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第十九話(第二章プロローグ) 悪役令嬢、報告を聞く。
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「アルケミアヘーレからの荷物が届いていない、ですか?」
「そうみたいだ。何時もなら、向こうから定期的にこちらの支店に荷物が届けられるはずなのに、ここ一月ほどはまったく届いていないらしい」
港町アーヌムを出てから二週間ほどが経ち、わたくし達はゆっくりと移動をする船の上で毎日を過ごしていましたが……先日ようやく新しい停泊地へと辿り着き、久しぶりに地面へと立ちました。
船の上での生活も嫌ではなかったですよ? 交易品の見本として用意されている楽器を使って音楽を奏でたり、カエデと剣術の訓練を積んだり、釣り糸を垂らして魚を釣ったりと毎日が充実していましたから。
そんな事を思いながら、ここでの停泊はアルケミアヘーレから届く荷物の受け渡しだけなので何の問題も無く終わると思っていました。
ですが、この港にある商会の支店から話を聞いたゼーマンの説明ですぐに簡単には終わらない可能性を感じました。
「支店も黙って待ってたなんていうわけはありませんよね?」
「ああ、半月ほど荷物が届かないから何かあったのかと考えて向こうに対して問い合わせてみたようだが返事がなかったらしい。だからに街の様子を見てきてもらうべく、こちらで契約をしている冒険者パーティに調査を依頼したそうだ」
「そして、依頼した冒険者パーティは帰って来る様子もない……ですか?」
わたくしの言葉にゼーマンは頷きます。
これは十中八九、何かが起きているようですね。
「だから、このまま待っているわけにもいかないから、アルケミアヘーレの荷物は別の船で後日輸送って事にして、次の停泊地にいこうと思うんだが……まさか」
「ええ、そのまさかです。わたくしもアルケミアヘーレの様子を見てみたいですわね」
「いやいやいや、ちょっと待ってくれよ! 会頭に何かあったら、俺達が副会頭にすっげぇ怒られるんだぞっ!?」
わたくしの言葉に即座に反応し、ゼーマンは手を前に出すと顔の辺りでブンブンと勢い良く振ります。
手の素早い残像を見ながら、わたくしは必死に降りて欲しくないと言うゼーマンを言い負かす事にしました。
「ではゼーマン、聞きますが……わたくし達の強さは知っていますよね?」
「あ、ああ、嫌というほどに、甲板で訓練を見てたし……」
「次にわたくし達以上の能力を持っている者達が今、この周辺に居ますか?」
「それは……ア、アルケミアヘーレの方に集まっているだろうな、一攫千金のダンジョンを求めて」
わたくしの言葉に徐々にゼーマンの勢いが衰えていくのが見えます。あと一息ですね。
「そうでしょう? それに……次の停泊先では、アルケミアヘーレのダンジョンで入手出来る素材で創られる医薬品が必要だと書かれていたのも覚えていますよ?」
「…………ああもう、分かったよ! 会頭、アルケミアヘーレがどうなってるかの調査はあんたらに任せるよ! それで良いか!?」
「はい、上出来です。カエデ、レヴィア、こうなりましたが二人もそれで良いですか?」
頭をガシガシと搔くゼーマンへと微笑み、わたくしの隣でお菓子を食べているレヴィアと後ろにスッと静かに立っていたカエデを見る。
カエデはちゃんと話を聞いていたようで、恭しく頭を下げて「お嬢様の判断にお任せします」と言い。
レヴィアは……夢中でお菓子を食べていました。そのクッキーは美味しいですか、レヴィア?
