自由を求めて

雪水

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二章 周囲の目

体育祭前日

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あの後結局俺たちとあの女子は和解した。

聞けばあの女子は大和のことが好きだったらしく、大和とハグをしていた俺に嫌なことを言ってやろうと思ったらしい。

なんというか

「いかにも女の子らしい理由だよね~」

つまらなさそうに大和が言う

「まぁそう言うなって。大和がモテてるのは事実なんだし。」

「ど、どういうこと?」

泡を食ったように大和が聞いてくる。

「いや大和結構女子人気高いからな?」

「僕は女子百人に好かれるより斗真くん一人に好かれる方が嬉しい。」

そんなことを言われて俺は机に顔を突伏する。

ねぇねぇ~、と大和が肩を揺すってくるが俺は熱くなった顔をあげる勇気はなかった。

そんなこんなしているうちに気がつけば体育祭前日になっていた。

「はいじゃあ終礼を始めます。明日は待ちに待った体育祭ですね。体操服で登校してください。秋なのでもし寒い人がいる場合は長袖、長ズボンのジャージを半袖、半ズボンの体操服の上から着用し、登校してきてください。水分は多めに持ってきてくださいね。また、明日は給食が来ないので各自お弁当を持ってきてください。8:20登校完了、15:30閉会予定です。以上で明日の連絡を終わります。さようなら。」

「大和!明日だぜ明日!」

「斗真くんってそんなに身体動かすイベント好きだったっけ?」

「嫌いだ。」

「でもすごい楽しみにしてない?」

「そりゃあ、大和と同じイベントに参加するってだけで俺にとっては最高の思い出になるからな。」

「あーそういうこと。てっきりここでかっこよく一位取って女子の視線かっさらおうとしてるのかと思った。」

からかうように大和がそんなことを言ってくるので俺も言い返す。

「へー、大和は俺が大和以外のやつに取られるかも知れないってのにそれでも良いんだ?」

慌てて首を横に振りながら大和が泣きそうな顔で言う。

「やだ!冗談だから!」

俺は わかってるよ、と大和の頭を撫でて落ち着かせることに尽力した。

帰宅後、俺は母さんに弁当の用意を頼んだ。

「斗真、明日のお弁当は一緒に食べる友達は居るのかい?」

しまった、大和と一緒に食べる約束してない...

まぁここで居るって言って最悪明日大和が他の人と食べるってなったら一人で食べればいいか。

「うん、居るよ。」

「どんな子?」

「それは性格の話?見た目の話?」

「どっちも教えてくれたりしない?」

「別にいいけど...そいつは小柄で髪の毛はちょっと栗色の猫っ毛、性格はなんだろう、優しいのかな?」

「あら、いい友達が出来たようね。斗真がこんなに友達の特徴言えるほど親しくなった子って初めてじゃないかしら。」

「あーたしかにそうかも。まぁそういうことだから明日お弁当よろしくね。」

「とびきり美味しいの作ったげるから楽しみにしてなさい!」

歌うように軽やかに告げられた母親の言葉を聞ききってから自室へと向かった。

大和からメッセージか来ている。

「いきなりごめん!明日のお弁当、一緒に食べない?」

...願ったり叶ったりだ。

「もちろんいいぜ、他の人も誘いたかったら誘ってもいいしそこは大和に任せるよ」

俺は少し勇気を出してハートマークのスタンプを送った。

アプリタブを消すより早く大和からメッセージが来た。

「ほんとに!?やったー!一緒に食べよう!僕二人きりで食べたいな!」

大和からは 月が綺麗ですね と書かれたスタンプが送られてきた。なんだこれ?

