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哀しい決意
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校舎の窓から夕暮れを眺めながら、シエルは長く感じた1日を振り返った。
特に今日の実技の授業は散々だった。
相手の放った魔法を相殺するオフセットという呪文の練習だったのだが、シエルはことごとく相殺に失敗した。
何度も体が吹き飛んだせいで背中は痛いし、関節もギシギシと痛む。
きっと至る所にいくつも青痣ができているに違いない。
そのことでまた嘲笑を浴びてしまい、座学の授業では周囲の視線が気になって集中できず先生に注意を受けてしまった。
よかったことと言えばセレンがシエルの気持ちを察して何も聞かずに傍にいてくれたことくらいだ。
(また練習しなきゃ…)
本当は昨日のように急いで帰って誰にも会わずに部屋に籠りたかったが、「オフセットはB級の必修魔法だから必ずできるようになるように」と先生にプレッシャーをかけられたら「顔を合わせづらいから帰る」なんて理由がひどく稚拙でちっぽけなもののように思えた。
シエルが放課後に演習室へ行くのはもはや日課になりつつあって、居残ること自体に抵抗はない。
ぼんやりと校門を見下ろしながら、帰宅する生徒達の頭を眺める。
そうしているうちに時間は無常に過ぎていき、下校時間まで残り1時間もなくなっていた。
いつまでもこうしているわけにはいかないと、シエルは溜息を吐いて窓から離れる。
気合いを入れ直して双眸を閉じ、呪文を唱えようとしたその時――シエルはあることに気がついた。
(相手がいない…)
一定量の魔力を維持し続けるシールドとは違って、オフセットは何もないところで呪文を唱えても意味のない魔法だ。
発動はするかもしれないが、相殺するには相手の放った魔法のレベルと出力を合わせる必要があるので一人では練習にならない。
シエルは自分の考えの至らなさに呆れて立ち尽くした。
今日は他の魔法を練習しようという気持ちにもなれず、ただぼんやりと空を見つめる。
そしていつかこの部屋でベンが練習に付き合ってくれた日のことを思い出した。
(もし今ここに、ベンがいてくれたら…)
あり得ない想像を膨らませて、シエルはくすりと笑った。
きっとベンとならどんなに難しい魔法も習得できるような気がしたからだ。
だがそんなふわふわと甘い綿菓子のような妄想は、校舎の外から聞こえる賑やかな声にかき消された。
現実は、殺風景な部屋にひとりきり。
(ベンを避けているのに来るはずないよね…)
昨日の昼休み、デオとキスしているところをベンに見られた。
あれはシエルのファーストキスだった。
そしてベンの隣には誰もが称賛する恋人のレイチェルがいた。
シエルは想いを寄せている人以外の異性と恋人のようなキスしているところを見られた揚句に、絶対に叶わない恋の終わりを突き付けられた。
無意識にごしごしとローブの袖で自分の唇を拭って、脳裏に残る映像を閉め出すようにぎゅうと目を瞑る。
いつの間にかまた涙がぽろぽろと零れて、シエルはその場に膝をついた。
デオがどうしてあんなキスをしたのかはわからないが、彼にとってはいつものスキンシップのつもりだったのだろう。
そこに運悪くベンが現れた。
更に運の悪いことに、ベンがレイチェルと手を繋いでいるところも見えてしまった。
(本当に…生まれたときから運無しなんだから…)
シエルは何一つ良さの見つからない自分を恨めしく思った。
胸が苦しくて、どうしていいかわからない。
せめて魔法が一人前に使えたなら、これほど惨めな気持ちになることもなかったかも知れない。
魔法が上手く発動できないのは幼い頃からだった。
両親も姉妹もそんなシエルのことをいつだって励まして、信じて応援してくれた。
その期待に応えたいと思うのに、なかなか応えられないもどかしさがシエルを苛む。
