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4章
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俺は今朝もまた特製クロックムッシュを食べている。瑠美子は昨夜が投稿小説の締め切りで、今回もカンヅメをやっていたからだ。
「これ、マジで美味いな」
「あら、そう?」
俺に誉められて瑠美子は嬉しそうに微笑んだ。前回食べたクロックムッシュは最後の方なんて味もわからなくなっていたのに、今日は最後の一片までしっかり味わえるのが嬉しい。
機嫌のよくなった俺は、瑠美子が喜びそうなことも言ってみた。
「俺さぁ、ママが書いてる小説ってのも一度読んでみたいな」
「あら、そうなの? じゃあまだ公開してないのを読んでよ。感想とか、どうしたらいいのかとかを教えてもらえると嬉しい」
「よしきた」
俺が乗り気なものだから、瑠美子は嬉々として自分のスマホを貸してくれた。画面は既にエブリグーのサイトに繋がっていて、瑠美子のマイページも開かれていた。
そこに記されたペンネームは『らむ』
そう。実は瑠美子は、自分と同名の某有名漫画家の作品中に出てくる女の子の名前を使っていたのだった。
解き明かしてみれば、実に単純な話だった。
俺が語る紀香との話を面白がって聞いていたしぃさんは、帰宅後自分のカミさんである久実《くみ》さんにも残らず話して聞かせていたのだ。
久実さんは俺や瑠美子と面識も無いし、たとえ言いふらしたところで瑠美子の耳に入るわけでもないから問題ないと思ったらしい。
ところが、久実さんは瑠美子と同じでエブリグーで小説を書くのが趣味だったのだ。いつだって小説のネタを探している久実さんは俺の話を聞いた時、なんていいネタ!、と飛びつき『焼け木杭に火が付いた』を執筆してしまったのだという。
しぃさんに「瑠美子に俺の話を洩らしただろう、証拠は上がっているんだ」と『くるみ』が書いた『焼け木杭に火がついた』を突き付けたら「これ……うちの奥さんのペンネームだぜ」と言いだし、この事実が判明した。
「名前が久実だからペンネームを『くるみ』にした、とか前に言ってたんだよ」
「え……」
マジかよ……『くるみ』が久実からきた名前だなんて分かるわけねぇって。椎名のカミさんならば、ペンネームは『林檎』で、りんごにギブス巻いてキスするくらいのアイコンにしてもらわなきゃ!
歩の性別が違ったり、話の中にところどころ違和感があったのは、これでも久実さんなりにネタ元の個人情報流出に気を遣った結果らしい。でも設定はほぼそのままで使っていたから全く意味なかったけど……。
ならばどうして俺はあの時『焼け木杭に火がついた』を瑠美子が書いているのだと思い込んでしまったかというと、これは単なる俺の勘違いだった。
俺が見た画面は瑠美子が一読者として他の人の小説を読んでいたものだったのだ。
他人の小説を読んでいるときの画面は青色の外枠だ。しかし今『らむ』が書きかけの小説はオレンジ色の外枠になっている。
俺はその仕組みを知らなかったから、開いている画面は全て瑠美子が書いているものなのだと思い込んでしまったというわけ。
瑠美子はもちろん『くるみ』がしぃさんの妻の久実さんだと知らない。
同じような不倫小説を書く仲間として『くるみ』の書く小説にたどり着き、仲良く交流していただけ。
これはこれでかなり危険な状況だった。匿名の気安さで、二人は結構な個人情報を含むメールも送りあっており、これで今までよくお互いの素性に気付かなかったもんだよな、と俺はひやひやさせられたもんだ。
……やべぇよ、エブリグー。
小説を書いているだけのはずが、とんでもない出会いを産んでいたなんて……マジ勘弁してほしい。
俺はしぃさんを通じて久実さんにこれ以上『焼け木杭に火が付いた』を書かないようにお願いした。中止要請はネタ元としては当然の権利だろう。
そしてもちろん、『渡辺香一』のモデルが俺であることを『らむ』に伝えないでくれ、と泣きついた。
