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12後朝のふたり
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「・・・ん・・」
「おはよう、グレイス。まだ夜明け前だけど」
まだ夢の中かしら?
だって隣に、夢にまで焦がれた人の顔が・・・。
「へっ、陛下っ?!」
そ、そうだった・・・。
昨夜私、ついに陛下と・・・!
「また間違えてる。ちがうだろう?」
ふいに顔を近づけて、悪戯っぽく耳元に囁きかける。
「昨夜はあんなに情熱的に呼んでくれたのに」
・・・!!
やっ、やだもう。
「さあ、言って」
「・・・さま」
「なに?」
「・・・ドさま」
「聞こえないよ」
「りっ、リチャード様!」
「うん。よくできました。いずれは、様もとってね」
嬉しそうに言うと、彼は耳まで真っ赤になっている私を抱き寄せ、額にキスをする。
彼の唇から伝わる熱と、身体から発する雄の匂いに、頭がクラクラしてしまう。
夢みたい・・・。
この方と、こんなふうに過ごすことができるなんて・・・。
幼い頃、戴冠式で初めて拝見したときから、憧れて憧れて。
けれどすでに王妃様がいらして、お二人が並ぶ姿はまるで、夢を見ているように美しくて。
だから私は、ただ星に焦がれるように、いつまでも遠くから見つめているつもりだった・・・。
「さあ、いつまでもこうしていたいけど、そうもいかない。このままいたら、君を壊してしまいそうだ」
やっ、やだ・・・。
リチャード様ったら。
「身体がつらいだろう?グレイス。
昨夜は優しくしようと思ったのに、自分を止められなかった」
やっ、やだっ!
「今日は休んで寝ているといい。子どもたちの世話は僕がしよう」
そ、それは、ありがたいけれど、いいのかしら?実はさきほどから、身体の節々が痛む。気だるさもあるし、できるのなら休んでいたい。
「かまわないよ。今日は街の視察だし、子どもたちも連れて行こう」
「それはいいですわ!リア様もタクト様も、お父さまに会えなくてさびしそうでしたもの。大喜びなさいますよ!」
そう言ったあと、お二人から預かった手紙のことを思い出し、リチャード様に手渡す。
「まずはリアだな。なになに?
“お父さま、いつまでもおげんきでいてね”
すっかり年寄り扱いだな笑
おっ、この絵はリアとタクト、僕、君じゃないか。あの子は本当に上手だなぁ」
すっかり破顔して、父親の顔になっていらっしゃる。私はこの、お子さま方がかわいくて仕方ないという顔が大好きだ。
夜の顔にもドキドキするけど・・・って、なに言ってるの私?!
「次はタクトだな。
はは、やっぱりリアの真似してる、絵も文もそっくりだ。
んん?いつまでも、が、『いつもまで』になってるぞ、かわいいなぁ笑」
いろいろあったけれど、お二人の手紙を手渡しできてよかった。
お二人からの手紙を代わる代わる読んで、そのたびに笑っているリチャード様を見ながらそう思った。
星空の下、リチャード様に抱えられ、自室に戻った。
歩くと言ったのに、私に触れていたいからと譲らなくて・・・。
「くっ、あの小娘。下賤の身でリチャード陛下を籠絡するとは・・・っ!」
グレイスがリチャード陛下に抱えられ、自室に戻ったころ。
ふたりがどうやら蜜月の時を過ごしたようだ、と報告を受けたファティマ皇女は、貴賓室で息を切らしながら、鞭で小姓を打ち据えていた。
気に食わないことがあればその者に責がなくても暴力を振るうのが、ファティマ皇女だった。
それゆえ、仕える者たちは皆、皇女の顔色を伺ってビクビクしているが、本人は気にもとめていない。王族以外は人間と思っていないのだ。
「ゆるさぬ、ゆるさぬぞ・・・」
リチャード陛下と甘い時を過ごすのは、自分だったはずなのだ。
昨夜は極上のワインを餌に、磨き上げたこの身体でリチャードを酔わせるはずだった。私室を訪れてみると大臣たちもいたのには腹が立ったが、去り際のあのキスで、リチャードが感じていたのは間違いない。なぜなら口内に、ザッハール王家に伝わる強力な媚薬を仕込んでいたのだから。
あのとき、あの娘さえ現れなかったら!
夜が更けるころには、官能の満ち潮に耐えられなくなったリチャードが、自分のもとを息も絶え絶えに訪れていたはずだったのだ。
なおも怒りがおさまらぬファティマ皇女は、侍従を呼ぶと、なにやら申しつけた。
「媚薬の効果とも知らず、リチャード陛下を陥落させたと有頂天になっておればよいぞ、小娘め!わたくしを風下に置いた罪は、その身で償わせてやろうぞ」
ご機嫌を損なわぬうちにそそくさと立ち去る侍従には目もくれず、満面の笑みを浮かべてそう呟いたのだった。
「おはよう、グレイス。まだ夜明け前だけど」
まだ夢の中かしら?
