもりでいなさい!」
半ば自棄糞な気持ちで、その背中に向かって叫んだ。
もっと力があれば。
もっと強い魔法が使えたなら。
他の誰かを犠牲にすることもなければ、危険に晒すこともなく悪魔を倒せるのに。
今も悪魔の中で戦っているシエルを救い出すことができるのに―――。
その思いは、ここにいる全員に共通していた。
「くっそ!仕方ねぇか…!」
デオが悔しさを露わに頭を掻きむしった。
セレンの答えを聞いて、彼もようやく覚悟を決めたようだった。
親友のために、親友を犠牲にする覚悟を。
「悪いなベン…レメを頼んだぜ。けど、お前も絶対ぇ無事に帰ってこいよ!じゃないと、レメを助ける意味がねえ…!」
シエルが助かったとして、その代償にベンが命を落としたとなったら彼女はどうするだろうか。
間違いなく、自責の念からベンの後を追うか、自分の命と引き換えにしてでもベンを生き返らせる方法を探すに違いない。
シエルを助けるならば、ベンも無事でいなくてはダメだ。
「ベン!デオの言ってること、わかってるわよね?!!」
果たして、彼にその意味が伝わっているだろうか。
そんな焦燥感から、セレンが念押しする。
ベンはシエルの為なら自己犠牲を厭わない男だ。
そういうところはシエルとよく似ている。
だからこそこの2人は無駄にすれ違うのだ。
お互いを大切にしすぎて、お互いに大切な相手だと気づけない。
デオもそれが気になっているのか、ベンにちらちらと視線を送る。
ベンが言葉もなく頷いたのを見て、2人は僅かに安堵した。
「…始める」
呟くように、ベンが合図した。
3人を守るように展開していたシールドを解除して、ベンが前に出る。
悪魔と可能な限り距離を詰め、攻撃の合間を縫って放ったベンの魔法がメディの顔面を掠める。
ベンは眼球を狙ったが、避けられてしまった。
それでも多少はダメージを与えられたようだ。
悪魔は僅かに傷の付いた頬を手で拭い、忌々しそうに舌打ちすると、ベンに集中砲火を浴びせかけた。
迫りくる無数の魔力の矢を相殺しながら、次にベンは悪魔の足元目がけて魔法を展開した。
ベンの思惑に目敏く気付いた悪魔が羽を広げて上に飛ぶ。
その頭上にはデオが展開させた魔方陣が待ち構えていた。
魔法陣から繰り出された雷撃が、悪魔を直撃する―――が、ダメージは全く与えられなかった。
「くそ…!全然効いてねぇ…っ!?」
即座に反撃されるデオだが、速すぎて避けられない。
ベンが咄嗟にオフセットを唱えて相殺し、間一髪で逃れた。
「助かったぜ、ベン!」
デオの感謝の言葉に頷きだけを返して、ベンは思案する。
(さすがに一度で成功はしないか…)
デオは観察力が高く連携プレーに長けているものの、悪魔相手となると今の実力では火力が足りない。
先程の攻撃も一瞬気を逸らすことはできたが、かといって作戦が実行できるほどの時間稼ぎは期待できない。
「デオ!今のやつ、もう一回当てて!」
「はぁ?!簡単に言うなよ!」
「やんなきゃ何も変わんないわ!できるの?!できないの?!」
「できるに決まってるだろ…ッ!」
セレンは2人の連携に光を見出したのか、デオの攻撃を目眩ましにして隙を作り出すつもりのようだった。
だが彼女が想像するように簡単にはいかないだろう、とベンは思う。
さっきの雷撃が命中したのは、回避と攻撃のタイミングが合ったのと、運が味方しただけだ。
「セレン!デオ!冷静になれ!何度も成功するとは限らない!」
「っ……!でも!こうしてる間にも、シエルが…っ!」
「だからこそだ!一旦引いて作戦を…―――!」
突然、ベンが驚愕して動きを止めた。
攻撃を受けたのかと、セレンとデオの顔に緊張が走る。
しかしベンの視線の先を辿ると、彼がどうして石のように固まってしまったのか理由がわかった。
メディの全身から黄色を帯びた…シエルの魔力の色をした光が溢れ出ていたのだ。
その表情は苦悩に満ち、何かに抵抗するかのように呻き声を上げ始めた。
両手で頭を抱え、何かを振り払うように激しく左右に揺らす。
次第に悪魔は眩い光に取り込まれるように輪郭がなくなっていき、ぐにゃりと姿形を変えた。
