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約束の果て、
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しおりを挟む入れ違いに病室に顔を出したのは奈義だった。
「……支度は出来たか」
「ん。おっけ、社長と菅元が今退院手続きやってるから、二人が来たらすぐにでも帰れるよ」
「――じゃ、二人が来る前に行くか」
「行くって、どこに?」
「……ついてこい」
さっさと奈義がドアの向こうに消えてしまうから、俺は慌てて後を追う。
「待ってよ、奈義!」
廊下の突き当たりを左に折れて、第二病棟と第三病棟を繋ぐ渡り廊下を進む。関係者以外立ち入り禁止のプレートを見た気がしたけど、看護士さんたちが奈義のことを咎める様子もない。
「……ね、どこに行くの?」
俺は多分、わかってる。この先に誰がいるのかってのは。
奈義は返事もしないで廊下の突き当たりにある扉の前でようやく足を止めた。ネームプレートも部屋番号もない、明らかに他の病室とは違うその扉には施錠してあるらしかった。奈義はポケットからカードキーを出して、慣れた仕草で扉の機械に通す。
「……奈義」
俺が開いた扉の前で戸惑って奈義を見上げると、奈義は眉間のシワをもっと深くして、俺の腕を引ったくった。そのまま病室に連れ込まれて、後ろで扉が静かに閉まる音がした。
「早く会ってやれ」
「待って、俺――まだ心の準備が、」
そこは、すごく綺麗な病室だった。
真っ白な壁と高い天井。広さで言えば俺と奈義の住む安アパートと同じくらいの広さがある。簡易ベッドや冷蔵庫、テレビからソファーまで完備されたこの部屋が病室だと思い出させるのは、やはり中央に置かれたパイプベッドだった。
病室の主は俺と奈義を無言で迎える。
「………」
俺が想像していたよりずっと、有田謙は幼く見えた。俺と同じくらいの青年には見えない。奈義は何も言わずに俺の背中を押し、あとはソファーに身を沈めた。
「奈義……」
戸惑う俺に奈義は聞こえないふりをする。
俺は小さく息を吐き、有田譲の側に立ったまま彼の顔を覗き込んだ。
夢の中で見た悲しげな表情は無く、穏やかな寝顔がそこにはあった。
(――聞こえる? 譲)
俺は彼に語りかける。
まだあの闇に囚われているかもしれない彼に向かって。
(約束を果たしにきたよ。覚えてる? 君のために歌を歌うって――)
彼の手を握ると、ほんのりとした温かさが伝わってきた。容態はいつ好転するとも急変するともわからないらしい。だからこそ、奈義は仕事の合間をみては有田譲のもとに通っていたんだろう。
その命の儚さゆえに。
「……約束したんだから、必ず俺の歌を聞いてもらうからね」
そして、彼の目を覚ましてあげよう。
心を込めて、彼だけのために歌おう。
あの狭間の闇の中でたった一人囚われている彼だけに届くように。
彼の闇を取り去ることが出来るように。
(次には笑って、再会しよう)
こっちに彼を取り返してからが、俺たちの初めましてと再会だ。
そうだろう?
譲……。
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