上 下
37 / 88

第36話 ウィスドム、話を聞く。

しおりを挟む
 ――ワレワレハテンセイシャッダー。

 ピルグリムを建国した巡礼者の中にいた一団。この世界に無い様な様々な魔道具を世に生み出した事で有名だった。
 それと同時に彼らは普通の家に生まれた者や貧しい家に生まれた者も居り、彼らは満足のいく教育を受けたことはなかったらしい。
 それなのに彼らは誰に学んだことも無いと言うのに頭は良く、歴史に残るような魔道具を幾つも生み出し、大人顔負けの知識を手に入れていたのか……それは生涯誰にも分かる事はなかったとのことだった。
 けれど、けれどもし……もし、彼らが別の生を受けている者達だったならば……。
 そう思いながらわたしは微笑む王妃を見る。
 『転生者』――王妃は自らをそう言った。

「て、てんせい……つまりは、生まれ直した……ということか?」
「ええ、そうです。わたくしを含め、この部屋に居る侍女達は皆、不慮の事故で死んだ事がある者達です。それも……別の世界で」
「まさか!? そんなこと、あるはずがな――」

 別の世界、そんな物はあるはずがない。そう返事を返そうとしたが、ワレワレハテンセイシャッダーの創った魔道具は『この世界』には無いような発想で創られた物が数多くあった。
 つまり、ワレワレハテンセイシャッダーはこの世界とは別の世界からの生まれ変わった人達。という事……だった?

「……どうやら、信じてくれるみたいですね?」
「…………王妃やここにいる侍女達が別の世界から生まれ変わった。というのは俄かには信じられない。だけど、貴女達は何をしたいんだ?」

 そう、別の世界から生まれ変わったと言う王妃達はいったい何がしたいのか、それがわたしには分からなかった。
 ワレワレハテンセイシャッダーのように世界に革命を起こすような魔道具を生み出すという風にも見られない、他にも政治で凄い事を成し遂げたいと言うわけでもなさそうだし、料理で凄い事をしたいわけでもなさそうだった。
 ……ましてや、武勲で馳せると言うわけでもなさそうだった。
 その答えを待つように、ジッと王妃を見つめ続けると……返事が返ってきた。

「ヨシュア君の成長……ですね。わたくし達がしたい事は……」
「は……?」
「ですから、ヨシュア君の成長を見守りたいのですよ。わたくし達は」

 聞き違い? 我ながら間抜けな声を上げると王妃は再び告げた。……間違いなく、勇者の成長を見守りたいのだろう。
 だけど、いったい何故……。

「向こうで死んだわたくし達はある御方によって、この世界へと産まれなおす事が出来ました。あのお方の恩に報いるため、そして我が子の成長と同じくらいにヨシュア君の成長を見守る為に……転生者一同はヨシュア君、そしてあなた達への援助は惜しみません」
「ば、馬鹿げている……。何で、何でそこまで勇者の為に力を貸そうと出来るの?」

 目の前の王妃に、わたしは何と言うか恐怖を感じつつ……異常なまでに手を貸してくれようとする理由を問い質す。
 すると、王妃は……いや、周りの侍女を含めて一斉に口を開いた。

「「「「「それが、ママですから」」」」」

 その様子に、わたしは何も言えなかった……。
 けれど、少し冷静になりながら何故わたしをここに連れて来たのか、そして何をする気なのかを問いかける。

「それで、わたしを如何するつもり? 転生者だと言うことをばらしたのは、殺す前の手向けって言うこと?」
「いえ、そんな事はしませんよ? というかしたら、ヨシュア君が凄く悲しんで、あの方にわたくし達が大目玉を喰らうじゃないですか」
「え……、それじゃあ、何でわたしを……?」
「まあ、言うならば……けん制というか、口止めってところでしょうか」

 けん制? 口止め? いったい如何言う事か……? いや、ちょっと待て、わたくし達と王妃は言った。
 その『わたくし達』という言葉が、今この部屋の中にいる人達だけじゃないとすると……。

「旅の途中で同じように転生者に会う可能性があるけれど、怪しく思うな。そして、これからの旅で勇者の母親に恩があるとか友人だったと言う事を言ったとしても、勇者に怪しく無いかと言わないようにの口止め?」
「ええ、よく分かりましたね。ウィスドムさんには度々起きる茶番、それに付き合ってもらいます。
 ちなみに報酬はこちらとなります」

 わたしの言葉に王妃はいっしゅん驚いた顔をしたけれど、すぐに頷く。
 ……的中だったようだ。その言葉に、転生者はここに居る者達以外にも居る。ということをわたしは知ることとなった。
 それと同時に、わたしは王妃の言う茶番に付き合わされることも確定してしまったらしい……。
 まあ、報酬の魔術書は凄く魅力的だけれど……。
 だけどこれだけは言っておくべきだ。そう考えながら、わたしは王妃達に告げる。

「わたしをそんな安い女だと思わないように」
「ええ、わかっていますよ」

 受け取った魔術書を手に取りながら言うわたしを、王妃は苦笑しながら見る。
 それが何を意味しているのかは理解しているけれど……、わたしは読書を始めることにしたのだった……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

頭が花畑の女と言われたので、その通り花畑に住むことにしました。

音爽(ネソウ)
ファンタジー
見た目だけはユルフワ女子のハウラナ・ゼベール王女。 その容姿のせいで誤解され、男達には尻軽の都合の良い女と見られ、婦女子たちに嫌われていた。 16歳になったハウラナは大帝国ダネスゲート皇帝の末席側室として娶られた、体の良い人質だった。 後宮内で弱小国の王女は冷遇を受けるが……。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

処理中です...