雑「話」帳

Hatton

文字の大きさ
上 下
2 / 2

視線

しおりを挟む
左斜めに座る君は、また欠伸をした。最初はふわっとしたと思ったら、それじゃ足りないとばかりに、ふわーあと欠伸をした。そして戒めるようにしっかりと口を結んだ。

先生がチョークでカツカツと黒板を鳴らす。何かを言ってはいるけれど、もう歳だからか、声が小さい。だから余計に眠くなる。そうでなくても午後は眠い。だから君だけじゃなく、僕も眠いはず、なのになんでか目が冴えている。

君はペンを回し、二秒待ってから、またくるりと回した。長くて綺麗な指が、くるりくるりとペンを回している。よくよく見ると、ペンもネイルもオレンジ色なことに気づいた。さらによく見てみれば、ペンケースも黄色とオレンジが混ざった色だ。明るい色が好きらしい。そんな小さな発見を、脳内メモに書き留めた。

「少し暑いな」

先生がボソリと言った。そして窓際に向かい、ガラッと窓を開けた。初夏の風が、待ってましたといわんばかりに入りこむ。その風は、窓際の席に座っている君に懐いた。

髪の毛が、風にあおられさらりとなびいた。次にさらりさらりとなびかせた。そしてゴワっとなびかせた。風で髪がなびくたび、うっとおしそうに、手でなおす君。

耳元が日差しで照らされ、何かがキラリと光った。小さな小さな丸い形の、オレンジ色のピアスが光った。ピアスをしているなんて、初めて知った。

とてもよく似合ってる、とてもセンスが良いと素直に思う。だけどなんでか面白くない。急にザワザワと胸の中が騒ぎはじめた。

ねえ、そのピアス…

「えっとこの問題を、きょうは十五日だから…15番に解いてもらおう」

先生の声が頭の中を横切った。出席番号15番はぼくだった。何一つ聞いてなかった。だから何を聞かれたかさえわからない。

「すいません、聞いてませんでした」

素直に答えた僕を先生が茶化す。クラス中のみんなが笑った。もちろん君も笑った。その目が優しげにふわりと歪んだ。ただそれだけで、さっきのザワザワは何処かに消えた。



しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

お漏らし・おしがま短編小説集 ~私立朝原女学園の日常~

赤髪命
大衆娯楽
小学校から高校までの一貫校、私立朝原女学園。この学校に集う女の子たちの中にはいろいろな個性を持った女の子がいます。そして、そんな中にはトイレの悩みを持った子たちも多いのです。そんな女の子たちの学校生活を覗いてみましょう。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

校長先生の話が長い、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。 学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。 とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。 寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ? なぜ女子だけが前列に集められるのか? そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。 新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。 あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

6年生になっても

ryo
大衆娯楽
おもらしが治らない女の子が集団生活に苦戦するお話です。

ガラスの世代

大西啓太
ライト文芸
日常生活の中で思うがままに書いていく詩集。ギタリストがギターのリフやギターソロのフレーズやメロディを思いつくように。

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

処理中です...