上 下
41 / 76

41 悪巧み

しおりを挟む
「すぐに戻ってくるから、絶対に無事でいろよ!」

 そういって崖を飛び降りていくお兄ちゃんの姿を見送る。

 そのスピードは切り立った崖が段々になっているところを平地を走るように進んでいき、気がついたときには戦闘を開始していた。

「アンジェ、私達も行こう!」

「はい、そうしましょう!」

 そう言って私達は来た道を戻り始めるが。

「うそ、ここまで!?」

「下がりましょう、森の中では奇襲をうけます」

 その目の前からグールとスケルトンが湧き出してくる。

 私達が進もうとした道には森が広がっていて、道はあるのだけれども木々が生い茂っているので死角も多い。

 後衛の私達にとっては奇襲を受ける危険が高く戦いづらい場所。

 勿論私もアンジェも多少は対応できる、しかし。

「数が多いわね」

「こんな数のアンデッド、どこから持ってきてるのよ」

 この数に群がられてしまえばいくら聖龍の加護と防具を持っている私達でもひとたまりもない。

 振り払えずじわじわと嬲られたあとは……想像するのもおぞましい結果になるわね。

 そうならない為に私達は崖を背に相対する。

「お姉ちゃん達守る」

「クウも、お姉さん達も、守る!」

 そう言って私達の前に立つクウちゃんとリンちゃん。

 その言葉と共に姿が人から狐のそれとドラゴンのそれへと変わっていく。

 真っ白で神々しさすら感じられるその姿はこんな状況じゃなければ見惚れる位の美しさがあって。

 もふもふして愛でたい、そんな欲求がふと頭を過ぎってしまい頭を振る。

 こんな時に何考えてるのよ!

 そうは言うもののこの子達は本当に可愛いから、絶対に終わったら可愛がってあげなきゃ。

「みんな!命大事に!できるだけ怪我しないように気をつけて!」

 その言葉と共に私は魔力を解放する。

 返事の代わりとばかりに放たれたアンジェの矢と共に私達の防衛戦が幕を開けた。






 クウちゃんとリンちゃんが突撃して打ち洩れた敵をアンジェの弓が襲う。

 それでも洩れてきたらそこは私の役目、お兄ちゃんがくれたこのロッドは強度にも優れているのでメイス代わりにも扱える。

 とはいっても片手で持てるし振れるわけだけど勢いをつけて振るには私は非力。

 なので魔力を込めて触る程度に使う。

 それでも低級のアンデッドだから問題ない。

 この杖のお陰で込める魔力も殆どいらないし。

 皆に強化の魔法を使う為の魔法の精度と消費魔力も補助してくれている。

 おかげでこれくらいなら数時間は戦っていても大丈夫だと思う。

 聖属性の魔法には強化以外にも癒しの魔法もあるからね、もし傷を負っても問題はない。

 継戦能力の補助が今はありがたいわ。

 それはアンジェも同じみたいで、彼女もお兄ちゃんが作ってくれた弓を出して魔力を使って矢を放つ。

 何発も打ってるけど全然疲れてないみたいで、今までだったら10発打つとちょっと疲れてきてたのに、もう100発は打ってるけど平気な顔してる。

 弓を引く手も顔色も問題なし、きっとこれもお兄ちゃんの作った弓の効果ね。

 前で暴れているのはリンちゃんとクウちゃん。

 とにかく敵の数が多いから減らす為にその両手の爪を振るって敵をほふっている。

 普通なら二人で敵の集団に突っ込んだら袋叩きにあうんだけど、リンちゃんはその鱗があるから普段でも問題ないけど今回はクウちゃんもその長い毛で相手の攻撃を通していない。

 これは私の強化魔法もあってなんだろうけど、普通強化しててもあんなことにはならないから、きっとこれもお兄ちゃんのくれたこの杖の力。

 ほんと、なんてものくれてるんだろう。

 そう思って呆れる気持ちがないとはいわないけど、それよりやっぱり嬉しいかな。

 私の事大事にしてくれてるって証拠だもんね。

 普通こんなにしてくれる人なんていない。

 過保護王とかシスコンとか、色々言われてるけどこんなのを感じるとやっぱり私も大好きだなって、こんなところで思うことじゃないけどね。

 そう思うとお兄ちゃん、アンジェの事も大事に思ってるってことだし、将来はそうなるのかな?