だって隣に、夢にまで焦がれた人の顔が・・・。
「へっ、陛下っ?!」
そ、そうだった・・・。
昨夜私、ついに陛下と・・・!
「また間違えてる。ちがうだろう?」
ふいに顔を近づけて、悪戯っぽく耳元に囁きかける。
「昨夜はあんなに情熱的に呼んでくれたのに」
・・・!!
やっ、やだもう。
「さあ、言って」
「・・・さま」
「なに?」
「・・・ドさま」
「聞こえないよ」
「りっ、リチャード様!」
「うん。よくできました。いずれは、様もとってね」
嬉しそうに言うと、彼は耳まで真っ赤になっている私を抱き寄せ、額にキスをする。
彼の唇から伝わる熱と、身体から発する雄の匂いに、頭がクラクラしてしまう。
夢みたい・・・。
この方と、こんなふうに過ごすことができるなんて・・・。
幼い頃、戴冠式で初めて拝見したときから、憧れて憧れて。
けれどすでに王妃様がいらして、お二人が並ぶ姿はまるで、夢を見ているように美しくて。
だから私は、ただ星に焦がれるように、いつまでも遠くから見つめているつもりだった・・・。
「さあ、いつまでもこうしていたいけど、そうもいかない。このままいたら、君を壊してしまいそうだ」
やっ、やだ・・・。
リチャード様ったら。
「身体がつらいだろう?グレイス。
昨夜は優しくしようと思ったのに、自分を止められなかった」
やっ、やだっ!
「今日は休んで寝ているといい。子どもたちの世話は僕がしよう」
そ、それは、ありがたいけれど、いいのかしら?実はさきほどから、身体の節々が痛む。気だるさもあるし、できるのなら休んでいたい。
「かまわないよ。今日は街の視察だし、子どもたちも連れて行こう」
「それはいいですわ!リア様もタクト様も、お父さまに会えなくてさびしそうでしたもの。大喜びなさいますよ!」
そう言ったあと、お二人から預かった手紙のことを思い出し、リチャード様に手渡す。
「まずはリアだな。なになに?
“お父さま、いつまでもおげんきでいてね”
すっかり年寄り扱いだな笑
おっ、この絵はリアとタクト、僕、君じゃないか。あの子は本当に上手だなぁ」
すっかり破顔して、父親の顔になっていらっしゃる。私はこの、お子さま方がかわいくて仕方ないという顔が大好きだ。
夜の顔にもドキドキするけど・・・って、なに言ってるの私?!
「次はタクトだな。
はは、やっぱりリアの真似してる、絵も文もそっくりだ。
んん?いつまでも、が、『いつもまで』になってるぞ、かわいいなぁ笑」
いろいろあったけれど、お二人の手紙を手渡しできてよかった。
お二人からの手紙を代わる代わる読んで、そのたびに笑っているリチャード様を見ながらそう思った。
星空の下、リチャード様に抱えられ、自室に戻った。
歩くと言ったのに、私に触れていたいからと譲らなくて・・・。
「くっ、あの小娘。下賤の身でリチャード陛下を籠絡するとは・・・っ!」
グレイスがリチャード陛下に抱えられ、自室に戻ったころ。
ふたりがどうやら蜜月の時を過ごしたようだ、と報告を受けたファティマ皇女は、貴賓室で息を切らしながら、鞭で小姓を打ち据えていた。
気に食わないことがあればその者に責がなくても暴力を振るうのが、ファティマ皇女だった。
それゆえ、仕える者たちは皆、皇女の顔色を伺ってビクビクしているが、本人は気にもとめていない。王族以外は人間と思っていないのだ。
「ゆるさぬ、ゆるさぬぞ・・・」
リチャード陛下と甘い時を過ごすのは、自分だったはずなのだ。
昨夜は極上のワインを餌に、磨き上げたこの身体でリチャードを酔わせるはずだった。私室を訪れてみると大臣たちもいたのには腹が立ったが、去り際のあのキスで、リチャードが感じていたのは間違いない。なぜなら口内に、ザッハール王家に伝わる強力な媚薬を仕込んでいたのだから。
あのとき、あの娘さえ現れなかったら!
夜が更けるころには、官能の満ち潮に耐えられなくなったリチャードが、自分のもとを息も絶え絶えに訪れていたはずだったのだ。
なおも怒りがおさまらぬファティマ皇女は、侍従を呼ぶと、なにやら申しつけた。
「媚薬の効果とも知らず、リチャード陛下を陥落させたと有頂天になっておればよいぞ、小娘め!わたくしを風下に置いた罪は、その身で償わせてやろうぞ」
ご機嫌を損なわぬうちにそそくさと立ち去る侍従には目もくれず、満面の笑みを浮かべてそう呟いたのだった。
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