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★本編★あなたのタマシイいただきます!

【21-2/2】君が隣で眠る幸せ

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▽▽ KUKI side ▽▽

「ねー、今更だけど、サ。誕生日プレゼント何かほしいものある?」

左千夫クンの誕生日は既に過ぎてしまった。
ボクは彼の誕生日当日ギリギリに中国の実家から帰ってきてお祝いするつもりだったけど……。
弟の皓宇《ハオユー》のせいで、左千夫クンはボクと別れるって言い出すわ、折角帰ってきたのに居なくなるわ、そんでもって、結局ボクが激昂しちゃって、左千夫クンがボロボロになるまで陵辱してやった。と言う、彼にとっては散々な誕生日になった訳だけど。
ボクが日本に戻ってくる予定は今日だったので、喫茶【シロフクロウ】での左千夫くんの誕生日パーティは明日を予定している。左千夫くんは基本何も欲しがらないのでいつも適当に用意するんだケド、左千夫クンから別れを切り出された時に全てキャンセルしてしまったり、他の奴に譲ってしまったのでこうやって質問してみることにした。
調度風呂上がりでびちゃびちゃにぬれたままバスローブだけ引っ掛けて出てきた左千夫くんは、表情なくボクを暫く見詰めてから、そのまま顎を引いて自分の股間を見詰めていた。

「…………貰いましたけど?」
「う、……うん、そうなんだケド」

酷く冷たい声で言われた理由は……まぁ、わかる。陵辱してやった時に左千夫クンはボクが買ってきたチープな指輪を大事そうに持っていたので、彼用に作り直して、事もあろうが指では無く陰核に取れないようにピアッシングして嵌めたからだ。確かにあの時に誕生日プレゼントって言ったことは言ったケド、あれはボクがあげたかったから押し付けたもので、左千夫くんが欲しかったものでは無い。
立ち上がると無理矢理左千夫くんを引っ張ってソファーへと座らせる。タオルを取ると先に髪をタオルドライしながら会話を続けた。勿論、好きあらば逃げ出そうとしているので行動を止める事はできない。