眩しさに閉じかけていた瞼を開いた時、そこに在る姿に瞠目する。
驚きが過ぎて、誰の口からも、何の言葉も出てこない。
『遅くなってごめんなさい』
その声は確かに悪魔が発したもので、そしてシエルのものでもあった。
光の中から再び姿を現した悪魔は、目を閉じているために瞳の色こそ分からないが、その顔も髪も声も、放っている雰囲気ですら、シエルそのものだった。
「シエル…?シエルなの?」
『うん』
「そ、その姿…」
『悪魔の体を奪ったの。間に合ってよかった…』
「…どうして……」
いち早く現実を悟ったセレンの顔が悲壮に歪む。
ベンは茫然とするばかりで、ただただ"シエルのような姿の何か"を見ていることしかできない。
「シエル!!どうしてよ!!なんで?!」
両目から涙を溢れさせながら、セレンが叫ぶ。
その瞳は絶望に満ち、感情に任せてシエルを詰る。
「なんで…!なんでそんなことしたの?!!あたしはッ…!あたし達は、そんなこと望んでない…!!」
セレンが絶叫するように訴えると、シエルはゆっくりと閉じていた双眸を開いた。
シエルとセレンの視線がぶつかり合う。
その一瞬の出来事で、セレンはシエルを見つめた表情のまま、ぴくりとも動かなくなってしまった。
―――まるで、石のように。
「…! デオ!あいつの目を見るな!」
「お、おう!だけど、どうなってんだ?!」
『私の目を見るとね、命あるものはみんな、石になってしまうんだよ』
「え…?」
間近で聞こえた声にはっとしてデオが顔を上げると、翡翠のような澄んだ瞳が見えた。
しまった!と思うのも束の間、デオの意識は遠のいていく。
「デオ!!」
『ごめんね、これ以上みんなに怪我をして欲しくなかったから…。でも大丈夫。悪魔が完全に消滅すれば、石化も解除されるから』
シエルはこの場に似つかわしくない笑顔を見せた。
優しさに溢れた、シエルらしい花のような笑顔だった。
それを視界の端で感じ取りながら、ベンは悪魔だったものがシエルになったという現実を受け入れる他なかった。
「シエル…」
『遅くなっちゃって、本当にごめんなさい。ベンも怪我、してるね…』
「心配ない。かすり傷だ。それより…」
ベンは気が狂いそうな感覚を理性で抑えつけながら、平静に尋ねた。
「悪魔の体を奪って、これからどうする気だ?元には戻れるのか?」
『元には、戻らないよ』
ベンの期待を粉々に打ち砕くように、シエルはきっぱりと言い放った。
『これから太陽に向かって飛ぶつもり。そうすれば、悪魔は燃え尽きて消滅して、おしまい。もう誰も戦わなくて済むし、もう誰も傷つかない』
『良い方法でしょう?』と、シエルは微笑む。
これからすることが最良の方法なのだと、心の底から信じているかのように。
ベンの心臓がどくりと嫌な音を立てた。
「どこが…、良い方法なんだ?そんなことをして、お前はどうなる…?」
『言ったでしょう?私はもう悪魔と一体化したの。だから私も一緒に消滅するよ』
「シエル。それはだめだ。許さない」
『……?』
「他にもっと方法があるだろう。どうしてお前が犠牲になるんだ…!俺は、」
『ベン』
焦燥感を露わに言い募ろうとするベンを遮って、シエルが名前を呼んだ。
『ベンもわかっているんでしょう…?こうするのが一番、平和的な解決だって』
「平和的…?」
『私が悪魔を乗っ取らなかったら、みんなはもっとひどい怪我をしたと思うし、殺されていたかもしれない…。私は、みんなを守れてよかったと思ってるの。今なら、まだ元に戻ることはできる…と思う。でももしここで融合を解いたら、私はまた何もできない。またみんなに守ってもらうだけの、何の力もない、ただの足手まとい…。それなら、みんなを助けられる今、できることをしたいの』
シエルの真っ直ぐな声が、静かな空間に響く。
シエルが一度こうすると決めたら頑固なことを、ベンはよく知っている。
どうすれば考え直してくれるだろう。
どうすれば自分の考えが間違いだと気付いてくれるだろうか。
絶望感に襲われながら、ベンは真っ白になりそうな頭で必死に考えた。
『ベン。最後まで私のことを助けようとしてくれて、ありがとう。でも、もういいの』