その上、彼らに混ざってシエルを応援してくれていたベンが自分以外の誰かを選んだという事実がひどく彼女を打ちのめした。
結局自分には誰かに好きになってもらえるような魅力はないと思い知らされたようだった。
お前は無価値な人間だと言われたような気がした。
でも、それでも、生きるのを諦めようとは思わなかった。
シエルは深呼吸をして涙を拭う。
悲嘆に暮れていても時間は過ぎていくし、やらなければならないことはなくならない。
(よし。今日はちゃんとみんなとご飯食べよう…)
同じ家で暮らしているのだから、いつまでも顔を合わせないのは不可能だ。
あの家は両親のものだが、シエルはベンを追い出したいわけではない。
このまま避け続ければ、心配した姉がベンに一人暮らしをするように勧めてしまうかも知れない。
たとえ自分が選ばれなくても彼には苦労をかけさせたくないし、しあわせになって欲しい。
(ベンのことは好き。隣には並べなくても、好きでいるのは私の自由。悪いことなんかじゃない)
特別な存在になれなくても、味方にはなれる。
そう結論を出したシエルは、立ち込めていた暗雲が開けたような心地がした。
(私、ベンが好きだよ。伝えたら迷惑かもしれないから言わないけど、何があっても私はベンの近くにいる。こんな私でも何かできることがあるって、信じたいから…)
口には出さない代わりに心の中で吐き出すと、息苦しさが少しだけ和らいだ気がした。
ふふ…と笑みが零れて、笑えるようになった自分はもう大丈夫だと思えてくる。
だがもしここに鏡があれば、元気になったと思うのは気のせいだとわかっただろう。
その笑みはシエルの本来の笑顔ではない、ひどく寂しそうで愁いを纏ったものだった。
(明日セレンに話そう。きっと私が話すまで待ってくれるつもりだろうから)
突然泣き出した友達の身に何があったのか知りたかっただろうに、シエルの気持ちを優先して寄り添ってくれた。
やはり彼女はシエルにとって無二の親友で、大切にしたい人だと改めて実感する。
先程よりも気持ちが上向きになったシエルは、時計を見てびっくりした。
あれから30分も経っていて、もうすぐ下校時間だ。
慌てて立ち上がって帰る支度をしようとした時、演習室の扉が勝手に開いた。
今まで居残っている間に人が訪ねてきたことはベンの時が初めてだった。
2度目の来訪者にシエルはどっきりして、鞄を持とうとかがめていた体を起こした。
(もしかしてまたベンが迎えに来てくれたのかな…?)
そうだとするとやっぱりまだ気まずいと思いながらも、入室してきた人物に注目する。
それはシエルにとってものすごく意外な人だった。
「カネル…?」
驚きのあまり思わず名前を呼ぶと、彼は感情のない瞳でシエルを見やった。
緩慢な動きでドアノブを開き、何も言わずに静かに閉める。
いつもと様子の違うカネルに、シエルは何とも言えない恐怖を覚えた。
すれ違えば睨み付け、声をかければ悪態を吐いてくる彼が、ただじっとシエルを見据えている。
その沈黙がやけに恐ろしくて、シエルは本能的に一歩後退った。
するとカネルは距離を詰めるように一歩一歩ゆっくりと近づいて来る。
直感的に身の危険を感じたシエルは、カネルが入ってきた方ではないもう一つの扉まで走ろうとした。
だがその足は床から生えた魔法の蔦に絡みつかれて転倒する。
衝撃をやり過ごす間もなく、足音が近づいてきて咄嗟に上体を起こした。
強い力で左手首を掴まれて体を持ち上げられてしまう。
「い、痛いよカネル…」
足首に巻き付いていた蔦はいつの間にか消え、シエルは吊るされるように床から立ち上がることを強要される。
止めて欲しいことを遠回しに訴えたが、逆に更に力を込められてしまって痛みに呻いた。
手首の骨が砕けてしまいそうなほどの激痛だった。
「カ…ネル…いた、い…」
涙目で見上げたシエルを見つめる彼は、何を考えているのか全く読み取れない。
シエルが手を離そうと抵抗すれば、今度は首を絞められて上手く息ができない。
「…なんで」
「うっ…ぐ…」
