上 下
7 / 15
死亡フラグ破壊の第一幕

望外の再会

しおりを挟む
 仰向けに倒れた魔王に近付くと魔王と目が合う。

「気分はどう?」

 全身に力が入らないようだけど顔色は思っているよりも悪くは無いので少し安心して頬が緩む。

「口惜しいに決まっている、言わせるな」

 そういいながら顔を歪める魔王。

「そうかしら?あのいけ好かない奴を倒せてスカッとしたんじゃない?」

「それはあるが、どっちにしろ私の負けだ、この後ろにお前達に敵う者はいない、私は望みも果たせずにまた失うのだ」

 そういいながら悔しそうに目を閉じる魔王。

「私はエリザベート、名前を教えてくれるかしら?勇敢な魔王様」

「私はカリウスだ」

「そう、カリウス、いい名前ね」

「父と母の付けてくれた名だ」

「いいお父様とお母様だったのね」

「ああ、自慢の両親だ」

 そう言う顔は穏やかで、仇敵同士の会話だとは思えないほどに和やかなものだった。

「後ろの人達は心配しなくていいわ、悪いようにはしないから」

「そうか、悪役令嬢と聞いていたが、案外優しいのだな?」

 そういって力なく微笑むカリウス。

「なによそれ、確かに私は悪役令嬢だけど……」

 微笑むカリウスに拗ねたような顔しか返せない。

「それだけしてくれるなら十分だ、どのみち私の望みは叶わぬ」

 そういってすっきりとした表情を浮かべたかと思うと悲しげに瞼を閉じる。

「それでも言うだけならただよ?この世界ご都合主義的なところあるから言うだけ言ってみてよ」

 そう聞く私にカリウスは顔を歪ませながら答える。

「よかろう、叶う事のない望みだ、勝利の褒美に聞かせてやる。」

 そう言って深呼吸をするとどこか遠くを見る目で口を開く。

「兄に会いたい、会って、守ってくれて、一緒にいてくれてありがとうって伝えたい」

 その言葉に涙が溢れる、その姿に冷静を装って言葉を返す。

「お兄さんか、それくらいなら、どこにいるの?」

「分からない、私を庇ってトラックに轢かれて、胸の中にいたはずなのに、気がついたらこの城だ、世界が違うのだ」

 その顔に希望はなく、諦めてしまっているようで、だからこそ彼は護る為に全力を尽くしたのだろう。

「父の力でも異世界には干渉できなかった、ましてその中から一人を見つけるなどな」

 寂しそうに呟くその姿に自然と手が伸びる。

「分かったか?私が無理といったわけが」

 気がついたらその頭に手が伸びていた。

「ええ、分かったわ。貴方が私と同じなのが」

 その言葉に驚きを表す。

「私も同じ、あいたい人がいるわ、可愛い妹」

 そしてその目が大きく見開かれる。

「いつも私の事を支えてくれてたあの子を私は守りきれなくて」

 あの時の事を思い出す私。

「それでも最後まで私と一緒にいてくれたあの子、死の淵でも私を責めることもなかったあの子」

 自然と溢れてくる涙

「最後に伝えられなかった言葉と感謝と、一杯話したいことがあるの」

 でも一番はやっぱり

「私も妹に、楓に会いたい」

 そうこぼした瞬間ガタッという音がした。

 ああもう、動かない身体を無理やり動かしたらダメっていってるのに!

