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「脱げ、ユズハ」
 部屋に入った途端、アサギが偉そうに告げたのは初めての夜から三日後のことだった。
「……そんなんじゃモテないよ、アサギ」
 接客用の部屋には、大きめのベッドとテーブルにソファ、後は小さなチェストがあるだけだ。特にユズハの部屋は簡素なので、本当に『セックスするためだけの部屋』という感じなのだが、入って早々、脱げ、と言われるのは腹が立つ。
 ユズハはその感情を心の奥にしまい込んで、ソファに座ると、酒の用意を始めた。
「アサギは洋酒派なんだよね。ママがウイスキー用意してくれてるよ」
 かつては自由に貿易ができたらしいのだが、今は全て王の一族が担っている。その為、輸入品は随分値が張るものになっていた。それでもこんなものを用意するなんて、アサギはどれだけ自分に金を積んだのだろうと考えると、気分は滅入る。
「俺には時間がないんだよ」
 アサギはソファに近づくと、乱暴にユズハの体を抱え上げた。酒の入ったグラスが床に転がり、中身が全て零れる。
「ちょっ……高い酒なのに、もったいない」
「酒なんかなくても酔える」
 ベッドにユズハを降ろし、その上に馬乗りになったアサギがスーツの上着を脱ぐ。
 この国は色々な文化が混ざっているせいか、好きな服を着ていることが多い。それは仕事においても同じで、アサギのようにスーツを着ている人は少ない。
 宮廷ではアオザイ風の服を纏っていることが多かったが、街の人はあんなひらひらしたもので働けるわけない、とシャツにパンツやスカートで過ごす人が多い。
 この娼館では、客の好みに合わせ、西洋風のドレスを着ることもあれば、着物や漢服を着ることもある。アサギからのリクエストはないので、今日もユズハはガウンだけを纏っている。ユズハの着ているものに興味はないということだろう。
 ただ苛めたいだけで抱く相手に、そんなものは求めていないということだ。この時もすぐにアサギはガウンの紐を解き、ユズハを裸にした。
「今日は抵抗しないのか」
「しても、意味ないんだろ? どうせ、おれを抱いてさっさと帰るんだ。だったら早く済ませてくれ」
 両腕を広げ、表情も変えずにアサギを見上げたユズハに、アサギが小さくため息を吐く。
「この間は、乱暴にして悪かった」
 アサギがどさり、とユズハの隣に横になる。目を合わせると見た事のない情けない表情のアサギがいて、ユズハは驚いた。
「どうしても、お前が抱きたかったんだ」
「アサギ……」
「正直、お前がここに居ると知って焦ったよ。本当はすぐにでも攫いたいが……それはできないから」
 だから金で縛り付けた、ということかとユズハは理解した。宮廷にオメガの居場所はない。母のように望まれて入ることもあるだろうが、正直母がどんな扱いを受けているのかなんて、これまで考えたことはなかった。
 考えないようにしていた。
 ユズハは、別に、と口を開いた。
「アサギに助けてもらおうなんて思ってない。この体で稼げるなら、生きていけるならいい」
「確かに、キレイな体だ」
 アサギがユズハの胸に触れる。指先で乳首を優しく撫でられ、ユズハの体はびくりと震えた。
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