「? あるじー、おいしいよー。いっしょにたべよー?」
「いえ、大丈夫ですよ。これはレヴィアが食べてください」
「わーい、ありがとあるじー!」
わたくしに礼を言ってレヴィアは再び食べる事を再開しました。
そんな彼女を見ながら、わたくしはアルケミアヘーレに向かう事を決めたのでした。
●
翌朝、わたくし達はアルケミアヘーレに向かう為に商会が用意した幌馬車の前で、出発する準備を行っておりました。
そんな準備をするわたくし達へとゼーマンが代表して声をかけてきます。
「それじゃあ会頭、気を付けて行って来てくだせぇ。……本店の方には昨日の夜に連絡をしてるから、少しの間この港で停泊する了解をもらってるから心配しないでくれ」
「ええ、ありがとうゼーマン。それじゃあ、行ってきますね。良い報告を期待してください」
「ああ、気を付けてな。……会頭達は強いけど、もしかしたら万が一ってのもあるからなぁ……」
「その時は全力で逃げ出させていただきます。それでは数日後にまた会いましょう」
そう言うとわたくしは幌馬車の中へと入ります。レヴィアは既に馬車の中でわくわくとお出かけを楽しみにしています。
御者席に座るカエデの操車により幌馬車が動き出し、わたくしは心配するゼーマンへと手を振りながらアルケミアヘーレに向けて旅立ちました。
今回は何事もなく終われば良いと思うのですが……そうはいきませんよね? 一度目が合ったのですから、二度目が無いわけがありません。
けれど、アルケミアヘーレには転生者と呼ばれる存在は『今はもう』居ませんからね。
そう思いながらガタゴトと揺れる馬車の中でクッションに座りながらわたくしは外を眺めます。
「そう言えばお嬢様、よろしいですか?」
「何かしらカエデ?」
緑ばかりののどかな風景を眺めていると、御者席の方からカエデが話しかけて来ました。
そちらを見るとカエデは馬車の操車をしながらの話題目的といった感じに見えますね。
「これから向かうアルケミアヘーレとは、いったいどのような街なのですか? 私は諸国放浪の際にその街には寄らなかったと思うので知らないのですが……」
「そうね。あえて言うとすれば……ダンジョンというひとつの世界の上に造られた街って言ったところかしら」
「ダンジョンの上に街、ですか? ……あの、そもそもダンジョンとはいったい何ですか?」
「そうね。ダンジョンというのはね簡単に言うとモンスターが無限に湧き出て、倒したモンスターの死体はダンジョンに吸収されて消えるけれど、代わりに素材を落としていくから解体嫌いだけど戦う人にはとても便利な場所……かしら」
ダンジョンという言葉に首を傾げるカエデへとわたくしは言う。だけど、わたくし自身もダンジョンというものがどういったものか良く分かっていないんですよね。
いえ、わたくしというよりも……この世界に住む者達のほとんどが分かってないでしょうね。
そう考えてみると、ダンジョンって数が少ない上に良く分からないものですよね。
多分アルケミアヘーレの他にもダンジョンはあるかも知れない。
けれど、それはきっと見つかり難い場所であったり、ダンジョンと思ってなかったら実はダンジョンだったという場所もあったりするかも知れませんね。……でも、ダンジョンと明言されているのは今のところアルケミアヘーレだけだったはずです。
「倒したモンスターが解体の必要がなく素材だけとなる場所ですか……ある意味、解体が面倒な者達には良い場所ですね」
「そうね。でもその分、生半可な覚悟で挑むと死の危険性が付き纏うみたいよ」
一攫千金を夢見て意気揚々とダンジョンに潜った者達が二度と帰らなかったという話も、わたくしは情報で度々聞いている。
夢を追い求めてダンジョンに入り……生きて大量のお金や強力な武具を手に入れて勝者となるか、それとも死んで何も得る事が出来ないまま敗者となる。それがダンジョンというものだとわたくしは聞いていました。
「……ちなみにお嬢様。今回もあの偽の聖女のような頭のおかしな存在は居たりするのでしょうか?」
「ああ、転生者のこと? かつてはあの街にも居たみたいだけど、今は居ないわ」
「かつて……ですか?」
わたくしの返事に首を傾げるカエデを見ながら、アルケミアヘーレに居たであろう転生者のことを考えます。
彼が持っている知識と情報、この世界に残った記録を加味して考えた結果、ある人物が転生者であろうとわたくしと彼は断言しました。
彼女は500年前のアルケミアヘーレを統治していた領主の一人娘で領主に物凄く甘やかされて育っていたそうです。
甘やかされて高慢に育った為に周囲の人達に辛い思いをさせる事は当たり前だったと記されており、民衆達はそんな彼女と領主達に対して嫌悪と畏怖しかなかったそうです。
そして、彼女はある出来事が起きようとすると、そこから何が起きるのかまるですべてを知っているかのように言い当てていたそうです。
結果、彼女を含めた領主の家系には多大なる利益が与えられたらしいのですが、民衆には何もしなかったと残っていました。
彼女の振る舞いを耐えていた民衆達でしたがある日、彼らの前へと一人の類稀なる錬金術の才能を持つ少女がアルケミアヘーレへと現れたと記されていました。
……まあ、簡単にいうと悪役令嬢に転生した転生者が傍若無人な行いをしている最中にゲーム本編が始まったという状況ですね。