「自分でできます……」
「ダメダメ~、左千夫クンどうせサーキュレーターの前で仕事しながら乾かすだけだカラ……!たまにはボクにさせてヨ~」
「ケアはちゃんとしてます、寧ろ髪には温風よりも良いはずです、……それに……面倒ですよ?」
「ボクがしたいからいいの!で、……他にはないの?……色々用意してたんだケド、全部キャンセルしちゃったカラ……そんな直ぐに手に入ってキミが喜びそうなものが浮かばないんだよネ~」
「…………何もいらない──」
「それは却下ネ!宝石でもいいんだろうケド……今からじゃ一級品は難しいしネ」
「確かに貴方の目に敵う宝石は質が良く僕の能力とも相性が良いので助かってますが……結局壊してしまうので」
肩に掛けていたバスローブがソファーへと落ちると濡れた白い肌が露わになる。目の毒以外の何物でもない肢体を晒しながら、ボクを真っ直ぐに見上げて少し悩んでいる様子はそれだけで性欲を掻き立てる。頭の中が邪な感情しか浮かばなくなっても丹念に髪を乾かした。ドライヤーの音を響かせ、ケア用品を馴染ませ、朝は三つ編みにしてあげるけど夜なのでそのまま形だけを整えた。
「ありがとうございました」
「どういたしまして~。で、決まった?」
「すいません、……言ってる事とやってる事が合わないんですが……?」
「え~、だって、勃起しちゃったカラ~」
「別に構いませんが……」
裸の左千夫くんを見つめていたら卑猥な事しか思い浮かばなかったのでチンコが勃起した。なので、彼の髪を後ろに掻き集めながら口元に陰茎を引き出して近付けると〝無〟表情のままボクを見上げてきた。因みに嫌がられてもソソるし、ノリノリでもソソるし、今みたいに冷たい表情でもソソるので、結局彼がどんな反応を取ろうとボクは興奮する。左千夫くんはフェラは嫌がらないのでゆっくりとボクの息子を愛撫してくれる。陰嚢から先端まで余すことなく舐め上げて、時折形のいい唇で吸い上げて、ボクの興奮が高まってきたら亀頭の敏感な部分を攻め始める。髪を乾かすよりこっちのほうがよっぽど面倒臭いと思うんだケド……。
「も、……いいヨ」
「……?……まだ、……ッ!?……シませんよ?」
「フェラしてくれるんだから、コッチもいいでしょ?」
完全に勃ち上がったところで腰を引いたら不思議そうに見上げてきた。今日は霊ヤラレ《れいやられ》じゃないので左千夫くんはする気が無かったようだけど、ボクのスイッチが入ったので片脚を担ぎながらソファーに乗り上げる。こういう時は直ぐ事に運べるので全裸もイイナァと最近思い始めた。軽く拒否されるが言う事を聞かずアナルに指をグッと一本埋めるとナカはキレイに洗ったのだろう、一本だけならすんなりと沈んで行く。
「シないって割には……ナカ、用意してくれてるジャン?」
「……ッ、……其れは、貴方がボクの拒否を聞き入れないか…ら」
「……じゃあ、イイでしょ?かるーく、お尻の穴だけにしとくカラ」
ローションを取りに行くのが面倒だったのでヘアケア用のオイルを掌に垂らした。控えめな甘い香りが部屋を満たして行くと、同時に指を抜き差しして体を開いていく。
「…………ッ、ぅ………………はぁ、……飽きますよ……」
「飽きないヨ……毎日抱きたい」
「……抱きたいじゃなくて、毎日抱かれてます……が?……ッ、……ん」
「そうだネ~、最近は全然抑えられないネ~……一応、負担掛け過ぎかなァ……て、思ってはいるんだ、けど、ネ……」
「フフ、……貴方らしく、はぁ、……ないですね」
「ナニソレ、……なんかムカつく……」
「……飽きたら、言って下さ───……んッ」
相変わらずの減らず口を唇で塞いだ。飽きない事を証明するにはずーーーーっと一緒に居るしかないんだろうなぁと頭の片隅で思いながら、中をグズグズに溶かしてやってから性器を突っ込む。どうしても左千夫クン自体を蕩けさせてやろうと思うと、多ラウンド、長時間になる訳で、今日は女性器を使わせてくれなかったけどそれでも最後の方は快楽に耐え切れずに首を横に振ってた。無理矢理快楽を叩き込んで訳分からなくして、愛してるって告げたら、中がめちゃくちゃ締まるから止められなかったりする。本当に依存というか中毒というか、離せないのに飽きるとかアリエナイんだケド。精液まみれになった左千夫くんをまたお風呂に入れて、拭いて乾かして、ベッドに着いた頃に左千夫クンが目を開けたのでゆっくりと唇を啄むと、バードキスが返ってくる。しなやかな肢体をベッドに下ろすとキスは深くなって散々やったのにまた興奮しそうで、ゆっくりと唇を解いた。
「はぁ……ムリ、……ゼッタイ、左千夫クンじゃ無かったらヤり殺してる……」
「…………物騒ですね」
最終的には結構啼かせてしまったので掠れた声も堪らない。自然と距離を取ろうとするのでぎゅっと抱き寄せて腕枕してやりながら髪を弄っていると本題を思い出した。
「あ!誕生日プレゼント……、って、しつこいカナ?」
「いえ。……そうですね……それでは、……寝て……もいいですか?」
「へ?……寝るって睡眠?イイけど、明日、シロフクロウ休みだし、誕生日パーティは午後だし」
「なら、そうしますね。……おやすみなさい、白翼《バイイー》」
何とも欲のないおねだりだと思う。今まで相手にした子は控えめな子でももう少し要求してきた。ボクの横で無防備に寝ているのは一人で一国を沈めてしまえるだろうバケモノである。資産家の息子としても様々な誕生日プレゼントを貰っているだろう彼が欲しいものは睡眠らしい。少し拍子抜けしたが横で直ぐに寝息を立て始められると、気を許されてることを再認識してボクも眠くなった。更に左千夫くんを抱き込むと甘い香りを堪能しながら瞼を落とす。 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

