上 下
52 / 76

52 伝えられなかった真実

しおりを挟む
 真剣な顔をした父さんと向かい合う。

 そして運命を変える言葉が紡がれる。

「ロイド、お前の事を俺達は息子だと思っている、それは何が合っても変らない、だけどな、お前は俺達の間に出来た子じゃなかったんだ」

 その瞬間をなんと表現したらいいか、一瞬何を言われたか分からなかった。

 それは横にいるルイスとアンジェも同じようで、目を大きく見開いて口に手を当てて言葉も出ずに驚いている。

 そんな俺達の驚きを察して少し間を置いた父さんが落ち着いてきたところを見計らって言葉を続ける。

「お前を産んだのはこっちのアイリスで、父親はその前に俺達を守って死んだリンドと言う男だ、アイリスは見た目の通り華奢でな、お前を生んだ産後の肥立ちがよくなかったんだ、リリーも精一杯のことをしたんだが、その甲斐なくな……」

 そう言って悲しげな顔をしている父さんの頭に拳骨が落ちる。

「いって!なにすんだ!」

「バカがいらん気を遣うからだ、そこからは私が話す」

 そういって俺の母親というアイリスさんが話しの主導権を握る。

「先ず勘違いの無いように言っておくが、ここにいないリンド含めて私達4人は幼馴染で冒険者パーティーを組んでいたんだ、それでAランクになったところでリンドの奴が私に求婚してきてな、この二人、お互い好きなのがバレバレでな、残った男女の私とリンドが一緒になったというわけだ」

「あら、アイリス?恥ずかしいからって貴方もリンドも両思いだったのを隠しちゃだめよ?告白された時の貴方の顔ったら、いつも澄ましている顔があの時だけは真っ赤で嬉しそうで泣き出しそうだったのを私は覚えているわよ?」