そこから錬金術で回復薬といった魔法の薬や、爆弾等の武器といった過激な物、色々な物が創られ、アルケミアヘーレを統治する領主達と色々とあったみたいですが、500年前という遥か昔の事なのであまり細かな情報が残っていません。
ですが残った記録によれば……最後は錬金術師の少女はアルケミアヘーレに住む者達と困難を乗り越えて、絆を結んでいき、悪役令嬢が創りだした道具が原因で暴走を起こしたダンジョンを沈静化させる事に成功したそうです。
そして悪役令嬢を含めた領主一家は、ダンジョンを暴走させて街を含めた周辺を危機に陥れた責任を取らされて街から追い出されたと記されていましたが……歴史は勝者が書く物ですし多少脚色されていたりするでしょう。
「つまりは具体的に何があったのかは分からない、っていう事ですね」
「はい? どうかしましたか、お嬢様?」
「何でもないわ。それよりも……すごく普通の光景よね?」
呟きが聞こえたようでカエデがこちらを見るけれども、わたくしは首を振り考えを振り払う。
そしてようやく気づいたけれども、わたくし達が乗る馬車以外に走っている馬車はまったく見当たりません。アルケミアヘーレから歩いてくる旅人の姿もまったく……。
だけど、周囲に点在する畑では住人が農作業に勤しんでいるのが見えるのが違和感を感じてしまいますね。
「はい、まるで危険といった様子がありませんね。レヴィア、あなたはどう感じますか?」
「んー……? なんだかね、ぴりぴりするのー。あたまがいがいがー、ってかんじになるー! ほかにも、ぎゅーぎゅーってしめつけられてるってかんじー」
カエデの言葉にレヴィアが返事を返しながら、頭の周囲で手を動かして変だというアピールをします。
頭がイガイガ……、精神に影響? でも、ギュウギュウだから、何か結界? わたくし達には何の変化も感じられませんが、レヴィアは何かを感じているのでしょうか?
どう考えてもアルケミアヘーレでは奇妙なことが起きていますよね?
行かないという選択をすれば問題はないかも知れません。ですが、何か起きてからでは遅いですからね……。
「まあ、何事も無ければ良いのですが…………」
若干嫌な予感を感じながら、わたくし達はアルケミアヘーレに向けて馬車を走らせました。
―――――
2020/03/28
改稿&後の話を変更(非公開)
「そうみたいだ。何時もなら、向こうから定期的にこちらの支店に荷物が届けられるはずなのに、ここ一月ほどはまったく届いていないらしい」
港町アーヌムを出てから二週間ほどが経ち、わたくし達はゆっくりと移動をする船の上で毎日を過ごしていましたが……先日ようやく新しい停泊地へと辿り着き、久しぶりに地面へと立ちました。
船の上での生活も嫌ではなかったですよ? 交易品の見本として用意されている楽器を使って音楽を奏でたり、カエデと剣術の訓練を積んだり、釣り糸を垂らして魚を釣ったりと毎日が充実していましたから。
そんな事を思いながら、ここでの停泊はアルケミアヘーレから届く荷物の受け渡しだけなので何の問題も無く終わると思っていました。
ですが、この港にある商会の支店から話を聞いたゼーマンの説明ですぐに簡単には終わらない可能性を感じました。
「支店も黙って待ってたなんていうわけはありませんよね?」
「ああ、半月ほど荷物が届かないから何かあったのかと考えて向こうに対して問い合わせてみたようだが返事がなかったらしい。だからに街の様子を見てきてもらうべく、こちらで契約をしている冒険者パーティに調査を依頼したそうだ」
「そして、依頼した冒険者パーティは帰って来る様子もない……ですか?」
わたくしの言葉にゼーマンは頷きます。
これは十中八九、何かが起きているようですね。
「だから、このまま待っているわけにもいかないから、アルケミアヘーレの荷物は別の船で後日輸送って事にして、次の停泊地にいこうと思うんだが……まさか」
「ええ、そのまさかです。わたくしもアルケミアヘーレの様子を見てみたいですわね」
「いやいやいや、ちょっと待ってくれよ! 会頭に何かあったら、俺達が副会頭にすっげぇ怒られるんだぞっ!?」
わたくしの言葉に即座に反応し、ゼーマンは手を前に出すと顔の辺りでブンブンと勢い良く振ります。
手の素早い残像を見ながら、わたくしは必死に降りて欲しくないと言うゼーマンを言い負かす事にしました。
「ではゼーマン、聞きますが……わたくし達の強さは知っていますよね?」
「あ、ああ、嫌というほどに、甲板で訓練を見てたし……」
「次にわたくし達以上の能力を持っている者達が今、この周辺に居ますか?」
「それは……ア、アルケミアヘーレの方に集まっているだろうな、一攫千金のダンジョンを求めて」
わたくしの言葉に徐々にゼーマンの勢いが衰えていくのが見えます。あと一息ですね。
「そうでしょう? それに……次の停泊先では、アルケミアヘーレのダンジョンで入手出来る素材で創られる医薬品が必要だと書かれていたのも覚えていますよ?」
「…………ああもう、分かったよ! 会頭、アルケミアヘーレがどうなってるかの調査はあんたらに任せるよ! それで良いか!?」
「はい、上出来です。カエデ、レヴィア、こうなりましたが二人もそれで良いですか?」
頭をガシガシと搔くゼーマンへと微笑み、わたくしの隣でお菓子を食べているレヴィアと後ろにスッと静かに立っていたカエデを見る。
カエデはちゃんと話を聞いていたようで、恭しく頭を下げて「お嬢様の判断にお任せします」と言い。
レヴィアは……夢中でお菓子を食べていました。そのクッキーは美味しいですか、レヴィア?
