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第26話 ほう、こういった取引もあるのですね。

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 テシテシとマーブルにいつものように起こしてもらう。肉球で叩いてもらうのはある意味至福だが、正直疲れが取れきっていないのも事実だ。マーブルは大丈夫かな? 少し心配になる。マーブルもそれを察したのか大丈夫だよ、と言っているように「ニャア。」と普段通りの可愛い鳴き声で答えてくれた。マーブルが大丈夫ならよし。少しモフモフさせてもらった後、これまたいつものように水術で顔と頭をを洗い、乾燥させる。マーブルからもリクエストがあったので、同じように水術で洗浄と乾燥を行った。マーブルもご満悦だ。


 朝食を済ませた後、冒険者ギルドのギルド長と話をしないといけないが、時間はいつでもいいとのことだったので、今日はとりあえず防具屋へ行く予定だ。ニーナさんからもらった地図+説明で方向音痴気味な私でも迷わずにたどり着くことができた。まずは革職人の方から訪ねる。店に入ると、革鎧はもちろんのこと鞄や靴など一式店頭に並んでいた。質もよさそうだ。これは期待できるかな。


「ごめんください。」


「何か用かな?」


 出てきたのは長身だがスラリと痩せている初老にさしかかった感じで、いかにも手先の器用な職人といった感じだった。


「ええ、先日冒険者になったばかりなので、装備を作っていただけないかと。」


「お前さんの歳でか? 珍しいな。冒険者になったばかりということは、防具一式欲しいのか?」


「ええ、そのつもりです。」


「お前さん、冒険者になったばかりとはいえ、かなり戦い慣れているようだな。職業は何だ?」


「職業ですか、ポーターという職です。」


「ポーター? 初めて聞く職だな。特殊職か?」


「ある意味特殊職ですね。ギルドでも初めてらしいですよ。」


「ほう、ギルドでも初か。その割にはあまり誇らしそうではないな。」


「ええ、これしか選べなかったものですから。ほぼ救済職といってもいいのでは。」


「なるほどな。ポーターということは運び屋が主になりそうだな。そうすると極力動きの妨げになるものは排除したものになるか。だとすると、今の在庫で該当するものはなさそうだな。今日は無理だが大丈夫か?」


「大丈夫ですね。とりあえず予算は金貨15枚以下でお願いしたいのですが。」


「金貨15枚か、素材によっては一式は無理そうだな、優先したいのは足下とすねの部分と腕だな。ところで、お前さん、武器は何を使っているんだ?」


「武器はこれです。」


 バーニィを起動する。


「バンカータイプか。って、何だこの角は? 見たところ一角ウサギのものだが、こんな立派な角は見たことないぞ。特殊な個体なのか?」


「さあ? 初めて狩った記念+バンカーとして使えそうだったので。あ、戦闘スキルは格闘術のみで他はありません。」


「なるほど。格闘術か、それなら納得だな。それだったら皮革の下地に金属で固める感じにした方がいいかもしれないな。」


「助言通りにそうします。それで素材はどういったものがあります?」


「そうだな、ウチで出せるもので最高級はワイバーンだな、斬撃、打撃、魔法に全般的に強い。斬撃や打撃に特化したものではビッグバイパーという蛇の皮だな。ただ、これらだと腕なら腕の1カ所で予算を使っちまう。1カ所だけでいいなら、これらの2つだな。2カ所3カ所程度なら、リザード系がオススメだな。一式欲しいとなるとビッグボアがある。ワイバーンやビッグバイパーに少し劣るが、最初の装備では十分だと思う。まあ、相手にもよるがな。一応、安く済ませたいならフォレストウルフもあるが、耐久性に難がある。ただ、どういったものでも素材を持ってきてくれれば加工代だけで請け負うぞ。」


「うーん、とりあえず腕装備でお願いします。素材はワイバーンで。」


「わかった。金属で固める必要もあるが、籠手だから二日あればいいか。あとは注文はあるか?」


「注文ですか、そうですね、籠手に角を取り付けられるところが欲しいですね。あと、これを籠手の周りに貼ることはできますか?」


 そういって、空間収納用の袋から最初に狩った一角ウサギの毛皮を出す。


「ん? こりゃ、一角ウサギか? 普通の一角ウサギでもかなり見栄えはいいが、この毛皮はかなり凄く見栄えがいいな。お前、これを一体どこで?」


「ああ、私は魔の大森林出身でして、この毛皮はそこで狩ったものなんですよ。」


「まじか。まあ、あそこならこれほどの毛皮でも不思議ではないか。あ、そうだ。取り付けもそうだが、外側を貼るのもできるぞ。ところで、取り付けるにしても、サイズがわからないとどうにもならないから、角のサイズを測らせてくれ。」


