20 / 46
【19】エレナのお見合い
しおりを挟む
学校に通い始めてはや1年。ミューラとエレナは13歳になっていた。
「エレナには、釣書が届くようになったよ。困ったな、私の可愛いエレナを狙う令息が多すぎるよ」
その年の夏休みの朝食の席で、ハミルトン男爵がエレナにそう伝えた。
それを聞いて困ったように頬を染めるエレナ。
「まあ……。みなさん、学校で優しくしてくださってるだけかと思ったら、裏で釣書を送ってらっしゃったのね。
そういえばお父様、ミューラに釣書は?」
「……来とらん。まあ、ミューラには難しい話だろう。素朴な娘だからな。まったく期待外れな娘だ。エレナと違ってな」
「そんな! お父様。ミューラは可愛いわ? 見てあの綺麗なストレートの髪。私なんて癖っ毛だから……」
「何を言うんだエレナ、お前のような美しい金の巻き毛は見たことないぞ。茶髪直毛などどこにでもいる。お前は唯一の存在だよ」
「お父様ったら……。ところで伯爵家以上の令息からは釣書は来てます……?」
「いや――だが、子爵家からひとつ来ていたぞ。学業成績もよく真面目な子のようだ。一度会ってみないかい? エレナ」
「なんだ……子爵家かぁ。学校なら結構上位貴族の方もお声がけいただけるのに。ところで学校の方?」
「いや、王都の学院に通っていらっしゃる御子息だ。見合いしてみるかい?」
「まあ。王都の学院。寮生活されてるのかしら」
「いや、王都の屋敷から通っているらしい」
「……(その方と仲良くなれば、そこに宿泊させてもらったり、王都で開かれる舞踏会へパートナーとして参加できるかしら?)」
都会に憧れるエレナは、そこで打算が働いた。
「わかりましたわ、お父様。その方とお会いしてみますわ!」
「まあ……私たちの天使が私たちだけの天使でなくなってしまうのね……、大きくなったものだわ」
目頭を抑える夫人。
温かい家族の団らん。だが、相変わらずミューラだけは異物だった。
◆
エレナの見合いの日。
エレナは朝から侍女数人と身支度に時間をかけ、頼み込んで作ってもらった新しいドレスを着て見合いに臨んだ。
ミューラは自室から庭園をチラ見した。
気合をいれているだけあって、今日のエレナはいつもより更に美しい。
白と薄桃の混ぜ合わさったまるで花のようなドレスに身を包んだエレナは、理想的な美少女だ。
最近では体型も女性らしさを帯びてきて、胸は隠すデザインではあっても胸の膨らみは感じられ、これからさらに美しくなる期待をさせる。
やってきた見合い相手の令息は、彼女をひと目見て、息を呑んだ。
「こんにちは、ハミルトン男爵令嬢。私はバートン=ルエダ。ルエダ子爵家の次男です」
バートンはダークブロンドに濃い青の瞳をしていた。
エレナが行っている貴族学校にもし通っていたなら、学校内でトップクラスの容姿だと思われた。
スーツや靴も王都であつらえたものだろう。洗練されている。
「(ふうん? 学校の侯爵令息や、伯爵令息と比べると、レベルは多少落ちるけど、悪くないわね……頭の先からつま先まで洗練されているわ、これで伯爵家以上なら文句の一つもなかったのだけど、まあ合格ね)」
さらに――ルエダ子爵家は商売が今うまくいっており、金があると父親に聞かされていたエレナは、バートンをキープしようと画策した。
「……こんにちは。ルエダ子爵令息。私はエレナ=ハミルトンです。ハミルトン男爵家の長女です……」
エレナは、目を潤ませ頬をすこしあからめて、微笑んだ。
そのエレナを見たバートンは、目を奪われて――しばし、言葉を忘れた。
「あの、ルエダ子爵令息……?」
エレナが小首をかしげて見上げ、不思議そうに見つめると、バートンはハッとして応える。
「あ、いやこれはすみません。貴女があまりにも美しいものですから、見惚れてしまいました」
「あら……嬉しいお世辞ですわね」
「お世辞などでは……本当にお美しい」
「本当ですか……?」
慎ましさと、可憐さを演出したエレナに、バートンは簡単に陥落した。
2人の婚約はトントン拍子にまとまった。
現在15歳のバートンが学院を卒業し、成人する18歳になる3年後に結婚することになった。
「(ふふ……。まあそれまでに他にいい人が見つかったら、お別れするけれども、ね)」
エレナはうまくいったと思った。