「いいって、何が…」
全てを諦めたようなシエルが気にかかり、その先の言葉を想像して吐き気がする。
時間稼ぎをしようと何とか会話を続けてはいたが、シエルを説得できるような、気の利いた言葉が出てこない。
『カネルの時も、昨日も、これまでもずっと…姉さんから頼まれていたんでしょう…?だから困った時に助けてくれたり、守ってくれたり…したんだよね?』
「シエル、」
『ごめんね、ベン。もう守らなくてもいいよ。私なんかのことでベンを煩わせてしまって…本当にごめんなさい。これからは、ベンのしたいことをして。本当に大切な人のことを―――レイチェルさんのことを、守ってあげて』
思いもよらないことを指摘されて、ベンの頭は更に混乱した。
シエルがどうしてそんな思考になっているのか、理解が追いつかない。
すぐに言葉を返せないでいると、それを肯定と受け取ったシエルが儚げに微笑んだ。
だが、シエルと視線を合わせないようにしていたベンは気付かない。
『…そろそろ、いくね。姉さん、兄さんによろしく。たくさん迷惑かけてごめんなさいって、伝えて欲しい。エミリやケヴィンにも…こんな出来損ないの姉でごめんなさい、って…』
僅かに風が生まれたのを感じて、ベンははっと顔を上げた。
シエルの背中から生えた悪魔の羽が大きく広がり、今にも飛び立とうとしている。
ベンは必死の想いで手を伸ばして、その手首を掴んだ。
それと同時に、昨夜シエルの部屋の前でセレンに言われた言葉を思い出していた。
―――許してもらうには、相手がまた信頼してくれるまで"心"を返し続けるしかないの。
―――あんたがしたことは、そういうことよ。
「…っ、シエル、だめだ…!」
『……』
「融合を、解いてくれ…」
ベンはシエルを逃がすまいと、手に力を込めた。
この手を離せば、シエルは本当に悪魔と共に消えてしまう。
「俺がお前を守るのは、俺がそうしたいからだ。誰かに頼まれてしていることじゃない」
『……』
「あの夜も、昨日も…、リアには反対されたが、俺から2人にお前を傍で見守りたいと頼んだ。他の誰かじゃなく、俺の手でお前を慰めてやりたかったし、少しでも長く傍にいたかった。お前のことが大切だから…」
『……そう言いなさいって、エリック兄さんにでも言われた?』
真実を話せば、すぐに誤解は解けると思っていた。
だが事態はベンが思うよりずっと深刻で、沈黙の後に降って来たシエルの声は氷のように冷たかった。
今までに聞いたことのない軽蔑を含んだ響きに、ベンの全身から血の気が失せ、喉が張り付いたように動かなくなる。
『もしあの夜のことで責任を感じているなら、私、気にしていないから…。ベンに慰めてもらって、カネルにされたことを一時は忘れられたし、感謝してるの。ベンが私を好きだからしたわけじゃないって、ちゃんとわかってるし、たった一度のことで責任取ってなんて言わないよ』
「シエル、っ…」
『でも、あれはレイチェルさんに対して裏切り行為だよ。ベンの優しさは嬉しいけど…、優しくすることが人を傷つけることだってあるの。レイチェルさんのことを大切に思うなら、するべきじゃなかった。放っておけばよかったんだよ』
「シエル!!」
突き放すような物言いに、ベンの中で何かが切れた。
辛うじて保っていた理性の糸がぶつりと切れる。
シエルの手首を強引に引き寄せて、その体を腕の中に閉じ込める。
もう形振り構ってなどいられなかった。
ぎゅうと抱き締めれば、シエルが離れようと身を捩った。
それを強い口調で押し留める。
「じっとしてろ!」
耳元で怒鳴ると、シエルはびくりと体を震わせて、大人しくなった。
怯えさせてしまったと雰囲気で感じ取ったベンは、自己嫌悪に陥りながらも深呼吸を繰り返した。
伝えたいことほど冷静に、落ち着いて話さなければ届かない。
「シエル、聞いてくれ。俺は、これまで何度もお前に助けられてきた。リアもエリックも、エミリもケヴィンもリースもだ。お前が生きてるだけで、俺も、お前の家族もセレンもみんな、笑って暮らせてる」
シエルは、自分で気が付いていないだけなのだ。
