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スプーンいっぱいの想い出
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始まりは一本の電話だった。
『累くん、あのね...』
僕が1番好きな、いや好きだった母親の訃報だった。
もちろん今でも1番大好きだけどもう何も言えない。
僕はとにかくお母さんが搬送されたという病院に向かった。
場所なんてわからなかったしどう行けばいいのかわからなかったけどお母さんに昔言われた
『なにか困ったことがあったら交番に行って警察の人に助けてもらいなさい』
という言葉を思い出して交番に向かった。
「あのお母さんが、病院に...」
「どうしたの僕?」
「電話かかってきて、お母さんが、七草病院っ...!!」
言いたいことがまとまらなくて僕はパニックになってしまったがとにかくただならぬ事態なことは察してくれたようで七草病院まで送ってくれることになった。
警察の人がくれたお茶を飲んだら少し冷静になって申し訳なくなったけれど
「困っている人を助けるのが警察の仕事だから」
そう言って笑ってくれた。
僕はその一言にだいぶ救われた。
病室に着くとすでに連絡を受けた親戚たちが集まっていた。
「累くん、」
「累...」
僕はもうなにも返す気力がなくてただお母さんの乗ったストレッチャーのそばに寄ることしかできなかった。
どうしてお母さんは先に逝ってしまったんだろう
どうしてお母さんは死んだのだろう
幼い僕の心にはその出来事が重く、重くのしかかってきた
そのまま葬儀場までお母さんが運ばれたので親戚の人と一緒に僕も向かった。
まだ葬儀の準備に時間がかかるということだったので僕はお父さんに連れられて家に帰った。
車の中では特に会話はない。
なにか喋った方がいいのか黙ってた方がいいのか僕には分からない。
息をするにも喉が詰まったように、なにか塊がそこに居座るように思うようにいかない。
家に着いてすぐお父さんはまた戻っていった。
僕はそこでようやく、泣いた。
泣いて
泣いて
泣いた。
涙は枯れなかった。
いっそ枯れて欲しかった。
涙も声も心も感情も全部枯れてしまえば良かったのに。
そうしたら何も感じなくなって死ねるのに。
泣きながら、変に冷静な頭でそう思った。
泣き続けてどれだけ経っただろう。
僕はお腹が空いていたことを思い出した。
なにか僕でも作れそうなものが無いかと台所を覗くとオムライスが置いてあった。
僕の大好きなお母さんのオムライス。
見慣れた字で書かれたメモがオムライスの横に置かれていた。
『お母さん今日帰るの遅くなりそうだからオムライス温めて食べておいてね』
ラップで少し潰れてしまっているがオムライスの上には
『るい』
僕の名前が書かれていた。
オムライスを電子レンジで温めてリビングに持っていく。
スプーンを手に持って小さくいただきますをする。
零れるんじゃないか、そう思うほどスプーンいっぱいにオムライスを掬って口に運ぶ。
優しいチキンライスの味と卵の味がする。
お母さんの、味がする。
食べ進めるうちにオムライスが少しずつしょっぱくなっていったが僕は何も気にせず食べ進める。
美味しい。
すごく、美味しいはずなのにどうして悲しみが、涙が止まらないんだろう。
食べ終わったお皿を綺麗に洗ってお母さんがいつもしていたように棚に並べる。
もう何もしたくなかったけどお母さんの教えをちゃんと守るために歯を磨いてお風呂に入ってから眠った。
次に気がついたときには僕は父が運転する車だった。
お母さんの葬儀が行われる場所についてから僕は控室みたいなところに通された。
棺桶に入っているお母さんを見たとき、僕は胸に大きな楔が深く刺さったような感じがした。
よく死んだ人を見たときの表現として眠っているようにしか見えないと言うがそんなのは嘘だ。
確かに見るだけだと眠っている人に見える、しかし本質的なところが何も違う。
もう記憶が曖昧だ。
あぁ。
いつか見た遠い過去、夕暮れ時の2つの影を思い出す。
どうしてか、もう悲しくない。
今はただ、懐かしい。
骨になったお母さんを見たとき、僕は空を見上げないとだめな気がした。
見上げたそこには煙が立ち上っていた、風は凪いでいる。
ふと、強い風が吹いた。
僕の頬を撫でて、何事もなかったかのようにまた凪いだ。
口からつぶやきがこぼれ落ちる。
「お母さんの手だ」
こんなところで立ち止まっちゃ駄目だ、進まなきゃ。
お母さんに勇気をもらった。
本当の最後の最期までお母さんは僕のお母さんだった。
それから何日経っただろう。
いや、何年か。
「母さん、ありがとう」
僕は、いや俺は母さんの墓参りに来ていた。
幾分か成長した俺を見て母さんはきっと驚いているはずだ。
父さんも俺も強く生きている。
親戚の人達の訃報も聞かないからみんな元気に生きているんだと思う。
俺は中学、高校を卒業して大学に入ったが定年で退職する父さんが喫茶店を開くというのでその店の従業員として働くことにした。
父さんは珈琲を淹れるのがとても上手なのだが如何せん料理の腕が壊滅的なのでキッチンが俺の主な持ち場になった。
サンドイッチやカレー、ナポリタンなど喫茶店らしいメニューも人気だがうちの1番人気は俺が作る
『想い出のオムライス』
