上 下
58 / 76

58

しおりを挟む
「へたれな勇者ロイド様、姫様がお呼びです、20分後にご同行いただけますか?」

 呆然としていた俺に投げかけられた言葉にハッとする。

「失礼かと思いますが、姫様からヘタレたらこう言う様に申し付かっておりますのでご容赦を」

「あ、ああ」

 不機嫌そうに頭を下げるアンジェに付けられた侍女さんに気圧される。

「ルイス様の事は安心して下さいとの言伝も申し付かっておりますのでこのまま時間までお待ちください」

「わかった……」

 言葉に従い待つ事になる。

 絶対零度の眼差しを受けながら待つ時間のなんともいたたまれなく長い事か……

 気まずくて何かをしようにも手に付かず、更にルイスが心配ということもあり何かしないといけないと思いつつも何も出来ない、そんな辛い20分を過ごす。

 妹のままじゃ嫌、ルイスの言ったその言葉を思い出し、言葉が頭の中でぐるぐる回る。

 どうしたらいいのか、ルイスはどうしたら安心してくれるのか、最後に見せた涙が心を抉る。

「それではご案内いたします、付いてきて下さい。」

 思考に囚われているところに声が響く。

 冷たい眼差しで頭を下げる侍女さんの声を受けてハッとして頷きを返し部屋を後にする。

 付いていく間もルイスの事を考えてしまう。

 小さい頃からいつも懐いてきて、笑って、泣いて、怒って、楽しんで、色んな表情のルイスをみてきたけど、今日のようなルイスを見た事はなかった。

 不安げで、辛く、苦しく、それでもそのままでいられない。

 このままでいいのか、こうしていいのか、とても悩み、苦しんでいるあんな姿を見た事は今まで無かった。

 そんな姿がぐるぐると頭の中を回り、埋めていく。

「おはいりください」

 不意にかけられた言葉に思考が戻る。

 いつの間にかアンジェの部屋に付いていたようだ。

「どうされましたか?早くお入りになってください」

 冷たい言葉を繰り返される。

「ああ、すまない、少し考え事をしていた」

 気圧されながら言葉を返しながら促されるままに部屋に入る。

「お待ちしていましたわ、ヘタレなロイド様」

 部屋に入るなり笑顔で辛辣な言葉をかけられるが、何もいえない。

「そのお顔だと分かっていらっしゃるようなので早速本題にはいりますわ、こちらに」

 案内されるままに部屋の奥に二つある一つについていく、そこに待っていた人物を見た瞬間に目を見張る。

「お兄ちゃん……」

 それはルイスも一緒でその瞳を揺らす。

「ルイス、できるわね?」

「うん……」

 そういって優しく話しかけるアンジェに頷くルイス。

 そして意を決した表情で立ち上がり俺の前に立つ。

「お兄ちゃん、あのね」

 そう言って不安そうに言葉を紡ぐ。

「私、お兄ちゃんが好き」

 それは俺も同じだ、大事な妹だし。

「俺もルイスの事は好きだぞ」

 しかしその言葉にルイスは首を振る。

「ううん、違うの、お兄ちゃん、私はお兄ちゃんの事、家族としてだけじゃなくって、その、一人の女として、男の人、男性としてのお兄ちゃんが好き」

 その言葉に衝撃を受ける。

「今までは、兄妹だからってあきらめる事ができてたの。でも!」

 そういって眼差し強く顔をあげる、その姿に目を吸い寄せられる。

「お兄ちゃんと血のつながりがなくて、私、妹じゃなくて、一人の女としてお兄ちゃんの、貴方のとなりにずっといさせて欲しいって思うようになったの、だから!」

 そして決意を込めるように一拍を置いた後にその言葉は紡がれた。

「妹としてじゃなく、一人の女として、お兄ちゃんじゃない、ロイドさんの隣にいさせて下さい、これから先ずっと、一緒にいてください」

 その言葉に今日最大の衝撃を受ける。

 意を決した言葉を紡いだルイスの瞳は不安そうに揺れている。

 すぐに安心させてやりたい、しかしそれでいいのかとどこかで思ってしまう。

 そして出した結果は

「少し、待ってくれないか、気持ちの整理がつかなくて、すぐに返事できそうにない」

 その言葉にルイスの瞳が曇る。

「俺もルイスの事は好きだ、大事にしてやりたいと思ってずっと生きてきた、だけど、それは妹としてのルイスで、今の言葉に答える用意が出来ていないんだ、今の状態で、勢いだけで返事をしたら、きっと後悔するから、すまない、少しだけ時間をくれ」

 そう言って頭を下げる。

 こんな時、何も考えずに抱きしめてやれれば、安心させてやれればと自分を恨む。

 これは自分のエゴだ、自分を納得させたい為の、とてもずるい行い。

 罵倒されようと嫌われようと、軽蔑されようと文句の言えない、とても卑怯な。

 それでも

「うん、わかった、待ってるから」

 そう言ってルイスは笑ってくれた。

 とても切なそうな、辛そうな微笑。

 見ていて痛々しくなるその微笑から目が離せなくなっていると後ろから声がかけられた。

「ロイド様、ルイスは疲れているのでこちらに、少しお話する事もありますので」

 その言葉と共にアンジェに手を引かれて部屋から連れ出される。

「男女の事なので何も言いませんが、約束してほしい事があります」

 無表情なアンジェが言葉を紡ぐ。

「私の事は気にせずに、今はあの子の事だけを先ず考えてあげてください、私には構わず、先ずはあの子の事を考えて下さい。その結果どうなっても、私にはどうにでもすることが出来ます、だから、私の大事な親友の事、お願いします」
 
 その言葉には真剣な、思いやりと、切実な思いが込められていて、断るなんていう選択肢はない。

「わかった」

 その言葉を返すのが精一杯で、笑顔のアンジェに見送られて部屋を退出する。

 ルイスが何を言っているのかは、分かる。

 妹としてのルイスが自分を好きでいてくれているというのは分かっていた。

 あれだけ懐いてくれていたし、関係も良好だったんだから、それが分からない程じゃない。

 でも、そういう感情を持っているとは思っていなかったし、俺もそういう感情の対象としてみていなかった。

 生まれたその日から知っていて。

 兄妹として色んな事を一緒にして、一緒に暮らして一緒に過ごしてきたんだから。

 そういう感情を抱けという方が間違いだ。

 いや、間違いが起きてしまうからそういう感情とは切り離して考えていた。

 しかし両親のあの告白。

 理性に倣う男の俺と、理性で縛り付けていた女のルイス、あの告白はその違いを明確にしたのだ。

 倣って進んでいた線路がなくなった俺と、線路で無理やり行き先を変えられていたルイス。

 それがお互いの態度の違いに結びついたのだ。

 ルイスの事は大事。

 それは間違いない。

 しかし今の俺達には兄妹という関係性がない。

 そういう宙ぶらりんなところで、そのままいけてしまう俺と、不安を抱えていたルイス。

 それが今のお互いの差であり、困惑する原因なのである。

 その線路がなかったらどうなっていたかは分からない。

 分からないが、俺の心の進路は、今まで向かっていた進路から外れたところに進みだした。

 それがどこを向いているのか、混乱する俺には未だ分かる事ではなかった。




アイ「おい、なんでそこで応えてやらないんだ!このヘタレ息子!私は悲しいぞ!!!」
リリ「ちょっとアイリス、落ち着いて!ほら貴方も、この子をとめて」
アラ「いや、リリー、アイリスのいう事はもっともだ、俺だって今すぐあいつをぶん殴ってやりたい、よりにもよってルイスを泣かせるとは、ロイドの野郎……」
リリ「ああもう、なんでこんなに血の気の多い」
アイ「それはちがうぞリリー、あんなに可愛いルイスを泣かせたんだ、怒るのは当然だろう!」
アラ「そうだそうだ!」
リリ「あら、アラン?貴方がそれを言えるのかしら?私も散々待たされて泣かされたんだけど?」
アラ「そ、そうだったか(滝汗)」
アイ「確かにそうだったな、リリーに何回相談されて泣き疲れてロイドのいる腹に抱きつかれたか、となるとこれはアランのせいか?」
アラ「いや、それとこれとは……」
リリ&アイ「問答無用!」
アラ「ぎゃあああああああああ」

あと2話か3話くらいで次フェイズに移ります。
最初恋愛事情書く気なかったのに書いたら大変な事に……
最後は力技に頼るかもしれません(滝汗)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

最難関ダンジョンで裏切られ切り捨てられたが、スキル【神眼】によってすべてを視ることが出来るようになった冒険者はざまぁする

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
【第15回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作】 僕のスキル【神眼】は隠しアイテムや隠し通路、隠しトラップを見破る力がある。 そんな元奴隷の僕をレオナルドたちは冒険者仲間に迎え入れてくれた。 でもダンジョン内でピンチになった時、彼らは僕を追放した。 死に追いやられた僕は世界樹の精に出会い、【神眼】のスキルを極限まで高めてもらう。 そして三年の修行を経て、僕は世界最強へと至るのだった。

勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!

石のやっさん
ファンタジー
皆さまの応援のお陰でなんと【書籍化】しました。 応援本当に有難うございました。 イラストはサクミチ様で、アイシャにアリス他美少女キャラクターが絵になりましたのでそれを見るだけでも面白いかも知れません。 書籍化に伴い、旧タイトル「パーティーを追放された挙句、幼馴染も全部取られたけど「ざまぁ」なんてしない!だって俺の方が幸せ確定だからな!」 から新タイトル「勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!」にタイトルが変更になりました。 書籍化に伴いまして設定や内容が一部変わっています。 WEB版と異なった世界が楽しめるかも知れません。 この作品を愛して下さった方、長きにわたり、私を応援をし続けて下さった方...本当に感謝です。 本当にありがとうございました。 【以下あらすじ】 パーティーでお荷物扱いされていた魔法戦士のケインは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことを悟った彼は、一人さった... ここから、彼は何をするのか? 何もしないで普通に生活するだけだ「ざまぁ」なんて必要ない、ただ生活するだけで幸せなんだ...俺にとって勇者パーティーも幼馴染も離れるだけで幸せになれるんだから... 第13回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作品。 何と!『現在3巻まで書籍化されています』 そして書籍も堂々完結...ケインとは何者か此処で正体が解ります。 応援、本当にありがとうございました!

旅の道連れ、さようなら【短編】

キョウキョウ
ファンタジー
突然、パーティーからの除名処分を言い渡された。しかし俺には、その言葉がよく理解できなかった。 いつの間に、俺はパーティーの一員に加えられていたのか。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

固有スキルが【空欄】の不遇ソーサラー、死後に発覚した最強スキル【転生】で生まれ変わった分だけ強くなる

名無し
ファンタジー
相方を補佐するためにソーサラーになったクアゼル。 冒険者なら誰にでも一つだけあるはずの強力な固有スキルが唯一《空欄》の男だった。 味方に裏切られて死ぬも復活し、最強の固有スキル【転生】を持っていたことを知る。 死ぬたびにダンジョンで亡くなった者として転生し、一つしか持てないはずの固有スキルをどんどん追加しながら、ソーサラーのクアゼルは最強になり、自分を裏切った者達に復讐していく。

幼馴染み達が寝取られたが,別にどうでもいい。

みっちゃん
ファンタジー
私達は勇者様と結婚するわ! そう言われたのが1年後に再会した幼馴染みと義姉と義妹だった。 「.....そうか,じゃあ婚約破棄は俺から両親達にいってくるよ。」 そう言って俺は彼女達と別れた。 しかし彼女達は知らない自分達が魅了にかかっていることを、主人公がそれに気づいていることも,そして,最初っから主人公は自分達をあまり好いていないことも。

追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~

さとう
ファンタジー
とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。 全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。 ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。 これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。

戦争から帰ってきたら、俺の婚約者が別の奴と結婚するってよ。

隣のカキ
ファンタジー
国家存亡の危機を救った英雄レイベルト。彼は幼馴染のエイミーと婚約していた。 婚約者を想い、幾つもの死線をくぐり抜けた英雄は戦後、結婚の約束を果たす為に生まれ故郷の街へと戻る。 しかし、戦争で負った傷も癒え切らぬままに故郷へと戻った彼は、信じられない光景を目の当たりにするのだった……

処理中です...