彼女の存在は、ただそこにいるだけで、少なからず身近な人間の救いになっていた。
「いまの俺があるのは、シエルのおかげだ。シエルがいたから、俺は強くなろうと思った。お前を守れるように…」
『……』
「俺だけじゃない。みんなお前のことが大切なんだ。お前がいなくなったらと思うと、俺は…」
『…私1人がいなくなっても、誰も困らないでしょう?何もできないお荷物な私が生きていたって、ただみんなに迷惑をかけるだけ…』
「みんなお前に何かしてもらいたいなんて思ってない。お前に何ができるかなんて、どうでもいいんだよ…!」
伝わらないもどかしさから、ベンの語気が強くなる。
シエルの柔らかな髪に頬を寄せて、更に深く抱き込んだ。
「何もできなくたっていい!ただ生きてるだけでいいんだ!お前が生きているだけで、リアもエリックも、エミリもケヴィンもリースも、セレンもデオも俺も…!みんな幸せなんだよ…!」
ベンの脳裏には、ベッドに横たわったまま動かないシエルの姿が浮かんでいた。
魔力が殆ど抜き取られた身体は、ただ呼吸を繰り返すだけの人形のまま。
あの花のような笑顔も、シエルのどんな表情も見ることはできず、温かく柔らかな体を抱きしめても抱きしめ返されることはない。
閉ざされた瞼は開かれることがなく、耳に心地よく響く声で名前を呼ばれることも、言葉を交わして心通わせることもできない。
シエルのいない未来は、ただ死を待つだけの空虚な時間となるだろう。
「…お前の気持ちを裏切るようなことをして、すまなかったと思っている。だけど俺は…お前の家族は、お前を必要としてる。お前が死んだら悲しむだろう。だから、悪魔との融合を解いて欲しい。一緒に消滅するなんて言わないでくれ。頼む…」
家族に劣等感を抱き、周囲から評価されず、努力をしても空回りする。
そんな出来事が続いて自己肯定感が低くなってしまっていることを知っていたのに、自分の行動によって簡単に死を選ぶほど追いつめてしまったという事実を痛感して、ベンは泣きたくなった。
他に方法があったかも知れないなどと、今更後悔しても遅い。
でもシエルを救うために自分にできることがまだあると信じたい。
ベンは精一杯の誠意を込めて、シエルに懇願した。
たとえ自分のことを許せなくても、死を選ぶことは思い留まって欲しい。
―――大切な家族や、友達の為に。
ベンはレイチェルが何らかの悪魔と契約をしている可能性があることを予想してはいたが、セレンとデオにとっては青天の霹靂で、何の心構えもなく悪魔討伐を任された状況だ。
中でもB級魔術クラスに所属するセレンは、演習が中心で実践の経験がほとんどない。
そんな彼女が悪魔と対峙して、ほとんど無傷で攻撃を避け続けているのは奇跡に近いことだったが、その集中力もいよいよ限界を迎えていた。
セレンが辛うじて槍状の魔力の塊を避けたその先に、続けざまに放たれた魔法の弾が迫る。
気が付いた時には成す術がなく、セレンは死を覚悟する。
だが目前に迫っていた魔法は突然爆発して消失した。
呆気に取られたのは一瞬で、セレンはすぐに次の攻撃に備えてシールドを展開する。
そのシールドも悪魔相手では一撃で破壊されてしまうような強度しかないが、何もしないよりはましだった。
「……っ!!」
極度の緊張と死の恐怖から、自然と息が上がる。
心臓の鼓動が指先まで伝わり、肌を伝う汗がやけに冷たく感じた。
「セレン!!!」
名前を呼ばれて、はっとする。
その直後、シールドが爆風を伴って弾け飛んだ。
魔法が打ち破られるのと同時に、セレンの体も吹き飛ばされて地面を転がる。
その間、ガツガツと鋭い魔法が地面を穿つ音がしたが、幸運にも彼女に直撃することはなかった。
全身を打ちつけた痛みですぐには立ち上がれず、どうにか瞼を押し開いて現状を確認する。
気が付けば、悪魔を囲うようにして動いていたベンとデオがセレンの声の届く距離まで近づいて来ていた。
彼らの視線の数十メートル先に、悪魔がいる。
そこでセレンはようやく理解した。
さっきの攻撃で死なずに済んだのは、幸運でもなんでもない。ベンとデオが守ってくれていたからだ。
「…悔しい」
やっとの思いで、上半身を起こした。