スプーンいっぱいにありったけの想い出を詰め込んだ優しいオムライス。
お母さん直伝の俺の最高傑作だ。
『累くん、あのね...』
僕が1番好きな、いや好きだった母親の訃報だった。
もちろん今でも1番大好きだけどもう何も言えない。
僕はとにかくお母さんが搬送されたという病院に向かった。
場所なんてわからなかったしどう行けばいいのかわからなかったけどお母さんに昔言われた
『なにか困ったことがあったら交番に行って警察の人に助けてもらいなさい』
という言葉を思い出して交番に向かった。
「あのお母さんが、病院に...」
「どうしたの僕?」
「電話かかってきて、お母さんが、七草病院っ...!!」
言いたいことがまとまらなくて僕はパニックになってしまったがとにかくただならぬ事態なことは察してくれたようで七草病院まで送ってくれることになった。
警察の人がくれたお茶を飲んだら少し冷静になって申し訳なくなったけれど
「困っている人を助けるのが警察の仕事だから」
そう言って笑ってくれた。
僕はその一言にだいぶ救われた。
病室に着くとすでに連絡を受けた親戚たちが集まっていた。
「累くん、」
「累...」
僕はもうなにも返す気力がなくてただお母さんの乗ったストレッチャーのそばに寄ることしかできなかった。
どうしてお母さんは先に逝ってしまったんだろう
どうしてお母さんは死んだのだろう
幼い僕の心にはその出来事が重く、重くのしかかってきた
そのまま葬儀場までお母さんが運ばれたので親戚の人と一緒に僕も向かった。
まだ葬儀の準備に時間がかかるということだったので僕はお父さんに連れられて家に帰った。
車の中では特に会話はない。
なにか喋った方がいいのか黙ってた方がいいのか僕には分からない。
息をするにも喉が詰まったように、なにか塊がそこに居座るように思うようにいかない。
家に着いてすぐお父さんはまた戻っていった。
僕はそこでようやく、泣いた。
泣いて
泣いて
泣いた。
涙は枯れなかった。
いっそ枯れて欲しかった。
涙も声も心も感情も全部枯れてしまえば良かったのに。
そうしたら何も感じなくなって死ねるのに。
泣きながら、変に冷静な頭でそう思った。
泣き続けてどれだけ経っただろう。
僕はお腹が空いていたことを思い出した。
なにか僕でも作れそうなものが無いかと台所を覗くとオムライスが置いてあった。
僕の大好きなお母さんのオムライス。
見慣れた字で書かれたメモがオムライスの横に置かれていた。
『お母さん今日帰るの遅くなりそうだからオムライス温めて食べておいてね』
ラップで少し潰れてしまっているがオムライスの上には
『るい』
僕の名前が書かれていた。
オムライスを電子レンジで温めてリビングに持っていく。
スプーンを手に持って小さくいただきますをする。
零れるんじゃないか、そう思うほどスプーンいっぱいにオムライスを掬って口に運ぶ。
優しいチキンライスの味と卵の味がする。
お母さんの、味がする。
食べ進めるうちにオムライスが少しずつしょっぱくなっていったが僕は何も気にせず食べ進める。
美味しい。
すごく、美味しいはずなのにどうして悲しみが、涙が止まらないんだろう。
食べ終わったお皿を綺麗に洗ってお母さんがいつもしていたように棚に並べる。
もう何もしたくなかったけどお母さんの教えをちゃんと守るために歯を磨いてお風呂に入ってから眠った。
次に気がついたときには僕は父が運転する車だった。
お母さんの葬儀が行われる場所についてから僕は控室みたいなところに通された。
棺桶に入っているお母さんを見たとき、僕は胸に大きな楔が深く刺さったような感じがした。
よく死んだ人を見たときの表現として眠っているようにしか見えないと言うがそんなのは嘘だ。
確かに見るだけだと眠っている人に見える、しかし本質的なところが何も違う。
もう記憶が曖昧だ。
あぁ。
いつか見た遠い過去、夕暮れ時の2つの影を思い出す。
どうしてか、もう悲しくない。
今はただ、懐かしい。
骨になったお母さんを見たとき、僕は空を見上げないとだめな気がした。
見上げたそこには煙が立ち上っていた、風は凪いでいる。
ふと、強い風が吹いた。
僕の頬を撫でて、何事もなかったかのようにまた凪いだ。
口からつぶやきがこぼれ落ちる。
「お母さんの手だ」
こんなところで立ち止まっちゃ駄目だ、進まなきゃ。
お母さんに勇気をもらった。
本当の最後の最期までお母さんは僕のお母さんだった。
それから何日経っただろう。
いや、何年か。
「母さん、ありがとう」
僕は、いや俺は母さんの墓参りに来ていた。
幾分か成長した俺を見て母さんはきっと驚いているはずだ。
父さんも俺も強く生きている。
親戚の人達の訃報も聞かないからみんな元気に生きているんだと思う。
俺は中学、高校を卒業して大学に入ったが定年で退職する父さんが喫茶店を開くというのでその店の従業員として働くことにした。
父さんは珈琲を淹れるのがとても上手なのだが如何せん料理の腕が壊滅的なのでキッチンが俺の主な持ち場になった。
サンドイッチやカレー、ナポリタンなど喫茶店らしいメニューも人気だがうちの1番人気は俺が作る
『想い出のオムライス』
スプーンいっぱいにありったけの想い出を詰め込んだ優しいオムライス。
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