俺がメッセージを返すとすぐにまた大和から返ってくる。

「オッケー二人で食べよう、ところで月が綺麗ですねってどういうこと?確かに今日は晴れてて月がよく見えるけど。」

「違うんだ、斗真くん。月が綺麗ですねってあなたを愛してますって意味にもなるんだよ?」

「あ、そういうこと。月が綺麗ですねって言われたときはなんて返せば良いんだ?きっとこの月は隠れることはないでしょうとかか?」

「諸説あるみたいだけど ずっと前から月はきれいですよ って返すのが一般的らしいね。斗真くんのそれもなかなかよさそうだけどね。この恋心はきっと濁りません、みたいなさ?」

「そういうの考える人っておしゃれだよな。」

「僕は斗真くんの きっとこの月は隠れることはないでしょう もすごくおしゃれだと思うし好きだけどな。」

「ありがと、大和も何か月で告白みたいなの考えてみてよ。」

「えぇ!急な無茶振りだねぇ...」

「いいからいいから」

「君の周りの闇を全て光に変えることが出来なくとも、僕は君の周りの闇を照らす月にはなれる。 とかどうかな?」

「なんかずりぃ、それかっこよすぎる。」

「あ~、いま斗真くん僕にキュンってしたでしょ!」

「してませーん」

「嘘だぁ!絶対キュンってしてくれたはずだもん!」

怒ってるようなスタンプが送られてくる。

「正直に言うと...」

「言うと?」

「ちょっとした。」

「ほらぁやっぱり~」

ドヤ顔のスタンプが送られてくる。

大和のやつ一体何個スタンプ持ってんだよ。

「キュンってしましたーあまりに大和がかっこよすぎたからキュンってしましたー」

ダメ押しでこう送ってみると大和からは照れたようなスタンプが送られてきた。

続けて

「明日体育祭だから早めに寝るね、おやすみ斗真くん。」

「おやすみ、大和。」

俺もそろそろ風呂はいろ...


風呂から上がって歯磨きをしていると母親に話しかけられた。

「ちょうどいいとこにきたわ斗真、あんた体育祭なんの種目に出んの?」

「俺は借り物競争だよ、あんまり順位とか見られないから気楽だなって。」

「そ、なら良いけど。やるからには精一杯頑張んなさいよ?」

「うん、ありがと」

ここで父親が話しかけてきた。

「借り物競争っつったら俺らの時代は 恋人! とかのお題が鉄板だったが斗真はそのお題が出たらどうするんだ?」

多分俺は明日の体育祭が楽しみで浮かれてたんだと思う。つい口が滑った。

「どうするって、普通に恋人連れて行くけど...?」

母親と父親が開いた口が塞がらないとでもいった様子でこちらを見ている。

先に口を開いたのは母親だった。

「斗真、あんたいつの間に恋人が...?」

続けて父親も口を開く。

「女の子?男の子?どっちなんだ?」

「ちょ、父さんも母さんも落ち着いて。」

「おち、落ち着いてられるもんですか...」

「いつの間にって言われてもだいたい半年くらい前かなぁ、その子は男の子だよ。」

父親は そうかそうか と言わんばかりに満足そうにうなずいている。

母親は付き合ってるのが男だと聞いて更にびっくりしたようだ。

「斗真、あんた男と付き合ったの?信じられない。」

母さんまでそんな事言うのか。

頭がふわっとした刹那、以外にも父親が口を開いた。

「母ちゃん、斗真が誰と付き合おうが斗真の自由だろ。たかだか男の子同士で付き合ったくらいで何が信じられないんだ?今の発言は斗真の気持ちも、斗真の恋人の気持ちも踏みにじることになることがなんでわからない!」

親父がこんなに声を荒らげたのは初めて見た。更に親父は続ける。

「当人たちの幸せに親が介入するのは親子愛の形じゃないぞ、母ちゃん。本当に親が子を愛してるならするべき行動は一つ。息子が心から幸せに生きれるよう、たとえそれが人に迷惑をかけない形の幸せである限り全力でサポートをすることだ。」

「父さん...」

「それから斗真にも一つ言っておこう。父さんは斗真が誰と付き合おうが構わない。男の子同士で付き合うのはきっと周囲の好奇に満ちた目で後ろ指を指される茨の道になることはほぼ間違いないだろう。だけど父さんは、いや、俺たちは斗真の味方だからな。」

気がつくと俺は涙を流していた。

「父さん...ありがと。」

「いいんだよ、じゃあ斗真はもう寝なさい。明日体育祭なんだろ?」

「うん、おやすみ父さん。」

「あぁ、おやすみ。」
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