「わかりました。ではお願いしますね。」


 といって腕から角を外す。


「これ、どうやって付けてるんだ?」


「水術を駆使しております。無理矢理付けている状態だったから、見栄えも良くなかったので。」


「そ、そうか。では、角のサイズを測るから、少し待っててくれ。それにしても、毛皮といい、この角といい凄いな。これ売ればワイバーンでも一式作れるぞ。」


 そう言いながら、職人は角のサイズを確認してはメモをとっている。その間に私は他の革製品を見て回った。お、これマーブルに付けてもらったら似合いそう、と思っているとこちらの意図を察したのかマーブルはイヤだと言わんばかりにプイッと顔をそらす。せめて首輪だけでも付けようよ。と目で懇願するとマーブルは仕方がないなぁと言っているように「ミャァ」と小さく鳴く。あ、この声も可愛い。といった遣り取りをしていると、職人は採寸が終わったようだった。


「サイズは確認したからこれは返すぜ。あと、この用意してくれたウサギの毛皮は結構余るぞ。どうする?」


「毛皮は籠手用に用意したものですから、余るのなら残りは差し上げますよ。まだ何枚かありますし。」


「本当か? それならば足下と脛当てもワイバーンで用意できるぞ?」


「おお、それでしたら、そちらの方はビッグバイパーでお願いできますか? できればですが、もう一枚毛皮を出しますのでそれを貼ってくれたらありがたいのですが。」


「さっきと同じ大きさなら問題ない。でもいいのか?」


「かまいませんよ。それでもし、余るのでしたら、マーブルの首輪をその毛皮で作ってくれませんかね。」


「マーブル? その猫のことか? それだったら問題ないぞ。ついでに作っておこう。」


「ありがとうございます。それで、費用は金貨15枚以内で収まりますか?」


「十分だ、というより差し引きで考えると金貨15枚はこちらがもらいすぎだ。そういえば、お前さん、鞄の一つも持っていないが、よければ鞄を付けて15枚にするぞ。ビッグボアの革になるが、柔らかくて丈夫だから長く使えるぞ。しかも背負えるようになっているから両手がふさがることはない。」


「それは願ってもないことですが、本当に15枚でいいのですか?」


「かまわんよ。あの毛皮で小型の鞄を作っても金貨15枚以上の値段がつく。あの量の毛皮だと残った分だけでも5つは作れるしな。」


「そうですか、でしたら商談成立ですね。今後ともよろしくお願いします。あ、私はアイスと申します。」


「おお、そういえば自己紹介がまだだったな。俺はギースだ。」


「で、ギースさん。ワイバーンの革の鎧ですと、どのくらいかかります?」


「ワイバーンの革の鎧だと金貨200枚だな。とはいえ、ワイバーンにしろビッグバイパーにしろ、ウチにはそこまでの素材の在庫はないから、素材の入荷がないと無理だな。」


「200枚ですか。遠いですねぇ。」


「いや、いきなりワイバーンの装備とかの方がおかしいからな。フォレストウルフや少し贅沢してビッグボアから始めるのが普通だからな。お前さんだったら、持っている一角ウサギの毛皮って手もあるが、ありゃ目立ちすぎるからな。防御力もほとんどないから見た目で襲われやすくなるな。とはいえ、本当は鎧から買うものなんだがな。」


「なるほど。今まで防具無しでどうにかなっていたものですから、すっかり失念しておりました。そこにある売り物でも十分そうなのですが、あいにく予算がもうないので、それについてはまた後日相談ということで。」


「わかった。では、金貨15枚だ。2日でできると思うが、3日後にこれを持って来てくれ。」


 ギースさんに金貨15枚を渡すと、木札を渡してきた。木札を収納用の袋に入れる。


「鎧がないんだから、無理をするなよ。あと、いい素材が手に入ったら連絡してくれ。ギルトともめない範囲で買い取るからな。」


「はい、ではお願いします。」


 そう言って、ギースさんの店を出る。金属系の防具屋はとりあえず行く必要はないかな。3日後か、できあがりが楽しみだな。図らずもウサギの毛皮を使ったおかげでマーブルとお揃いのような感じになった。とはいえ、あの毛皮かなりの高級品だったみたいだな。あまり目立たない足下や籠手の部分とはいえ、見る人は見るからなあ。


 さて、防具屋の件も済んだから、次はギルドの用事をさっさと済ませますか。
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