〝ピピッ ピピッ ピピッ ピピッ ピピッ────〟

左千夫くんの携帯のアラームの音で目が覚めた。
そもそも彼はアラームの前に起きるのでアラームが鳴ることも珍しいし、そのアラームを鳴りっぱなしにすることも珍しい。アラームをオフにして寝起きの回らない頭で髪を掻いた。いつもなら無くなっている体温が今日はまだ横にあって、自然と抱き寄せて髪に顔を埋めてから気付いた。
なんで横で寝たままなのかと………。
起こさないように注意して顔を上げると横で左千夫くんは寝ていた。ただ、呼吸や心拍は最低限で体も少し冷たい。死にそうとかそういう訳では無いけど気絶している訳でもないのに寝ている事は珍しいので、マジマジと見てしまう。きっと、今ならセックスしても起きない。あわよくば最後まで出来るかもしれないけど、そんな事をしたら左千夫クンはもうボクの横で寝ることは無くなるだろう。そう考えると目先の欲よりも、左千夫クンとの今の関係を大事にする事にした。今回やらなくてもずっと一緒に居るなら幾らでもチャンスはあると言うか、いつかは絶対ヤる。……ふにっと肉が殆ど無い頬をつついてみたが、やっぱり起きなくて、ふにふにと控えめに感触を楽しんだ。そしてふと前から考えていた事を実行に移す事にした。左千夫クンを抱き上げると浴室に向かい、バスタブに抱き抱えながら入るとボクの能力で水を作っていく、その最中に小指に嵌っている指輪を鋭利な刃物に変えると腕を切り裂く。ブシュといい感じに血液が流れると水の中に紛れていきボクと左千夫くんを充たしていく。属性化の〝水〟の能力と〝創造〟の能力が相俟って左千夫くん全体を包み上げると肌理細やかな肌の細胞に水分が浸透していき彼の体内の細胞を全て新しいものへと作り変えて行く。アンチエイジングと言うべきか、抗酸化作用を強くすると言うべきか。細胞分裂のテロメアも気にしてボクが憶えている左千夫くんに戻していく。小さな傷も、少しの肌荒れも、髪の先のパサ付き、爪の薄皮さえも全て無くし、デトックスして行くと、血色の良くなった唇に口付けた。

「これくらいのご褒美は貰っていいよネ~。なんだろ、こんな無防備なキミを見られるなんて、朱華《ヂュファ》の誕生日なのに、ボクのほうが幸せかもしれナイ」

いい感じに肌艶が向上して行くと楽しくて仕方がない。ボクの行動は悪意が無いのでピクリとも動かない彼を抱き締めて甘い香りに酔いながら修繕、修復を終えると、首筋から肩にかけて沢山キスをした。勿論キスマークも修復してしまうので直ぐに消えてしまうんだけど。


▲▲ sachio side ▲▲

ゆっくりと意識が覚醒していく。久々に深く眠ったので指の先まで感覚が研ぎ澄まされているが、原因は其れだけではないようだ。九鬼が僕の体に何かした。具体的には分からなかったが、細胞が新しいものへと入れ替わっている。痛くはないがヘタにやれば全ての神経への信号を破壊されそうだと思った。そうなるならば仕方が無いので彼からの好意《誕生日プレゼント》として受け取る事にする。服も着せてくれていたし、髪も既に結われていたのでパーティの集合時間よりも早く準備が終わってしまった。それならと、携帯のメッセージを確認してから外へと跳び出した。


