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61 ■ Physical Zamaa 06 ■

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「あー? グランディフローラ? ……あ~あのおっさんとこか」
 アドルフさんに、グランディフローラ家の事を聞いてみた。
 心配かけたくないから、今日あった事は伏せたけど。

「アドルフさん知ってるの?」
「社交界行かなくなって大分経つから古い情報になるけどな」
「何か問題ある家なのか?」

「あそこはあんま評判良くないな、もとから。領民からとる税金は重たいし……その税金は領地整備やら領民に還元できるシステム作らないし、自分たちのお財布にナイナイしてる系のおうちだな。逃げ出す領民も多いから、違法に奴隷を買ってきたりして……タダ働きさせたりとか…まあ、当時の噂だ」

「それ、国のガサ入れとか入らないのか?」

「噂止まりなんだよ。噂が本当なら、弱いやつを黙らせて働かせて、国に収める税金とかだけはキッチリ入れてるんだろうな。国の方も、キッチリ調査する労力に対して、あの領地から得られる旨味がないんじゃねえのかな……あそこは今や大した特産品もないしな。何代か前は花農家が多かったはずなんだがな~。たしか経営で下手打って他の領地にそのお株を奪われてたはずだ」

「ひどいね」

「国民の声っていうのは上の方には届かないもんだ、な」
 アドルフさんは気がついたら食べ終わっててコーヒーを飲んでいる。
 結構喋ってたのに食べ終わるの早っ。

「……関わらないほうが良さそうだな。プラム。お前からは絶対接触するなよ」
 ブラウニーが釘を刺してきた。

「え……」
「……お前、謝ろうかな…? とか思い始めてただろ」
「なんでわかるの!?」

「教えない」
 !?

「ん? 謝るってなんだよ」
 ああっ、アドルフさんに心配かけないようにと思って、喋りたいと思いつつ黙ってたのに!
 ブラウニーが事情を説明した。

「……プラム」
「はい」
「あっはっは。よくやった!」
  頭ぐしゃぐしゃされた。
 ……。
 思ってた通りの反応をだった。

 こういうのって叱られたほうがいいんじゃないかなって思ったりするけど……
 アドルフさんにはこういう反応されたかったから、嬉しい。
 彼の片目の瞳は穏やかで優しい。……落ち着く。

「確かに破天荒な事をしちまったけどな。概ねリンデンの言う通りだよ。逆にリンデンとリーブス閣下が伯爵家潰しに行かないか見張っといたほうがいいぞ、それ」
「潰す!?」
「グランディフローラはさっき言ったみたいに……おそらく真っ黒だ。公爵家を怒らせたら、簡単に潰れるぞ」

 うわ……なんか急に不安になってきた。
 私のせいで、伯爵家が潰れるとか!

「おまえのせいじゃない」
「私喋ってないよね!?なんでわかるの!?」
「教えない」

 どうしてよ!?
 意地悪な顔してる!! そして何故か軽く鼻をつままれた!
 ぶらうにーーーー!!!

「はいはい、ご飯中にいちゃいちゃするんじゃないわよ~お行儀悪いわよ~」
 アドルフさんがニュース紙を見ながら言った。

「だってお母さん!!! ブラウニーが!!!」
「しっかりしろプラム、そいつはお父さんだ」
「そいつ扱いされた!?(がーん)」

 楽しい。
 リーブスも嫌いじゃないけど、こんな賑やかな食卓は有りえない。
 私の居場所はここでありたい。
 早くここへ帰りたい。



 ご飯を食べ終わって片付けをしていると、なんとギンコが向えにきた。

「思ったより帰りが遅いから向えに行ってくれと頼まれた」

「お兄様に使われてる!? ……てか、遅くなっちゃってごめんなさい」
「ちゃんとオレがマロで送る予定だったぞ」
 ムスッとしてブラウニーが言った。

「み」
 ブラウニーの肩でマロがウンウンと縦に首振ってる。可愛い。

「……ブラウニーに送らせると、今度はブラウニーがそのまま帰らないでプラムの部屋に居座るかもしれないからと」
「チッ…」
「ブラウニー!?」

「ははは! 読まれてるな、ブラウニー?」
 アドルフさんがブラウニーの背中をバシバシした。

「……」
「な、何か言えよ……(おどおど」
 アドルフさん……。


「じゃあ、帰るね。……夕飯ごちそうさま。また来るねアドルフさん。ブラウニー、また明日ね」
「おう、いつでも来い、お父さんは待ってるぞ」
「うん、明日。約束のとこでな」
 ブラウニーに会えるなら、辛いことがあっても明日が待ち遠しくなるのが不思議。

 ギンコが風の精霊にのせてくれて、飛び立つ。ジンって名前らしい。姿は見えない。
 あっという間にヒースが小さくなる。

「今日はトラブルがあったそうだな」
「やだ、ギンコさんにまで伝わってるの?」
「リンデンとリーブス氏とリーブス夫人が騒いでたぞ」

「……心配かけちゃったなぁ。あ……そういえば、ギンコさんはいつ旅立つの?」
「そろそろ、と思っているが。……少し、心配をしている」
 ギンコが横目で私を見た。
 え? 私を心配してくれてるの?