苦痛に顔を歪ませるシエルの目の前で、カネルが独り言のように呟く。
シエルの白い肌に日に焼けた指が食い込んでいく。
「いっ…あ…」
「…なんで、こんなやつが…」
「か、は…っ…」
いよいよ意識が遠のきそうになった瞬間、気道が解放された。
突き飛ばされた体はよろけて床に倒れ込み、一気に肺の中に空気が送り込まれて激しく咳き込む。
カネルの表情は次第に怒気を帯びはじめていた。
「どうすればいい…?」
誰に尋ねるわけでもなく、彼は呟き続けている。
「どうすればベンに近づかなくなる…?」
痛む首を抑えて呼吸を整えながら、シエルはぶつぶつと譫言を口走るカネルを呆然と見上げた。
どこかで「逃げろ」と警笛が鳴っている。
シエルは再び逃走を試みて、運の悪いことに失敗した。
カネルが彼女の背中に容赦なく攻撃魔法を放ち、教壇の傍まで吹き飛ばした。
受け身も取れず、したたかに全身を打ち付けたシエルは痛みに嘔吐く。
床を転がった時に絨毯で擦ったのか、膝からは血が滲み出ていた。
何かを閃いた様子で微笑を浮かべながらカネルが近づいて来る。
「近づかないようにするより、近づけないようにする方が簡単だな」
怯えた目を向けて来るシエルを冷徹に見下ろしたカネルは、先程の攻撃でよれた胸倉を乱暴に掴みあげた。
ブラウスのボタンで首が締め付けられて息が詰まる。
「ううっ…」
「落ちこぼれの分際で、いい気になるなよ」
どうしてこんなひどいことをされるのか、シエルにはわからなかった。
だがカネルがもっとひどいことをしようとしていることだけはわかって、痛みも忘れて両手足をバタつかせる。
シエルの抵抗は全て失敗に終わった。
彼女は再び床に放り投げられ、倒れ込んだところを強引に仰向けにさせられて両手の自由を奪われる。
「お前が二度とベンに近づけないようにしてやるよ」
床に組み敷かれたシエルは、逃げる間もなくカネルに強引に唇を奪われた。
特に今日の実技の授業は散々だった。
相手の放った魔法を相殺するオフセットという呪文の練習だったのだが、シエルはことごとく相殺に失敗した。
何度も体が吹き飛んだせいで背中は痛いし、関節もギシギシと痛む。
きっと至る所にいくつも青痣ができているに違いない。
そのことでまた嘲笑を浴びてしまい、座学の授業では周囲の視線が気になって集中できず先生に注意を受けてしまった。
よかったことと言えばセレンがシエルの気持ちを察して何も聞かずに傍にいてくれたことくらいだ。
(また練習しなきゃ…)
本当は昨日のように急いで帰って誰にも会わずに部屋に籠りたかったが、「オフセットはB級の必修魔法だから必ずできるようになるように」と先生にプレッシャーをかけられたら「顔を合わせづらいから帰る」なんて理由がひどく稚拙でちっぽけなもののように思えた。
シエルが放課後に演習室へ行くのはもはや日課になりつつあって、居残ること自体に抵抗はない。
ぼんやりと校門を見下ろしながら、帰宅する生徒達の頭を眺める。
そうしているうちに時間は無常に過ぎていき、下校時間まで残り1時間もなくなっていた。
いつまでもこうしているわけにはいかないと、シエルは溜息を吐いて窓から離れる。
気合いを入れ直して双眸を閉じ、呪文を唱えようとしたその時――シエルはあることに気がついた。
(相手がいない…)
一定量の魔力を維持し続けるシールドとは違って、オフセットは何もないところで呪文を唱えても意味のない魔法だ。
発動はするかもしれないが、相殺するには相手の放った魔法のレベルと出力を合わせる必要があるので一人では練習にならない。
シエルは自分の考えの至らなさに呆れて立ち尽くした。
今日は他の魔法を練習しようという気持ちにもなれず、ただぼんやりと空を見つめる。
そしていつかこの部屋でベンが練習に付き合ってくれた日のことを思い出した。
(もし今ここに、ベンがいてくれたら…)
あり得ない想像を膨らませて、シエルはくすりと笑った。
きっとベンとならどんなに難しい魔法も習得できるような気がしたからだ。
