簒奪王の劣情と黄金の秘めごと

陣リン

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第三章 憎しみと剣戟と

欲望を呑みこんで(3)

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「どういうことだ。俺に何か用か」

 ロイの目配せで配下の将らの動きが止まる。
 ロイはさして広くもない部屋の中に視線を投げた。

「王はどこにいる?」

「婚約者殿……リリアナ嬢といったか、お前の妹君が看病されていたはずだが?」

 妹の名を出したのは挑発である。
 果たしてロイは苦々しげに顔をしかめた。

「婚約など聞いてねぇぞ。大方リリアナがのぼせあがって王に付きまとっているだけだろ」

「さぁな」

 違和感には気付いていた。
 王はどこだという切羽詰まった響きはもちろん、ロイが口にした「王」という呼称。
 臣の立場で、しかも大勢の部下の前では陛下と呼ぶのが筋だ。

「王の部屋にはいない。妹が目を離した隙に消えたらしい。ならば貴様の部屋に違いないと思ったのだが、どうやら違うようだな」

 不本意だが──そう言いおいてロイは剣を抜いた。
 重い刃をアルフォンスへと向ける。

「アルフォンス殿下、ご存じなら王の居所を言うのだ」

 堅苦しい口調はロイらしくないように思えた。
 それは大勢の部下らの前での、将としての彼の姿なのだろう。
 腕組みをしたままアルフォンスは剣の切っ先を見つめていた。

「カインを探し出してどうする気だ」

「それは……」

 ロイの目が一瞬泳いだ隙を、アルフォンスは見逃すことはなかった。
 一歩、歩を進めると同時に腰を落とす。
 背後に控える兵らが反応するより早く右拳を固め、ロイの手を弾いた。

「あっ……!」

 長剣が宙を舞い、音もなく絨毯に転がる。
 間髪入れずアルフォンスはロイの手首を捻りあげた。

「お前、カインを裏切ったな」

 ぐっと呻きながらロイは顔を歪める。
 痛みだけではない。
 アルフォンスとの関係が崩れた悔恨の念がそこには見てとれる。

「だから《血の祝祭》までに国へ帰れって言ったんだ……」
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