「? あるじー、おいしいよー。いっしょにたべよー?」
「いえ、大丈夫ですよ。これはレヴィアが食べてください」
「わーい、ありがとあるじー!」
わたくしに礼を言ってレヴィアは再び食べる事を再開しました。
そんな彼女を見ながら、わたくしはアルケミアヘーレに向かう事を決めたのでした。
●
翌朝、わたくし達はアルケミアヘーレに向かう為に商会が用意した幌馬車の前で、出発する準備を行っておりました。
そんな準備をするわたくし達へとゼーマンが代表して声をかけてきます。
「それじゃあ会頭、気を付けて行って来てくだせぇ。……本店の方には昨日の夜に連絡をしてるから、少しの間この港で停泊する了解をもらってるから心配しないでくれ」
「ええ、ありがとうゼーマン。それじゃあ、行ってきますね。良い報告を期待してください」
「ああ、気を付けてな。……会頭達は強いけど、もしかしたら万が一ってのもあるからなぁ……」
「その時は全力で逃げ出させていただきます。それでは数日後にまた会いましょう」
そう言うとわたくしは幌馬車の中へと入ります。レヴィアは既に馬車の中でわくわくとお出かけを楽しみにしています。
御者席に座るカエデの操車により幌馬車が動き出し、わたくしは心配するゼーマンへと手を振りながらアルケミアヘーレに向けて旅立ちました。
今回は何事もなく終われば良いと思うのですが……そうはいきませんよね? 一度目が合ったのですから、二度目が無いわけがありません。
けれど、アルケミアヘーレには転生者と呼ばれる存在は『今はもう』居ませんからね。
そう思いながらガタゴトと揺れる馬車の中でクッションに座りながらわたくしは外を眺めます。
「そう言えばお嬢様、よろしいですか?」
「何かしらカエデ?」
緑ばかりののどかな風景を眺めていると、御者席の方からカエデが話しかけて来ました。
そちらを見るとカエデは馬車の操車をしながらの話題目的といった感じに見えますね。
「これから向かうアルケミアヘーレとは、いったいどのような街なのですか? 私は諸国放浪の際にその街には寄らなかったと思うので知らないのですが……」
「そうね。あえて言うとすれば……ダンジョンというひとつの世界の上に造られた街って言ったところかしら」
「ダンジョンの上に街、ですか? ……あの、そもそもダンジョンとはいったい何ですか?」
「そうね。ダンジョンというのはね簡単に言うとモンスターが無限に湧き出て、倒したモンスターの死体はダンジョンに吸収されて消えるけれど、代わりに素材を落としていくから解体嫌いだけど戦う人にはとても便利な場所……かしら」
ダンジョンという言葉に首を傾げるカエデへとわたくしは言う。だけど、わたくし自身もダンジョンというものがどういったものか良く分かっていないんですよね。
いえ、わたくしというよりも……この世界に住む者達のほとんどが分かってないでしょうね。
そう考えてみると、ダンジョンって数が少ない上に良く分からないものですよね。
多分アルケミアヘーレの他にもダンジョンはあるかも知れない。
けれど、それはきっと見つかり難い場所であったり、ダンジョンと思ってなかったら実はダンジョンだったという場所もあったりするかも知れませんね。……でも、ダンジョンと明言されているのは今のところアルケミアヘーレだけだったはずです。
「倒したモンスターが解体の必要がなく素材だけとなる場所ですか……ある意味、解体が面倒な者達には良い場所ですね」
「そうね。でもその分、生半可な覚悟で挑むと死の危険性が付き纏うみたいよ」
一攫千金を夢見て意気揚々とダンジョンに潜った者達が二度と帰らなかったという話も、わたくしは情報で度々聞いている。
夢を追い求めてダンジョンに入り……生きて大量のお金や強力な武具を手に入れて勝者となるか、それとも死んで何も得る事が出来ないまま敗者となる。それがダンジョンというものだとわたくしは聞いていました。