だがそんなふわふわと甘い綿菓子のような妄想は、校舎の外から聞こえる賑やかな声にかき消された。
現実は、殺風景な部屋にひとりきり。
(ベンを避けているのに来るはずないよね…)
昨日の昼休み、デオとキスしているところをベンに見られた。
あれはシエルのファーストキスだった。
そしてベンの隣には誰もが称賛する恋人のレイチェルがいた。
シエルは想いを寄せている人以外の異性と恋人のようなキスしているところを見られた揚句に、絶対に叶わない恋の終わりを突き付けられた。
無意識にごしごしとローブの袖で自分の唇を拭って、脳裏に残る映像を閉め出すようにぎゅうと目を瞑る。
いつの間にかまた涙がぽろぽろと零れて、シエルはその場に膝をついた。
デオがどうしてあんなキスをしたのかはわからないが、彼にとってはいつものスキンシップのつもりだったのだろう。
そこに運悪くベンが現れた。
更に運の悪いことに、ベンがレイチェルと手を繋いでいるところも見えてしまった。
(本当に…生まれたときから運無しなんだから…)
シエルは何一つ良さの見つからない自分を恨めしく思った。
胸が苦しくて、どうしていいかわからない。
せめて魔法が一人前に使えたなら、これほど惨めな気持ちになることもなかったかも知れない。
魔法が上手く発動できないのは幼い頃からだった。
両親も姉妹もそんなシエルのことをいつだって励まして、信じて応援してくれた。
その期待に応えたいと思うのに、なかなか応えられないもどかしさがシエルを苛む。
その上、彼らに混ざってシエルを応援してくれていたベンが自分以外の誰かを選んだという事実がひどく彼女を打ちのめした。
結局自分には誰かに好きになってもらえるような魅力はないと思い知らされたようだった。
お前は無価値な人間だと言われたような気がした。
でも、それでも、生きるのを諦めようとは思わなかった。
シエルは深呼吸をして涙を拭う。
悲嘆に暮れていても時間は過ぎていくし、やらなければならないことはなくならない。
(よし。今日はちゃんとみんなとご飯食べよう…)
同じ家で暮らしているのだから、いつまでも顔を合わせないのは不可能だ。
あの家は両親のものだが、シエルはベンを追い出したいわけではない。
このまま避け続ければ、心配した姉がベンに一人暮らしをするように勧めてしまうかも知れない。
たとえ自分が選ばれなくても彼には苦労をかけさせたくないし、しあわせになって欲しい。
(ベンのことは好き。隣には並べなくても、好きでいるのは私の自由。悪いことなんかじゃない)
特別な存在になれなくても、味方にはなれる。
そう結論を出したシエルは、立ち込めていた暗雲が開けたような心地がした。
(私、ベンが好きだよ。伝えたら迷惑かもしれないから言わないけど、何があっても私はベンの近くにいる。こんな私でも何かできることがあるって、信じたいから…)
口には出さない代わりに心の中で吐き出すと、息苦しさが少しだけ和らいだ気がした。
ふふ…と笑みが零れて、笑えるようになった自分はもう大丈夫だと思えてくる。
だがもしここに鏡があれば、元気になったと思うのは気のせいだとわかっただろう。
その笑みはシエルの本来の笑顔ではない、ひどく寂しそうで愁いを纏ったものだった。
(明日セレンに話そう。きっと私が話すまで待ってくれるつもりだろうから)
突然泣き出した友達の身に何があったのか知りたかっただろうに、シエルの気持ちを優先して寄り添ってくれた。
やはり彼女はシエルにとって無二の親友で、大切にしたい人だと改めて実感する。
先程よりも気持ちが上向きになったシエルは、時計を見てびっくりした。
あれから30分も経っていて、もうすぐ下校時間だ。
慌てて立ち上がって帰る支度をしようとした時、演習室の扉が勝手に開いた。
今まで居残っている間に人が訪ねてきたことはベンの時が初めてだった。
2度目の来訪者にシエルはどっきりして、鞄を持とうとかがめていた体を起こした。
(もしかしてまたベンが迎えに来てくれたのかな…?)