 そりゃアンジェの事は親友だし、私も好きだけど、それを思うと少しモヤモヤしなくもないというか。

 兄妹だから、お兄ちゃんのパートナーにはなれない、その事が少し、ほんの少しだけだけど、悔しいな。

 一番近いけど一番遠い、その事がチクリと胸を刺す。

 単純な作業の相手だからか思考しながら動いていたけど、その痛みを忘れる為に目の前の敵に集中しよう。

 そう思い目の前に意識を移した事で違和感を感じる。

「ねえアンジェ、何か変じゃない?」

「なにかって、そりゃルイスが戦闘中に色ボケてることから指摘を始めたらいいのかしら?」

「それは、否定できないけど、そうじゃなくって、見て」

 そういって私は違和感を感じた場所を指差す。

「何も無い様に見えるけど?」

「うん、何もない、他はアンデッドで溢れているのに、あそこだけなにもないのは逆に可笑しくない?」

「確かに」

 そのことを伝えてからは話が早い。

 一瞬のアイコンタクトの後アンジェは弓を引き近寄りそうなアンデッドに向けて弓を放つ。

 その間に私は聖属性の魔法を発動する。

聖なる光ホーリーライト

 それは通常ならEランク程度の下級アンデッドの浄化程度にしか使われない魔法。

 聖なる光で照らす事により周囲の邪気を払うことにより浄化するのだが、広範囲を照らす程度のものでは大した威力が見込めない。

 そのはずだったのだが……

 そしてその魔力に気がついたクウちゃんとリンちゃんが何事か見る中その効果は発揮される。

「うそ……」

 Dランク程度までいた周囲のアンデッドが軒並み溶けて行く。

 そしてそれはCランクのアンデッドにも大きなダメージを与えているようで目に見えて動きは鈍くなる。

 そのおかげでクウちゃんとリンちゃんはそいつらを一蹴して私達の元に戻ってきたのだけれど。

「うげ!見つかった!」

 その声と共に空間が歪む。

 それは他のアンデッドがいなかった場所に現れた。

 私達の両親の墓と隣の墓の間の隙間に。

「しかたねえな、仕込みは済んだし、かくれんぼは終わりだ」

 その顔が私達を見て凶悪に歪むのを見て、私達の間に緊張が走る。

 そしてここから、悪夢のような時間が始まる事になる。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

パーティーを追放された装備製作者、実は世界最強 〜ソロになったので、自分で作った最強装備で無双する〜

Tamaki Yoshigae
ファンタジー
ロイルはSランク冒険者パーティーの一員で、付与術師としてメンバーの武器の調整を担当していた。 だがある日、彼は「お前の付与などなくても俺たちは最強だ」と言われ、パーティーをクビになる。 仕方なく彼は、辺境で人生を再スタートすることにした。 素人が扱っても規格外の威力が出る武器を作れる彼は、今まで戦闘経験ゼロながらも瞬く間に成り上がる。 一方、自分たちの実力を過信するあまりチートな付与術師を失ったパーティーは、かつての猛威を振るえなくなっていた。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!

石のやっさん
ファンタジー
皆さまの応援のお陰でなんと【書籍化】しました。 応援本当に有難うございました。 イラストはサクミチ様で、アイシャにアリス他美少女キャラクターが絵になりましたのでそれを見るだけでも面白いかも知れません。 書籍化に伴い、旧タイトル「パーティーを追放された挙句、幼馴染も全部取られたけど「ざまぁ」なんてしない!だって俺の方が幸せ確定だからな!」 から新タイトル「勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!」にタイトルが変更になりました。 書籍化に伴いまして設定や内容が一部変わっています。 WEB版と異なった世界が楽しめるかも知れません。 この作品を愛して下さった方、長きにわたり、私を応援をし続けて下さった方...本当に感謝です。 本当にありがとうございました。 【以下あらすじ】 パーティーでお荷物扱いされていた魔法戦士のケインは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことを悟った彼は、一人さった... ここから、彼は何をするのか? 何もしないで普通に生活するだけだ「ざまぁ」なんて必要ない、ただ生活するだけで幸せなんだ...俺にとって勇者パーティーも幼馴染も離れるだけで幸せになれるんだから... 第13回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作品。 何と!『現在3巻まで書籍化されています』 そして書籍も堂々完結...ケインとは何者か此処で正体が解ります。 応援、本当にありがとうございました!

スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜

東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。 ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。 「おい雑魚、これを持っていけ」 ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。 ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。  怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。 いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。  だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。 ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。 勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。 自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。 今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。 だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。 その時だった。 目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。 その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。 ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。 そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。 これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。 ※小説家になろうにて掲載中

外れスキル【建築】持ちの俺は実家を追放される。辺境で家作りをしていただけなのに、魔王城よりもすごい最強の帝国が出来上がってた

つくも
ファンタジー
「闘えもしない外れスキルを授かった貴様など必要ない! 出て行け! グラン!」 剣聖の家系に生まれた少年グランは15歳のスキル継承の儀の際に非戦闘用の外れスキルである【建築】(ビルド)を授かった。 対する義弟は当たりスキルである『剣神』を授かる。 グランは実父に用無しの無能として実家を追放される事になる。辺境に追いやられ、グランはそこで【建築】スキルを利用し、家作りを始める。家作りに没頭するグランは【建築】スキルが外れスキルなどではなく、とんでもない可能性を秘めている事に気づく。 【建築】スキルでどんどん辺境を開拓するグラン。 気づいたら魔王城よりもすごい、世界最強の帝国ができあがる。 そして、グランは家にいたまま、魔王を倒した英雄として、世界中にその名を轟かせる事となる。

~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる

静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】 【複数サイトでランキング入り】 追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語 主人公フライ。 仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。 フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。 外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。 しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。 そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。 「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」 最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。 仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。 そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。 そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。 一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。 イラスト 卯月凪沙様より

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

ユニークスキルの名前が禍々しいという理由で国外追放になった侯爵家の嫡男は世界を破壊して創り直します

かにくくり
ファンタジー
エバートン侯爵家の嫡男として生まれたルシフェルトは王国の守護神から【破壊の後の創造】という禍々しい名前のスキルを授かったという理由で王国から危険視され国外追放を言い渡されてしまう。 追放された先は王国と魔界との境にある魔獣の谷。 恐ろしい魔獣が闊歩するこの地に足を踏み入れて無事に帰った者はおらず、事実上の危険分子の排除であった。 それでもルシフェルトはスキル【破壊の後の創造】を駆使して生き延び、その過程で救った魔族の親子に誘われて小さな集落で暮らす事になる。 やがて彼の持つ力に気付いた魔王やエルフ、そして王国の思惑が複雑に絡み大戦乱へと発展していく。 鬱陶しいのでみんなぶっ壊して創り直してやります。 ※小説家になろうにも投稿しています。

処理中です...