「井上さん、お疲れ様です」
「神功さん、お疲れッス」
「すいません、この前はお恥ずかしい所を見せてしまって……」
「いえ、アレは完全にうちの若頭が悪いッス。折角体を売ってまで取ってきた情報を!うちの若い奴らも神功さんを見習ってほしいッス……!九鬼さんは神功さんが大切なのでああなる気持ちは分からなくは無いですけど……」
「……九鬼が気に食わなかったのなら、僕が悪いんです」
「ハァァァ……神功さん……なんて健気な…ッ!九鬼さんには勿体無いッス!!考え直すなら今のうちですからね!」

井上竜司《いのうえ りゅうじ》 は九鬼のお目付け役である。僕の誕生日前後に九鬼を狙った事件があった。その情報を僕は自分の体と引き換えに掴んできたので賞賛されている訳だが、本当なら見返り無く情報を得られるのが一番いい。考え直すの言葉に少し笑ってしまったが、そこからは井上さんが持っている情報と僕が持っている情報を交換した。あれだけ不様な僕の姿を見ても変わらず接してくれているのは助かる。九鬼の周りのことは彼に聞くのが一番いいからだ。

「あ!そういえば神功さん誕生日だったんッスよね!」
「そうですが……」
「すいません、俺、そういうの疎くって……お店の方にお客さんの茶請けになりそうなもん送っといたんで、ふるまいに使ってくだせぇ!」
「其れは……逆に、気を使わせてしまって申し訳なかったですね、有難うございます」
「いえ、そんな大層なモンじゃないっス!あ、あとコレ」

大層なものではないといったが九鬼の派閥がすることは派手なので結構な額が動いたと思う。そしてその後に渡された小さな紙袋の中にはラッピングされたクッキーが沢山入っていた。しかも分かりにくいが多分モチーフは九鬼だ。

「九鬼さん相手にしてるとかなーりストレス貯まると思うんでその時は憂さ晴らしに、ガリッとやっちゃってくだせぇ!」
「……え、あ、はい、ありがとう、ございます」
「あ、変なものは入ってないから安心してください。……あ、後、アイツ浮気してますからね!こっ酷く叱ってやって下さい!」
「…………普通なのでは?」
「へ?」
「マフィアの次期頭領なのですから」
「そうなんッスけど、……そいつがイケ好かねぇ奴なんです!」

井上竜司《いのうえ りゅうじ》 がグッと距離を詰めてきたので一歩下がった。九鬼が他の相手と何処で何をしようが関与するつもりは無いが、矢張り僕以外に相手がいるのだと分かってしまうとすんなりと受け入れる事ができた。筈、だったのだが……………。

「金髪で、キツイ顔立ちのやつなんですけどね、まぁ、美人ナンッスヨ!男ですが!!ウィステリアって名前で……名前まで洒落てて……ムカつくんですよ!」

ん………………?
ウィステリアは僕が違法な組織に潜入するときの裏の名前だが……。このウィステリアとしても井上さんとは面識があった為、前に彼とセックスしたときに全てバレたと思っていたがこれはもしや……。

「そういえばアイツも神功さんと同じ三つ編みですね……武器も長物が得意ですし……、やっぱ要らないッスよ!同じとこばっかじゃないですか!!アイツと神功さんなら俺は絶対神功さん推しッス!!」

クッキーの袋を持った僕の両手をギュッと握り締めながら井上竜司は力説する。似てる……のは当たり前だ、ウィステリアも僕なのだから。しかし普通なら〝似てる〟まで辿り着くことも僕の能力のせいで難しいし、逆に〝似てる〟まで辿り着くと同一人物だと気付くはずなのに、目の前の相手はその結論には至らないようで、酷くウィステリアの事だけを嫌っていた。井上さんに僕《神功左千夫》まで嫌われて情報収集に影響が出てもいけないため「精進します」とだけ返答しておいた。
最後に少し会話をしてから井上さんとは別れて喫茶【シロフクロウ】へと戻る。途中、九鬼のような形をした可愛らしいクッキーを一枚取り出すと、まじまじと見つめてしまった。結局、井上さんの話では九鬼の側に居るのは今は僕だけということになってしまう訳で……。
自分の中の複雑な感情を持て余さないようにバリッと小気味良い音を立ててクッキーと一緒に飲み込んだ。


