上 下
12 / 41

12後朝のふたり

しおりを挟む
「・・・ん・・」

「おはよう、グレイス。まだ夜明け前だけど」

まだ夢の中かしら?
だって隣に、夢にまで焦がれた人の顔が・・・。

「へっ、陛下っ?!」

そ、そうだった・・・。
昨夜私、ついに陛下と・・・!

「また間違えてる。ちがうだろう?」

ふいに顔を近づけて、悪戯っぽく耳元に囁きかける。

「昨夜はあんなに情熱的に呼んでくれたのに」

・・・!!
やっ、やだもう。

「さあ、言って」

「・・・さま」

「なに?」

「・・・ドさま」

「聞こえないよ」

「りっ、リチャード様!」

「うん。よくできました。いずれは、様もとってね」

嬉しそうに言うと、彼は耳まで真っ赤になっている私を抱き寄せ、額にキスをする。
彼の唇から伝わる熱と、身体から発する雄の匂いに、頭がクラクラしてしまう。

夢みたい・・・。
この方と、こんなふうに過ごすことができるなんて・・・。

幼い頃、戴冠式で初めて拝見したときから、憧れて憧れて。
けれどすでに王妃様がいらして、お二人が並ぶ姿はまるで、夢を見ているように美しくて。
だから私は、ただ星に焦がれるように、いつまでも遠くから見つめているつもりだった・・・。


「さあ、いつまでもこうしていたいけど、そうもいかない。このままいたら、君を壊してしまいそうだ」

やっ、やだ・・・。
リチャード様ったら。

「身体がつらいだろう?グレイス。
昨夜は優しくしようと思ったのに、自分を止められなかった」

やっ、やだっ!

「今日は休んで寝ているといい。子どもたちの世話は僕がしよう」

そ、それは、ありがたいけれど、いいのかしら?実はさきほどから、身体の節々が痛む。気だるさもあるし、できるのなら休んでいたい。

「かまわないよ。今日は街の視察だし、子どもたちも連れて行こう」

「それはいいですわ!リア様もタクト様も、お父さまに会えなくてさびしそうでしたもの。大喜びなさいますよ!」

そう言ったあと、お二人から預かった手紙のことを思い出し、リチャード様に手渡す。

「まずはリアだな。なになに?
“お父さま、いつまでもおげんきでいてね”
すっかり年寄り扱いだな笑
おっ、この絵はリアとタクト、僕、君じゃないか。あの子は本当に上手だなぁ」

すっかり破顔して、父親の顔になっていらっしゃる。私はこの、お子さま方がかわいくて仕方ないという顔が大好きだ。
夜の顔にもドキドキするけど・・・って、なに言ってるの私?!

「次はタクトだな。
はは、やっぱりリアの真似してる、絵も文もそっくりだ。
んん?いつまでも、が、『いつもまで』になってるぞ、かわいいなぁ笑」


いろいろあったけれど、お二人の手紙を手渡しできてよかった。

お二人からの手紙を代わる代わる読んで、そのたびに笑っているリチャード様を見ながらそう思った。


星空の下、リチャード様に抱えられ、自室に戻った。
歩くと言ったのに、私に触れていたいからと譲らなくて・・・。




「くっ、あの小娘。下賤の身でリチャード陛下を籠絡するとは・・・っ!」

グレイスがリチャード陛下に抱えられ、自室に戻ったころ。

ふたりがどうやら蜜月の時を過ごしたようだ、と報告を受けたファティマ皇女は、貴賓室で息を切らしながら、鞭で小姓を打ち据えていた。

気に食わないことがあればその者に責がなくても暴力を振るうのが、ファティマ皇女だった。
それゆえ、仕える者たちは皆、皇女の顔色を伺ってビクビクしているが、本人は気にもとめていない。王族以外は人間と思っていないのだ。

「ゆるさぬ、ゆるさぬぞ・・・」

リチャード陛下と甘い時を過ごすのは、自分だったはずなのだ。
昨夜は極上のワインを餌に、磨き上げたこの身体でリチャードを酔わせるはずだった。私室を訪れてみると大臣たちもいたのには腹が立ったが、去り際のあのキスで、リチャードが感じていたのは間違いない。なぜなら口内に、ザッハール王家に伝わる強力な媚薬を仕込んでいたのだから。

あのとき、あの娘さえ現れなかったら!
夜が更けるころには、官能の満ち潮に耐えられなくなったリチャードが、自分のもとを息も絶え絶えに訪れていたはずだったのだ。

なおも怒りがおさまらぬファティマ皇女は、侍従を呼ぶと、なにやら申しつけた。


「媚薬の効果とも知らず、リチャード陛下を陥落させたと有頂天になっておればよいぞ、小娘め!わたくしを風下に置いた罪は、その身で償わせてやろうぞ」

ご機嫌を損なわぬうちにそそくさと立ち去る侍従には目もくれず、満面の笑みを浮かべてそう呟いたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました

扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!? *こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。 ―― ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。 そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。 その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。 結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。 が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。 彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。 しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。 どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。 そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。 ――もしかして、これは嫌がらせ? メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。 「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」 どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……? *WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。

【R18】悪役令嬢を犯して罪を償わせ性奴隷にしたが、それは冤罪でヒロインが黒幕なので犯して改心させることにした。

白濁壺
恋愛
悪役令嬢であるベラロルカの数々の悪行の罪を償わせようとロミリオは単身公爵家にむかう。警備の目を潜り抜け、寝室に入ったロミリオはベラロルカを犯すが……。

暴君幼なじみは逃がしてくれない~囚われ愛は深く濃く

なかな悠桃
恋愛
暴君な溺愛幼なじみに振り回される女の子のお話。 ※誤字脱字はご了承くださいm(__)m

【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。

三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。 それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。 頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。 短編恋愛になってます。

慰み者の姫は新皇帝に溺愛される

苺野 あん
恋愛
小国の王女フォセットは、貢物として帝国の皇帝に差し出された。 皇帝は齢六十の老人で、十八歳になったばかりのフォセットは慰み者として弄ばれるはずだった。 ところが呼ばれた寝室にいたのは若き新皇帝で、フォセットは花嫁として迎えられることになる。 早速、二人の初夜が始まった。

【R18】国王陛下に婚活を命じられたら、宰相閣下の様子がおかしくなった

ほづみ
恋愛
国王から「平和になったので婚活しておいで」と言われた月の女神シアに仕える女神官ロイシュネリア。彼女の持つ未来を視る力は、処女喪失とともに失われる。先視の力をほかの人間に利用されることを恐れた国王からの命令だった。好きな人がいるけどその人には好かれていないし、命令だからしかたがないね、と婚活を始めるロイシュネリアと、彼女のことをひそかに想っていた宰相リフェウスとのあれこれ。両片思いがこじらせています。 あいかわらずゆるふわです。雰囲気重視。 細かいことは気にしないでください! 他サイトにも掲載しています。 注意 ヒロインが腕を切る描写が出てきます。苦手な方はご自衛をお願いします。

処理中です...