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終章

黄金の祝祭(2)

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「あぁ、お坊ちゃん。怪我はどうですか? 無理をするなと言ったでしょう」

「お坊ちゃんはよしてください」

 苦笑に、フリードは不服そうだ。

「小っちゃいときからわたしが世話をして育ててやったんですから。好きに呼んで構わないでしょうに」

「ですが……」

 そんなカインの背を支えているのは、彼の弟ディオールである。
 互いに負傷箇所を庇いあいながら、ディオールは兄を椅子に座らせてやった。

 かつての忠臣と視線が絡み、アルフォンスは小さく頷く。
 お前が無事でよかった、ディオと。

「陛下の前ですみません」

 そう告げてから椅子に腰かけるカインに、フリードはブンブンと首を振ってみせた。

「何を言ってるんですか。けっこう重傷だって聞きましたよ」

 ──大袈裟なんですよ、コイツはと言ってやりたいところをアルフォンスはぐっと堪える。

 今にも死にそうな面をしていたわりに、カインの腹の傷は存外に浅かったのだ。
 刺されたとき水路に落ちたため水中に血が広がった。
 見た目の衝撃が大きく驚いたものの、実際の出血量はさほどでもなさそうだ。

 今も「痛た」と表情を歪める先王カインに、弟ディオールは心配そうな視線を向け、現王フリードは焦ったようにキョトキョト周囲を見回した。

 ──とんだ茶番だ。

 戦場慣れしたアルフォンスにとっては、この程度の怪我を大袈裟に引きずるなんて信じられないという思いである。
 もちろん、軽傷と分かり安堵したゆえの境地ではあるのだが。

 そうだ、茶番といえばこの状況は何なんだと、疑問は原点に返る。

「つまり、フリードが国王だった……ということか? 一年前にカインのクーデターで殺されたことにされていたけど、実は生きていたと?」

 何を今更といった表情でフリードがこちらを見やる。
 訳の分からない状況でのこの理解力、むしろ誉めてほしいところだが、ここは不平をぐっと堪えるしかあるまい。

 間の抜けた世話係だとばかり思っていただけに、いまだに信じがたい話ではある。
 フリードが本来の王だったと仮定するなら、自分はかなり偉そうに彼に接していたものだと、グロムアスでの暮らしを思い返してみる。
 まぁ、状況を鑑みるに相手も気にしてはいまいが。

「身分を隠していたとはいえアルフォンスさん、貴方はわたしに随分と邪険な態度をとってくれましたね」

 ……いや、どうやらフリードはかなり気にしている様子だ。
 アルフォンスは両手で額を押さえた。
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