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33 ■ Adversity 01 ■――逆境

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「プラム様、プラム様。起きてくださいまし」
「ん……」
 誰かに揺さぶられて、意識がぼんやり覚醒する。

 ――うっすら目を開ける。
「まあ! お目覚めになられましたのね!!」
 ――可愛らしい、満面の笑みの女の子が私を覗き込む。

「……」
「!!!」
 私は飛び起きた……が。

「……う!?」
 なにこれ、体中が痛い!? こんなの初めて……。

「うふふ、半月ぶりくらいでしょうか? お久しゅうございます。プラム様」
 私が寝かされているベッドに、頬杖をつく――ココリーネ嬢!
 傍にはギンコと呼ばれた――私を攫ったエルフが立っている。

 私は逃げる場所もないベッドの上で、後退した。
 ベッドは天蓋がついていて、見たこともない豪華さだった。

「まあまあ、そんなに怯えないでくださいまし? わたくし、あなたと仲良くしたいんですの、ヒロイン様。 手荒な真似を致しましたね? でもこうしないと来てはくださらないでしょう?」

 ……仲良くなりたい人を拉致って連れてくるんですか?!

「無理、だよ。ヒースに……家に帰して」
 エルフが、ギンコが私を睨むように見ている。その目はココリーネ嬢に逆らうな、と私を脅迫している。 怖い、震えが止まらない。

 ふと自分の両腕が目に入った。
「……なにこれ!?」

 私の両腕には、昨日魔法研究所で施した封印と似たようなマークが無数に入れ墨のように浮かび上がっている。

「魔法をお使いになられると困りますので、全面的に魔法を封じさせて頂きましたの……わたくしとしてもこんな……ヒロインの身体にこんな無数の入れ墨のようなものを入れたくはありませんでしたけれど……こちらで過ごして頂くためにはしかたありませんの。てへ☆」

 ……魔法を、封じた!?
 私は愕然とした。

 ……え、それってどうなるの?なんでそんな事するの!?

「……今まではちょっとでも怪我してもすぐ治っていたでしょう? でもこれからはそうはなりません。怪我したら普通の人と同じですのよ……くれぐれも、逃げ出す、なんて無茶なことをなさらないよう……」
 ココリーネ嬢がベッドに乗り出して顔を近づけて囁くように言う。

「なん、のためにこんな事……」
「ふふ。そうですねぇ……。ギンコ。ライラック殿下。しばらくプラム様と二人にしてくれませんか?」

 ライラック殿下……?
 ココリーネ嬢の目線を追うと、窓際で本を読んでいる少年がいた。
 薄紫の髪の…メガネ第二王子!!

「ん……構わないけれど。ココリーネ、僕もプラムに挨拶しちゃだめかい? 僕ががんばって封印施したんだし…? その子の全封印大変だったんだよ……?」
「ふふ、殿下。感謝申し上げております。ですが、プラム様はまだ身体がお辛いかと思いますし……また後日ではいけませんか?」

「そうだね……わかったよ。後日二人きりで君がお茶をしてくれるなら……ね」
 ライラック殿下はココリーネ嬢におねだりするように、優しく微笑んだ。

「……まあ、殿下。そんなのいつでも承りますのよ……? ただ、今は……」
 ココリーネが私をチラ、と見る。
「わかったよ。しょうがない子だね、ココリーネ」

 ココリーネの頬にちゅっとキスをしてライラック殿下が部屋を出ていった。
 ギンコがわずかに眉間に皺を寄せる。
 微妙な男女関係を感じる……あ、ハーレムでしたっけね……。

「ココリーネ、私には教えてくれないのか。君の願いだからこんな事をしたが……。この娘はお前の存在を脅かすと言っていただろう。私としては……懸念がある者はどこか遠くへやるか消すか……」
 ギンコが冷酷な瞳で私を見下ろす。

