上 下
8 / 41

冷たい太陽(1)

しおりを挟む
暗くなった空を見上げて、リアは腕時計を確認した。
時刻は17時を過ぎている。

「遅くなっちゃったわね…」

今日の任務は家族写真にかけられた呪いの解除だった。
予定ではもっと早く終わらせられるはずだったのだが、予想以上に呪いがこんがらがっていて思いがけなく手古摺ってしまった。

(まったく…人を呪わば穴二つって言葉知らないのかしら?)

肩を軽く回して凝りをほぐしながら、リアは溜息を吐く。
これから学院に戻って報告書を提出するとなると、家に帰れるのは日が沈んだ後になりそうだ。
連絡を入れておこうと、首から下げたガーネットを持ち上げて魔力を注ぎ込む。
するとリアが通信を繋ごうとする前に発光し始めたので慌てて指先で表面をつついた。

〈リア。終わったか?〉

透明に変わった石の表面に顔が映り込む前に男性の落ち着く声が聞こえてきた。
間もなくして恋人の姿が見えた途端、僅かに頬を緩ませる。

「うん、ちょうど今終わったところ。これから戻るわ。エリックは?」
〈俺も今から戻るところだ。まだシエルが帰っていないようだから、急いだ方がいいと思ってな〉
「そうなの? また残って練習してるのかしら…。わかったわ、急いで戻る。ベンに連絡はした?」
〈いや…まだだ。昨日からシエルの様子がおかしいから、連絡するかどうか迷ってる〉
「そうね…」

確かに、昨夜はシエルの様子が変だった。
体調が良くないと言って部屋から出てこず、そのくせしっかり7人分の夕食を作っていた。
部屋の前で話をした時も、声はくぐもっていたが言葉もはっきり話せていたし、本当に体調が悪いようには思えなかった。
今朝は起きたらもうシエルがいなくなっていて驚いた。
誰にも何も言わずに家を出ていくなんて、今まで一度もなかった。
二人はこの行動の理由がベンを避けるためにしていることだと見抜いていた。

(またベンを迎えに行かせたらシエルは気まずいかも知れないわね…)

2人の間に何があったか知らないが、ああまでする程ならシエルが立ち直るまでそっとしておいた方がいいかも知れない。

「…それじゃあ、もしエリックが私より先に学院に着くようならシエルを迎えに行ってくれる? 私の方が早ければ私が行くわ」
〈わかった。学院に着いたら連絡してくれ。俺も連絡する〉
「了解」

それで通信が切れると思いきや、エリックが何やら意地の悪そうな笑みを浮かべているのを見て嫌な予感がした。

〈リア。急ぎすぎて小石に躓かないように気をつけろよ。じゃあな〉
「うるさいっ!いつの話をしているのよ?!」

憤慨して返すと、エリックは忍び笑いを零して返事もしないまま一方的に通信を切った。
彼はこうして時々幼い頃のドジを蒸し返してはからかってくる。
怒ってはみせてもそんなやり取りを楽しんでいるので、止めて欲しいとは言わない。
リアはガーネットから光が消えるのを見届けると、ペンダントから手を離して足を速めた。



その頃、シエルは襲いかかってきたカネルに諦めずに抵抗を続けていた。
はじめは頑なに口を噤んでいたが、カネルに唇を噛まれて舌の侵入を許してしまった。
口内を掻き回されるように舐め回されて、鉄のような味と苦痛にうめき声を上げる。
これでベン以外の男の子に2度も唇を奪われてしまった。
一刻も早く離れて欲しくて、体をよじり、足をバタバタとさせる。
両手は床に縫い付けられたままびくともしない。

「んーっ!! むっ…んっ…んんーっ!!」

口を塞がれているため、思い切り叫んでも唸り声にしかならない。
まともに呼吸もできない状態で暴れているために酸欠で視界も霞んでくる。
それでも必死に声を上げていると、ようやくカネルが顔を離した。

「…っあ、うるせーんだよさっきから!」

数cmの距離から声量も気にせず怒号を飛ばすあたり、どうやらカネルは正気に戻ったわけではなさそうだった。
耳がおかしくなりそうだったが、そんなことよりもシエルは息をすることで精一杯だった。
はあはあと胸を大きく上下させて呼吸を繰り返しながら、涙で潤んだ目でカネルを見上げる。

