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その癒し系男子は傷月姫を手に入れる。
08 ■ おかいもの ■
しおりを挟む放課後。
ダンジョン授業で疲れたけれど、クラスメイトの友達、ルチアの婚約祝いを買いに行こう。
「じゃあ、部長。私は先日伝えたとおり、今日は部活は休みます」
教室でそう伝えて、そのまま街へいこうとした所。
「オレも行く」
「えっ。なんで」
「オレもいずれそういうプレゼントを買いに行く日がでるかもしれない。参考についていく」
ふーむ、そういうことならば、しょうがない。……でも。
「まあ構わないけれど……秘密は守れる? ヴァレン君」
「あ? サプライズプレゼントってことか?」
「ん……まあ、着いたらわかるよ」
突然、一緒に行くことになったけど、なんか嬉しい。
一人で行くより楽しそうだし、なんとなくだけど私もヴァレン君と一緒に街を歩いてみたかった。
「つまり、先程の話からすると買うものはもう決めてあるのか?」
「実は婚約祝いとは別に、他にも買うものがあって……そっちは場所は決めてるよ。ほら、ここ」
「赤ちゃん……用品店!?」
何故後ずさるの。
「うん。……ルチア、実は、その」
「まさか」
「そのまさかなの。秘密は守れる?……とか言いながら私もヴァレン君連れてきちゃったなぁ。責任持ってちゃんと秘密にしてね?」
私はちょっと意地悪い顔で笑った。
ヴァレン君は顔を真っ赤にしている。
ふふ、なんか可愛いな。
「というか、13歳だろ……。法律ってやつはどうしたんだ」
「実質、12歳で籍入れられるから法律仕事してないよね」
子供は15歳から産んで良いとされるので、実は法律違反なのだけど捕まった例はあまり聞いたことがない。
「お前けっこう、淡々としてるな!?」
「ん。ヴァレン君に言われるとは意外だなぁ。いやだってほら。貴族の娘やってるとそういう話はたまに聞くからね」
「なんだと……まじか……。ああ、でも。そうだな。思い起こせばオレもいくつか知ってる例があったな……」
「なんで遠い目してるの? 学生やってると、そういうのちょっと疎遠なとこあるよね」
そんな話をしつつ、商品を見繕う。
商品の種類は結構ある。何が喜ばれるだろう。
「結構難しいな。靴下とか自分で今から編んでたりするし……」
「被りは気にせず、いくつあってもいいと思うぞ。弟妹の世話してたからわかるが、赤ん坊の身の回り品なんぞ消耗品だ。いくつでもいる」
「そっか、きょうだいがたくさんいるもんね。なるほどー」
意外や意外。
付いてきてもらって良かった。
「そうだ、可愛い色の毛糸もいくつか買ってあげよう」
そういって、手にいくつか取ろうとしたら、落っことしそうになった。
「っと。ほら」
ヴァレン君が落ちる前に毛糸を受け止めてくれた。
「ありがとう」
「まだ選ぶか? どの色だ」
「あー、その可愛い色が混ざってるのほしい」
そんなやり取りをしていたら。
「フフ、優しい旦那様ですね」
店員さんに通りすがりにそう言われた。
……。
学生服が目に入らなかったんですかね!?
どう見てもちがうよ!?
「ち、ちが。ちが……」
ふと見るとヴァレン君が真っ赤になって固まってた。
何この可愛い人。
「あはは。天然な店員さんだったね」
私は固まってる彼の背中をポンポン、と叩いた。
※※※
結局、色々選ぶの手伝ってもらってしまった。
お礼しよう。
「ありがとう、ヴァレン君。少し時間早いし、お茶でも飲んでから帰る?」
「……お、おう」
そういえば、最近できたお店があったっけ。
最近友達と時間が合わなくていけてなかった。
「ありがとう。ここね、来てみたかったんだ。友達と時間合わなくて。さて、ルチアの口止め料だよ。何頼む?」
いずれ彼女のお腹が膨らんできたら、口止めの意味もなくなるんだけどね。
まあ、それでも。こういう時って、お礼といわず口止め料と言ったほうが奢らせてくれそうな気がしたのでそう言う。
「む。(メニューを受け取った) じゃあ。アイスコーヒーにする」
遠慮がない。よろしい。
「じゃあ、ついでにマカロンも頼もうか。私はミルクティにしよう……」
――その時。
「ヴァ、ヴァレンお兄様!!」
叫び声がした。
そちらを見ると――
「あ」
私は立ち上がってカーテシーした。
「リーブス公爵令嬢、ごきげんよう」
ヴァレン君は座ったまま、無愛想な顔になった。
「アイリス、立つ必要はない。座れ」
「え、でも」
君、男爵家だよね!? わたし、まがりなりにも伯爵家なんですけど? 私はなぜ命令されているのだろう……?
「いいから」
いや、そんな事言われても!
すこし抵抗はしたが、引っ張って座らされた。
「お兄様!! 私との婚約のお話、どうして……断ったの!! 今まではアドルフお祖父様が受け取ってくださってたのに、もう二度と受け取らないと言われたわ! 最近お昼休みも不在でいらっしゃいますし、どうして私を避けるの!?」
う……、いきなりの修羅場だ!