「……心配してくれてありがとう。でも大丈夫だよ」
 この人の事だから、なにか罪滅ぼししたいとか思ってそう。

「ギンコさん、もう十分に色々してくれた。……今ではもう感謝しかないよ。本当にありがとうね」
「そうか……」
 私はうんうん、と頷いた。
「ところで……」
「うん」

「ギンコ、でいい」
「え、でも」
「いいんだ」
 おう……こんな厳格な大人である妖精さんを呼び捨てにしていいのだろうか。
 でも、本人がそうしたいっていうなら、断る理由もないしなぁ。

「うん、わかった。……ギンコ」

 遠慮がちに名前を呼んでみたら、ギンコは優しく笑って頷いた。


※※※※※


「うおおおおおお!!! プラムうううう!! なんてひどい目に合わされたんだ!!」
「しんっじられないわ!!! 伯爵家が! うちの娘に!!! わたくし、絶対許せませんわ!!!」
「……潰れてもおかしくないよね、あの家。うん、もともと潰れそうだったしね。うん、潰そうよ?いいよね?」

 またエントランスで囲まれた!!!
 そしてリンデンが闇落ちしてる!
 ギンコは騒がしくなりそうだからこれで、と退散してった!
 送ってくれてありがとう!

「……えっと。ご迷惑とご心配をお掛けしてすみませ」
 がばっとお母様に抱きしめられる。

「もう本当よ!帰ってくるの遅いし!ずっと待ってたのよ!」
 あ……。

「ご、ごめん、なさい……お母様」
 いい匂いする。そして柔らかくて……。
 なんだろう、ジーンとする……。

 私はお母様の背中に手を回してギュッっと抱きついてしまった。
 彼女のおろした綺麗な水色の髪…柔らかくてサラサラしてる。うう、なんて心地いいの。
 そして、もっとギュッと抱きしめてくれた。

 わ、わあ……。
 私はなんだか赤面してしまった。

「リーブスを敵に回した落とし前はつけてもらおう」
「そうですわね。そもそも領民も酷い有様と聞きますし、今まで手を出す名目もなかったので見てみぬフリをなさっていたのですよね、あなた」
「うむ」
「じゃあ決まりだね」
 なんて物騒な家族会議をエントランスで!!!

「あ、あの……落とし前ってどうなるんですか? 私のせいで、とか思うと心苦しいんですけど……」

 あの一途なフリージア様が頭に浮かんだ。
 彼女なんて何も悪いことしてないのに巻き添えになっちゃう…。

「プラム。あなたがそう思うのも無理ないわ。でもね、グランディフローザの領主代理は酷い人なのよ。……そろそろフリージアちゃんも助けてあげないと。あなたは、ちょうどいいキッカケを作ってくれたのよ」

「えっ?」

「プラム、今のグランディフローザの領主は代理なんだ。本当ならフリージアが正統な領主なんだよ。未成年だから、入婿の父親がその座について代行しているんだよ。フリージアの母親がグランディフローザの正統な後継者だったんだが……亡くなったんだ…で、彼のその、浮気相手とその娘が我が物顔をしているんだ」
 お父様が詳しく説明してくれた。

「父親は実際、経営を何もしてないのに領主気取りなんだよね。君を血筋で馬鹿にしたジャスミンこそ……その母親は元娼婦なんだよね~」
 なんだそれー!
 なんというブーメラン。
 ……なんか謝らなくてもいいかって気がしてきた。

「まあだから余計に君に嫉妬したのかもね。同じ平民出身なのに君のほうが良い家柄に恵まれた、みたいな」
「……その嫉妬の理屈が理解できないな…私と彼女は全然関係ないのに」
「世の中自分とは全く関係ないのに嫉妬する人ってのはいるものだよ」
 そうなんだ。
 十人十色って言葉が思い浮かんだ。
 人間って、複雑でさまざまな思いを抱えるものなんだね。

「フリージアちゃんのお母さんとはわたくしね、学生の頃に、少し交流があったのよ。
とても良い人だったのにあんな男にひっかかっちゃって……ほんとにもう……。
フリージアちゃんを残して死んでしまうし……ねえ、リンちゃん、フリージアちゃんと結婚しない?」
 お母様がいきなり爆弾発言した。

「それいいな」
 お父様がそれに乗る。
「唐突になに!?」
 リンデンが悲鳴のような声をあげた。

「だってだって、フリージアちゃん、ちゃんとしてる子だし、聖属性だからあなたの身体も整えてくれるだろうし……何よりあなたのことが大好きだし……可愛いし。グランディフローザの跡継ぎはあそこの親戚筋をひっぱってくればいいんじゃないかしらね。」
 確かに、いじらしくて一途だったなぁ。

「女性の言う可愛いは男性の可愛いと違うと思います!!」
 リンデンが力いっぱい叫んだ。

「……」
 何故かお父様が黙った。何か思う所があるんですか。

「あなただって、実は感謝の気持ちとかあるんでしょう? 最近までココリーネ令嬢を追いかけていたようだけれど、フリージアちゃんのことも、嫌いではないんでしょう?」

「嫌いではないですけどね……。と……とにかくその話はまた今度で…僕はそろそろ失礼しますね。プラム、部屋まで送るよ」
「え、あ……とと」
 リンデンに割りと強引気味に手を引っ張られて、私達はその場を後にした。


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