「も…やめて、カネル」
「あ?」
「私が何かしちゃったなら謝るから…もうこんなことしないで…」

相変わらずカネルの目は冷たくて、シエルへの憎悪がひしひしと伝わってくる。
何故こんなに嫌われてしまったのか全く心当たりがないために余計に悲しくなる。
これ以上傷付きたくない。
これ以上触れられたくない。
これ以上惨めな気持ちになりたくない。
好きでもない異性に無理矢理こんなことをされたとベンに知られたら、彼はどう思うだろうか。
誰とでもキスするような軽薄な女性だと思われるかも知れない。
それが原因で今までの関係も崩れることになったらと思うと、恐怖で心が凍り付きそうだった。
涙を流しながら懇願したシエルだったが、目の前にいる男はどこまでも非情だった。

「ハハ、止めろだって? 黙れよ出来損ない! てめえは大人しく最後まで俺にヤられてればいーんだよ!!」

先程よりも大きな声で怒鳴られた瞬間、シエルは顔面に強い衝撃を受けた。
ぐらぐらと頭の中が揺れている。
まるで中身が丸ごとどこかへ吹き飛んでいってしまうような感覚を覚だった。
それを怖いと認識したと同時に頬に鋭い痛みが走り、続け様にもう一発容赦のない拳が飛んできて星が散る。

「うっ…あ…」
「フン、ようやく大人しくなったな。最初っからそうしてればいいんだよ」

軽く脳震盪を起こしているのか、乗り物酔いをしたみたいに気持ちが悪い。
シエルは辛うじて目を開けてはいるものの、瞳は虚ろになって人形のように動かなくなった。
カネルは静かになったシエルのローブに手をかけると、前を留め具ごと引きちぎった。
躊躇いなく制服に手を伸ばしてリボンタイを引き抜き、乱雑に放ってブラウスを引き千切る。
ボタンがいくつか弾け飛び、柔らかい絨毯の上に消えていった。
抵抗がないことをいいことに、カネルは下着まで取り去った。
露わになった乳房を見下ろしてじっくり視姦した後、朦朧としているシエルの顎を掴んで顔を覗き込む。

「ざーんねん、もうお前は純潔じゃねーよ」

ぴくりと、シエルの体が反応した。

「意外と胸もでけーし、楽しませてもらうな? 穢れたレメディオスさんよ」

カネルの指と唇が遠慮なしに乳房をまさぐりはじめる。
一方を乱暴に揉みしだき、もう一方には噛み付いて歯型を付け、突起に吸い付いたり舌で転がしたりして執拗に弄ぶ。
戻りかけた意識の中で痛みを感じたシエルは微かに顔をしかめた。
胸の先から電気が走り、その痺れるような感覚に意思とは関係なく声が漏れてしまう。
未知の感覚が恐ろしく、それがカネルに触られているからだと思うと吐き気が込み上げてきた。

「うっ…やっ…はっ…」
「ふーん? いっちょ前に喘ぎ声かよ。犯されてんのに感じるとか、淫乱だな、お前」

淫乱という言葉がシエルの胸に深く沈みこむ。
そんなんじゃないと否定したいのに、上手く言葉が出てこない。
今すぐにでも止めて欲しいはずなのに、体はまるでその刺激を欲しがるかのように熱くなっていく。
もっともっとと強請るように湧きあがる快感に比例して嫌悪感も大きくなる。
触れている手も舌も、こんなことをされて悦ぶ体も、口から漏れる自分の声も、何もかも全てが気持ち悪い。
耳を塞ぎたいが指一本動かせそうになくて、固く瞼を閉じて視界に入る情報を遮断する。
何も見えない。
何も聞こえない。
何も感じない。
暗示をかけるように心の中で何度も繰り返して、唇を噛みしめる。
カネルに噛まれた時にできた傷から血が滲んでピリピリと痛んだ。
そうしている内にスカートの中に手が侵入して、太腿を乱暴に掴まれた。
驚く間もなくショーツが脚から引き抜かれて、シエルは本能的に抵抗した。