やはり私は、先に失礼した方がいいかな。
……でも、ちょっと気になる。聞きたい。
そっか、ヴァレン君も婚約の話がいろいろと出てるのか……。
と、修羅場を見ながら考えていたら、リーブス公爵令嬢がこちらを見た。
「……あなたなの? あなたのせいなの!?」
「えっ……? それはちがいま」
「エンジュ、やめろ。 アイリスはオレの部活の部員だ」
……。
オレの部活!?
おかしい。たしかに彼を部長にはしたけれど、今まで私一人の部活だったので、その主張はちょっと聞き捨てならないよ!?
あえて言うなら私の部活だよー!?
こんな修羅場なのに心の声は思わずそっちに突っ込んでしまう……!
やめてほしい!
「なんですって? 私もその部活入ります」
「お前の部活に入る理由は不純だからだめだ」
人事部長が発動している……まさか、本当に入りたい人全員断っていくスタイルなのかな。
「とにかく、エンジュ。こんな所で言う話でもないが。突撃してきたお前が悪いから言う。
オレのことは諦めてくれ。
オレはお前のこと、妹たちと同じように思っている……つまりは、妹としてか見れない。
今まで何度も釣書を受け取った事で期待させたならすまない」
「そんな事言わないでください、私は、お兄様が、好きなんです……」
ポロポロと涙を流す。
ああ……さすがに居づらい。
やはり、席を立とう。私はそっと、離席しようとした。
――しかし、ヴァレン君に、机の下で手を握られた。
!?
彼を見ると、目が行かないでくれ、と言ってる……。
……う。し、仕方ないな。
「うちのじいさんが区切りをつけて、リンデンおじさんがそのままお前にそう伝えたってことは家同士の話し合いもそういう事でオチがついたって事なんだ。エンジュ。
オレを思ってくれた事、ありがとう。だが、受け入れる事はできない。悪い。」
他人事なのに胸がズキ、とする。
ギュ、と少し握られた手に力が入った。……ああ、ヴァレン君もつらいんだね。
そりゃそうだよね。妹のように思ってる相手の要求を受け入れてあげられないんだから。
――それにしても、やはり貴族は恋なんてするもんじゃない。
私は誰も好きじゃなくてよかった。
こんな日中のカフェで人目を気にせず叫んで、好きな相手に駆け寄ってしまう……もし自分がそうなったら、と考えると。……抱えちゃいけない感情だ、と思う。
ヴァレン君が私の手を引いて立ち上がった。
「注文前でよかった。――行こう、アイリス。エンジュ、お前も帰れ。お前は目立つ。もみ消せるレベルの醜聞なうちに撤退しとけ」
カフェの注目があつまるテーブルになってしまっている。
たしかにこれは醜聞になりえる。
「し、失礼します……」
何か声をかけたくても、言葉が見つからなかった。
とくに私が声をかけても苛立たせるだけかもしれないし……何もできない。
――その場に、リーブス公爵令嬢を残して、私達はカフェを出た。
※※※
「ヴァ、ヴァレン君。そろそろ手を放してほしいんだけど……」
その後、ヴァレン君は私の手を引いたまま、カフェから離れて公園に入ってベンチに座りこんだ。
「あ、すまん。ずっと手を握っててくれてありがとう。実は不安だった」
いえ、握ってたのは貴方ですけど……私握ってないからね?
でも、そっか。不安だったんだね。
「……いや、まあ。いいけども……。リーブス公爵令嬢、あのままでいいの?」
「あのままにしたくはないが、オレがこれ以上世話を焼くのは良くないからな。期待させてしまうかもしれない」
「なるほど、たしかに」
愛を求める相手に少しでも良い対応をされたら、とても嬉しいだろう、と想像はつく。
でも叶わない愛なら、それは毒になるかもしれない。
「血は繋がってないが、幼馴染で従姉妹だ。――小さい頃からわりと遊ぶことも多かった。オレも妹たち同様に可愛がってた。それは姫も似たような感じなんだがな。実は少し、まいってる。傷つけたいわけではないから」
「でも、おじいさまは断ったんだね」
「オレが断らせた。不思議だよな。自分の相手を選ぶのに一家の長から断ったりしないといけない」
「そうかな。私はそんなものだと教えられて育ったからそこに自分の主張があるのが不思議に見えるよ」
「……そうなのか。姫やエンジュは身分が高いしガチガチの貴族だが、主張が激しいぞ」
「彼女達は、逆に地位が高いから自由が効くんだと思う」
「なるほど、お前はめんどくさい中間地点に立ってるわけ、だ。おまえは父親に言われた相手とおとなしく結婚するのか」
「……そうなるのが貴族の普通だよ」
うん、そうだよ。
それが普通だよ。少なくとも私の。
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「そーだったな」
ヴァレン君は少し笑った。
ヴァレン君って、普段無愛想にしてるけど、笑うと顔、綺麗だな……整ってる。
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「え、ううん。また行くチャンスはあるから」
「……今度はオレから誘うから、行ってくれるか?」
また手を取られた。
何故、いちいち手を取るの!?
夕日に照らされてるからか、ヴァレン君の顔がすこし赤らんでるように見える。
……私も赤いんだろうか。
「え、うん。もちろん……えっ」
手の甲にちゅ、とされた。
「ありがとう」
「ど、どういたしまして……?」
手の甲のキスなんて慣れてる。
なのになんでだろう。
その時、多分。多分だけれど。私は顔が真っ赤だった。
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