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㉙無人島生活7日目05● 課金アイテムの力は種族を超えた愛をも結ぶのね。そうかゴリオルート……え、まじで?

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  ――ピコン。

 サンディの、ヒロインのステータスウインドウが開く音が聞こえた気がした。

 「はい!? ミッション失敗!? 失敗エンディング、ゴリオの花嫁(つがい)~ゴリラの魔物に溺愛されて逃げられません!~……って何よぉおおお!!」

 ゴリオ君は、サンディが目に入るやいなや――サンディに突進するかのように接近する!!

「いやあああああ!! 助けてえええジェフェリーさまあああ!!」

 
 サンディは回復魔法を自分にかけた後、魔力変質した手足でスピードをあげて走るが、ゴリオは早かった。
 あっというまに追いついてサンディをつかまえると―――

「ウホオオオオオオオオッ!!」
 大きな雄叫びを上げた。

「いやーーーー!?」
 サンディ号泣。


「う、うあ……」
「えっと、多分ね。嫁(つがい)ゲット、て言ってる」
「つがい!? サンディ、人間なんだけど!?」
「あはは」

 ゴリオ君は、サンディを持ち上げたまま、森へ帰っていこうとする。

「いやあああ!! この!! こうなったら課金して……っ」
 
「あ、やばいゴリオ君が課金アイテムで殺されるかも……っ」
「え、なに? 課金アイテムって」
「あ。 いや、その」

 私がしどろもどろになった時、サンディが叫んだ。

「クレカ止められてるーーーー!! このタイミングで!? なんでよぉ!!」

 ……。
 そっか、クレカ、クレカか。
 前世のお金だったんだね……。

 前世のご遺族が区切りを付けられたのだな……。
 そりゃ、故人が所持してクレカから金が流出してれば、そのうち気がついて止めるよね……。

 そのお金ってやっぱり、ゲーム会社に支払われてるのかなあ……。謎い。

「クレカ??」
「あはは……なんだろうねぇ~~クレカって……とりあえず、恐ろしい力は使えなくなったみたい…あの子」
「そっか。悪い子みたいだから、王宮へ連れて行って裁判しなきゃいけないかなって思ってたけど、ゴリオ君が幸せそうだから、このままでもいいかな」

「ゴリオ君はゴリオ君で、自分と同じ種族じゃなくてもいいの……?」

「……いいんじゃない? ゴリオ君は、ずっと振られ続けてるし……最近なんかもう病んでたし……うん。」
 あっ。悪い顔してる! わざとだ!
 しかし、病んでた!? ゴリオヤンデレ!? 想像がつかない!

 そして、サンディはゴリオ君に連れられて、森の中へ消えていった……。
 叫び声はずっと響いたが、段々遠く小さくなっていった。
 どこへ連れて行かれたのだろう……。怖。

 しばらく呆然と立っていた私達だったが。

「それにしても、アーシャが強くてびっくりしちゃった」
「……視えてたの?」
「うん、ペロが寝ちゃったから他の子の目を借りて。ひょっとしたら自分でなんとかしちゃうかもって思ったけど、やっぱり来てよかった。でもなんで逃げずに戦ったの?」

「あのタコ、私が乗ってた船を壊した魔物でね、あの子が手なづけてた魔物だったの。船にはたくさんの人が乗ってたのに……それが許せなくて」

「……女性に言う言葉じゃないと思うけど、アーシャ、かっこいい」
 そう言ってミーシャはふふっと笑った。

「そ、そう? ありがとう」
 私は照れてちょっとどもった。
 かっこいいって言われるのは、なんだか嬉しい。

「……でも、それより、……身を挺してかばってくれてありがとう」
 子供の純粋な無謀さかもしれないけど、あんなに風に人をかばうなんて、なかなかできる事じゃないと思う。
 でももう、二度とあんな事させたくない。

「ううん、結局アーシャが解決しちゃったし」
「解決したのは鳥さんのおかげだって――あ」

 私は足の力が抜けて座り込んだ。
 魔力の使いすぎだ。
 まさか3サークル……使うとは思わなかった。

「アーシャ、大丈夫?」
「大丈夫、魔力をたくさん使ったから疲れただけ」

 目覚めたペロが、近くにきた。

「アーシャ、ペロにもたれて。少し寝るといいよ」
 もふ、とペロにもたれさせられる。
 うあ……これは令嬢をダメにするもふぁー。

 バサ、と鳥さんが羽ばたきした。
 羽が一枚落ちた。
「あ。鳥さんが羽くれるって。手に持って」
「羽……?」

 羽を受け取ると、そこから魔力が流れてくるのを感じた……え、すごい。
 また、同時に癒やし切ってなかった背中の怪我が治っていくのを感じた。

「……すごい」
「鳥さん、すごいでしょ?」
「うん」
「さ、少し寝て。太陽がお昼の位置にくる少し前に起こしてあげる」
 頭を撫でられて、寝かしつけられる。
 
「……ありがとう」
 私は素直に従って目を閉じた。

 ミーシャの大きな手が私の頭を撫でているのを感じる。

 さっき庇われた時のことを、また思い出す。
 しばらく何度も思い出してしまいそうだ。それくらい胸がギュッとした。
 自分が傷つくのも構わないと抱きしめてくれた。

 いや、それだけじゃない。
 タコからだって助けてくれたし、騎士団からも守ってくれた。

 この島に来てからずっと助けてくれてる。
 今だってそばで寄り添ってくれてる……。


 心が子供だから、と意固地にならずに……少し、ミーシャとの未来を考えてみようか。
 王妃になっても、ミーシャと一緒なら……と、いう気持ちが少し生まれた。 

 私は、頭を撫でているミーシャの手を取った。
 眠るまで握っていたくなった。

「アーシャ……?」
「……起きたら、タコ拾って帰ろうね。お昼ごはん焼いてたべよ」
「あれ、食べれるの……?」
「ふふ。あとで一応鑑定するね」

 風がそよそよ、と気持ちいい。
 花畑から花の香りが流れてきた。
 前世ではこんな環境、体験したことなかった。
 なんか贅沢だな――と考えたあたりで私は眠った。

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