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終章
黄金の祝祭(4)
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そのときのフリードの顔真似をリリアナがアルフォンスとカイン、ディオールの前で披露してみせたのは僅か数分後のことだ。
四人で王の前から退席してすぐのことである。
「ツマリ、ソウイウコトナノデスッ。って何がそういうことなのか、さっぱり要領を得ませんでしたわね。一年ぶりの陛下ですが相変わらずの陛下ですわ」
大袈裟な寄り目で唇をとがらせるリリアナ。
似ているわけではないがフリードの顔真似と分かり、アルフォンスは笑いを噛み殺す。
声をたてないようにしたのは隣りでカインが渋面を作っているからだ。
育ての親とも呼べるフリードに対してのあからさまな悪口である。
面白くないのだろう。
だがリリアナがこうもはしゃぐのも、アルフォンスには理解できる。
今回の騒動で彼女はひどく心を痛めたのだと容易に想像できるから。
ロイにはクーデター罪は適用されない。
それはつまり、近日中に身柄が解放されることを表していた。
もちろん以前のように王の臣として働くことはできまい。
だが、首都を離れ商売でもしながら余生をのんびりすごす自由は与えられよう。
彼女にとってこれは恩情であり、何よりも嬉しいことに違いない。
アルフォンスの柔らかな視線に気付いたのだろう。
彼女は弾ける笑顔をみせた。
「ではアル様、あたしはここで。牢へ行って陛下の言葉を兄に伝えてきますわ」
「アル様ぁ?」
「牢へ行く?」
カインの声が裏返り、アルフォンスの言葉をかき消した。
何なのかしら、この男は。急に大きな声をだしてとばかりにリリアナがカインを見やる目には不審の色しか映っていない。
数秒後、気を取り直したか再びアルフォンスのほうへと向き直った。
「それではアル様、今度グロムアスの街を案内してさしあげますわね」
「い、いや、それは……」
アルフォンスの表情が引きつる。
隣りのカインの視線が刺すように痛い。
こころなしかディオールも顔を強張らせている。
無理矢理といった強引さでアルフォンスは話題を変えた。
「お、おひとりで地下へ行くなど危ないのでは? 俺が……俺たちが一緒に行かなくても?」
構いませんわとリリアナは手を振る。
「一人の方が身軽ですもの」
言うが早いか、ドレスの裾をつまんで駆けて行ってしまった。
たくましい──感心したように呟いてリリアナの背を見送るアルフォンス。
「……ずいぶんあのお嬢さんと仲良くなったのですね。そういえばあのお嬢さん、惚れっぽいことで有名でした」
「アル様と呼ばれていた。どういうことだ? アルと呼ぶのは私だけじゃなかったのか?」
背後霊のように鬱陶しい二人を見ないように咳払いを繰り返すアルフォンス。
四人で王の前から退席してすぐのことである。
「ツマリ、ソウイウコトナノデスッ。って何がそういうことなのか、さっぱり要領を得ませんでしたわね。一年ぶりの陛下ですが相変わらずの陛下ですわ」
大袈裟な寄り目で唇をとがらせるリリアナ。
似ているわけではないがフリードの顔真似と分かり、アルフォンスは笑いを噛み殺す。
声をたてないようにしたのは隣りでカインが渋面を作っているからだ。
育ての親とも呼べるフリードに対してのあからさまな悪口である。
面白くないのだろう。
だがリリアナがこうもはしゃぐのも、アルフォンスには理解できる。
今回の騒動で彼女はひどく心を痛めたのだと容易に想像できるから。
ロイにはクーデター罪は適用されない。
それはつまり、近日中に身柄が解放されることを表していた。
もちろん以前のように王の臣として働くことはできまい。
だが、首都を離れ商売でもしながら余生をのんびりすごす自由は与えられよう。
彼女にとってこれは恩情であり、何よりも嬉しいことに違いない。
アルフォンスの柔らかな視線に気付いたのだろう。
彼女は弾ける笑顔をみせた。
「ではアル様、あたしはここで。牢へ行って陛下の言葉を兄に伝えてきますわ」
「アル様ぁ?」
「牢へ行く?」
カインの声が裏返り、アルフォンスの言葉をかき消した。
何なのかしら、この男は。急に大きな声をだしてとばかりにリリアナがカインを見やる目には不審の色しか映っていない。
数秒後、気を取り直したか再びアルフォンスのほうへと向き直った。
「それではアル様、今度グロムアスの街を案内してさしあげますわね」
「い、いや、それは……」
アルフォンスの表情が引きつる。
隣りのカインの視線が刺すように痛い。
こころなしかディオールも顔を強張らせている。
無理矢理といった強引さでアルフォンスは話題を変えた。
「お、おひとりで地下へ行くなど危ないのでは? 俺が……俺たちが一緒に行かなくても?」
構いませんわとリリアナは手を振る。
「一人の方が身軽ですもの」
言うが早いか、ドレスの裾をつまんで駆けて行ってしまった。
たくましい──感心したように呟いてリリアナの背を見送るアルフォンス。
「……ずいぶんあのお嬢さんと仲良くなったのですね。そういえばあのお嬢さん、惚れっぽいことで有名でした」
「アル様と呼ばれていた。どういうことだ? アルと呼ぶのは私だけじゃなかったのか?」
背後霊のように鬱陶しい二人を見ないように咳払いを繰り返すアルフォンス。
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