 消す……。

「まあ! なんてこと仰りますの? すっかりプラム様が怯えていらっしゃるではないですか。それは最後の手段と言いましたの! さ、私とプラム様にお時間をくださいませ」

 最後の手段、ということは少なくとも私を殺すつもりがあるってことですか……。

「……仕方ないな。いいか何かされそうになったらすぐに呼ぶんだ。私を。ココリーネ」
なにかされそう、って今の私に何ができるっていうんだ……。

「ええ。ありがとう、ギンコ」
 ギンコは愛おしそうにココリーネ嬢を見つめたあと、ため息をついた。

 最後にギンコは私をもう一度睨みつけて出ていった。

 しーん……。
 部屋が異常に静かに感じる。

「あのココリーネ嬢。……こんな事しなくても、私はここへ話し合いに来るのを提案するつもりでしたよ。ねえ? ちゃんと話し合って折り合いをつけて、私をヒースに帰してください」
 私から切り出した。

「先程申し上げましたの。おうちには帰しませんの」
「どうして……」

「……ふう」
 ココリーネ嬢はベッドに腰掛け、振り返るようにして私を見た。

「わたくしの事情は覚えていらっしゃいます? ……わたくしが、『転生者』であるとは申し上げましたね?」
 私は頷いた。

「そして王妃にはなりたくない、ハーレムはあなたに差し出すと」
「そんな……話しだったような。ハーレムなんて、いりませんけど……」
 私はブラウニーしかいらない。

「でも、それ以外にも別の本音がありましたの。それは実際あなたに会ってみてから決めようと思っていたのですけれど……わたくし、あなたに会って決めましたの!」
「別の本音? ……それは、一体」
 ココリーネ嬢が私の頬を手で包んできた。

「このゲーム、百合エンド、というルートがございますの」

 ゆり? なにそれ。

「フフ、言ってもわかりませんよね? ……それは女性同士でエンディングを迎えるというルートですの。なんとこの悪役令嬢とヒロインの恋愛エンディングがあるんですのよ! うふふっ☆ つまりは貴女にとってわたくしは、攻略対象の一人というわけですの☆」

 は??

 ――そしてココリーネ嬢が、そこから私に抱きついて低い声で言った。更にとんでもない事を。

「……俺、前世、男なんだよ……」

????????????

「だーーーれが王妃なんて……男の嫁になんてなるかよ! ハーレムだって周り男だらけで反吐がでんだよ。なんで乙女ゲーなんだよ! なんで男に生まれなかったんだよお!!!」

 こ、こっこここっこココリーネ嬢!?

「お前に俺の気持ちわかる? ある日突然前世を思い出したら、男だったって気がついた俺の気持ち……!!」
 わ、わからない……!!ご愁傷さまとしか……!!

「くっそ、くっそ。しかも姉貴がやってたゲームじゃねえかこれって。散々話つきあわされて、代理プレイさせられて……うしろのソファでのうのうと菓子食ってたクソ姉貴があああああああ! 姉貴が転生すりゃいいだろうがよ! なんで俺!!」

 ベッドに置いてあった枕をばあーん! と床に叩きつけるココリーネ嬢。

「……(絶句)」
 もはや小動物系のかわいらしいイメージは吹っ飛んだ。

「はあはあ……」
「お、落ち着いて……ください」

 肩で息をしていた、と思ったらいきなりこっちをくるっと向いて肩をがしっと掴まれた。

「ひぃ!?」

 怖い!!!

「ああああああ、それにしても、ほんっと可愛いな、お前。この世界、容姿が良い女多いけど、やっぱヒロインにはおよばねーわ。しっかも良い匂いすんな~~肌も綺麗だし、二次元さいっこうじゃねーか」

 ……なんか匂い嗅がれてる!! ブラウニー! 助けてー!!!

「あっ、あの、はなれてください!!!」

 私は身を固くした。……う、身体がズキズキする。
 自動回復ないってこんなにつらいんだ。

「いいじゃありませんの……女同士ではありませんの☆ ……なんつってな~」

 ココリーネ嬢は、頬にちゅっと口づけてから私からはなれた。ぞわっ……鳥肌。
 怖い。今までに感じたことのないタイプの恐怖を感じる。


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