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決別と転生
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「う...」
目を覚ますとすぐに鈍い頭痛が走った。
「どこだ、ここ?」
必死に昨日の行動を思い返してみる。
思い出せない、なんてテンプレは起きなかった。
昨日俺は彼女に振られてその勢いのまま呑み屋を3.4件はしごしたのだ。
そして家に帰ると彼女がおいていったもの全てを破棄した。
そこまでははっきりと覚えているのだが...
その後が思い出せない。
確か昨日はソファーで友達と連絡取ってたはずなんだが、その連絡相手が思い出せない。
いや待て。
まず俺の彼女ってどんな人だ。
思い出せない。
俺の友達は?
やはり思い出せない。
じゃあ俺は?
大阪に住むしがない会社員だ。
それは覚えている。
“おれ”は”俺”を覚えているが”俺”は友人知人誰一人として覚えていないのだ。
ふとあたりを見回してみる。
一面青い世界。
「幻想的だなぁ」
いやいやそんなこと言ってる場合じゃねえよ
「...え、誰?」
誰っていつも一緒にいたじゃねえかよ。”おれ”だよ。
「そう言われてはいそうですかとはならないんだよ」
何いってんだか。
「そりゃこっちのセリフなんだわ」
ところでここがどこか知りたくないか?
「いやまぁ、知りたいけど。てか誰なのあんた、まずそこから教えてくんない?」
それはちょっと強欲がすぎるんじゃないの?
「じゃあどうすればいい?できることなら何でもやってやる。ただし情報が先だ。」
仕方ないな。ここは海底さ。
「海底?何を言っている。息もできているし目だってはっきりしてる...自分の正体は意地でも明かさないつもりか。」
全くわからず屋め。俺はお前の中の"おれ"だって言ってんだろ。まぁいい、じゃあこっちのターンだ。自分で自分の首を思い切り締めてみろ。
「は?まぁいいけど。」
俺は言葉を失った、いや失いかけた。
その顔はなにかに勘づいたようだな。
「どういうこ…」
語託はいいから、さっさと何が起きたか説明してみろ。
「体がさわれない。一体何をした。」
何をしたって、あんたのことだぜ、あんたが一番わかってるに違いないだろ?
「わからないから聞いている。答えろ。」
答えってのは案外近くに転がってるもんだぜ?自分の体でも見てみれば?
「一体何を言っ...」
今度こそ俺は言葉を失った。
だから言っただろう?あんたのことは一番あんたがわかっている、答えは近くに転がっているって。
「な...」
どうだい?自分の真っ赤な腹から骨が突き出ている様子は?
「どうだいもなにも最悪の気分だ。」
最悪だって?
「何をそんな素っ頓狂な声を出して。最悪に決まっているだろう。」
…ふふ。
「何がおかしい。」
何がおかしいも何も、まだてめぇの置かれている状況がよくわかってねえみてぇだな。
「何が言いたい。」
わからないのか?それとも認めたくないのか?
「つまり何が言いたい。早く答えろ。」
お前は死んでるんだよ。つい2.3時間前の話だ。
「は?」
そりゃ信じられないよな、めんどくせぇから話そのまま進めんぞ。
「ちょっとまってくれ、整理がしたい。」
悪いが暇じゃないんでね、無視して進めさせてもらうよ。
「説明無しかよ...なんで俺は死んでんだ?」
それは俺にもわからない。ただ一つ言えることは、
「何だ、早く言え。」
今から言おうとしてただろう。お前は他殺でも寿命でもない。自殺だ。
「自殺。」
ああそうだ。おおよそ飛び降りだろうな。
「なぜ、飛び降りと断定できる。」
飛び降りて背中から打ち付けられた場合背骨から肋骨に向けて衝撃が走り、胸骨から肋骨が外れ外に飛び出るのが人間の体の作り上ほぼ確実なんだよ。だから飛び降りたってのがおれの仮説だ。
「なるほど。」
案外落ち着いていられるもんなんだな。
「まぁ今更あがいたところで何も変わらないからな。」
さすが俺だ。さてこれからどうする?
「どうするったってどうしようもないだろう。」
いや、お前が今から歩む事のできる道は3つある。
「3つ...」
1つ目。このままこの世界で幻想の一部として過ごしていく。
2つ目。死因をはっきりと知り、過去とその瞬間を映像として見、新たな人生を歩む。
3つ目。おれと精神融合して生き返る。
「もちろん、」
おっと待て。それぞれにはそれ相応にリスクがあるんだ。
まず1つ目、このまま幻想の一部となる。という選択肢を選んだ場合には、そのままの意味でこの世界から出ることはできなくなる。もちろん他の人間に会うことはないから、恋だのワンナイトだのそういう方面とはおさらばすることになるだろうな。
次に2つ目、死因をはっきりと知り、過去と死んだ瞬間を映像として見た後新たな人生を歩む。という選択肢を選んだ場合には、このお前としての人格は二度と戻ることなく、本当に真っ白な、0からのスタートになる。
最後に3つ目だ。おれと精神融合をして生き返る、という選択肢を選んだ場合には、しばらく飛び降りた後の激痛と、通院生活が長く続き、想像を絶するほどの苦痛が断続的に襲ってくるだろう。しかし生き返ることができる。
さて、ここまで聞いた上でお前はどうするんだ?
「...2番だ。」
そうか。では死因をはっきりと教えよう。
ふむ...お前はどうやら飛び降り自殺を実行したようだ。
時間は午前...5:40だな。
「なるほど。よくわかった。」
映像としてその瞬間を確認するか?
「よろしく頼む」
~~~~~~~~
「これが俺の最後か。」
そうだ。案外あっけないものだろう?
「きれいな朝焼けだな。朱色から深い青までのグラデーションがとてもきれいだ。」
死ぬ直前のお前もそう言っていたぞ。
「そうか...」
まぁせいぜい次の世界では自らを手に掛けるようなことはないようにな。
「ああ、肝に銘じておくよ。」
お前は今から転生する、転生先の種族は...ほぉ、こりゃ運が良いのか皮肉が効いてんのか。天使だとよ。
「天使?」
ああ、人の寿命を変える者たちの総称だ。
お前も天使に殺されたんじゃねぇの?
頭の上を見てみろよ。
そう促され俺は頭上を見る。
光り輝く輪っかが浮かんでいた。
「!?」
わかりやすいだろ?
早速仕事だ。あそこのビルの上から空を見上げる人が飛び降りるから、死ぬまで見守ってこい。
ここで俺は気がついた。
俺が死んだときに上から見下ろしていた少年は自分だったのだと。
記憶が薄れていく...。
「あの人を...死なせなきゃ...」
目を覚ますとすぐに鈍い頭痛が走った。
「どこだ、ここ?」
必死に昨日の行動を思い返してみる。
思い出せない、なんてテンプレは起きなかった。
昨日俺は彼女に振られてその勢いのまま呑み屋を3.4件はしごしたのだ。
そして家に帰ると彼女がおいていったもの全てを破棄した。
そこまでははっきりと覚えているのだが...
その後が思い出せない。
確か昨日はソファーで友達と連絡取ってたはずなんだが、その連絡相手が思い出せない。
いや待て。
まず俺の彼女ってどんな人だ。
思い出せない。
俺の友達は?
やはり思い出せない。
じゃあ俺は?
大阪に住むしがない会社員だ。
それは覚えている。
“おれ”は”俺”を覚えているが”俺”は友人知人誰一人として覚えていないのだ。
ふとあたりを見回してみる。
一面青い世界。
「幻想的だなぁ」
いやいやそんなこと言ってる場合じゃねえよ
「...え、誰?」
誰っていつも一緒にいたじゃねえかよ。”おれ”だよ。
「そう言われてはいそうですかとはならないんだよ」
何いってんだか。
「そりゃこっちのセリフなんだわ」
ところでここがどこか知りたくないか?
「いやまぁ、知りたいけど。てか誰なのあんた、まずそこから教えてくんない?」
それはちょっと強欲がすぎるんじゃないの?
「じゃあどうすればいい?できることなら何でもやってやる。ただし情報が先だ。」
仕方ないな。ここは海底さ。
「海底?何を言っている。息もできているし目だってはっきりしてる...自分の正体は意地でも明かさないつもりか。」
全くわからず屋め。俺はお前の中の"おれ"だって言ってんだろ。まぁいい、じゃあこっちのターンだ。自分で自分の首を思い切り締めてみろ。
「は?まぁいいけど。」
俺は言葉を失った、いや失いかけた。
その顔はなにかに勘づいたようだな。
「どういうこ…」
語託はいいから、さっさと何が起きたか説明してみろ。
「体がさわれない。一体何をした。」
何をしたって、あんたのことだぜ、あんたが一番わかってるに違いないだろ?
「わからないから聞いている。答えろ。」
答えってのは案外近くに転がってるもんだぜ?自分の体でも見てみれば?
「一体何を言っ...」
今度こそ俺は言葉を失った。
だから言っただろう?あんたのことは一番あんたがわかっている、答えは近くに転がっているって。
「な...」
どうだい?自分の真っ赤な腹から骨が突き出ている様子は?
「どうだいもなにも最悪の気分だ。」
最悪だって?
「何をそんな素っ頓狂な声を出して。最悪に決まっているだろう。」
…ふふ。
「何がおかしい。」
何がおかしいも何も、まだてめぇの置かれている状況がよくわかってねえみてぇだな。
「何が言いたい。」
わからないのか?それとも認めたくないのか?
「つまり何が言いたい。早く答えろ。」
お前は死んでるんだよ。つい2.3時間前の話だ。
「は?」
そりゃ信じられないよな、めんどくせぇから話そのまま進めんぞ。
「ちょっとまってくれ、整理がしたい。」
悪いが暇じゃないんでね、無視して進めさせてもらうよ。
「説明無しかよ...なんで俺は死んでんだ?」
それは俺にもわからない。ただ一つ言えることは、
「何だ、早く言え。」
今から言おうとしてただろう。お前は他殺でも寿命でもない。自殺だ。
「自殺。」
ああそうだ。おおよそ飛び降りだろうな。
「なぜ、飛び降りと断定できる。」
飛び降りて背中から打ち付けられた場合背骨から肋骨に向けて衝撃が走り、胸骨から肋骨が外れ外に飛び出るのが人間の体の作り上ほぼ確実なんだよ。だから飛び降りたってのがおれの仮説だ。
「なるほど。」
案外落ち着いていられるもんなんだな。
「まぁ今更あがいたところで何も変わらないからな。」
さすが俺だ。さてこれからどうする?
「どうするったってどうしようもないだろう。」
いや、お前が今から歩む事のできる道は3つある。
「3つ...」
1つ目。このままこの世界で幻想の一部として過ごしていく。
2つ目。死因をはっきりと知り、過去とその瞬間を映像として見、新たな人生を歩む。
3つ目。おれと精神融合して生き返る。
「もちろん、」
おっと待て。それぞれにはそれ相応にリスクがあるんだ。
まず1つ目、このまま幻想の一部となる。という選択肢を選んだ場合には、そのままの意味でこの世界から出ることはできなくなる。もちろん他の人間に会うことはないから、恋だのワンナイトだのそういう方面とはおさらばすることになるだろうな。
次に2つ目、死因をはっきりと知り、過去と死んだ瞬間を映像として見た後新たな人生を歩む。という選択肢を選んだ場合には、このお前としての人格は二度と戻ることなく、本当に真っ白な、0からのスタートになる。
最後に3つ目だ。おれと精神融合をして生き返る、という選択肢を選んだ場合には、しばらく飛び降りた後の激痛と、通院生活が長く続き、想像を絶するほどの苦痛が断続的に襲ってくるだろう。しかし生き返ることができる。
さて、ここまで聞いた上でお前はどうするんだ?
「...2番だ。」
そうか。では死因をはっきりと教えよう。
ふむ...お前はどうやら飛び降り自殺を実行したようだ。
時間は午前...5:40だな。
「なるほど。よくわかった。」
映像としてその瞬間を確認するか?
「よろしく頼む」
~~~~~~~~
「これが俺の最後か。」
そうだ。案外あっけないものだろう?
「きれいな朝焼けだな。朱色から深い青までのグラデーションがとてもきれいだ。」
死ぬ直前のお前もそう言っていたぞ。
「そうか...」
まぁせいぜい次の世界では自らを手に掛けるようなことはないようにな。
「ああ、肝に銘じておくよ。」
お前は今から転生する、転生先の種族は...ほぉ、こりゃ運が良いのか皮肉が効いてんのか。天使だとよ。
「天使?」
ああ、人の寿命を変える者たちの総称だ。
お前も天使に殺されたんじゃねぇの?
頭の上を見てみろよ。
そう促され俺は頭上を見る。
光り輝く輪っかが浮かんでいた。
「!?」
わかりやすいだろ?
早速仕事だ。あそこのビルの上から空を見上げる人が飛び降りるから、死ぬまで見守ってこい。
ここで俺は気がついた。
俺が死んだときに上から見下ろしていた少年は自分だったのだと。
記憶が薄れていく...。
「あの人を...死なせなきゃ...」
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