セレンの口から吐き出された言葉に、デオがちらりと視線だけを向けてくる。
ベンに至っては反応すらせず、悪魔の動向に意識を集中させている。
このままでは、いつか全員殺されてしまうだろう。
「…いいわ、ベン。その賭けに乗ってあげる…!」
先程ベンが提案した捨て身のような作戦。
聞いた時には渋るデオと同意見だったが、セレンの中にはもう賛成以外の選択肢はなかった。
セレンも自分と同じく反対すると思っていたのだろう、デオが動揺を露わに振り返った。
「セレンお前!あんな無謀な作戦を本気でやらせるつもりか?!」
「仕方ないじゃない…!この場で一番、シエルを助けられる可能性があるのはベンだけでしょ!このままじゃ逃げ続けるだけで何にも変えられないわ!その間に、シエルがあの悪魔に取り込まれたら……!」
絶望的な未来を想像して、セレンの心臓がぎゅうと締め付けられる。
セレンだって、ベンは大切にしたい存在だ。
いくらいけ好かない相手とはいっても、ベンは昔馴染みの友達で、親友にとってとても大切な人だ。
本当ならこんなことをさせたくないし、できることなら自分自身の手でシエルを助けたい。
けれども攻撃を避けるだけでも精一杯、挙句足手まといになっている今の自分にできることなんて、他にあるとは思えない。
ベンの提案に協力して、彼の体を攻撃の及ばない安全な場所に移動させることくらいなら、何とか、運が良ければ、致命傷を負うことなくできるかも知れない。
その程度の力量しか今の自分にはないのだ。
セレンは自分の無力さが口惜しく、やるせなさに奥歯を噛みしめた。
「ベン!できるだけサポートはするけど、上手くはないからそのつもりでいなさい!」
半ば自棄糞な気持ちで、その背中に向かって叫んだ。
もっと力があれば。
もっと強い魔法が使えたなら。
他の誰かを犠牲にすることもなければ、危険に晒すこともなく悪魔を倒せるのに。
今も悪魔の中で戦っているシエルを救い出すことができるのに―――。
その思いは、ここにいる全員に共通していた。
「くっそ!仕方ねぇか…!」
デオが悔しさを露わに頭を掻きむしった。
セレンの答えを聞いて、彼もようやく覚悟を決めたようだった。
親友のために、親友を犠牲にする覚悟を。
「悪いなベン…レメを頼んだぜ。けど、お前も絶対ぇ無事に帰ってこいよ!じゃないと、レメを助ける意味がねえ…!」
シエルが助かったとして、その代償にベンが命を落としたとなったら彼女はどうするだろうか。
間違いなく、自責の念からベンの後を追うか、自分の命と引き換えにしてでもベンを生き返らせる方法を探すに違いない。
シエルを助けるならば、ベンも無事でいなくてはダメだ。
「ベン!デオの言ってること、わかってるわよね?!!」
果たして、彼にその意味が伝わっているだろうか。
そんな焦燥感から、セレンが念押しする。
ベンはシエルの為なら自己犠牲を厭わない男だ。
そういうところはシエルとよく似ている。
だからこそこの2人は無駄にすれ違うのだ。
お互いを大切にしすぎて、お互いに大切な相手だと気づけない。
デオもそれが気になっているのか、ベンにちらちらと視線を送る。
ベンが言葉もなく頷いたのを見て、2人は僅かに安堵した。
「…始める」
呟くように、ベンが合図した。
3人を守るように展開していたシールドを解除して、ベンが前に出る。
悪魔と可能な限り距離を詰め、攻撃の合間を縫って放ったベンの魔法がメディの顔面を掠める。
ベンは眼球を狙ったが、避けられてしまった。
それでも多少はダメージを与えられたようだ。
悪魔は僅かに傷の付いた頬を手で拭い、忌々しそうに舌打ちすると、ベンに集中砲火を浴びせかけた。
迫りくる無数の魔力の矢を相殺しながら、次にベンは悪魔の足元目がけて魔法を展開した。
ベンの思惑に目敏く気付いた悪魔が羽を広げて上に飛ぶ。
その頭上にはデオが展開させた魔方陣が待ち構えていた。
魔法陣から繰り出された雷撃が、悪魔を直撃する―――が、ダメージは全く与えられなかった。
「くそ…!全然効いてねぇ…っ!?」
即座に反撃されるデオだが、速すぎて避けられない。
