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 翌日、暁翔はチェックアウトの時間に迎えに来て、すぐに央樹を連れ出した。目的地も告げられず、央樹は暁翔に付いていくだけだったが、さすがにケーブルカーに乗ると言われたら央樹にもその場所がなんとなく分かってくる。
「……山?」
「ですね。市内が一望できるので、本当は夜連れて来たかったんですけど、無理があったので」
 可愛らしいリスのイラストが描かれたケーブルカーに乗り、展望台まで来ると、暁翔が言う通り、眼下に市内の街並みが広がっていた。確かにこれが夜景になるととてもキレイだろう。
「央樹さん、こっちです」
 展望台の端で街並みを眺めていた央樹に暁翔が声を掛け、央樹の手を引く。その顔はなんだか嬉しそうだ。今日を随分楽しみにしていてくれたのだろう。そう思ってもらえることがとても嬉しかった。
「子どもみたいだな、結城」
「え? 央樹さんだって、ちょっと浮かれてますよね。これとか、何も言わないし」
 暁翔が目の前に繋いだ手を持ち上げる。央樹はそれを見て慌てて離そうとしたが、暁翔がそれを許さなかった。
「このままで居てください。あとでちゃんとケアしますから」
 にっこりと微笑まれ、央樹はそれに頷いた。ケアの言葉に惹かれたわけではない。暁翔のこの笑顔を曇らせたくないと思ってしまった。
「こっちです。央樹さんとここに来て、これ、やりたかったんです」
 展望台の中央には大きな鐘のモニュメントがある。それを囲うように設置された柵には、たくさんの南京錠が掛けられていた。
「……なんだ、これは」
「定番のおまじないみたいなものです。ここで、お互いの愛をロックする、みたいな」
「なるほど」
 央樹はたくさん掛けられている南京錠のひとつに触れた。二人の名前と日付、そして『LOVE』の文字が書かれている。ちょっと恥ずかしいが、蜜月の恋人というのは、こんなものだろう。この時の気持ちを維持させているだろうか、なんて無粋なことも考えながら暁翔を見上げると、その手には南京錠があった。
「まさか……」
「はい。さっき、買ってきました。名前も入れちゃいました」
 暁翔がこちらに南京錠を差し出す。確かにローマ字で、二人の名前、そして今日の日付が書かれている。他に何も書いていないのが救いではある。
「ちょっと、恥ずかしくないか……?」
「旅の恥はかき捨てって言うじゃないですか」
「結城にとっては地元だろう?」
「おれは恥ずかしくないですよ。むしろ、自慢したいくらい」
 暁翔が央樹の手を強く握り微笑む。その笑顔に央樹が小さく息を吐いた。
「……結城のためならいいか。恥のひとつくらい置いていこうか」
「……はい!」
 嬉しそうに頷いた暁翔が南京錠を空いている柵に掛ける。一緒にロックしましょう、なんて言われ、ヤケになっていた央樹はそれに従い、鍵を掛けた。
「これは、お互いに持ってましょう」
 暁翔がポケットから小さな鍵を出す。きっと今掛けた南京錠の鍵だろう。二本あったそれのうちひとつを央樹に差し出す。
「……今外してもいいか?」
「だめです! そういうこと言うなら捨てますよ」
 珍しく不機嫌な顔をする暁翔に央樹は笑って、分かったよ、とその鍵を受け取った。
「大事にする」
「おれも、大事にします」
 暁翔がこちらを見つめ、はっきりと言い切る。その言葉が、自分のことかと錯覚してしまうほど、暁翔の表情は優しかった。
「ああ……なくさないように、努力するよ」
 暁翔という存在を手放さないように。
 央樹は改めて、そう思った。
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