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第一章 夜に秘める

「剣を忘れるな」(4)

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「すまない、アル」

 拳じゃなかっただけ感謝しろと吐き捨て、ディオールの胸を押しのけるアルフォンス。
 だが、大柄な身体はピクリとも動かなかった。

 アルフォンスが水に濡れる肢体を隠しもしなかったのは兄弟同然に育ってきたゆえ今更との思いもあろうが、お前ごときに身体を見られても恥とも思わぬと示すためでもあろう。

「……すまない、アル」

 もはや口癖のようになったその言葉を吐きながら、腰に添える手がそろりと動いた。
 アルフォンスの唇から短い音が漏れた。
 それは声にならない悲鳴だったろうか。

「少しだけ我慢していろ、アル」

 太い指が、腫れあがった後孔をゆっくりと押し広げる。

 ──つぷり。

 挿入に、微かな呻き声。
 第一関節。
 そして第二関節まで押し挿った指が内部で上下に動く。

「ころ……してや……」

 罵声は涙に震えていた。
 バスタブに立ったまま執拗に指でかき回され、たまらずアルフォンスの腰が痙攣したと同時に、はしたない音をたてて熱い汁が腹の中でうねる。

「んっ……ううっ」

 抜かれた指にまといつくように、精液が飛び散った。
 股の間を先ほどと同じ感触が、今度は大量に流れ落ちる。

「その……男のものを中にそのままにしていると腹を下すと聞いたことがあって」

 つまり、簒奪王の精液を掻き出してやっただと?
 とんだ忠臣だ。

 すまなさそうな表情が白々しいものに見えて、今度こそアルフォンスの拳が固められる。

「アル、大丈夫か……ぐっ」

 顎にまともに打擲を喰らい後方に倒れ込んだのは、あるいはわざとだろうか。
 この男、これで罰を受けた気にでもなっているのか?

 衝立を支えによろよろと立ち上がる元部下に、アルフォンスは冷たい一瞥をくれてからバスタブを出た。
 用意されていた柔らかなタオルからは案の定甘い香りが漂い、それがまた腹立たしい。

「ア、アル、信じてくれ。あんたを守りたい、その思いは本当なんだ」

 もはや悪態すら返ってこないことに、ディオールが大きく顔を歪める。

「私はあんたのためなら死ねる」

 本当だ、という言葉は夜明けの空に空しく吸い込まれた。

     ※  ※  ※
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