∞∞ nayuta side ∞∞

来てしまった。とうとう来てしまった。
マスターの誕生日が……!!
昔、安物のお菓子を買って渡した記憶はある。マスターはそんなものでも喜んでくれていたが、あれから時は流れた。
マスターは喫茶【シロフクロウ】を経営し、お茶もお菓子も自らで揃え、しかも食も更に細くなって、もう思い付く限り渡せるものはない……ッ!
晴生に聞いたら「千星さんに祝われるだけで十分ッスよ!俺も物は用意しないッス!」って言われて、そんなもんかとも思ったが、誕生日会当日になった今日、剣成によると二人で喫茶【シロフクロウ】の新メニューのレシピを考案してそれを発表するらしい。と、なるとそれを作るのは巽である。……自動的に俺だけなにもしない事になる。
やっぱりせめてお菓子だけでも買って来ようと思ったときに宅配便が届いた。井上竜司《いのうえ りゅうじ》 と言う名義で送られてきた箱はシロフクロウの1階を埋め尽くす程の量だった。

「あれ~、いのっちからじゃん。ナニナニ~、〝神功さんお誕生日おめでとうございます。食べきれない分はお客さんへのサービスに使ってください〟だって、流石ボクの部下だネ~気が利いてる!」

九鬼オーナーが一緒に送られてきたメッセージカードを読み上げていた。井上さんは確かオーナーの世話係だった気がする。そして、送られてきた段ボール箱にはたくさんの花束と色々なメーカーのいろんな種類のお菓子が詰まっていた。もう俺がどのメーカーのお菓子を買ってこようがダブるし霞む。いや、誕生日は気持ちの問題である。金額や量ではない……!と、自分に言い聞かせてみるがやはり説得力が無い。
悩みながら誕生日パーティの飾り付けをしていたらあっという間に時間が過ぎてしまった。もう、残る手段はアレしかない。
井上さんから届けられた花束のおかげで、喫茶【シロフクロウ】の1階が更に豪華になった。そして誕生日会の開始10分前にまず九鬼オーナーが玄関に向かって、そしてそれにつられるように他のキャストが玄関に向かい始める。不思議に思っていたら、オーナーから声がかかった。
「なゆゆ~、ほらはやく!左千夫クン来るヨ!」
どうやら全員マスターの気配を感じて動き出したようで、そんなものがわからない俺は慌ててクラッカーを片手に玄関扉の側に向かった。と、言ってもだ。俺は気配の消し方とか分からないし、オーナー達がマスターの気配を感じられるって事はマスターも俺達の気配を感じる訳で……待ち構えている俺達を他所に中々扉は開かなかった。

「もうちょっとカナー…………あ、来るヨ、3…2……」

それでもジッと待っているとマスターの方が諦めたようで扉のノブが動く。それと同時に九鬼オーナーが号令をかける。
一般人相手には無いよくわからない駆け引きに俺は従うしか無いわけで、グッと大きめのクラッカーの紐を握った。

「………1、……せーの!」

「左千夫クン、お誕生日オメデトウ!
マスター、お誕生日おめでとうございます!」

九鬼オーナーお手製のクラッカーは激しく音を立てると同時にカラーテープではなく花弁が舞った。マスターは少しだけ目を丸くしたけど、その後はいつもよりゆったりと柔らかい笑みを唇へと浮かべていた。