そうだとするとやっぱりまだ気まずいと思いながらも、入室してきた人物に注目する。
それはシエルにとってものすごく意外な人だった。
「カネル…?」
驚きのあまり思わず名前を呼ぶと、彼は感情のない瞳でシエルを見やった。
緩慢な動きでドアノブを開き、何も言わずに静かに閉める。
いつもと様子の違うカネルに、シエルは何とも言えない恐怖を覚えた。
すれ違えば睨み付け、声をかければ悪態を吐いてくる彼が、ただじっとシエルを見据えている。
その沈黙がやけに恐ろしくて、シエルは本能的に一歩後退った。
するとカネルは距離を詰めるように一歩一歩ゆっくりと近づいて来る。
直感的に身の危険を感じたシエルは、カネルが入ってきた方ではないもう一つの扉まで走ろうとした。
だがその足は床から生えた魔法の蔦に絡みつかれて転倒する。
衝撃をやり過ごす間もなく、足音が近づいてきて咄嗟に上体を起こした。
強い力で左手首を掴まれて体を持ち上げられてしまう。
「い、痛いよカネル…」
足首に巻き付いていた蔦はいつの間にか消え、シエルは吊るされるように床から立ち上がることを強要される。
止めて欲しいことを遠回しに訴えたが、逆に更に力を込められてしまって痛みに呻いた。
手首の骨が砕けてしまいそうなほどの激痛だった。
「カ…ネル…いた、い…」
涙目で見上げたシエルを見つめる彼は、何を考えているのか全く読み取れない。
シエルが手を離そうと抵抗すれば、今度は首を絞められて上手く息ができない。
「…なんで」
「うっ…ぐ…」
苦痛に顔を歪ませるシエルの目の前で、カネルが独り言のように呟く。
シエルの白い肌に日に焼けた指が食い込んでいく。
「いっ…あ…」
「…なんで、こんなやつが…」
「か、は…っ…」
いよいよ意識が遠のきそうになった瞬間、気道が解放された。
突き飛ばされた体はよろけて床に倒れ込み、一気に肺の中に空気が送り込まれて激しく咳き込む。
カネルの表情は次第に怒気を帯びはじめていた。
「どうすればいい…?」
誰に尋ねるわけでもなく、彼は呟き続けている。
「どうすればベンに近づかなくなる…?」
痛む首を抑えて呼吸を整えながら、シエルはぶつぶつと譫言を口走るカネルを呆然と見上げた。
どこかで「逃げろ」と警笛が鳴っている。
シエルは再び逃走を試みて、運の悪いことに失敗した。
カネルが彼女の背中に容赦なく攻撃魔法を放ち、教壇の傍まで吹き飛ばした。
受け身も取れず、したたかに全身を打ち付けたシエルは痛みに嘔吐く。
床を転がった時に絨毯で擦ったのか、膝からは血が滲み出ていた。
何かを閃いた様子で微笑を浮かべながらカネルが近づいて来る。
「近づかないようにするより、近づけないようにする方が簡単だな」
怯えた目を向けて来るシエルを冷徹に見下ろしたカネルは、先程の攻撃でよれた胸倉を乱暴に掴みあげた。
ブラウスのボタンで首が締め付けられて息が詰まる。
「ううっ…」
「落ちこぼれの分際で、いい気になるなよ」
どうしてこんなひどいことをされるのか、シエルにはわからなかった。
だがカネルがもっとひどいことをしようとしていることだけはわかって、痛みも忘れて両手足をバタつかせる。
シエルの抵抗は全て失敗に終わった。
彼女は再び床に放り投げられ、倒れ込んだところを強引に仰向けにさせられて両手の自由を奪われる。
「お前が二度とベンに近づけないようにしてやるよ」
床に組み敷かれたシエルは、逃げる間もなくカネルに強引に唇を奪われた。
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