「エレナには、釣書が届くようになったよ。困ったな、私の可愛いエレナを狙う令息が多すぎるよ」
その年の夏休みの朝食の席で、ハミルトン男爵がエレナにそう伝えた。
それを聞いて困ったように頬を染めるエレナ。
「まあ……。みなさん、学校で優しくしてくださってるだけかと思ったら、裏で釣書を送ってらっしゃったのね。
そういえばお父様、ミューラに釣書は?」
「……来とらん。まあ、ミューラには難しい話だろう。素朴な娘だからな。まったく期待外れな娘だ。エレナと違ってな」
「そんな! お父様。ミューラは可愛いわ? 見てあの綺麗なストレートの髪。私なんて癖っ毛だから……」
「何を言うんだエレナ、お前のような美しい金の巻き毛は見たことないぞ。茶髪直毛などどこにでもいる。お前は唯一の存在だよ」
「お父様ったら……。ところで伯爵家以上の令息からは釣書は来てます……?」
「いや――だが、子爵家からひとつ来ていたぞ。学業成績もよく真面目な子のようだ。一度会ってみないかい? エレナ」
「なんだ……子爵家かぁ。学校なら結構上位貴族の方もお声がけいただけるのに。ところで学校の方?」
「いや、王都の学院に通っていらっしゃる御子息だ。見合いしてみるかい?」
「まあ。王都の学院。寮生活されてるのかしら」
「いや、王都の屋敷から通っているらしい」
「……(その方と仲良くなれば、そこに宿泊させてもらったり、王都で開かれる舞踏会へパートナーとして参加できるかしら?)」
都会に憧れるエレナは、そこで打算が働いた。
「わかりましたわ、お父様。その方とお会いしてみますわ!」
「まあ……私たちの天使が私たちだけの天使でなくなってしまうのね……、大きくなったものだわ」
目頭を抑える夫人。
温かい家族の団らん。だが、相変わらずミューラだけは異物だった。
◆
エレナの見合いの日。
エレナは朝から侍女数人と身支度に時間をかけ、頼み込んで作ってもらった新しいドレスを着て見合いに臨んだ。
ミューラは自室から庭園をチラ見した。
気合をいれているだけあって、今日のエレナはいつもより更に美しい。
白と薄桃の混ぜ合わさったまるで花のようなドレスに身を包んだエレナは、理想的な美少女だ。
最近では体型も女性らしさを帯びてきて、胸は隠すデザインではあっても胸の膨らみは感じられ、これからさらに美しくなる期待をさせる。
やってきた見合い相手の令息は、彼女をひと目見て、息を呑んだ。
「こんにちは、ハミルトン男爵令嬢。私はバートン=ルエダ。ルエダ子爵家の次男です」
バートンはダークブロンドに濃い青の瞳をしていた。
エレナが行っている貴族学校にもし通っていたなら、学校内でトップクラスの容姿だと思われた。
スーツや靴も王都であつらえたものだろう。洗練されている。
「(ふうん? 学校の侯爵令息や、伯爵令息と比べると、レベルは多少落ちるけど、悪くないわね……頭の先からつま先まで洗練されているわ、これで伯爵家以上なら文句の一つもなかったのだけど、まあ合格ね)」
さらに――ルエダ子爵家は商売が今うまくいっており、金があると父親に聞かされていたエレナは、バートンをキープしようと画策した。
「……こんにちは。ルエダ子爵令息。私はエレナ=ハミルトンです。ハミルトン男爵家の長女です……」
エレナは、目を潤ませ頬をすこしあからめて、微笑んだ。
そのエレナを見たバートンは、目を奪われて――しばし、言葉を忘れた。
「あの、ルエダ子爵令息……?」
エレナが小首をかしげて見上げ、不思議そうに見つめると、バートンはハッとして応える。
「あ、いやこれはすみません。貴女があまりにも美しいものですから、見惚れてしまいました」
「あら……嬉しいお世辞ですわね」
「お世辞などでは……本当にお美しい」
「本当ですか……?」
慎ましさと、可憐さを演出したエレナに、バートンは簡単に陥落した。
2人の婚約はトントン拍子にまとまった。
現在15歳のバートンが学院を卒業し、成人する18歳になる3年後に結婚することになった。
「(ふふ……。まあそれまでに他にいい人が見つかったら、お別れするけれども、ね)」
エレナはうまくいったと思った。
15
お気に入りに追加
133
あなたにおすすめの小説
待ち合わせの時間になっても婚約者は迎えに来ませんでした。平民女性と駆け落ちしたですって!?