「記憶違いだ!」

「あらあら」

 そう言って説明するアイリスさんの説明に訂正を入れる母さん、どうにも言いくるめられているようで、非常に恥ずかしそうだ。

「それで暫くして私が身篭ってな、それが分かったので私達は引退してこの村で暮らす事を決めたんだが、その時には依頼をうけていてな」

 そこから悲しそうな顔になる。

「その依頼は何の問題もなかったんだ、通常通りの依頼で、その時の進行は順調すぎる位だった、だけどその帰り道にぶつかってしまったんだよ、モンスターパレードにな……」

 そこから説明を引き継いだ母さんによるとだ。

 父さん達は通常のモンスターパレードなら全員で戦う事で進行方向から外れる事で生き残る事ができたらしい。

 しかしその時のモンスターパレードは異常だった。

 一体一体の速度が速く、強力な個体が多かった。

 そのせいで進行方向から逸れようにも思うように後退できずに追い詰められてしまったという。

 そこで起きた事は忘れられないと。

 最初に力尽きたアイリスさんを守る為にリンドさんが囮になって森の中に消えていったという。

 思えばそれは当然なのだ。

 俺を妊娠していた彼女が万全なはずがなく、他の3人と同じペースで動けば同じだけの持久力などあるはずがないのだ。

 そして4人いたところが3人になれば全員飲み込まれる。

 その時に彼はこう言ったという。

「すまない、アイリスと子供を頼む、それと、お前ら、幸せになれよ!」

 その言葉が最後だったらしい。

 魔物寄せの薬を使い、派手に暴れる事で敵を引き付けて崖から飛び降りて多くの魔物を道ずれにしたのが分かったのは3人が領都に戻って討伐が行われた後の事。

 報告がもう少し遅ければ迎撃も間に合わなかった、それは本当に数時間の差だったという。

 領都が無事だったのは3人と、命を賭して足止めを行ったリンドのお陰と認定され、彼らは領主との伝を得る事になる。

 そしてこの村に落ち着いて、その後は話したとおり。

 俺を産んで亡くなった彼女は幼馴染の二人に俺を託し、そして俺の世話をする間に二人は互いの気持ちを確認出来て結婚する。

 その結果産まれたのがルイスだっていうことだ。

 皆が皆を大事にして、その結果天涯孤独となった俺を両親が引き取ってくれた。

 それを伝えるには俺達が幼かったから伝え切れなくて、伝えられた今俺には産みの親が増えた。

 そういう結末なのである。

 そうなのだが。

「アラン、リリー、すまないがロイドを少し借りれるか?時間がない」

 アイリスさんが口を開く。

「ロイド、すまないが少し付き合ってくれ」

 そういって俺は彼女の墓前に連れ出される。

「確かこの辺に……あったあった」

 墓の中をゴソゴソと探る彼女が取り出したものは

「本?」

「ああ、これは私の記したレシピノートだよ、それと」

 そう言って彼女は俺の頭二手をやり背伸びをして抱きしめる。

「こうして大きくなったわが子を抱けるなんて私は幸せだね」

 そういいながら抱きしめた俺の頭に頭を合わせる。

「何も教えてやれなかったから、私の知識だけでも引き継いでおくれ」

 その言葉と共に様々な知識が、思い出が頭に流れ込んでくる。

 その情報量の多さに頭を激痛が走り眩暈を覚え膝をつく。




 どれ位そうしていただろうか、彼女の歩いてきた道筋が、行ってきた事が、思ってきた事が脳裏で再生され、記憶に刻まれた。

 それは色んな事があって、笑って、怒って、泣いて、色々な物を経て、そして辿り着く。

 最後に残った感情を感じ、目を開ける。

「急な事でごめんね、でも、これくらいしか私には残せないから」

 そう言って疲労の色の濃い中で浮かべた笑顔は綺麗だった。

 母さんが使ったのは命を削って自分の知識を共有する禁呪。

 それを使った者は寿命が50年は縮むと言われている、決して使われる事のないといわれているもの。

 知らないはずのそれが分かった。

 それだけじゃない、今まで知らないでやっていた事の意味、それを更に生かす方法。

 錬金術師として本格的な修行を積んでいた母さんの知識はそれを与えてくれた。

 そして

「そろそろ限界のようだね」

 そう言って俺から離れる母さんは近くに来ていたルイスとアンジェに顔を向ける。

「成長した息子だけじゃなく、未来の娘達まで見れるとは、世の中何があるかわからないわね、あの子をお願いね」

 その言葉に涙を流しながら頷く二人の頭を撫でる母さん。

 そして振り向いて一言。

「ほらロイド!この子達を幸せにしてやれよ!私みたいにするんじゃないぞ!」

 そう言ってニカっと笑うと父さんと母さんの元に戻っていく。

「ロイド、後は頼んだぞ」

「貴方なら大丈夫、お願いね」

「それじゃ3人とも幸せにな!」

 その言葉を最後に3人の身体が光に包まれていき……

 瘴気によって澱んでいた空が綺麗に晴れ、茜色に染まる。

「お兄ちゃん」

「ロイド様」

 呼びかける二人に向かって頷く。

「行こうか、母さん達にはまた報告にくればいいさ」

 そのときにはどうなっているか、それはまだ分からない。

 ただ今は、ここにあるものを守る為に目の前の事を一つずつ片付けていこう。

 そうして、故郷のライム村での戦いは終わった。

 そう思って離れていたリンとクウもつれて村に帰ろうと思ったら、まだこの村での騒動は終わりを告げさせてはくれなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

最難関ダンジョンで裏切られ切り捨てられたが、スキル【神眼】によってすべてを視ることが出来るようになった冒険者はざまぁする

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
【第15回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作】 僕のスキル【神眼】は隠しアイテムや隠し通路、隠しトラップを見破る力がある。 そんな元奴隷の僕をレオナルドたちは冒険者仲間に迎え入れてくれた。 でもダンジョン内でピンチになった時、彼らは僕を追放した。 死に追いやられた僕は世界樹の精に出会い、【神眼】のスキルを極限まで高めてもらう。 そして三年の修行を経て、僕は世界最強へと至るのだった。

勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!

石のやっさん
ファンタジー
皆さまの応援のお陰でなんと【書籍化】しました。 応援本当に有難うございました。 イラストはサクミチ様で、アイシャにアリス他美少女キャラクターが絵になりましたのでそれを見るだけでも面白いかも知れません。 書籍化に伴い、旧タイトル「パーティーを追放された挙句、幼馴染も全部取られたけど「ざまぁ」なんてしない!だって俺の方が幸せ確定だからな!」 から新タイトル「勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!」にタイトルが変更になりました。 書籍化に伴いまして設定や内容が一部変わっています。 WEB版と異なった世界が楽しめるかも知れません。 この作品を愛して下さった方、長きにわたり、私を応援をし続けて下さった方...本当に感謝です。 本当にありがとうございました。 【以下あらすじ】 パーティーでお荷物扱いされていた魔法戦士のケインは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことを悟った彼は、一人さった... ここから、彼は何をするのか? 何もしないで普通に生活するだけだ「ざまぁ」なんて必要ない、ただ生活するだけで幸せなんだ...俺にとって勇者パーティーも幼馴染も離れるだけで幸せになれるんだから... 第13回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作品。 何と!『現在3巻まで書籍化されています』 そして書籍も堂々完結...ケインとは何者か此処で正体が解ります。 応援、本当にありがとうございました!

旅の道連れ、さようなら【短編】

キョウキョウ
ファンタジー
突然、パーティーからの除名処分を言い渡された。しかし俺には、その言葉がよく理解できなかった。 いつの間に、俺はパーティーの一員に加えられていたのか。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

固有スキルが【空欄】の不遇ソーサラー、死後に発覚した最強スキル【転生】で生まれ変わった分だけ強くなる

名無し
ファンタジー
相方を補佐するためにソーサラーになったクアゼル。 冒険者なら誰にでも一つだけあるはずの強力な固有スキルが唯一《空欄》の男だった。 味方に裏切られて死ぬも復活し、最強の固有スキル【転生】を持っていたことを知る。 死ぬたびにダンジョンで亡くなった者として転生し、一つしか持てないはずの固有スキルをどんどん追加しながら、ソーサラーのクアゼルは最強になり、自分を裏切った者達に復讐していく。

幼馴染み達が寝取られたが,別にどうでもいい。

みっちゃん
ファンタジー
私達は勇者様と結婚するわ! そう言われたのが1年後に再会した幼馴染みと義姉と義妹だった。 「.....そうか,じゃあ婚約破棄は俺から両親達にいってくるよ。」 そう言って俺は彼女達と別れた。 しかし彼女達は知らない自分達が魅了にかかっていることを、主人公がそれに気づいていることも,そして,最初っから主人公は自分達をあまり好いていないことも。

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/

【完結】男爵令嬢は冒険者生活を満喫する

影清
ファンタジー
英雄の両親を持つ男爵令嬢のサラは、十歳の頃から冒険者として活動している。優秀な両親、優秀な兄に恥じない娘であろうと努力するサラの前に、たくさんのメイドや護衛に囲まれた侯爵令嬢が現れた。「卒業イベントまでに、立派な冒険者になっておきたいの」。一人でも生きていけるようにだとか、追放なんてごめんだわなど、意味の分からぬことを言う令嬢と関わりたくないサラだが、同じ学園に入学することになって――。 ※残酷な描写は予告なく出てきます。 ※小説家になろう、アルファポリス、カクヨムに掲載中です。 ※106話完結。

処理中です...