「駆にい……」

 動かない体を無理やり動かそうとして顔を歪めながら発せられたその言葉を聞いた瞬間私の身体は動いていた。

「え?え?」

「良く頑張ったな、楓」

「おにい、ちゃん」

「そうだよ、守れなくてごめんな」

「そんなこと、だってだって、うわああああああああああ」

 何も考えずに抱きしめていた胸の中で楓が泣く。

 その二人の感動の再会にアリアは目元にハンカチを当てながら席を外す。

 主の為に気を利かせて、恐らくこの後仲間になる人達を安心させるべく、静かに玉座の奥に歩を進めるのだった。








 カリウスとなった楓との再会を果たしてから10数分、漸く落ち着いたカリウスの傷を癒していると入ってきた扉の向こうから轟音が鳴り響き、大きな足音が聞こえてくる。

 その音に緊張が走る。

 そして轟音と共に扉が勢いよく開け放たれる。

 その向こうに見える3メートルを超える巨躯と赤い双眼の光。

「陛下!?」

 そう叫んだのは階段の下を守護していた守護者の龍人。

「おのれぇ!聖女め!陛下!今すぐお助け致します!」

 その言葉と共にハルバードを構えて突進してくる姿にカリウスを治療している身体に力が入るが。

「ドランやめよ!」

 さっと私の手を取って抱き竦められるとカリウスは静止の声を上げる。

「へ、陛下!ご無事で!?」

「ああ、危うい所もあったが、この娘のお陰で無事である。控えよ!」

「はっ!申し訳ありません!」

 その姿は正しく魔王であった。

 そしてその配下の龍人ドランを見て思い出す。

 私に忠義を尽くすために死に物狂いの突撃をかけた人達の事を。

「いけない!カリウス!みんなを止めないと!」

「みんな?」

「ここに入る為に陽動に騎士隊が突撃しているの、早く止めないと皆死んでしまう!」

 その慌てた声にカリウスは目の前の部下に指令を出す。

「ドラン、止めてこい、私と聖女は手を結んだ、無益な戦いは止めよと!王命である!」

「は!!」

 カリウスの言葉を聞いて表情を一気に険しくさせたドランは返事をすると直ぐ様階段を飛ぶように駆け下りて行く。

「間に合えば良いが……」

 その呟きだけが残る広間を静寂が支配する。

 沈黙が痛みを感じさせ始めた時、突然玉座の後ろにある扉が勢いよく開け放たれる。

「お兄様!」

「兄様!」

「にいたまー!」

 その声と共にカリウスに飛び込む3つの影。

 トストストスと軽い音と共に突撃してきた3人に堪らず私を巻き込んでカリウスは尻餅をつく。

 そしてカリウスの胸元を見てみると。

「あら」

 そう声を出してしまうような可愛い子供達がしがみ付いていた。

 11・2歳位の子を中心にその横から小さな幼児が抱きついている。

 「お怪我はありませんか?」

 瞳に涙を浮かべてカリウスの頬をペタペタと触る少女に微笑みを返すとそのまま胸に顔を埋める。

「よかった、本当に、良かった」

 そう嗚咽を漏らす少女の頭を撫でるカリウスと目が合うと彼は口を開く。

「こっちで出来た兄妹だよ、後で紹介させてね」

 そう笑顔で嬉しそうに言われたので首肯すると。

「あの、お兄様、此方の方は?」

「ああ、この人はエリザベート。僕に勝った人で命を救ってくれた恩人で」

「前世の僕の兄さんだよ」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

魔王城の面子、僕以外全員ステータスがカンストしている件について

ともQ
ファンタジー
昨今、広がる異世界ブーム。 マジでどっかに異世界あるんじゃないの? なんて、とある冒険家が異世界を探し始めたことがきっかけであった。 そして、本当に見つかる異世界への経路、世界は大いに盛り上がった。 異世界との交流は特に揉めることもなく平和的、トントン拍子に話は進み、世界政府は異世界間と一つの条約を結ぶ。 せっかくだし、若い世代を心身ともに鍛えちゃおっか。 "異世界履修"という制度を発足したのである。 社会にでる前の前哨戦、俺もまた異世界での履修を受けるため政府が管理する転移ポートへと赴いていた。 ギャル受付嬢の凡ミスにより、勇者の村に転移するはずが魔王城というラストダンジョンから始まる異世界生活、履修制度のルール上戻ってやり直しは不可という最凶最悪のスタート! 出会った魔王様は双子で美少女というテンション爆上げの事態、今さら勇者の村とかなにそれ状態となり脳内から吹き飛ぶ。 だが、魔王城に住む面子は魔王以外も規格外――そう、僕以外全てが最強なのであった。

サフォネリアの咲く頃

水星直己
ファンタジー
物語の舞台は、大陸ができたばかりの古の時代。 人と人ではないものたちが存在する世界。 若い旅の剣士が出逢ったのは、赤い髪と瞳を持つ『天使』。 それは天使にあるまじき災いの色だった…。 ※ 一般的なファンタジーの世界に独自要素を追加した世界観です。PG-12推奨。若干R-15も? ※pixivにも同時掲載中。作品に関するイラストもそちらで投稿しています。  https://www.pixiv.net/users/50469933

ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。 異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。 「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」 異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

闇ガチャ、異世界を席巻する

白井木蓮
ファンタジー
異世界に転移してしまった……どうせなら今までとは違う人生を送ってみようと思う。 寿司が好きだから寿司職人にでもなってみようか。 いや、せっかく剣と魔法の世界に来たんだ。 リアルガチャ屋でもやってみるか。 ガチャの商品は武器、防具、そして…………。  ※小説家になろうでも投稿しております。

精霊のジレンマ

さんが
ファンタジー
普通の社会人だったはずだが、気が付けば異世界にいた。アシスという精霊と魔法が存在する世界。しかし異世界転移した、瞬間に消滅しそうになる。存在を否定されるかのように。 そこに精霊が自らを犠牲にして、主人公の命を助ける。居ても居なくても変わらない、誰も覚えてもいない存在。でも、何故か精霊達が助けてくれる。 自分の存在とは何なんだ? 主人公と精霊達や仲間達との旅で、この世界の隠された秘密が解き明かされていく。 小説家になろうでも投稿しています。また閑話も投稿していますので興味ある方は、そちらも宜しくお願いします。

42歳メジャーリーガー、異世界に転生。チートは無いけど、魔法と元日本最高級の豪速球で無双したいと思います。

町島航太
ファンタジー
 かつて日本最強投手と持て囃され、MLBでも大活躍した佐久間隼人。  しかし、老化による衰えと3度の靭帯損傷により、引退を余儀なくされてしまう。  失意の中、歩いていると球団の熱狂的ファンからポストシーズンに行けなかった理由と決めつけられ、刺し殺されてしまう。  だが、目を再び開くと、魔法が存在する世界『異世界』に転生していた。

目覚めた世界は異世界化? ~目が覚めたら十年後でした~

白い彗星
ファンタジー
十年という年月が、彼の中から奪われた。 目覚めた少年、達志が目にしたのは、自分が今までに見たことのない世界。見知らぬ景色、人ならざる者……まるで、ファンタジーの中の異世界のような世界が、あった。 今流行りの『異世界召喚』!? そう予想するが、衝撃の真実が明かされる! なんと達志は十年もの間眠り続け、その間に世界は魔法ありきのファンタジー世界になっていた!? 非日常が日常となった世界で、現実を生きていくことに。 大人になった幼なじみ、新しい仲間、そして…… 十年もの時間が流れた世界で、世界に取り残された達志。しかし彼は、それでも動き出した時間を手に、己の足を進めていく。 エブリスタで投稿していたものを、中身を手直しして投稿しなおしていきます! エブリスタ、小説家になろう、ノベルピア、カクヨムでも、投稿してます!

処理中です...