田太 優
恋愛
待ち合わせの時間になっても婚約者は迎えに来なかった。
そして知らされた衝撃の事実。
婚約者は駆け落ちしたのだ。
最初から意中の相手がいたから私は大切にされなかったのだろう。
その理由が判明して納得できた。
駆け落ちされたのだから婚約破棄して慰謝料を請求しないと。
愛する夫にもう一つの家庭があったことを知ったのは、結婚して10年目のことでした
ましゅぺちーの
恋愛
王国の伯爵令嬢だったエミリアは長年の想い人である公爵令息オリバーと結婚した。
しかし、夫となったオリバーとの仲は冷え切っていた。
オリバーはエミリアを愛していない。
それでもエミリアは一途に夫を想い続けた。
子供も出来ないまま十年の年月が過ぎ、エミリアはオリバーにもう一つの家庭が存在していることを知ってしまう。
それをきっかけとして、エミリアはついにオリバーとの離婚を決意する。
オリバーと離婚したエミリアは第二の人生を歩み始める。
一方、最愛の愛人とその子供を公爵家に迎え入れたオリバーは後悔に苛まれていた……。
そのハッピーエンドに物申します!
あや乃
恋愛
社畜OLだった私は過労死後、ガチ恋相手のいる乙女ゲームに推しキャラ、悪役令嬢として異世界転生した。
でも何だか様子が変……何と私が前世を思い出したのは大好きな第一王子が断罪されるざまあの真っ最中!
そんなことはさせない! ここから私がざまあをひっくり返して見せる!
と、転生ほやほやの悪役令嬢が奮闘する(でも裏では王子も相当頑張っていた)お話。
※「小説家になろう」さまにも掲載中
初投稿作品です。よろしくお願いします!
あなたたちに捨てられた私はようやく幸せになれそうです
gacchi
恋愛
伯爵家の長女として生まれたアリアンヌは妹マーガレットが生まれたことで育児放棄され、伯父の公爵家の屋敷で暮らしていた。一緒に育った公爵令息リオネルと婚約の約束をしたが、父親にむりやり伯爵家に連れて帰られてしまう。しかも第二王子との婚約が決まったという。貴族令嬢として政略結婚を受け入れようと覚悟を決めるが、伯爵家にはアリアンヌの居場所はなく、婚約者の第二王子にもなぜか嫌われている。学園の二年目、婚約者や妹に虐げられながらも耐えていたが、ある日呼び出されて婚約破棄と伯爵家の籍から外されたことが告げられる。修道院に向かう前にリオ兄様にお別れするために公爵家を訪ねると……
透明令嬢、自由を謳歌する。
ぽんぽこ狸
恋愛
ラウラは仕事の書類に紛れていた婚約破棄の書面を見て、心底驚いてしまった。
だって、もうすぐ成人するこの時期に、ラウラとレオナルトとの婚約破棄の書面がこんな風にしれっと用意されているだなんて思わないではないか。
いくらラウラが、屋敷で透明人間扱いされているとしても、せめて流行の小説のように『お前とは婚約破棄だ!』ぐらは言って欲しかった。
しかし現実は残酷なもので、ラウラは彼らに抵抗するすべも仕返しするすべも持っていない、ただ落ち込んで涙をこぼすのが関の山だ。
けれども、イマジナリーフレンドのニコラは違うと言い切った。
彼女は実態が無くラウラの幻覚のはずなのに、力を与えてやると口にしてきらめく羽を羽ばたかせ、金の鱗粉を散らしながら屋敷の奥へとツイッと飛んでいったのだった。
断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる
葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。
アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。
アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。
市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。
傷物にされた私は幸せを掴む
コトミ
恋愛
エミリア・フィナリーは子爵家の二人姉妹の姉で、妹のために我慢していた。両親は真面目でおとなしいエミリアよりも、明るくて可愛い双子の妹である次女のミアを溺愛していた。そんな中でもエミリアは長女のために子爵家の婿取りをしなくてはいけなかったために、同じく子爵家の次男との婚約が決まっていた。その子爵家の次男はルイと言い、エミリアにはとても優しくしていた。顔も良くて、エミリアは少し自慢に思っていた。エミリアが十七になり、結婚も近くなってきた冬の日に事件が起き、大きな傷を負う事になる。
(ここまで読んでいただきありがとうございます。妹ざまあ、展開です。本編も読んでいただけると嬉しいです)
戻る場所がなくなったようなので別人として生きます
しゃーりん
恋愛
医療院で目が覚めて、新聞を見ると自分が死んだ記事が載っていた。
子爵令嬢だったリアンヌは公爵令息ジョーダンから猛アプローチを受け、結婚していた。
しかし、結婚生活は幸せではなかった。嫌がらせを受ける日々。子供に会えない日々。
そしてとうとう攫われ、襲われ、森に捨てられたらしい。
見つかったという遺体が自分に似ていて死んだと思われたのか、別人とわかっていて死んだことにされたのか。
でももう夫の元に戻る必要はない。そのことにホッとした。
リアンヌは別人として新しい人生を生きることにするというお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる