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22 闇の住人

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 日の暮れた街を教会に向かって歩きながら考える。

 あの時ギルドマスターが言った言葉

「指名依頼を出させてもらいたいと思っている、依頼内容は疾風の英雄とは別ルートで侵入して敵魔族の討伐だ」

 それが何を意味するかというのは明白である。

「色々な情報を加味した結果、恐らくあいつらは失敗する。」

 それは大いにありえることだ、あいつらの攻撃が通らず、持久戦に持ち込まれてしまったとしたら。

「最悪あいつらが敵に回るか」

「ああ、もしあいつらが殺されてアンデッドにされて敵に回ったとしたら」

「あの辺一帯は壊滅するか」

「そうだ、だからもしもアンデッドになりそうだったら頼む」

 仮にあいつらがアンデッドになって暴れたとしたらどうなるか。

 恐らくはあいつらが通った後の村は全て消える事になるだろう。

 そしてそれを止められる人間はSS級以上の者だけだ。

 止めるまでにどれだけの村人が騎士団が犠牲になるか、それは恐らく途方もない数になる。

 ただ失敗して逃げ帰ってくるだけならまだいい、だがもし、そうなってしまったとしたら。

「分かった、引き受けるよ」

 両親の墓のあるあの村も、世話になった孤児院もなくなってしまう。

 その最悪の事態を避ける為に、首を縦に振るのだった。




 その夜

「それじゃおやすみ」

「うん、おやすみなさい、おにいちゃん」

「「おやすみなさい」」

 ルイス達と別れて寝室に向かう。

 クウと一緒の部屋にはいり、眠りに入った、数刻後、不穏な物を感じて目が覚める。

「ん?なんだ?殺気とも違うが」

 身体を起こすと真横で声が上がる

「んにゅぅ、ロイドお兄さん、どうしたの?」

 身体に抱きついていたクウが目を覚まして寝ぼけ眼を擦っていた。

「わからないが、ルイスとリンを起こして一緒にいてくれないか?」

「うん、おにいさんは?」

「気になる事がある、少し周りを見てくる、頼んだぞ」

「うん」

 剣と盾、道具袋を装備してクウをルイスの部屋に預けて外に出る。

 ルイスの奴、「え?お兄ちゃん夜這い?」とかどこで覚えたんだよ。

 妹を夜這いとかしてたまるか。

 と雑念を持っていては不覚を取るかもしれないので目の前に集中して。

 教会の外に出ると明らかに空気が違う。

 重苦しく、澱んた空気は一種の重圧を感じさせる。

「アンデッドの気配か」

 以前ソロで受けた依頼、吸血鬼の討伐の時に感じた気配に似ていた。

 吸血鬼は吸血行動により、眷属を増やすA級のモンスターとされているが、その実体は玉石混合である。

 下位の眷属はグール等のD級レベルの者から、知性のあるかもしれないドラウグル、知性のあるB級のハーフバンパイア、通常のA級のヴァンパイア、その上になるとヴァンパイアを従えるヴァンパイアロードやジュネラル、キングやクィーンといった国を作り上げ、その大元にはSSS級と呼ばれる始祖と言われる者がいるらしい。

 もっとも始祖やその直下の配下は大して人間への敵愾心はなく、場合によっては友好的である。

 なので敵対するのは一握りの者ではあるが、それでもそれなりの強さを持つ事を考えれば全体に対して戦いを挑めないのは理解出来ると思う。

 知性はあるが、親の強制力には逆らう事が出来ないハーフヴァンパイア、恐らくそれがこの教会を囲む者の正体だ。

 暗闇に赤い光が走る。

 走りよりその光に身構え、あと10歩で激突する、その瞬間に別方向から殺気を感じ後退する。

 その瞬間に風切り音が鳴り石を砕いて何かが突き刺さる音がする。

 その音に弓の存在を認識するがそちらにばかり意識は裂けない。

 目の前の敵が切り込んでくるのを盾を叩きつけることで地面に鎮める。

 通常ならこれで沈黙するのだが。

「ガアアアアアアア!」

 雄たけびと共に跳ね起きる勢いを使って蹴りを放ってくる。

 その足を掴む、そして蹴りと同時に感じた殺気の片方に足を掴んだ相手を、逆の方に盾の防壁を当てる。

 両の腕に感じる衝突の衝撃。

 見ると右手に掴んだ男はぼろ雑巾のようにズタズタに打ち据え、射された状態で石畳に拉げていた。

 迎撃と共に叩きつけた事でようやく沈黙したのだろう。

 思っていた以上にタフな相手に恐らくA級相当の力があると舌を巻く。

 そう思ったときには奴等は次の動きに入っていた。

 左右の物陰から同時に素早く駆け寄る赤い光。

 足で剣を跳ね上げ手に取ると右に突進をかける。

 それに対して右の襲撃者は距離を保とうと急制動をかけ、若干の後退をかける。

 反対の左は速度を増して強襲してくるが。

 かかった、そう思った俺は左手に装着している盾に魔力を流し形状を変更。

 制動をかけ、振り返る勢いを使いその盾を放つ。

 止まった俺に好機と思い足に力を入れたその襲撃者が次の瞬間見たものは眼前に迫った鉄球のようなものだった。

 衝突した瞬間に頭を粉砕した鉄球の重量増による慣性に乗って10メートルを飛ぶ。

 飛び上がった瞬間に俺の居た所を通り過ぎる何か。

 着地と同時に耐性を整え、逆の相手に身構える。

「逃げたか」

 鮮やかな引き際である。

 4人中2人が潰された事で勝てないと見て即撤退に移る。

 これは指令を出す者がいるか、面倒な事この上ないな。

 そう思い屍骸の回収をしようとしたとき。

 教会の中から何かが壊れる物音が聞こえる。

 その音に背筋が凍る。

 無事でいてくれ、その思いと共に教会の中に入るべく扉に急ぐ。

 ようやくたどり着いて扉を開ける。

「ルイス!リン!クウ!大丈夫か!?」

 埃が舞い上がって暗闇に包まれて視界は利かない中、赤い光が不気味に光り唸り声を上げる。

「があああああああああああああ!!」

 叫び声が響き渡った。
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