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1 アザクラちゃんの会心の一撃!俺に[[rb:999 > クリティカル]]のダメージ!]

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アザクラちゃん……浅倉大志。あさくらたいし。20歳。大学生。172センチ。たぶん攻。
マキシマ……牧島充希。まきしまみつき。20歳。大学生。188センチ。おそらく受。
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[chapter:1 アザクラちゃんの会心の一撃!俺に[[rb:999 > クリティカル]]のダメージ!]
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「おっすー」
「はよ。なぁなぁ掲示板ー午後の休講見た?」
「見た。あれよな、後藤教授のさー……俺出席そろそろやべーのよ……」
「あ、マキシマだ! こっちこっち!」

 大学の講義室内の後ろの方で賑やかな陽キャの真ん中からアザクラちゃんは今日も俺を呼ぶ。手をあげて、ぴょんこ、と跳ねて主張する男。
 [[rb:浅倉大志 > あさくらたいし]]。学部が一緒の同級生。俺より背の低い、顔のいい男。人懐こいワンコみたいに嫌みのない真っ正直な性格は人を寄せるのか、アザクラちゃんの周りはいつも賑やかだ。
 赤黄色銀色茶色……鮮やかな髪の色の集団には染めたことのない黒髪の俺はそぐわない気がする。
 ひょろい陰キャの俺は陽キャ集団にお呼ばれすること事態ちょっと勘弁してほしいんだけど、でもアザクラちゃんに声を掛けてもらえるのは結構嬉しい。顔には出さないけど。

「おはよう……」
「マキシマほらコレ先週のプリント! お前さ急に休むなら俺にメールしとけよな?」
「え。あ。……ありがとう」
「いえいえー」

 アザクラちゃんは美人じゃないが肌が綺麗だ。赤い髪がよく似合う。長めの髪を後ろで一つに括ってる。煙草も吸うし、サークルの飲み会だっていつも呼ばれているっぽい。アザクラちゃんの周りはいつも賑やかで華々しい。
 笑うと可愛い。へにゃりと崩れたように笑うのが目を惹く。一口めのプリンみたいだ。一番美味しいところ。ぐずぐずでぷるぷるで口のなかで甘く冷たくとけていく。
 それをわかってるのは俺だけでいいと思う。
 他のやつらは口にいれるまで茶碗蒸しだと思ってればいい。俺だけは舌の上でとろけるその裏切りの甘さに目を見開いて、ただただ多幸感に酔いしれたい。

「礼ならBランチでいいよぉ」
「はは。んじゃ、お昼に学食行こうか。奢る」

 浅倉たかってんの、牧島かわいそ、そうじゃねーし、あははは。
 んじゃあとで。一番後ろの席に座ってアザクラちゃんの赤い後頭部を眺める。頭の形、丸くて、さらさらで、赤くて目立つ。俺は無駄に背があるから前の席だと迷惑がかかるから、アザクラちゃんは一緒に講義受けようぜって言ってくれるけど、きっとそれは無理な話だ。アザクラちゃんの隣には俺なんか相応しくないのだ。……それでも。俺の視界に入ってて、くれる、くらいの、ご褒美、は、許してくれるだろうか。
 アザクラちゃんどうか俺にだけ笑って。と。わがままで卑怯で臆病で根暗な俺は思ったりする。……そんな毎日を繰り返しては積み上げていく。

……

 ……はずだったのに、よくわからない飲み会に何故か俺は連れて来られている。
 そんで隣にはアザクラちゃんがいる。イツメンの連中もいる。ということは、これは陽キャの合コン的なあれなのではないかと推測できる。

「ごめん、マキシマ。メンツ足りてなくて無茶ぶりした!」
「……いいけど俺、こういうの慣れてなくて……粗相したらごめん」
「だーいじょぶ! 俺の隣でマキシマは飲んで食ってりゃいいから」
「……それノリ悪くない?」
「いいのいいの!」
「……ふぅん?」
「とりあえず生でいい?」
「あ。俺ハイボール……頼んでもいい? 最近飲めるようになって……」
「おけおけ! ハイボールな!」
「……ん。あんがと」

 周りが陽キャ集団なので俺は俺でいつものように空気になって、アザクラちゃんの言うとおりそこにいるだけでよかった。それでも隣のアザクラちゃんが時々俺に会話を向けてくれるのでそれに答えたり、空いた皿やグラスを脇に片したり、注文するために店員を呼んだりしたけど。

「牧島くんは、なんか他の人と雰囲気違うねぇ?」

 向かいに座ってニコニコしている女の子がふと呟いた。

「あは。俺は数合わせで……たまたまここにいるだけです」
「そうなの? あ、お皿空いてるよ。唐揚げ取ってあげようか?」
「……あ、う、はい……」
「牧島くん何飲んでるの」
「ハイボール、っす」
「私も同じのほしいな。店員さーん!注文いいですか!」