「やっ、やだ! やだやだやだ!!」
「邪魔だどけろ。腕折られてーのか」
「やだやめて!!それは本当にやめて!!うっ…!」
「フン、嫌かどうかは直接ここで確かめてやるよ」

両腕は頭上に纏め上げられ、太腿は膝で押さえつけられてしまった。
身動きが取れない中、カネルはシエルのひだを掻き分けて蜜口に指先を突っ込んだ。
鋭い痛みがシエルに襲いかかり、あまりの激痛に息を詰まらせる。
カネルはそのまま中指を根元まで押し入れると、中で指を屈折させながら乱暴に掻き回した。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!

ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。 幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。 婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。 王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。 しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。 貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。 遠回しに二人を注意するも‥ 「所詮あなたは他人だもの!」 「部外者がしゃしゃりでるな!」 十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。 「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」 関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが… 一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。 なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

私のバラ色ではない人生

野村にれ
恋愛
ララシャ・ロアンスラー公爵令嬢は、クロンデール王国の王太子殿下の婚約者だった。 だが、隣国であるピデム王国の第二王子に見初められて、婚約が解消になってしまった。 そして、後任にされたのが妹であるソアリス・ロアンスラーである。 ソアリスは王太子妃になりたくもなければ、王太子妃にも相応しくないと自負していた。 だが、ロアンスラー公爵家としても責任を取らなければならず、 既に高位貴族の令嬢たちは婚約者がいたり、結婚している。 ソアリスは不本意ながらも嫁ぐことになってしまう。

私が産まれる前に消えた父親が、隣国の皇帝陛下だなんて聞いてない

丙 あかり
ファンタジー
 ハミルトン侯爵家のアリスはレノワール王国でも有数の優秀な魔法士で、王立学園卒業後には婚約者である王太子との結婚が決まっていた。  しかし、王立学園の卒業記念パーティーの日、アリスは王太子から婚約破棄を言い渡される。  王太子が寵愛する伯爵令嬢にアリスが嫌がらせをし、さらに魔法士としては禁忌である『魔法を使用した通貨偽造』という理由で。    身に覚えがないと言うアリスの言葉に王太子は耳を貸さず、国外追放を言い渡す。    翌日、アリスは実父を頼って隣国・グランディエ帝国へ出発。  パーティーでアリスを助けてくれた帝国の貴族・エリックも何故か同行することに。  祖父のハミルトン侯爵は爵位を返上して王都から姿を消した。  アリスを追い出せたと喜ぶ王太子だが、激怒した国王に吹っ飛ばされた。  「この馬鹿息子が!お前は帝国を敵にまわすつもりか!!」    一方、帝国で仰々しく迎えられて困惑するアリスは告げられるのだった。   「さあ、貴女のお父君ーー皇帝陛下のもとへお連れ致しますよ、お姫様」と。 ****** 週3日更新です。  

悪意か、善意か、破滅か

野村にれ
恋愛
婚約者が別の令嬢に恋をして、婚約を破棄されたエルム・フォンターナ伯爵令嬢。 婚約者とその想い人が自殺を図ったことで、美談とされて、 悪意に晒されたエルムと、家族も一緒に爵位を返上してアジェル王国を去った。 その後、アジェル王国では、徐々に異変が起こり始める。

婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた

cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。 お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。 婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。 過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。 ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。 婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。 明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。 「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。 そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。 茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。 幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。 「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?! ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

戻る場所がなくなったようなので別人として生きます

しゃーりん
恋愛
医療院で目が覚めて、新聞を見ると自分が死んだ記事が載っていた。 子爵令嬢だったリアンヌは公爵令息ジョーダンから猛アプローチを受け、結婚していた。 しかし、結婚生活は幸せではなかった。嫌がらせを受ける日々。子供に会えない日々。 そしてとうとう攫われ、襲われ、森に捨てられたらしい。 見つかったという遺体が自分に似ていて死んだと思われたのか、別人とわかっていて死んだことにされたのか。 でももう夫の元に戻る必要はない。そのことにホッとした。 リアンヌは別人として新しい人生を生きることにするというお話です。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

処理中です...