「……ちなみにお嬢様。今回もあの偽の聖女のような頭のおかしな存在は居たりするのでしょうか?」
「ああ、転生者のこと? かつてはあの街にも居たみたいだけど、今は居ないわ」
「かつて……ですか?」
わたくしの返事に首を傾げるカエデを見ながら、アルケミアヘーレに居たであろう転生者のことを考えます。
彼が持っている知識と情報、この世界に残った記録を加味して考えた結果、ある人物が転生者であろうとわたくしと彼は断言しました。
彼女は500年前のアルケミアヘーレを統治していた領主の一人娘で領主に物凄く甘やかされて育っていたそうです。
甘やかされて高慢に育った為に周囲の人達に辛い思いをさせる事は当たり前だったと記されており、民衆達はそんな彼女と領主達に対して嫌悪と畏怖しかなかったそうです。
そして、彼女はある出来事が起きようとすると、そこから何が起きるのかまるですべてを知っているかのように言い当てていたそうです。
結果、彼女を含めた領主の家系には多大なる利益が与えられたらしいのですが、民衆には何もしなかったと残っていました。
彼女の振る舞いを耐えていた民衆達でしたがある日、彼らの前へと一人の類稀なる錬金術の才能を持つ少女がアルケミアヘーレへと現れたと記されていました。
……まあ、簡単にいうと悪役令嬢に転生した転生者が傍若無人な行いをしている最中にゲーム本編が始まったという状況ですね。
そこから錬金術で回復薬といった魔法の薬や、爆弾等の武器といった過激な物、色々な物が創られ、アルケミアヘーレを統治する領主達と色々とあったみたいですが、500年前という遥か昔の事なのであまり細かな情報が残っていません。
ですが残った記録によれば……最後は錬金術師の少女はアルケミアヘーレに住む者達と困難を乗り越えて、絆を結んでいき、悪役令嬢が創りだした道具が原因で暴走を起こしたダンジョンを沈静化させる事に成功したそうです。
そして悪役令嬢を含めた領主一家は、ダンジョンを暴走させて街を含めた周辺を危機に陥れた責任を取らされて街から追い出されたと記されていましたが……歴史は勝者が書く物ですし多少脚色されていたりするでしょう。
「つまりは具体的に何があったのかは分からない、っていう事ですね」
「はい? どうかしましたか、お嬢様?」
「何でもないわ。それよりも……すごく普通の光景よね?」
呟きが聞こえたようでカエデがこちらを見るけれども、わたくしは首を振り考えを振り払う。
そしてようやく気づいたけれども、わたくし達が乗る馬車以外に走っている馬車はまったく見当たりません。アルケミアヘーレから歩いてくる旅人の姿もまったく……。
だけど、周囲に点在する畑では住人が農作業に勤しんでいるのが見えるのが違和感を感じてしまいますね。
「はい、まるで危険といった様子がありませんね。レヴィア、あなたはどう感じますか?」
「んー……? なんだかね、ぴりぴりするのー。あたまがいがいがー、ってかんじになるー! ほかにも、ぎゅーぎゅーってしめつけられてるってかんじー」
カエデの言葉にレヴィアが返事を返しながら、頭の周囲で手を動かして変だというアピールをします。
頭がイガイガ……、精神に影響? でも、ギュウギュウだから、何か結界? わたくし達には何の変化も感じられませんが、レヴィアは何かを感じているのでしょうか?
どう考えてもアルケミアヘーレでは奇妙なことが起きていますよね?
行かないという選択をすれば問題はないかも知れません。ですが、何か起きてからでは遅いですからね……。
「まあ、何事も無ければ良いのですが…………」
若干嫌な予感を感じながら、わたくし達はアルケミアヘーレに向けて馬車を走らせました。
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2020/03/28
改稿&後の話を変更(非公開)
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