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97 ■ MAHOROBA 01 ■――まほろば

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「アドルフさん、走らなくても、今は『絶対圏』接続してるんだから、天井すり抜けるかテレポートすればっ……って!」
 ブラウニーの声を聞いてか聞かずか、アドルフさんは走って行ってしまった。

 足はっや!!

「……しょうがない、広間つったな……。あの人があれだけテンパってるのも珍しい。行くか。
本当……それにしても、アドルフさん、一人で走っていっちまったけど、あの人も割りと、単独行動癖あるよな……どうにも放っておけない」

 ブラウニーがため息をついてそう言った。
 ブラウニーにしてみれば、父親だったり師匠だったはずなのに、いまや弟属性まで追加されたのか……。
 奇妙な関係だ。

「ほら、プラム。行こう、一緒に」
 ブラウニーが私の手を取った。
「行っていいの?」
 足手まといになりそうな……。

「一緒に行かないでどうするんだ?……アドルフさんとオレと、お前と。家族だろ。」
「……」
「それにアドルフさんも、オレとお前二人に来いって言ってただろ。……助け合おう。三人で」
「うん!! 行こう!!」


※※※


 ブラウニーに連れられて、天井をすり抜けて上がっていく。

 アドルフさんの様子を視る。走って階段駆け上がってくのが視える。

 途中で魔族に遭遇した際は、彼も『絶対圏』に接続しているせいか、ダガーを投擲して一撃で倒して言ってる。
 片目なのに発見が早くて向こうが身構える前に投擲している。
 息も乱さず、そして的確。

 アカシアと魔王の戦いで崩れた壁の瓦礫を、身軽にひょいひょい乗り越えて行く。
 こういうとこはブラウニー、そっくり……なんだな。長身なのに、とても身軽。

 階が上がるに連れて、アカシアの樹の根が増えていく。
 ……これはアドルフさん、着くのに苦労するんじゃないだろうか。
 とはいえ、今は味方であろうアカシアの根を排除する気にはなれなかった。

 私達は、アドルフさんが駆け上がってくるだろう階段の辺りに身を隠した。
 瓦礫だらけになっていて、身を隠すとこは沢山あるけれど、私達も魔王も"視る"からあまり意味はない かもしれないけれど。

 そして広間には瘴気が充満してる。
 うわ…これはひどい。

「あ」
「…アカシア」

 いつの間にか戦いの音は止んでいて、広間に生えた樹に、何本もの黒い剣に突き刺されて磔にされているアカシアがいた。

 ――血まみれだ。

 え、アカシアが?
 ブラウニーと戦ってた時にあんなに強かったアカシアが、なんでこんな目に?

「馬鹿め。記録を守りながら戦おうとするからだ。我(オレ)とやりあうなら、いくらお前でも全て捨てるつもりでこないと無理だとわかってるだろう……アカシア?」
「……っ」
 さらに黒い剣を突き刺す魔王。
 アカシアの顔が苦痛に歪む。

「ああ、楽しい。お前を殺したら、世界はどうなるか。ずっと殺してみたかったんだよなァ? どうせお前のことだから、記録はすべて安全な所へ移動させてきてるんだろ? お前の幹を掻き壊して! 中身を空洞(からっぽ)にして! 神世界へ駆け上り、地母神を捕まえてなぶり遊んでから、その目の前で記録を全て消すのも楽しそうだ!」

「……」
 アカシアは軽蔑するような目で魔王を見ている。

 うわ……。

 そして魔王が振り返り――
「ところで。……分霊よ。せっかくアカシアが逃したというのに……戻ってきたのか? まあ、どの道……逃さないがなァ……」
 口の端を上げて、こっちを見た!
 まあ、バレますよね!わかってたけど!!

 ブラウニーが私を隠すように立つ。
「……よう。オレにしたらさっき振りなんだが。よくも詐欺取引してくれたな……。 ところでアカシアのトドメを刺さなくてもいいのか?」

 ……アカシアは意識があるんだろうか。
 私はアカシアの具合を視た。
 ……意識はあるな。
 目の端で一瞬こっちを見るのが見えた。

 そして、ブラウニーがこそっと私に囁いた。
 ――アドルフさんが来たらアドルフさんの補助をしろ。

 ……そういえば、何やるのか聞いてない。けど。
 とりあえず私はうなずいた。

「勿論。ああ、こいつの事を永い間殺したい片思いを抱えていたよ。とても楽しみだった。この日がくるのが。やっと捕まえた。ああ、でも殺すのをやめてこのまま標本にするのも悪くない……迷うなァ。おい。それともお前にトドメを刺す権利をやろうか? ブラウニー。お前も殺したかったんじゃないか?」

