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終章

黄金の祝祭(3)

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「一年前のことです。当時のフリード王へのクーデターを画策している一派がいると情報を得たのです」

 見かねた様子でカインがアルフォンスの傍らに歩を進めた。
 介護者よろしくディオールもくっついてきて、三人は一塊になってコソコソと言葉を交わすことに。

「ただし犯人が分からない。クーデターを一旦潰したとしても相手の規模が分からない以上、同じことが起こると思いました」

「つまり、お前が起こしたとされるクーデターは真犯人の機先を制するための芝居だったというわけか」

 祭の日、賑わいに乗じて王殺しを演出し、フリード王を名もなき侍従扱いにして王宮の安全なところに保護したのだ。
 カインとしては自分の手の届かない街にフリードを逃がすより、灯台下暗しで王宮に匿うほうが安全だと判断したのだろう。

 フリードに死体のふりをしてもらったとはいえ、事があっさり収まったのはロイ将軍がすぐに新王カインを支持したからだ。
 そういえばカインが軍拡路線を止めてくれると期待していたと言っていたっけ。

「便宜的に僕が王位を奪ったということにしたんです。クーデターの犯人を暴いたら、王位は陛下にお返しして僕は姿を消すつもりでした」

「そんなことしたら……」

 お前ひとりが悪者扱いされるだろう。
 下手をすると歴史上に悪名が残ることにもなりかねない。

「せめて俺には言えばいいのに」

 小さな呟きは、カインの耳には届かなかったようだ。

 フリードを世話係としてアルフォンスの側に置いたのは、何も知らない他国の人間と一緒にいるほうがカモフラージュになるとの判断だろう。
 そういえばフリードは頑なに部屋から出ないようにしていたっけ。

 ──俺に言うわけないか。

 アルフォンスは肩をすくめる。
 敵対している他国の王弟に、そんな重大な秘密を打ち明けるはずもあるまい。

 でも……と思う。
 知っていればカインを王殺しの残虐な男という目で見ることはなかったのにと。

 こんな思いは感傷にすぎないのだろう。
 だからアルフォンスは言葉を呑み込んだ。

 九年前に自分のせいで大怪我を負ったカインは、その後フリード王に助けられたという。
 自分とディオールのように、あるいはそれ以上に彼ら二人の絆も強いものがあるのだろう。

「つまりですね、リリアナさん。そういうわけなんですよ?」

「そういうわけ……ですか?」

 言葉足らずな王に対して、リリアナが小首を傾げている。
 彼女は助けを求めるようにアルフォンスの方に視線を転じたが真顔で首を振られ、今度はカインを見やった。
 しかしフリードとは長い付き合いであるはずのカインも訝しげな表情を作る。
 結局、一同の視線がフリード王のもとに集まったところで王はなぜだか満足そうに頷いた。

「ロイ将軍は……おっと、前将軍は裁判にかけられるでしょう。ですがカインさんは今となっては仮の王という位置づけですし、クーデター罪がそもそも成立しないのです」

「陛下、それはつまり……」

「つまり、そういうことなのです」

 名奉行よろしく上手く裁いたつもりになっているのだろう。
 フリードは得意げに一同を見渡した。
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