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1章

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 俺はスマホを弄りながら、ノートパソコンに向かっている瑠美子の後ろ姿をじっと眺めた。
 出るとこが出ているのに、くびれもあって。これで一児の母だなんてとても思えない。ぽっちゃり体形の紀香とは大違いだ。
 それに瑠美子は仕事へ行くときはもちろん、今日のように家の中にいるだけでも服装や髪型には手を抜かない。そんな美人妻に、俺も不満があるわけじゃないのだ。
 夜の生活の方もうまくいってる。
 五日前に抱いた時だって、瑠美子は自ら腰を振って「もっとシて」って甘い声でねだってきたくらいだ。それだから俺だって年甲斐もなく二回戦までもつれこんで……。
 あぁそうだよ。それくらいに夫婦仲は良好で、だから浮気なんて疑われるはずがないんだ。

 ……それにしてもいい体してるよな。
 瑠美子をじろじろ眺めているうちに、妙な気分になってきた。
 こうやって小説に打ち込んでいるときに誘うと迷惑がられるのは知っているけど、今日は休日で時間もたっぷりあるわけだし、まぁ強引にいけばなんとかなるだろ。
 あとは自分の部屋に籠っている息子が邪魔だな。あいつさえ確実に閉じ込めておけるなら、今すぐにでも瑠美子を寝室へ連れ込みたいところなんだが、はてさて……。

「ママー!」

 そのお邪魔虫が不意に大きな声を上げた。生意気にも自分の部屋から瑠美子を呼びつける横着ぶりだが、あいつが母親を呼ぶなんて、どうせズボンが無いとか、学校からの配布プリントが見つからないとかそんな程度の用だろう。

「はいはーい」

 それでも瑠美子は可愛い息子のため、パソコンをそのままにしてすぐ立ち上がった。
 不意に無人になってしまったパソコンを見て気づく。これは願っても無いチャンスじゃないか?!
 俺はいそいそと瑠美子のパソコンに近づくと、その画面を覗き込んだ。

 青色の縁で囲われた画面には文章が横書きでびっしりとつづられている。画面の右上にはタイトルが小さく表示されていて、俺がその本文を読もうとしたところで、瑠美子が戻ってきた。

「やだ、何見てんのよ」
「いやぁ、どんなもんなのかなぁってちょっと気になってさ」

 俺はまたソファに戻り、スマホを弄り始めた。
 瑠美子も何事もなかったかのように再びノートパソコンに向かい始める。
 その様子を横目でちらと確認しつつ、俺は『エブリグー』という小説投稿サイトを開いてみた。

 『エブリグー』は登録すれば無料で誰でも小説を投稿できるサイトだ。
 もちろん、自分では書かずに他の人の作品を読むだけでもいい。
 そして、気に入った作品には一日一個、グー!といういいねマークみたいなのを贈れる。このグーの数が多いほど、その小説は人気があるという仕組み。

 瑠美子がこのサイトを使って小説を書いていることは今までも知っていたけど、実際に中を見るのは初めての事だった。
 俺は登録不要なゲスト待遇で入ってみたが、それでも何の不自由もなく中を閲覧できるようだ。

 ……ふむふむ、なるほどね。こういう感じなんだな。
 トップページにはいろんなコンテストの募集が載っていて、昨日の23時59分で募集受付を終了したものも確かにあった。そのテーマは『現代人の抱える闇』。くだらない不倫ネタで悩んでいるかと思えば、ずいぶんと渋いテーマでも書くらしい。
 俺は検索機能を使って、先ほど瑠美子のパソコンで見たタイトルを入力してみた。

『焼け木杭《ぼっくい》に火が付いた』

 その題名の小説は一本しかなかったから、迷う必要も無くすぐにみつかる。
 作者は『くるみ』。ペンネームと一緒に自分のアイコンを設定することができるようで、そこには胡桃を持った可愛いリスのイラストが使われていた。

 俺は『くるみ』のマイページとやらを覗いてみることに。
 するとこれまでに何十本も小説を投稿しているようで、作品がずらっと並んでいるのが分かった。
 自己紹介欄には小説大好きアラフォー主婦、とだけ書いてあり、目立ちたがりの瑠美子ならもう少し解説をつけそうなものだと思ったが、誰が読んでいるか分からないネット小説だけにあまり個人情報を載せるのも良くないと自制したのかもしれない。
 昨日書き終えたばかりの『現代人の抱える闇』をテーマにした短編小説も読んでみたいところだったが、まずは当初の目的通りに『焼け木杭に火が付いた』を読んでみようと思う。
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