「有難うございます」

マスターはいつも笑っているけど今日はいつもよりも嬉しそうに見えた。整った笑顔を見つめていると、バサバサと梟らしからぬ羽根音を立てて、白梟のアンドロイド、ラケダイモンが唄いながら飛んできてマスターの掲げた腕に乗った。そして頭に乗せていたロウソクを消せと言わんばかりにマスターに近づけるのでマスターはふぅ…と息を吹きかけて消していた。

〝ハッピバースデー、サチオ~♪ハッピバースデー、サチオ~♪〟
「ラケ……?歌えるようになったんですね」
「歌えるどころか、喫茶店業務もなゆゆよりも出来るヨ!」
「へ!?オーナー、それは言いすぎです!」
「え?でもほら、この前の左千夫くんが休んでた日テキパキ動いてたでショ?」
「休んでた日?……連絡グループには休むって入ってましたけどマスター居ましたよね……?」
「……いいえ?」
「はぁ!?居ただろ!千星さんに嘘吐くんじゃねぇよ!」
「あー……そういう事な。違和感は感じてたんだけどよ…」
「ラケちゃんが有能だから騙されてたね」

一日だけマスターが喫茶【シロフクロウ】を休むと連絡してきた事があった。だけど俺が行ったときにはマスターは普通に業務をしていたので来られるようになったと思い込んでいたが、マスターの話によればあれは白梟のラケダイモンが幻術により、マスターの姿に見えていただけだったようだ。マスター的には喫茶店業務までやらせようとした訳ではなく、マスコット的に不在をカモフラージュする予定だったようだが、ラケダイモンは接客も見事すぎて俺達が騙されるほどだった。ラケは相変わらず歌いながらマスターの肩にとまっていたが、そのマスターをオーナーが引っ張っていく。

「この色とりどりの花とお菓子はいのっちからネ~、そんでもって~」
「はんっ、仕方ねぇから夏の期間限定メニューはもう考えてやったぜ!テーマ〝海の青〟!千星さんのカラーだぜ!!」

そこはマスターのカラーで攻めるべきだろうっ!と内心つっこんだが、晴生はそういう点においては言う事を聞かないので肩を落とすに留まった。マスターが連れて行かれたテーブルの上にはトルコ石の青色に近いカレーや、麺類のスープが青いもの、青く透き通った紅茶、そして、宝石のような四角い形をした青いケーキが並んでいた。俺のカラーだと言うことを差し置いてもとても夏らしい凝ったメニューが並んでいた。マスターは品定めするように注意深く見つめた後、取皿に分けてから1品ずつ口にしていく。

「カレーは見た目のインパクトはありますが味にあまり深みがありませんね、改良が必要かと。このラーメンはいいですね、トッピングをもう少し考え直せば夏のメニューにこのまま出せますね…後、こっちの───」

晴生も晴生だけど、マスターもマスターだ。誕生日プレゼントと称されて渡されたメニューをきっちり評価しはじめて、誕生日会が一気に品評会になってしまった。ダメ出しされた部分に関して晴生は図星だったのか反論せずに怒りに震えてるし、その横で剣成も分かっていた様子で頬を指先で掻いていた。作った巽の表情は変わらないので何を思っているかは分からない。
そしてご飯系を食べたあと、最後に残ったスクエア型の青い宝石のようなケーキを一口食べた。

「───!これは、完璧ですね……。美味しいです。青はどうしても食欲を減退させますが、これだけ美味しければ問題無いと思います。このままいきましょう」

吐息を零すように美味しいと告げて微笑む様は映画のワンシーンを見ているようだった。俺まで息を溢してしまうほどマスターは柔らかく笑んで俺達を見つめていた。そしてそのまま皆で食べて、ああでもない、こうでもないと、誕生日会では無く、喫茶【シロフクロウ】の新メニュー開発会議になってしまったのは言うまでもない。
机の上の料理が全て無くなった頃、他のキャストは片付けやら、レシピの記載をしている中、マスターは少し離れたところで井上竜司《いのうえ りゅうじ》 さんから届いた花やお菓子を見ていたので俺はそっと近付いた。近づいて行くにつれて気付いたことだけど、なんかマスターが若返った気がする。いつも肌はキレイなんだけど、今日は髪の先から足の先まで更に洗練されている気がしてボーッと見つめてしまう。そうするとマスターの方が視線に敏感なので困ったように俺を見詰めてきた。