「それは……気が合うな。だが、悪いが事情が変わった。そいつを殺されると困ったことになりそうだ」

「そうでもないぞ? そうだな、こいつを殺したら、お前と分霊には手を出さないでやろう」
「そいつ殺したら世界は滅びたも同然なんだろ。生きてたってしょうがない。そんな旨味のない取引は断る」
 ブラウニーが歩いて魔王に近づく。

「結構つまらないヤツだったんだな、お前。神にはなろうとしない、アカシアも殺さない。はァ、がっかりだ」
「オレは不良とつるむつもりはないからな」

 怖いな……。
 ブラウニーがいきなり、あの剣で刺されたりしないかとヒヤヒヤしながら柱の影に移動し、見守り、祈る。

 神様、地母神様? 私の本体?
 お願いします、ブラウニーをお守り下さい……。
 そしてあなたの配下のアカシアさんが危ないですよ!!
 本当! お守りください!!

ズサッ!!

 魔王がいきなり瘴気溢れる黒い剣を飛ばしてブラウニーに突き刺した!

 ブラウニーが…! ……と思ったら、ブラウニーの姿がかき消えて、アカシアと魔王の間に姿を表す。
ブラウニーが魔力変質で足を覆い、その足で魔王を蹴り飛ばす。

「む……!」
魔王が少し後退し、アカシアとの距離が開く。

「……!(くそ、思ったより飛ばせなかった…タッパの差がでけぇ…これは、もう少し魔力を強めにしないといけない、だが間には割って入れた)」

 ブラウニーは無言で、アカシアに刺さった剣を破壊していく。

「…ブラウニー…」
 かすれた声でアカシアがブラウニーの名前を呟いた。

「これは誤解されたくないから言っておくんだがな。別にお前のためじゃない」
「これはなんとなく察したから聞くんだけどね……この口調、一度は真似してみたかったのかい?」
「うっせえ」
「ふふ」

 魔王の顔に不機嫌が浮かぶ。
「おぉい……。せっかく捕まえた標本を逃がしてくれるな……よ!」

 ブラウニーが最後の1本を破壊しようとした時――
「ブラウニー、あいつがプラムに向か……」
「な! くそ!」

「わわ!」
 高速で魔王が私に近づいてきた。

 私は魔力で身を固めようとしたところ、守るような腕に抱きすくめられた。
 そして魔力変質した緑色の外套が翻り、魔王を後退させた。

「この……っ」
「アドルフさん……!」
「もう!! おじさん、びっくりしたよ!! なんでお前が狙われてんの!?」

「ドッペルじゃないか。そうだ、お前にも用事があったな。……フフ、お前だけはとりあえず、生かしておいてやる」
「うわ、オレ愛されてる……言っておくが男には興味ないからな!! すまないな!!」

 そう言いながら、アドルフさんは、私を抱えて距離を取り、その魔王の後ろにショートソードを構えたブラウニーが斬りかかる。
「おいおい、そんなものでオレが殺せるわけないだろう」

 魔王は刺されたが、瘴気が舞い散るだけで、すぐに身体が修復していく。

 うわ、これ、ホント。殿下の神性が必要だったんだ。
 多分あれだけが効く武器になるんだ…。

 バキッ! と、ショートソードを折られて、殴られるブラウニー。
「チッ!」
 血の混じった唾を吐く。

「守るものが沢山あって大変だな、ブラウニー」
 魔王は宙に、今度は瘴気で作り上げた槍を並べた。

「まあ、順番通りに戻すさ。さて……アカシア、終わりの時だ!! お前を破壊して世界に積もる木片にしてやる。……心配するな、地母神さえいれば世界は失くならない。無茶苦茶にはなっても、なァ!」
 その槍をいっせいにアカシアに向かって放つ。

 ああ、そうか。
 一旦こっちにきてブラウニーを引き寄せたのか!

 アカシアを守るものが何もない。
 最後の1本の黒い剣で固定されたアカシアは動けないようで、ぐっと目を閉じた。
 私はアカシアに回復をかけ、魔力による防壁で包もうと、一歩前にでようとした。

「アカシア!」

 ―――――アカシア!!

 誰かの声と私の声がハモった。
 しかし、それは私の声よりも遥かに透き通った、清らかで響く声だった。

 要塞の天井が全て吹っ飛び、さらにその上の異界の天井からアカシアの周りに、銀色の光が降り注いだ。
 その光の中心から、私より少し年齡を重ねた――私をにそっくりな少女がゆるやかに降りて来てアカシアに抱きついた。
 ふわり、とした長い桃色の髪に白い神官服のような衣服を身につけた――神々しい少女。
 ――……わかる、この人。いや、この方……私の、本体だ!





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