ベンが咄嗟にオフセットを唱えて相殺し、間一髪で逃れた。
「助かったぜ、ベン!」
デオの感謝の言葉に頷きだけを返して、ベンは思案する。
(さすがに一度で成功はしないか…)
デオは観察力が高く連携プレーに長けているものの、悪魔相手となると今の実力では火力が足りない。
先程の攻撃も一瞬気を逸らすことはできたが、かといって作戦が実行できるほどの時間稼ぎは期待できない。
「デオ!今のやつ、もう一回当てて!」
「はぁ?!簡単に言うなよ!」
「やんなきゃ何も変わんないわ!できるの?!できないの?!」
「できるに決まってるだろ…ッ!」
セレンは2人の連携に光を見出したのか、デオの攻撃を目眩ましにして隙を作り出すつもりのようだった。
だが彼女が想像するように簡単にはいかないだろう、とベンは思う。
さっきの雷撃が命中したのは、回避と攻撃のタイミングが合ったのと、運が味方しただけだ。
「セレン!デオ!冷静になれ!何度も成功するとは限らない!」
「っ……!でも!こうしてる間にも、シエルが…っ!」
「だからこそだ!一旦引いて作戦を…―――!」
突然、ベンが驚愕して動きを止めた。
攻撃を受けたのかと、セレンとデオの顔に緊張が走る。
しかしベンの視線の先を辿ると、彼がどうして石のように固まってしまったのか理由がわかった。
メディの全身から黄色を帯びた…シエルの魔力の色をした光が溢れ出ていたのだ。
その表情は苦悩に満ち、何かに抵抗するかのように呻き声を上げ始めた。
両手で頭を抱え、何かを振り払うように激しく左右に揺らす。
次第に悪魔は眩い光に取り込まれるように輪郭がなくなっていき、ぐにゃりと姿形を変えた。
眩しさに閉じかけていた瞼を開いた時、そこに在る姿に瞠目する。
驚きが過ぎて、誰の口からも、何の言葉も出てこない。
『遅くなってごめんなさい』
その声は確かに悪魔が発したもので、そしてシエルのものでもあった。
光の中から再び姿を現した悪魔は、目を閉じているために瞳の色こそ分からないが、その顔も髪も声も、放っている雰囲気ですら、シエルそのものだった。
「シエル…?シエルなの?」
『うん』
「そ、その姿…」
『悪魔の体を奪ったの。間に合ってよかった…』
「…どうして……」
いち早く現実を悟ったセレンの顔が悲壮に歪む。
ベンは茫然とするばかりで、ただただ"シエルのような姿の何か"を見ていることしかできない。
「シエル!!どうしてよ!!なんで?!」
両目から涙を溢れさせながら、セレンが叫ぶ。
その瞳は絶望に満ち、感情に任せてシエルを詰る。
「なんで…!なんでそんなことしたの?!!あたしはッ…!あたし達は、そんなこと望んでない…!!」
セレンが絶叫するように訴えると、シエルはゆっくりと閉じていた双眸を開いた。
シエルとセレンの視線がぶつかり合う。
その一瞬の出来事で、セレンはシエルを見つめた表情のまま、ぴくりとも動かなくなってしまった。
―――まるで、石のように。
「…! デオ!あいつの目を見るな!」
「お、おう!だけど、どうなってんだ?!」
『私の目を見るとね、命あるものはみんな、石になってしまうんだよ』
「え…?」
間近で聞こえた声にはっとしてデオが顔を上げると、翡翠のような澄んだ瞳が見えた。
しまった!と思うのも束の間、デオの意識は遠のいていく。
「デオ!!」
『ごめんね、これ以上みんなに怪我をして欲しくなかったから…。でも大丈夫。悪魔が完全に消滅すれば、石化も解除されるから』
シエルはこの場に似つかわしくない笑顔を見せた。
優しさに溢れた、シエルらしい花のような笑顔だった。
それを視界の端で感じ取りながら、ベンは悪魔だったものがシエルになったという現実を受け入れる他なかった。
「シエル…」
『遅くなっちゃって、本当にごめんなさい。ベンも怪我、してるね…』
「心配ない。かすり傷だ。それより…」
ベンは気が狂いそうな感覚を理性で抑えつけながら、平静に尋ねた。
「悪魔の体を奪って、これからどうする気だ?元には戻れるのか?」
『元には、戻らないよ』
ベンの期待を粉々に打ち砕くように、シエルはきっぱりと言い放った。
『これから太陽に向かって飛ぶつもり。そうすれば、悪魔は燃え尽きて消滅して、おしまい。もう誰も戦わなくて済むし、もう誰も傷つかない』
『良い方法でしょう?』と、シエルは微笑む。
これからすることが最良の方法なのだと、心の底から信じているかのように。
ベンの心臓がどくりと嫌な音を立てた。
「どこが…、良い方法なんだ?そんなことをして、お前はどうなる…?」
『言ったでしょう?私はもう悪魔と一体化したの。だから私も一緒に消滅するよ』
「シエル。それはだめだ。許さない」
『……?』
「他にもっと方法があるだろう。どうしてお前が犠牲になるんだ…!俺は、」
『ベン』
焦燥感を露わに言い募ろうとするベンを遮って、シエルが名前を呼んだ。
『ベンもわかっているんでしょう…?こうするのが一番、平和的な解決だって』
「平和的…?」
『私が悪魔を乗っ取らなかったら、みんなはもっとひどい怪我をしたと思うし、殺されていたかもしれない…。私は、みんなを守れてよかったと思ってるの。今なら、まだ元に戻ることはできる…と思う。でももしここで融合を解いたら、私はまた何もできない。またみんなに守ってもらうだけの、何の力もない、ただの足手まとい…。それなら、みんなを助けられる今、できることをしたいの』
シエルの真っ直ぐな声が、静かな空間に響く。
シエルが一度こうすると決めたら頑固なことを、ベンはよく知っている。
どうすれば考え直してくれるだろう。
どうすれば自分の考えが間違いだと気付いてくれるだろうか。
絶望感に襲われながら、ベンは真っ白になりそうな頭で必死に考えた。
『ベン。最後まで私のことを助けようとしてくれて、ありがとう。でも、もういいの』
「いいって、何が…」
全てを諦めたようなシエルが気にかかり、その先の言葉を想像して吐き気がする。
時間稼ぎをしようと何とか会話を続けてはいたが、シエルを説得できるような、気の利いた言葉が出てこない。
『カネルの時も、昨日も、これまでもずっと…姉さんから頼まれていたんでしょう…?だから困った時に助けてくれたり、守ってくれたり…したんだよね?』
「シエル、」
『ごめんね、ベン。もう守らなくてもいいよ。私なんかのことでベンを煩わせてしまって…本当にごめんなさい。これからは、ベンのしたいことをして。本当に大切な人のことを―――レイチェルさんのことを、守ってあげて』
思いもよらないことを指摘されて、ベンの頭は更に混乱した。
シエルがどうしてそんな思考になっているのか、理解が追いつかない。
すぐに言葉を返せないでいると、それを肯定と受け取ったシエルが儚げに微笑んだ。
だが、シエルと視線を合わせないようにしていたベンは気付かない。
『…そろそろ、いくね。姉さん、兄さんによろしく。たくさん迷惑かけてごめんなさいって、伝えて欲しい。エミリやケヴィンにも…こんな出来損ないの姉でごめんなさい、って…』
僅かに風が生まれたのを感じて、ベンははっと顔を上げた。
シエルの背中から生えた悪魔の羽が大きく広がり、今にも飛び立とうとしている。
ベンは必死の想いで手を伸ばして、その手首を掴んだ。
それと同時に、昨夜シエルの部屋の前でセレンに言われた言葉を思い出していた。
―――許してもらうには、相手がまた信頼してくれるまで"心"を返し続けるしかないの。
―――あんたがしたことは、そういうことよ。
「…っ、シエル、だめだ…!」
『……』
「融合を、解いてくれ…」
ベンはシエルを逃がすまいと、手に力を込めた。
この手を離せば、シエルは本当に悪魔と共に消えてしまう。
「俺がお前を守るのは、俺がそうしたいからだ。誰かに頼まれてしていることじゃない」
『……』
「あの夜も、昨日も…、リアには反対されたが、俺から2人にお前を傍で見守りたいと頼んだ。他の誰かじゃなく、俺の手でお前を慰めてやりたかったし、少しでも長く傍にいたかった。お前のことが大切だから…」
『……そう言いなさいって、エリック兄さんにでも言われた?』
真実を話せば、すぐに誤解は解けると思っていた。
だが事態はベンが思うよりずっと深刻で、沈黙の後に降って来たシエルの声は氷のように冷たかった。
今までに聞いたことのない軽蔑を含んだ響きに、ベンの全身から血の気が失せ、喉が張り付いたように動かなくなる。
『もしあの夜のことで責任を感じているなら、私、気にしていないから…。ベンに慰めてもらって、カネルにされたことを一時は忘れられたし、感謝してるの。ベンが私を好きだからしたわけじゃないって、ちゃんとわかってるし、たった一度のことで責任取ってなんて言わないよ』
「シエル、っ…」
『でも、あれはレイチェルさんに対して裏切り行為だよ。ベンの優しさは嬉しいけど…、優しくすることが人を傷つけることだってあるの。レイチェルさんのことを大切に思うなら、するべきじゃなかった。放っておけばよかったんだよ』
「シエル!!」
突き放すような物言いに、ベンの中で何かが切れた。
辛うじて保っていた理性の糸がぶつりと切れる。
シエルの手首を強引に引き寄せて、その体を腕の中に閉じ込める。
もう形振り構ってなどいられなかった。
ぎゅうと抱き締めれば、シエルが離れようと身を捩った。
それを強い口調で押し留める。
「じっとしてろ!」
耳元で怒鳴ると、シエルはびくりと体を震わせて、大人しくなった。
怯えさせてしまったと雰囲気で感じ取ったベンは、自己嫌悪に陥りながらも深呼吸を繰り返した。
伝えたいことほど冷静に、落ち着いて話さなければ届かない。
「シエル、聞いてくれ。俺は、これまで何度もお前に助けられてきた。リアもエリックも、エミリもケヴィンもリースもだ。お前が生きてるだけで、俺も、お前の家族もセレンもみんな、笑って暮らせてる」
シエルは、自分で気が付いていないだけなのだ。
彼女の存在は、ただそこにいるだけで、少なからず身近な人間の救いになっていた。
「いまの俺があるのは、シエルのおかげだ。シエルがいたから、俺は強くなろうと思った。お前を守れるように…」
『……』
「俺だけじゃない。みんなお前のことが大切なんだ。お前がいなくなったらと思うと、俺は…」
『…私1人がいなくなっても、誰も困らないでしょう?何もできないお荷物な私が生きていたって、ただみんなに迷惑をかけるだけ…』
「みんなお前に何かしてもらいたいなんて思ってない。お前に何ができるかなんて、どうでもいいんだよ…!」
伝わらないもどかしさから、ベンの語気が強くなる。
シエルの柔らかな髪に頬を寄せて、更に深く抱き込んだ。
「何もできなくたっていい!ただ生きてるだけでいいんだ!お前が生きているだけで、リアもエリックも、エミリもケヴィンもリースも、セレンもデオも俺も…!みんな幸せなんだよ…!」
ベンの脳裏には、ベッドに横たわったまま動かないシエルの姿が浮かんでいた。
魔力が殆ど抜き取られた身体は、ただ呼吸を繰り返すだけの人形のまま。
あの花のような笑顔も、シエルのどんな表情も見ることはできず、温かく柔らかな体を抱きしめても抱きしめ返されることはない。
閉ざされた瞼は開かれることがなく、耳に心地よく響く声で名前を呼ばれることも、言葉を交わして心通わせることもできない。
シエルのいない未来は、ただ死を待つだけの空虚な時間となるだろう。
「…お前の気持ちを裏切るようなことをして、すまなかったと思っている。だけど俺は…お前の家族は、お前を必要としてる。お前が死んだら悲しむだろう。だから、悪魔との融合を解いて欲しい。一緒に消滅するなんて言わないでくれ。頼む…」
家族に劣等感を抱き、周囲から評価されず、努力をしても空回りする。
そんな出来事が続いて自己肯定感が低くなってしまっていることを知っていたのに、自分の行動によって簡単に死を選ぶほど追いつめてしまったという事実を痛感して、ベンは泣きたくなった。
他に方法があったかも知れないなどと、今更後悔しても遅い。
でもシエルを救うために自分にできることがまだあると信じたい。
ベンは精一杯の誠意を込めて、シエルに懇願した。
たとえ自分のことを許せなくても、死を選ぶことは思い留まって欲しい。
―――大切な家族や、友達の為に。
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