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90 ■ Akashic Records 03 ■

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「こちらです」
 魔族のメイドに連れられて、私は用意された部屋に入った。

 うわ!

 なんか……なんていうか、これは…きれいなお化け屋敷……とでも言えばいいのか!
 物語の吸血鬼? とかの屋敷内部っぽい!色合いとか!
 それが女の子が好きそうな仕様に改変されているというか、なんというか!

「魔王様がお洋服がボロボロで見ていられないとのことで、こちらお着替え下さい」

 そういって渡された服は可愛いけど、なんか人間界の服とは違うなーってデザインで。
 え? なにこれ。ヘアバンド?  猫耳? ん? スカートに尻尾?

 そして突如、
「優しくします」
 メイドがそうのたまった。

「なにを!?」
「脱衣を」
「優しい脱衣って何!?」
 シャキーン!

 メイドのツメがいきなり鋭利に長く伸び、それで私の服を切り裂いた!

「いやああああああああああ!?」

 ブルボンス家でもこんな事されたことない!!
 さっきまで来てた服がビリビリのバラバラになって散らばる。
 全裸だ!?

 私はその場にうずくまった。
 か、髪の毛が伸びててよかった…。

 だがしかし!
「優しいとか優しくないとかの問題じゃなくない!?」
「傷ひとつ付けずに脱がせました。成功です」
 メイドから満足げな鼻息がでた。どこか誇らしげだ!?

「失敗あるの!?」
「髪をついでに整えます」
「まさか、そのツメで!?」

 シャキーン!!

「きゃあああ!」
 問答無用で切られた。
 前髪はちょうど良い長さに、髪は腰くらいの長さになった。

「優しくしました」
「怖かったよ!?」

「次は入浴を」
「あ、そういえば結構血だらけだった」
「優しくします」
「また!? いいよ! 自分で入るから…っていやああ!」

 メイドは私を抱えあげ、浴室まで運び、バスタブに漬け込んだ。
 くっ……! ちょうどいい温度だ! 悔しい!!

 そして風呂上がり。
「着せます」
「いやああああ!!!」
 ほぼ負けの格闘をしながら、私は、与えられた服を着せられた……。
 ふ……ふつうの服はないのか!!

「スカートが短い!!」
「お可愛いです」
「お願いだから何か下ばきを頂戴!! お願いだから!!」
 メイドはムスっとしたが、ひらっひらのフリルのついたパニエを持ってきた。
 ……とりあえずは良しとしよう。

 私は鏡を見た。

「……なんで、これ、猫耳は…なんの、ために…」
「お可愛いです」
「これ、魔王の趣味なの?」
「……」

 何故答えない!!

「この尻尾は」
「お可愛いです」
「魔王のしゅ」
「こちらにお飲み物を色々御用意してあります、ご自由にお飲みください」

 答えてよ!?

「髪を結い忘れました」
 話題を変えられた。

「あ、それはお願い。邪魔だから。短くしてくれてもいいよ」
「ツインテール可愛いです」
 OKわかった、会話通じない。もういいです……。
 私は諦めた。

 そうだ、こいつらは文化も話し方も違うのだ。
 いちいち疲れていては身が持たない。
 平常心平常心……。

「ぴっくぴっくにしてあげる♪」
「なんの歌!?」

 悔しい! 諦めたばかりなのに反応してしまった!
 しかも無表情で歌っている! 今更だけど怖い!
 髪にリボンとか付けられて、彼女的に完成したのか、満足そうにため息をついた。

「フゥ……」
 ふう、はこっちだよ!!

「そういえば魔王って名前あるの?」
「……私の真名で良ければお教えできますが」
「いや、あなたの事は聞いてない!」
「私と契約して魔法少女に」
「契約しない!! てか魔法少女ってなに!? 魔法を使える女の子っていう意味なら既にもうそうですけど!?」
「魔法のステッキもマスコットキャラもないのに魔法少女を名乗るなど笑止です」
「別に名乗るつもりはありませんが!? そろそろまともに会話してくれません!?」

「フゥ。さて。では、失礼致します。御用の際は、こちらのベルをお鳴らし下さい。なお、勝手にお部屋の外には出られませんよう」
 完全にスルー!!

「……」

 メイドさん変えてもらえないかな……。マジでチェンジ希望。
 メイドさんは出ていった。

「つ……疲れた…」
 私はベッドに腰掛けた。

 しかしどうしよう……。

 とにかく一番はアドルフさんを助けたい。
 でも……。彼を助けて記憶を戻して、アドルフさんが『絶対圏』を使える事に賭けたかったけど、アドルフさんは寿命がもう来ているとかって怖い話をしてたはず。
 だめだ、絶対使わせられない!

 あ、そうだ。
 さっきのクレープ食べなかったから、面会すらさせてもらえない!
 面会さえできれば、記憶をもどす機会が得られるかもしれないのに…。

 ああ、お願いだから無事でいて、アドルフさん……。


「……」

 ……ブラウニーどうしてるかな。
 怒ってたよね。
 さらにあんな戦いの中に飛び込んで怪我したからまた怒られるかもしれない。

 正直、ブラウニーを諦めるという選択肢は彼を愛しているなら、有りだとは思う。

 愛しているからこそ、相手を思うからこそ、相手の無事を願うからこそ手放す愛。
 世の中にはそんな愛情もあるんだろう。
 けれど、それは私達には当てはまらないと思…う。

 私達はそれを選ば…ない。
 選びたくもない…けど。

 実は、自信がなくなってきた。
 例えば、もしも私が彼を諦めることによって、彼が安泰な人生を送れるなら……。
 そして他の誰かと。

 ブラウニーならすぐに素敵な子が見つかるだろう。
 考えただけで吐き気がする。そんなの。でも。……いやだ、いやだけど。
 ブラウニーはそれを言ったら怒ると思うけど……。

 ブラウニーがその怒りを経ても、幸せになれるなら……と
 頭の片隅にそんな事が浮かんでしまうのだった。
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