久実さんは今後俺が浮気しないことを条件に、俺の要求の応じてくれた。恐らく、久実さんとしても自分の告げ口で家庭崩壊を招くのは嫌だったのだろう。
「これ、マジで美味いな」
「あら、そう?」
俺に誉められて瑠美子は嬉しそうに微笑んだ。前回食べたクロックムッシュは最後の方なんて味もわからなくなっていたのに、今日は最後の一片までしっかり味わえるのが嬉しい。
機嫌のよくなった俺は、瑠美子が喜びそうなことも言ってみた。
「俺さぁ、ママが書いてる小説ってのも一度読んでみたいな」
「あら、そうなの? じゃあまだ公開してないのを読んでよ。感想とか、どうしたらいいのかとかを教えてもらえると嬉しい」
「よしきた」
俺が乗り気なものだから、瑠美子は嬉々として自分のスマホを貸してくれた。画面は既にエブリグーのサイトに繋がっていて、瑠美子のマイページも開かれていた。
そこに記されたペンネームは『らむ』
そう。実は瑠美子は、自分と同名の某有名漫画家の作品中に出てくる女の子の名前を使っていたのだった。
解き明かしてみれば、実に単純な話だった。
俺が語る紀香との話を面白がって聞いていたしぃさんは、帰宅後自分のカミさんである久実《くみ》さんにも残らず話して聞かせていたのだ。
久実さんは俺や瑠美子と面識も無いし、たとえ言いふらしたところで瑠美子の耳に入るわけでもないから問題ないと思ったらしい。
ところが、久実さんは瑠美子と同じでエブリグーで小説を書くのが趣味だったのだ。いつだって小説のネタを探している久実さんは俺の話を聞いた時、なんていいネタ!、と飛びつき『焼け木杭に火が付いた』を執筆してしまったのだという。
しぃさんに「瑠美子に俺の話を洩らしただろう、証拠は上がっているんだ」と『くるみ』が書いた『焼け木杭に火がついた』を突き付けたら「これ……うちの奥さんのペンネームだぜ」と言いだし、この事実が判明した。
「名前が久実だからペンネームを『くるみ』にした、とか前に言ってたんだよ」
「え……」
マジかよ……『くるみ』が久実からきた名前だなんて分かるわけねぇって。椎名のカミさんならば、ペンネームは『林檎』で、りんごにギブス巻いてキスするくらいのアイコンにしてもらわなきゃ!
歩の性別が違ったり、話の中にところどころ違和感があったのは、これでも久実さんなりにネタ元の個人情報流出に気を遣った結果らしい。でも設定はほぼそのままで使っていたから全く意味なかったけど……。
ならばどうして俺はあの時『焼け木杭に火がついた』を瑠美子が書いているのだと思い込んでしまったかというと、これは単なる俺の勘違いだった。
俺が見た画面は瑠美子が一読者として他の人の小説を読んでいたものだったのだ。
他人の小説を読んでいるときの画面は青色の外枠だ。しかし今『らむ』が書きかけの小説はオレンジ色の外枠になっている。
俺はその仕組みを知らなかったから、開いている画面は全て瑠美子が書いているものなのだと思い込んでしまったというわけ。
瑠美子はもちろん『くるみ』がしぃさんの妻の久実さんだと知らない。
同じような不倫小説を書く仲間として『くるみ』の書く小説にたどり着き、仲良く交流していただけ。
これはこれでかなり危険な状況だった。匿名の気安さで、二人は結構な個人情報を含むメールも送りあっており、これで今までよくお互いの素性に気付かなかったもんだよな、と俺はひやひやさせられたもんだ。
……やべぇよ、エブリグー。
小説を書いているだけのはずが、とんでもない出会いを産んでいたなんて……マジ勘弁してほしい。
俺はしぃさんを通じて久実さんにこれ以上『焼け木杭に火が付いた』を書かないようにお願いした。中止要請はネタ元としては当然の権利だろう。
そしてもちろん、『渡辺香一』のモデルが俺であることを『らむ』に伝えないでくれ、と泣きついた。
久実さんは今後俺が浮気しないことを条件に、俺の要求の応じてくれた。恐らく、久実さんとしても自分の告げ口で家庭崩壊を招くのは嫌だったのだろう。
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