 皿に取り分けてくれた唐揚げを箸でつつきながら、俺は女の子をまじまじと観察した。黒髪のおっとりした子だ。名前、名前は確か。

「……え、と、鈴鹿……さん?」
「え」
「ハイボール意外と癖あるから無理しない方がいいよ。俺がソフドリ頼んであげるから、もしダメだったら無理しないで交換しよ?」
「……ふふ。牧島くんやさしー」

 いやいや、そっちこそ優しいからね、と慌てて続ける俺。
 その横でニコニコするアザクラちゃんが俺の皿にあった唐揚げを勝手にもぐもぐ食っている。一口がでかいし、口いっぱいにもぐもぐしてるアザクラちゃんは見ていて飽きない。もっと食ってるとこ見たい。でも隣だとあんまりがっつりじっくり見れない。せいぜい横目でチラ見するくらいで。

「あ、俺の唐揚げ!」
「んへ、うまー」
「ええー、そんなに浅倉くんお腹減ってたー?」
「俺、お肉大好きなの。むっちゃ食うよぉ」
「肉食系? ふふ、男の子がいっぱい食べるのいいなぁ。他にも追加しようか」
「マキシマ、お前は何が食いたいの?」

 ────アザクラちゃんが食べたい。

「……適当に頼んでくれたら、それでいい」

 ポロっと言いそうになるまずい言葉をハイボールで流し込んで、飲み込む。女の子の前で、そんなこと考えてるなんて知られたらまずい。アザクラちゃんの横で俺は適当に飲んで食う。それだけを心掛けていつの間にか俺はアルコールのグラスをしこたま空けていったみたいだった。

……

 潰れた俺を引き取るね、とアザクラちゃんが合コンのメンバーをお見送りしている……のを、俺は寝かされた座敷の隅っこでぼんやりと見ていた。座布団を雑に敷かれてるけどまぁまぁ寝心地はいい。

「お水どーぞ」

 戻ってきたアザクラちゃんがペットボトルを俺に寄越してくれる。ありがたい、と受け取って起き上がってごくごく飲んだ。半分くらい。あー、生き返るー。

「落ち着いたら帰ろ? 送ってく」
「……ん、ありがと」

 もうちょいゴロゴロさせてもらってからアザクラちゃんとお店を出た。外はすっかり夜に飲まれて、暗くて、ギラギラしたネオンがビルとビルの隙間をチカチカ照らしてて、暗いのに変に明るかった。夜の世界って変なの。それをアザクラちゃんと俺でふらふら泳いでるのもなんかおかしい。
 マキシマはさぁ、とアザクラちゃんが上目遣いでちらっと俺を見る。うん、と素っ気なく、出来るだけ何も思ってないしお前居たのちっさくて見えてなかったやって感じに留めておく。嘘。全然見てるし。気にしてるし。いつだってどこでだってアザクラちゃんを探してる。赤いアザクラちゃんの髪を俺はいつも俺の世界の中に入れておきたい。

「結構わかりやすいよな」
「…………うん?」
「いっつもなんも言わんけどさ。なんか、なんとなくだけど……お前の好きなものが俺にはわかる」
「何が」
「ミルクティーだと紅茶花伝が好きだろ」
「うん」
「木曜日の食堂のB定食に付いてくるポテトサラダ」
「うん」
「それにソースぶっかけるのも好き」
「うん」
「心理学の講義の美濃山教授の板書の文字」
「うん、好き」
「あと寿司屋のマスコット」
「かわいいよね」
「猫」
「吸いたい」
「あと俺」

 うん?
 首を傾げてアザクラちゃんを見下ろす。

「……でっしょぉ!」

 自信満々なその顔で俺にへにゃっと笑いかけるのずるくない!?!?!?!? アザクラちゃんずるくない!?!?

「ん、好き……」

 ぽろっと言ってしまってから、あ、あ、違う、と焦って否定する。

「違うから! あ、あ、う、アザクラちゃんのこと好きじゃなくてっ、大好きだから!!!!!」

 びっくりしたように一瞬、固まって俺を見つめたアザクラちゃんに俺は、あ、あ、と口を開いたり閉じたりしていた。わ、失敗した、どうしよう! どうしよう、どうしたらいい?

「……ごめ、俺っ、まだ酔ってて────」

 頭ん中ぐちゃぐちゃのまま焦って焦って、あうあう呻いている俺に美人じゃないアザクラちゃんはやっぱりへにゃりとプリンが崩れたように笑った。

 ────くははは、それは知ってたけどぉ!

「マキシマがそんな声張れるの、俺初めて知ったわ!」

 まぁ、ほら、まだまだ知らんこともあるよな。お前のこと知りたいからもっと近づいていーい?
 そうやって一歩、二歩、アザクラちゃんが俺に寄る。立ち止まれば腕を引っ掴まれて、一言。

「俺もマキシマだーいすき♡」

 ────不意討ちで告げられて、急所に会心の一撃を食らう俺はもう瀕死で体力ゲージが尽きる寸前のゴミだった。もうダメ。ほんとダメ。アザクラちゃんラスボスすぎてつらい。あー、ほんと、アザクラちゃん、大好き。

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