「何か変な所がありますか?」
「い、いえ……!な、なんか、なんて言うか、マスターが若返ったような?……歳を取っているとかそういう訳じゃないんですが…ッ!」
「嗚呼……九鬼のせい、……いえ、おかげですかね」

俺が両手を出して目の前で横に振っている姿を見つめてから、マスターは自分の三つ編みを触り毛先を見詰めていた。
てか、九鬼オーナーにも中国から帰って来てすぐに何あげるか聞いたときは「今年はなにも貰ってくれそうにないカナ」とか言ってて元気も無かったので喧嘩でもしたのかと心配したんだけど杞憂に終わったようだ。絶っっ対お高い化粧品とか渡したやつだ。
毎度財力の違いを見せつけられて肩を落としたが、本題はそこではない。俺が視線を逸らさないので、マスターは俺を見詰めたままなのをいいことに更に一歩近寄ると、マスターに封筒を差し出した。

「え……と、マスターに何渡していいかわかないまま誕生日会が来たので、その、あの……!!つまらないものですがどうぞ……ッ!」
「……開けていいですか?」
「え、あ、はい!」

何となくこの場で開けられるのは気乗りしなかったが、帰ってから一人で楽しめるような大層なものでもないので頷くしかなかった。色気のない茶色の封筒から少し分厚めの紙をマスターは取り出した。そこには〝お手伝い券〟と書かれた紙が綴られているわけで。小学生が親にやるような誕生日プレゼントなんて、何でも出来るマスターが必要な筈ないのもわかっているのだが、身を削る以外のプレゼントが思い浮かばなかった。

「……那由多くん有難うございます」
「い、いえ、なんか、こっちこそ、すいません。必要ないですよね……」
「いえ、大切に使わせて貰いますね。僕は君の字が好きなのでかなり得点の高いプレゼントですよ」

そう言って笑ったマスターの笑顔はとても静かだった。気を使って笑ってくれたのかとも思ったけど想像以上に自然に嬉しそうに笑っていて渡してよかったんだとホッと胸を撫で下ろした。するとどこからかひょっこりと現れたオーナーがマスターから封筒を取り上げた。

「え?ナニナニ~お手伝い券?なゆゆ、小学生じゃないんだからどうせ作るならもっと豪勢なので作りなよ!下僕になりますよ券とか、パトロン券とか♪」
「オーナーは見ないでください……ッ!」
「え~ケチ!ボクも左千夫クンから一枚貰ってなゆゆこきつかおうかナ~」
「絶っっ対嫌ですからね!オーナーの手伝いはしません……ッ!」
「九鬼、此れは僕のものですからあげませんよ。それに、僕は人目を惹きながらや全く誰にも知られずの潜入は得意ですが、中々那由多くんのように紛れる潜入は難しいんですよね」

九鬼オーナーが来て話がややこしくなったが、更にマスターがややこしい事を言い始めた。俺的には喫茶【シロフクロウ】についての手伝いをするはずだったんだけど。
オーナーが取り上げた〝お手伝い券〟をマスターが奪い返して顎に手を置きながらなにか思案していた。

「忙しくなりそうですね。次はおとり捜査にしましょうかね?」

そう言って綺麗にマスターは笑っていたけど俺は嫌な予感しかしなかった。頭に巡るのは地下闘技場での乱交と性感マッサージ店への潜入捜査だった。もしかして、とんでもないものを渡してしまったかもしれないと思ったが既に後の祭りだ。喫茶【シロフクロウ】は夏の準備に向けて忙しく動き始めた。


END

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